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第2章
幕間.失態
しおりを挟む*いつもお読み頂きありがとうございます!
事情は近況ボードに記載しておりますが、掲載が遅れて申し訳ありませんでした。
続話をお楽しみ下さい!*
突然転移で王城へと帰城したリカルドに、何が起こったか状況が把握出来ない城内は騒然とした。
本来転移を使うならばポータルのある別室を使用する。
だがリカルドが現れたのは王城のメインエントランスだった。
しかも側には意識混濁状態のバリーと、何故か白竜ジェノヴァまでいる始末。
「状況は追って説明する。兄上達はどこだ?」
リカルドの覇気を含んだ言葉に気圧された騎士達や文官達は何も言えなくなった。
部下達からランバート達の居場所を聞いたリカルドは、完全にグロッキー状態のバリーを部下に預けると、ジェノヴァと共にそちらへと足早に向かう。
そして丁度晩餐を終え王族専用のサロンで談笑していたランバート王太子夫妻とロレンツォ・シエラ兄妹の元へとやって来た。
「シエラ……会いたかった」
「え?ジェノヴァ?!まぁ!」
リカルドを押し避け、真っ先にジェノヴァがシエラへと駆け寄ると、彼女以外誰にも見せた事のない甘く柔らかな表情で両手を広げる。
その姿を捉えたシエラもまた満面の笑みで、ジェノヴァの胸の中へと飛び込んで行く。
王太子夫妻やロレンツォは2人を微笑ましく見つめた。
「折角の兄妹水入らずの所を邪魔して悪かったな……其方が側にいないという事にどうしても耐えられず、会いに来てしまった……堪え性のない我を、シエラは嫌いになってしまうか?」
「いいえ!嫌うだなんて、まさか!離れたからこそわかったわ。勿論お兄様も大切だけど、私は貴方の側に居られる事が何よりも幸福なんだって……私も会いたかったわ、ジェノヴァ。会えて本当に嬉しい」
「我もだ、愛しい番よ」
ジェノヴァが腕の中のシエラの頭頂部に口付けを落とす。
そのジェノヴァの後ろから、リカルドがサロンへと入室する。
「お寛ぎの所失礼致します。リカルド、ただ今帰城致しました」
室内にリカルドのバリトンの声が響く。
ソファーに寛ぐランバートが満足気に頷いた。
「ではシエラ様、私達は庭園側のサンルームへ参りませんか?夜の庭園を見ながらのティータイムも素敵なんですよ」
すかさず空気を読んだミネルヴァが、シエラに優しく声を掛ける。
勿論シエラも王族故、これから何か男性陣で話し合いが行われるのだろうと理解する。
「まぁ、素敵!是非!……じゃあジェノヴァ、後でね」
可愛らしく嬉しそうな声を上げると、ジェノヴァの頬へ口付けて彼の腕の中から名残惜しそうに離れて行く。
「あぁ、楽しんでくると良い。ミネルヴァ妃、礼を言う」
席から立ち上がったミネルヴァが美しいカーテシーをすると、シエラを連れてサロンを後にした。
2人の姿が見えなくなると、ロレンツォが席を立ちランバートの隣へと移動する。
ロレンツォはこの国の客人という事もあり、元々座って居たのは上座にあたる。
そこを空けるという事は、当然その席はジェノヴァの物という事だ。
その空いたソファーへ、ジェノヴァがドカリとはしたなくも音立てて腰掛ける。
先程までの柔らかな空気はとっくに霧散し、今は無表情そのもの。
ランバートとロレンツォに少し緊張が走る。
「ジェノヴァ、改めて紹介しよう。彼がイギリー王国王太子のランバートだ」
「お初にお目にかかる、白竜ジェノヴァ殿。尊き御身にお目もじ叶い光栄に存じる」
「……ふん。さて、第2王子。報告をするが良い……出来るものならば、だが」
ジェノヴァは対面に座る2人を睥睨しながら足を組み、横に立つリカルドへと報告を促す。
だがその言葉にランバートが眉を顰める。
「……どういう意味だろうか?」
「ほぉ?我が番に漸く安心して会いに来れたというのに、逢瀬を楽しむ時間すらない事に腑が煮えくりかえるこの我を前にしても、あくまでシラを切り通すか……人間風情が。不敬極まりないとはこの事だな」
ジェノヴァの不穏な竜気が僅かにサロン内に漂う。
その表情には余裕の笑みを浮かべながらも、声音にはハッキリと苛立ちが聞き取れる。
ランバートの表情に薄らと焦りが浮かんだ。
その時。
「神楽旅団によるザガン討伐は終了しました」
リカルドがおもむろに口を開き、端的に報告を述べた。
「……何?」
ランバートが思わず困惑の声を漏らす。
それもそのはずで。
エルバン平原に向かわせた隠密からは、未だにランバートの元へは何の報告も上がって来ていない。
というか、そもそもエルバン平原に旅団や魔人らが現れたという情報すら来ていない。
(……どういう事だ?)
ランバートは焦燥を抑え込み、表情は悠然と笑みを浮かべたままに見せる。
「ほぉ。素晴らしい……相手は上位魔人。しかも四魔闘将と名乗る程のネームド。それが我が国が誇るS級冒険者パーティ神楽旅団と激突したのであれば、それはそれは凄まじい戦いが繰り広げられたのであろうな」
焦りなど微塵も見えないランバートの言葉に、リカルドは特に表情を変える事なくそこに佇む。
ジェノヴァだけがクツクツとおかしそうに喉を鳴らして笑っていた。
いつもと違うリカルドの様子と、正面でおかしそうに笑うジェノヴァの態度にランバートが訝しむ。
「……ククク。もう良いぞ、第2王子。あとは我の口から話してやるとしよう……」
ジェノヴァが笑いを堪えながら、リカルドへ向かってヒラヒラと片手を振る。
「あぁ、キサギにはこのような機会を与えて貰って、感謝してもしきれんな……貴様の焦る心が手に取る様に分かるぞ、王太子よ。だが表情はなんとか取り繕う事に必死といったところか?ククク。無様過ぎて笑いが止まらん」
「ジェノヴァ……友好国の王族なのだ。不敬な振る舞いはしないでくれ」
「それは我には関係ないな、ロレンツォ。間違えてくれるなよ。今まで何度も申して来たが、我にとって重要なのは番のシエラのみ。それ以外の人間など心底どうでも良い。貴様らの様な愚かな下等生物、我は元々嫌悪しておる」
ロレンツォの窘めに、ジェノヴァは嘲るように笑う。
そしてその不敵な笑みのままにランバートへと向き直った。
「エルバン平原からの報告ならば、いくら待っても上がっては来ないぞ?王太子よ」
「……何故それを……」
「あぁ……貴様の弟からは何も聞いてはおらんから、変な疑いを向けてやるなよ。そもそも今回の件は、貴様らが余計な真似をしたせいで招いた采配ミスだ。結果的に、キサギの掌の上で踊らされたに過ぎん」
「なっ?!」
「ククク。まぁ話してやるからゆるりと聞け。ザガンは確かに我の元へ来た。我との戦いを所望してな……我はそうなる事を予測してシエラを側から離していた……」
ジェノヴァが目を細めると、威嚇するように鋭い目でランバートを射抜く。
「貴様らにはわかるまい。番から離れ、己以外の誰かが彼女の側に群がると考えただけで、身も心も張り裂けそうになる竜の持つ性など……それを正しく理解出来るのは、この世界では神楽旅団のみ。彼女らを蔑ろにしようものならば、この我が許さぬ。この言葉、ゆめゆめ忘れてくれるなよ」
対面に座るランバートは内心ギクリと心臓を跳ね上げるも、そこは王族、表情には焦る心情を決して出さなかった。
「我が元に現れたのはザガンだけではなかった。彼奴にくっ付いて、もう1人、ベリアルと名乗る上位魔人までも現れた」
「何だと?!ベリアルとは……確かランテルに現れた上位魔人?!しかも奴もザガン同様四魔闘将の一角ではないか!」
「流石に我とて2人の最上位魔人を相手取れば無事で済んだかわからなかったな……奴らはそれ程までに脅威だ……しかも現れたのは本体ではなく影だった。キサギはそれを瞬時に見抜いていたぞ」
「……何と……」
「結論として、我が無事にここにいるという事は、彼奴らはキサギによって倒された、という事だ。だが彼女曰く、本体を討伐した訳ではない故、クエスト達成には至らなかったらしい。影とはいえ、上位魔人は脅威。それを旅団らの手出しは許さずたった1人で討ち果たすだけでも凄まじいにも関わらず、彼女は悔し気だったよ」
「彼女1人で倒したのか?!それは素晴らしい!して、どの様に?」
前のめりに食い付くランバートへ、ジェノヴァが冷徹な面持ちを浮かべる。
「我が貴様に言う義理がどこにある?無事退けられたのだ。結果だけで十分だろうが」
ジェノヴァは呆れたように肩をすくめ、侮蔑を込めた視線をランバートへと向けた。
グッと喉を鳴らし、表情を繕うランバートは横に佇むリカルドへと視線を向ける。
「……リカルド」
ランバートの静かな声音に、リカルドは首を横に振った。
「……申し訳ありません。俺にもバリーにもその記憶が無いのです」
その言葉に、流石のランバートは一瞬言葉を失う。
だがハタと思い出し、すぐに我に返った。
「……あぁ、そういえば彼女の制約魔法で言えないのだったか。まぁ良い。後程魔法師団と魔力研究所から腕の良い魔術師を呼んで……」
「違います、兄上」
ランバートの言葉を遮るように、リカルドが静かに声を上げた。
いつもならばその様な事はしない弟の行動にランバートが訝しむ。
「違う?何が違う」
「言葉の通りです。制約で言えないのではなく、“記憶“がないのです。キサギがザガンやベリアルを退けた事実はしっかりと覚えているのですが……どの様に退けたのか、全ての過程の記憶が全くないのです」
「何だと?!」
流石に取り繕う事が出来なくなったランバートが驚愕の声を上げた。
対面に悠然と足を組んで座るジェノヴァが、おかしそうにクツクツと喉を鳴らす。
「ククク……教えてやろう。キサギは制約魔法ではなく、全てを見届けた後、この国に戻ればすぐ様記憶が消されるように魔法をかけておった」
「記憶を消去だと?!そのような魔法、聞いた事もない!」
「この世界にも使える魔術師はおるぞ?貴様が知らんだけだ。そして、この国にそれが使える程の腕の良い魔術師がおらんと言うだけだな」
「な……なんと言うことだ……」
「キサギからすれば、貴様らなどに1ミリたりとも情報などくれてやらん、という決意表明のようなものだな。凄まじい嫌われように憐れを通り越して、失笑しか出んわ。まぁ、その程度で済んで有難いと思え。神楽旅団は貴様らにどうこう出来る存在ではないと理解しろ。余計な事などせず、彼女らの自由にさせる事が何よりもこの国にとって利をもたらす。下手に動くからこうなるのだ……愚か者共が」
「そんな……馬鹿な……」
ランバートが愕然とする。
彼とて神楽旅団が只者ではないと理解はしているつもりだった。
だが、リーダーを務めるキサギはまだ15歳の少女。
まだ子供だと侮りがあったのは間違いない。
しかし目の前にいる超越した存在であるジェノヴァ自身が、キサギの実力を、神楽旅団の力量を高く評価している。
聞いた事もない魔法を使える程の存在だと認めている事実に、ランバートは体を震わせた。
リカルドにとっても彼のそんな姿を見るのは初めてで、複雑な心境だった。
だが、今はそんな事どうでもいいとばかりにリカルドが強気な口調でランバートへと告げる。
「いい加減にして下さい、兄上。白竜の言う通り、神楽旅団は好きにさせるべきです。その程度で国が、世界が守られるなら安いものだ。それに、彼女らにいつまでも固執している場合ではない。もっと恐ろしい事態が起ころうとしているのですよ!」
リカルドの語調の強い言葉に、ランバートはハタと現実に戻される。
「……どういう事だ」
「ザガンらの企みがわかりました。奴らは世界から人間を排除し、魔人達で乗っ取るつもりです」
「「何だと?!」」
その言葉にランバートだけでなく、ロレンツォも声を張り上げた。
2人の視線が一斉にジェノヴァに集まると、彼も神妙な面持ちで頷く。
「間違いない。キサギが彼奴らとの戦いの中から引き出した、確実な情報だ。我もしかと、この耳で聞いた。王太子よ、下らぬ些事に時間を割いている暇はないぞ。ロレンツォもだ。我は人間などどうなろうと知った事ではないが、この世界に何かあればシエラが苦しみ、悲しむ。その様な事、我には絶対に耐えられぬ。貴様らはすぐさま対策を練らねばならん。各国と連携し世界を守らねば、人間は間違いなく滅亡し、魔人共に乗っ取られるぞ」
ジェノヴァの言葉に、ランバートとロレンツォがゴクリと喉を鳴らした。
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