何でも屋と季節外れの夢

水之音 霊季

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五章 アスカとルミ③

一 最低な私 ─二〇一九年 五月八日─ 一

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 店に届けられたA4サイズの箱。

 その厚みは広辞苑も収まりきらないのに、
 その重みは広辞苑にも負けやしない。

 配達員から受けとる時も「重たいですよ」と
 何度も念を押された。

 けど、舐めてもらっては困る。

 私はこの店の経営者だ。

 重たいものだってたくさん持ってきた。

 このくらいどうってことない。

「アスカ、なにか届いたの?」

「前、ルミに頼んでもらったビラの補充だよ」

 届けられた箱の中身。

 それはルミの彼氏さんの
 情報提供を求めるビラ。

 皮膚を切る上質な紙が
 ミルフィーユのように重なり合って、
 かなりの重量になっている。

 この重さは、いわば事態の重さ。

 そして、彼氏さんの存在の重さ。

 彼の帰りを待つ人の思いの重さ。

「帰りを待つ人……か」

 二〇三号室──日比野さんの旦那さんは、
 家出した娘さんの帰りを今も待っている。

 亡くなり、幽霊になった今もなお。

 娘さんに「おかえり」と言える日を、
 また家族三人で笑い合える日を、
 これからも待ち続ける。

 逆に、待たれる側は何を思うのだろう。

 彼氏さんや娘さん。

 いなくなった人の帰りを待つのは
 家族だけじゃない。

 友人や同僚、そして──恋人。

 色々な人が不安と戦いながら、
 その人の帰りを待っている。

 また一緒に過ごせる日常を待っている。

「彼氏さんが帰ってきたら、
 ルミはまた一緒になるのかな……」


 ズキ……


「──あ、やば」

 掌、紙の角が刺さる感触。

 気が付くと、
 ぐしゃぐしゃになった鮫島さんが
 私のことを見詰めていた。

「最低だな、私……」

 ため息混じりに、
 シワだらけになった一番上のビラを
 さらにぐっしゃぐしゃに丸めた。

 さすがは良い紙だ。

 折れて生まれた角が
 容赦なく皮膚を刺してくる。

 痛い。

 目が潤むほどに、痛かった。

 この丸めたビラと一緒に
 この痛みも捨てられたらいいのに。

 掌に残る紙の跡は
 鮮やかに赤く痛々しかった。

「アスカ? 手、切っちゃった?」

「──ううん、大丈夫」

「固い紙だから気を付けてね。
 って、あれ? しわくちゃだ」

「え?」

 ルミが手に取った一番上のビラ。

 本来なら二番目にいたはずのそれは、
 消えない折れ目が無数に刻まれていた。

 私が握り締めた跡が、
 二枚目にも侵食していたらしかった。

「ごめん、ルミ……」

「なんでアスカが謝るの」

 よくあることだと、
 ルミは何の疑いも抱かずに笑っていた。

 その笑顔を見てしまったら、
 私はもう何も言えなかった。
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