9 / 85
第1章 NAMELESS編-序編-
[第9話:NAMELESS]
しおりを挟む
「皆さま、ご多用の中お集まりいただき大変感謝いたします。早速ではありますが、報告させていただきます。
『人型のNAMELESS』が、先程確認されました。」
彩科院がそう言うと、楢迫が驚いたように言った。
「…それは本当か!鬼介君!」
彩科院は、続けて話し始めた。
「先程、我が家の敷地内で起こった戦闘の終盤、黒いローブを纏った小学生くらいの子供の大きさの人影が、私に襲いかかりました。その人影は、ローブの袖から刀を出し、攻撃をしました。それだけで人と断言するのは難しいとは思いますが、その刀に僅かに人のような気配を感じました。そして、裾からは足のようなものも確認いたしました。」
彩科院の話を聞き、周囲はざわついた。話は続いた。
「そのNAMELESSは、『BOX・FORCE(我々)』を消す者、次会う時が貴様ら(我々)の最後だ』と。そう言い残して消えました。」
彩科院が話し終えると、楢迫が深刻な顔で話し始めた。
「…確証を得るには、まだまだ証拠が薄い気がするが…鬼介君が聞いたそのメッセージと、彩科院邸の防犯カメラのこの画像だけでも、無い話とは言いがたいな…。」
楢迫がそう言うと、蒼松が話し始めた。
「仮に、その人物をNAMELESSの一味と考えるとして、その者は再び我々の前に姿を現し、我々はその者と対峙する可能性というのも、視野に入れなければなりませんね。」
蒼松が言うと、蓮田も話し始めた。
「ここ数ヶ月、NAMELESSの出現率は明らかに増えています。第1部隊との共同訓練期間中、各週で現れ、且つ数も強さも次第に増しています。奴らは、我々の行動に合わせて、戦力を強化していると、そう仮定しても良いのではないかと。」
蓮田に合わせ、獅蘭が急に立ち上がり、話し始めた。
「…ハッキリ言わせてもらいます。俺達第3の意見として、何者かが、我々の行動パターンを奴らにリークしている可能性が高い。そして、我々の行動をリークできる者。我々の情報は最重要機密事項。それを知る者はこの中にいる。この中に、奴らのスパイがいると考えています。」
獅蘭はそう言うと、会議室にいる関係者に鋭い視線を向けた。
「…確かに、そうとも言える状況だと俺も思う。しかし、仮にこの中にスパイがいるとしたら、早々に戦力を注ぎ込み、なんなら本部であるここを真っ先に叩きに来るんじゃないか?」
パンダが、獅蘭に向けて言った。
それを聞き、桂が静かに話し始めた。
「昨日から今日にかけて、私は弟子である迅雷寺君と行動を共にし、彼女の戦力強化に手を貸していた。彼女の成長速度は、私より遥かに早く、そして未知数であった。同様に、樫間君と白峰君も、矢島との手合わせで、成長を見せたとの話も耳にした。私は、彼ら第1部隊の成長が、奴らの足止めになっていると考える。彼らを更に成長させ、その間に奴らの核を調べ出し、我々が先手を打つ事も可能なのではないかと、そう思った次第です。」
桂の意見を聞き、蒼松が言った。
「どちらにせよ、新たな勢力がこの先待っている事には間違いない。この先、我々の戦力強化と奴らの調査を更に進めていく必要があります。その方向で、今後の方向性を決めていきませんか?」
蒼松が提案すると、楢迫が言った。
「聡悟の言う通りだ。戦力強化については、第1部隊と第3部隊、君たちの成長にかかってると思う。第2部隊と第4部隊。ベテランの君らは調査の方を、うちの諜報員達と協力して進めてくれ。」
楢迫の言葉で、その場は閉められた。
そこから、第1部隊と第3部隊、第2部隊と第4部隊に分かれて、それぞれの役割へ動いた。
第2部隊のシェアハウスの地下に、第1部隊と第3部隊は集められた。
そこに、1人の人影が近づいた。
「誰だっ!」
獅蘭は武器を構えた。
「遅くなってごめんなさい!皆さんとは初めましてになりますかね?自分、パンダ先生の所で研究員やってます、セルガニョータ・コアラです。」
パンダ同様、白衣にコアラの被り物をかぶった声は男の声、背180cmほどある人物が現れた。
(うちの研究員ってこんなのしかいないのかよ…)
蓮田は顔に手を当て、呆れ顔を見せた。
「皆さんのご活躍は、いつも確認させていただいてます。そこで、皆さんの"箱装"の戦闘力データを取らせていただき、より強くなっていただけるよう協力させていただきます。」
そういうと、コアラは何やら丸い球体状の物体を6個取り出した。
「これは、自然エネルギーから開発した、擬似戦闘用のターゲットです。皆さんには、今からこのターゲット達と10分間、戦闘を行っていただき、私がそのデータを回収致します。」
そう言うと、コアラはそれを空中に放り投げた。
「それでは、お願いします。」
コアラがそう言うと、擬似ターゲットは球体型のNAMELESSのような形に変形した。
「…お手並拝見です。」
コアラはそっと囁いた。
一方、彩科院邸に集合した第2部隊と第4部隊。
彩科院邸にある巨大コンピュータ室に一同は揃っていた。
「…彩科院隊長が対峙した人影ですが、映像解析してみた感じ、40%の人間反応があります。どうやら、NAMELESSを纏った人間の可能性が高いですね。」
キーボードを叩きながら、沫梨は言った。
その画面を覗き込み、咲波も言う。
「…なるほどね。NAMELESSにはやっぱり奴らを束ねる上が存在してたってわけね。それが人間だなんて…」
続けて、桂が言った。
「NAMELESSは、"人類の負の遺産"。つまり、NAMELESSの根源を見つけ、それを意図的に発生させている者たちが、NAMELESSを操り、何らかの目的を遂行している。と考えられるな。」
椅子に踏ん反り返って座っていた矢島が、不意に立ち上がり言った。
「話が難しすぎるな…聡悟、ちょっと付き合え。」
そう言うと、矢島はポケットから鍵を取り出し、指で振り回した。
蒼松は、矢島を見て、察したように立ち上がった。
「いいですけど…どこ行くんですか?」
「俺の愛人とデート…ってところかな。」
そう言うと、矢島は蒼松を連れてコンピュータ室を出た。
2人は、彩科院邸地下にある、駐車場に着いた。
「懐かしいだろ?俺の愛人。」
矢島は目の前に止まる車を指差し、言った。
「スープラ、相変わらずですね。」
2人は、矢島の愛車に乗り込む。
矢島がエンジンをかけると、蒼松は言った。
「それで、結局どこに行くんですか?」
すると、矢島はギアを入れ、アクセルを目一杯踏み込んで言った。
「…ドライブだよっ!」
激しいエンジン音と、タイヤの擦れる音が地下駐車場に響き渡る。
矢島は、ブレーキから足を外し、猛スピードで駐車場を駆け抜けた。
車を走らせる事1時間、夕日が沈む湾岸道路を、2人は走っていた。
蒼松が夕日を見ていると、矢島が口を開いた。
「…ここまで来れば、鬼隊長の盗聴器も使えねぇ。」
「えっ?…」
蒼松は、驚いたように、矢島を見た。
「…お前、気づいてなかったのか?あの家に集まった時点で、奴はお前に盗聴器を仕掛けていた。発信器付きのな。発信器は今も反応してると思うが、盗聴器はこの距離じゃ使えねぇ。」
矢島は、真っ直ぐ前を見つめ、言った。
「…あの人が俺に盗聴器を仕込んだって事は…」
蒼松は驚いた表情を見せ、言った。
「鬼隊長は、お前が黒だと睨んでいる。周りっくどいのは面倒くさいから、率直に聞くが、お前、黒じゃねぇよな?」
矢島は、変わらず前を見つめ、真剣な表情で蒼松に聞いた。
「…」
蒼松が返答せず黙っていると、矢島は続けた。
「樫間達との共同戦の後、お前誰かと会ってたろ。まあ、会ってたって言い方もおかしいか。意図して会ってないにしろ、何か俺らに隠してるだろ。」
矢島が言うと、蒼松は口を開いた。
「…あの日の夜、俺の右目に不思議なビジョンが映ったんです。そこには、黒いローブに包まれた背の高い男がいて、俺に、来い。って手招きしていました。」
蒼松は、右目の眼帯を押さえて言った。
蒼松は、右目のビジョンを頼りにそこへ辿り着いた。
そこには、黒いローブの1人の男が後ろ姿で立っていた。
「お前は…」
蒼松が、男に問いかける。
すると、男はフードを外し、青黒く光る目で蒼松を見た。
「私は、あなた方が最も敵対する者。そして、あなた方は、我々が最も消し去りたい相手。」
男は、蒼松の方を向いた。
男の髪は、白と黒で半分ずつ色が分かれており、それに交差するように左右の目は白と黒に光っていた。
「我々は"四神(ししん)"。いわばNAMELESSの四天王。」
そう言うと、蒼松の周りを、4人の人影が囲った。
蒼松の右側には、子供くらいの大きさの人影がいた。その人影は、月明かりに照らされた刀の刃先をスーッと舐め、ニヤリと蒼松を見た。
蒼松の左側には、蒼松と同じくらいの背丈の男がいた。男は、鋭い目つきで両拳を握りしめ、蒼松を睨んだ。
蒼松の後ろには2人組の男女と思われる人影がいた。男の方は表情が見えないほど髪が長く、気怠そうに座っていた。女の方は、厚化粧に大きく開いた目で蒼松をじっと見ていた。
蒼松が、ぐるっと周囲を見渡し終わると、再び正面に立つ男が話し始めた。
「我々はそう遠くないうちに、あなた方を消しに現れる。覚悟しておくといい。」
男がそう言うと、周囲にいた面々はスッと姿を消した。
「再び我々と対峙する時までに、墓を用意しとくといい。」
男はそう言うと、ニヤリと笑みを見せ、闇夜の暗がりに消えていった。
「信じがたい話だが…その男は、確かにNAMELESSと言ったんだよな…」
矢島は、険しい表情で正面を見続けた。
「気がつくと、俺は再び自分の部屋で寝転がっていて…夢だったのかもしれないって、考えてみたものの、確かに奴らの指定ポイントに行った記憶はあって…それに、奴らから向けられた目線に、とてつもない殺気を感じました。あれは…先の大戦の時に感じたものと同じでした…。」
蒼松は、その時の記憶を思い出し、少し震えていた。
「…なるほどな。けど、なぜそれをさっき言わなかった?」
矢島は初めて、蒼松の方をチラッとみて問いかけた。
「それは…」
そこまで言うと、蒼松は言葉が詰まる。
少し俯き加減の蒼松を見て、矢島が言った。
「まあ、今言えない理由でもあるのか。いずれにしろ、いつか言わないと俺たちが、日本が危ない。それだけは覚えておけ。」
そう言うと、矢島はアクセルを目一杯踏み込み、ギアを入れ替え、スピードを上げて前を走る車を追い抜いていった…。
その夜、都内のとある道路に停められた車内で、運転席に座る男が何やら忙しなくノートパソコンの画面に向かってキーボードを叩いている。
すると、黒いローブを羽織った人影が、その車に近づいた。
その人物がウインドをノックすると、男はドアのキーを解除した。
「…お前ら…まだその時でないと言うのに、接触したのか?あいつと。」
男は、キーボードを叩きながら、その人物に言った。
するとその人影は、車の助手席に座り、被っていたフードを外した。
「なぁに、ちょっと塩振った程度の事をしたまでですよ。それに、こちらが掻き回した方が、あなたも動きやすいでしょう。」
フードを外したその人物は、蒼松に接触した、白と黒の髪色の男であった。
その男がそう言うと、運転席に座る男は、キーボードを打つ事をやめ、話し始めた。
「…まだ、お前たちはあいつらに接触するタイミングではなかったが…まあ良い。徐々にエネルギーは集まりつつある。お前たちも、そろそろ動くことができるだろう。」
そう言うと、黒いローブの男は言った。
「我々の準備はすでにできている。あとは、あなたの合図を待つのみだ。あなたが"GO"を言えば、今すぐにでも我々は本部を叩ける。」
ローブの男がそう言うと、運転席の男は言った。
「3日後。3日後だ。その日、第1と第3は第2と第4と距離が離れる。その日に、第1と第3に仕掛けるのだ。まだ殺しはしなくていい。脅す程度にやってこい。」
運転席の男がそう言うと、ローブの男はニヤリと笑みを見せ、言った。
「仰せの通り。ただし、彼らの命の保障はできかねます…。"ヴァリアル"と"ウルセウス"を向かわせるつもりなので。彼らに、全ての判断は任せるようにさせてもらいますよ。」
ローブの男がそう言うと、運転席の男は不安そうな顔で言った。
「"ヴァリアル"と"ウルセウス"か…。派手にやり過ぎなければいいが…」
そう言うと、ローブの男は車のドアを開け、助手席から降りながら言った。
「それまでに、あなたが彼らを育てればいい。あの2人に、殺されないように。ね。それでは、私はここで失礼する。」
ローブの男はそう言うと、車のドアを閉めた。
サイドミラーに映るその男の姿は、3歩歩いた後、闇夜の暗がりにスッと消えていった。
すると、運転席の男は、車のエンジンをかけ、ハンドルを握り言った。
「…さて、はじめるとするか。"第二次NAMELESS侵略大戦"を…」
男はそう呟くと、目一杯アクセルを踏み、エンジンの爆音と共に、走り去った。
『人型のNAMELESS』が、先程確認されました。」
彩科院がそう言うと、楢迫が驚いたように言った。
「…それは本当か!鬼介君!」
彩科院は、続けて話し始めた。
「先程、我が家の敷地内で起こった戦闘の終盤、黒いローブを纏った小学生くらいの子供の大きさの人影が、私に襲いかかりました。その人影は、ローブの袖から刀を出し、攻撃をしました。それだけで人と断言するのは難しいとは思いますが、その刀に僅かに人のような気配を感じました。そして、裾からは足のようなものも確認いたしました。」
彩科院の話を聞き、周囲はざわついた。話は続いた。
「そのNAMELESSは、『BOX・FORCE(我々)』を消す者、次会う時が貴様ら(我々)の最後だ』と。そう言い残して消えました。」
彩科院が話し終えると、楢迫が深刻な顔で話し始めた。
「…確証を得るには、まだまだ証拠が薄い気がするが…鬼介君が聞いたそのメッセージと、彩科院邸の防犯カメラのこの画像だけでも、無い話とは言いがたいな…。」
楢迫がそう言うと、蒼松が話し始めた。
「仮に、その人物をNAMELESSの一味と考えるとして、その者は再び我々の前に姿を現し、我々はその者と対峙する可能性というのも、視野に入れなければなりませんね。」
蒼松が言うと、蓮田も話し始めた。
「ここ数ヶ月、NAMELESSの出現率は明らかに増えています。第1部隊との共同訓練期間中、各週で現れ、且つ数も強さも次第に増しています。奴らは、我々の行動に合わせて、戦力を強化していると、そう仮定しても良いのではないかと。」
蓮田に合わせ、獅蘭が急に立ち上がり、話し始めた。
「…ハッキリ言わせてもらいます。俺達第3の意見として、何者かが、我々の行動パターンを奴らにリークしている可能性が高い。そして、我々の行動をリークできる者。我々の情報は最重要機密事項。それを知る者はこの中にいる。この中に、奴らのスパイがいると考えています。」
獅蘭はそう言うと、会議室にいる関係者に鋭い視線を向けた。
「…確かに、そうとも言える状況だと俺も思う。しかし、仮にこの中にスパイがいるとしたら、早々に戦力を注ぎ込み、なんなら本部であるここを真っ先に叩きに来るんじゃないか?」
パンダが、獅蘭に向けて言った。
それを聞き、桂が静かに話し始めた。
「昨日から今日にかけて、私は弟子である迅雷寺君と行動を共にし、彼女の戦力強化に手を貸していた。彼女の成長速度は、私より遥かに早く、そして未知数であった。同様に、樫間君と白峰君も、矢島との手合わせで、成長を見せたとの話も耳にした。私は、彼ら第1部隊の成長が、奴らの足止めになっていると考える。彼らを更に成長させ、その間に奴らの核を調べ出し、我々が先手を打つ事も可能なのではないかと、そう思った次第です。」
桂の意見を聞き、蒼松が言った。
「どちらにせよ、新たな勢力がこの先待っている事には間違いない。この先、我々の戦力強化と奴らの調査を更に進めていく必要があります。その方向で、今後の方向性を決めていきませんか?」
蒼松が提案すると、楢迫が言った。
「聡悟の言う通りだ。戦力強化については、第1部隊と第3部隊、君たちの成長にかかってると思う。第2部隊と第4部隊。ベテランの君らは調査の方を、うちの諜報員達と協力して進めてくれ。」
楢迫の言葉で、その場は閉められた。
そこから、第1部隊と第3部隊、第2部隊と第4部隊に分かれて、それぞれの役割へ動いた。
第2部隊のシェアハウスの地下に、第1部隊と第3部隊は集められた。
そこに、1人の人影が近づいた。
「誰だっ!」
獅蘭は武器を構えた。
「遅くなってごめんなさい!皆さんとは初めましてになりますかね?自分、パンダ先生の所で研究員やってます、セルガニョータ・コアラです。」
パンダ同様、白衣にコアラの被り物をかぶった声は男の声、背180cmほどある人物が現れた。
(うちの研究員ってこんなのしかいないのかよ…)
蓮田は顔に手を当て、呆れ顔を見せた。
「皆さんのご活躍は、いつも確認させていただいてます。そこで、皆さんの"箱装"の戦闘力データを取らせていただき、より強くなっていただけるよう協力させていただきます。」
そういうと、コアラは何やら丸い球体状の物体を6個取り出した。
「これは、自然エネルギーから開発した、擬似戦闘用のターゲットです。皆さんには、今からこのターゲット達と10分間、戦闘を行っていただき、私がそのデータを回収致します。」
そう言うと、コアラはそれを空中に放り投げた。
「それでは、お願いします。」
コアラがそう言うと、擬似ターゲットは球体型のNAMELESSのような形に変形した。
「…お手並拝見です。」
コアラはそっと囁いた。
一方、彩科院邸に集合した第2部隊と第4部隊。
彩科院邸にある巨大コンピュータ室に一同は揃っていた。
「…彩科院隊長が対峙した人影ですが、映像解析してみた感じ、40%の人間反応があります。どうやら、NAMELESSを纏った人間の可能性が高いですね。」
キーボードを叩きながら、沫梨は言った。
その画面を覗き込み、咲波も言う。
「…なるほどね。NAMELESSにはやっぱり奴らを束ねる上が存在してたってわけね。それが人間だなんて…」
続けて、桂が言った。
「NAMELESSは、"人類の負の遺産"。つまり、NAMELESSの根源を見つけ、それを意図的に発生させている者たちが、NAMELESSを操り、何らかの目的を遂行している。と考えられるな。」
椅子に踏ん反り返って座っていた矢島が、不意に立ち上がり言った。
「話が難しすぎるな…聡悟、ちょっと付き合え。」
そう言うと、矢島はポケットから鍵を取り出し、指で振り回した。
蒼松は、矢島を見て、察したように立ち上がった。
「いいですけど…どこ行くんですか?」
「俺の愛人とデート…ってところかな。」
そう言うと、矢島は蒼松を連れてコンピュータ室を出た。
2人は、彩科院邸地下にある、駐車場に着いた。
「懐かしいだろ?俺の愛人。」
矢島は目の前に止まる車を指差し、言った。
「スープラ、相変わらずですね。」
2人は、矢島の愛車に乗り込む。
矢島がエンジンをかけると、蒼松は言った。
「それで、結局どこに行くんですか?」
すると、矢島はギアを入れ、アクセルを目一杯踏み込んで言った。
「…ドライブだよっ!」
激しいエンジン音と、タイヤの擦れる音が地下駐車場に響き渡る。
矢島は、ブレーキから足を外し、猛スピードで駐車場を駆け抜けた。
車を走らせる事1時間、夕日が沈む湾岸道路を、2人は走っていた。
蒼松が夕日を見ていると、矢島が口を開いた。
「…ここまで来れば、鬼隊長の盗聴器も使えねぇ。」
「えっ?…」
蒼松は、驚いたように、矢島を見た。
「…お前、気づいてなかったのか?あの家に集まった時点で、奴はお前に盗聴器を仕掛けていた。発信器付きのな。発信器は今も反応してると思うが、盗聴器はこの距離じゃ使えねぇ。」
矢島は、真っ直ぐ前を見つめ、言った。
「…あの人が俺に盗聴器を仕込んだって事は…」
蒼松は驚いた表情を見せ、言った。
「鬼隊長は、お前が黒だと睨んでいる。周りっくどいのは面倒くさいから、率直に聞くが、お前、黒じゃねぇよな?」
矢島は、変わらず前を見つめ、真剣な表情で蒼松に聞いた。
「…」
蒼松が返答せず黙っていると、矢島は続けた。
「樫間達との共同戦の後、お前誰かと会ってたろ。まあ、会ってたって言い方もおかしいか。意図して会ってないにしろ、何か俺らに隠してるだろ。」
矢島が言うと、蒼松は口を開いた。
「…あの日の夜、俺の右目に不思議なビジョンが映ったんです。そこには、黒いローブに包まれた背の高い男がいて、俺に、来い。って手招きしていました。」
蒼松は、右目の眼帯を押さえて言った。
蒼松は、右目のビジョンを頼りにそこへ辿り着いた。
そこには、黒いローブの1人の男が後ろ姿で立っていた。
「お前は…」
蒼松が、男に問いかける。
すると、男はフードを外し、青黒く光る目で蒼松を見た。
「私は、あなた方が最も敵対する者。そして、あなた方は、我々が最も消し去りたい相手。」
男は、蒼松の方を向いた。
男の髪は、白と黒で半分ずつ色が分かれており、それに交差するように左右の目は白と黒に光っていた。
「我々は"四神(ししん)"。いわばNAMELESSの四天王。」
そう言うと、蒼松の周りを、4人の人影が囲った。
蒼松の右側には、子供くらいの大きさの人影がいた。その人影は、月明かりに照らされた刀の刃先をスーッと舐め、ニヤリと蒼松を見た。
蒼松の左側には、蒼松と同じくらいの背丈の男がいた。男は、鋭い目つきで両拳を握りしめ、蒼松を睨んだ。
蒼松の後ろには2人組の男女と思われる人影がいた。男の方は表情が見えないほど髪が長く、気怠そうに座っていた。女の方は、厚化粧に大きく開いた目で蒼松をじっと見ていた。
蒼松が、ぐるっと周囲を見渡し終わると、再び正面に立つ男が話し始めた。
「我々はそう遠くないうちに、あなた方を消しに現れる。覚悟しておくといい。」
男がそう言うと、周囲にいた面々はスッと姿を消した。
「再び我々と対峙する時までに、墓を用意しとくといい。」
男はそう言うと、ニヤリと笑みを見せ、闇夜の暗がりに消えていった。
「信じがたい話だが…その男は、確かにNAMELESSと言ったんだよな…」
矢島は、険しい表情で正面を見続けた。
「気がつくと、俺は再び自分の部屋で寝転がっていて…夢だったのかもしれないって、考えてみたものの、確かに奴らの指定ポイントに行った記憶はあって…それに、奴らから向けられた目線に、とてつもない殺気を感じました。あれは…先の大戦の時に感じたものと同じでした…。」
蒼松は、その時の記憶を思い出し、少し震えていた。
「…なるほどな。けど、なぜそれをさっき言わなかった?」
矢島は初めて、蒼松の方をチラッとみて問いかけた。
「それは…」
そこまで言うと、蒼松は言葉が詰まる。
少し俯き加減の蒼松を見て、矢島が言った。
「まあ、今言えない理由でもあるのか。いずれにしろ、いつか言わないと俺たちが、日本が危ない。それだけは覚えておけ。」
そう言うと、矢島はアクセルを目一杯踏み込み、ギアを入れ替え、スピードを上げて前を走る車を追い抜いていった…。
その夜、都内のとある道路に停められた車内で、運転席に座る男が何やら忙しなくノートパソコンの画面に向かってキーボードを叩いている。
すると、黒いローブを羽織った人影が、その車に近づいた。
その人物がウインドをノックすると、男はドアのキーを解除した。
「…お前ら…まだその時でないと言うのに、接触したのか?あいつと。」
男は、キーボードを叩きながら、その人物に言った。
するとその人影は、車の助手席に座り、被っていたフードを外した。
「なぁに、ちょっと塩振った程度の事をしたまでですよ。それに、こちらが掻き回した方が、あなたも動きやすいでしょう。」
フードを外したその人物は、蒼松に接触した、白と黒の髪色の男であった。
その男がそう言うと、運転席に座る男は、キーボードを打つ事をやめ、話し始めた。
「…まだ、お前たちはあいつらに接触するタイミングではなかったが…まあ良い。徐々にエネルギーは集まりつつある。お前たちも、そろそろ動くことができるだろう。」
そう言うと、黒いローブの男は言った。
「我々の準備はすでにできている。あとは、あなたの合図を待つのみだ。あなたが"GO"を言えば、今すぐにでも我々は本部を叩ける。」
ローブの男がそう言うと、運転席の男は言った。
「3日後。3日後だ。その日、第1と第3は第2と第4と距離が離れる。その日に、第1と第3に仕掛けるのだ。まだ殺しはしなくていい。脅す程度にやってこい。」
運転席の男がそう言うと、ローブの男はニヤリと笑みを見せ、言った。
「仰せの通り。ただし、彼らの命の保障はできかねます…。"ヴァリアル"と"ウルセウス"を向かわせるつもりなので。彼らに、全ての判断は任せるようにさせてもらいますよ。」
ローブの男がそう言うと、運転席の男は不安そうな顔で言った。
「"ヴァリアル"と"ウルセウス"か…。派手にやり過ぎなければいいが…」
そう言うと、ローブの男は車のドアを開け、助手席から降りながら言った。
「それまでに、あなたが彼らを育てればいい。あの2人に、殺されないように。ね。それでは、私はここで失礼する。」
ローブの男はそう言うと、車のドアを閉めた。
サイドミラーに映るその男の姿は、3歩歩いた後、闇夜の暗がりにスッと消えていった。
すると、運転席の男は、車のエンジンをかけ、ハンドルを握り言った。
「…さて、はじめるとするか。"第二次NAMELESS侵略大戦"を…」
男はそう呟くと、目一杯アクセルを踏み、エンジンの爆音と共に、走り去った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
アラフォーリサの冒険 バズったSNSで退職からリスタート
MisakiNonagase
恋愛
堅実な会社員として働いてきた39歳のリサ。まだまだ現役の母親と二人暮らしで高望みしなければ生活に困ることはなく、それなりに好きなことを楽しんでいた。
周りが結婚したり子育てに追われる様子に焦りがあった時期もあるなか、交際中の彼氏と結婚の話しに発展した際は「この先、母を一人にできない」と心の中引っ掛かり、踏み込めないことが続いてきた。
ある日、うっかりモザイクをかけ忘れインスタグラムに写真を上げたとき、男性から反応が増え、下心と思える内容にも不快はなく、むしろ承認欲求が勝り、気に入った男性とは会い、複数の男性と同時に付き合うことも増え、今を楽しむことにした。
その行動がやがて、ネット界隈で噂となり、会社の同僚達にも伝わり…
リサは退職後、塞ぎ込んでいたが、同じような悩みを抱えていたカナリア(仮名)と話すようになり立ち上がった。ハローワーク経由で職業訓練を受講したり、就活したり、その間知り合ったり仲間と励まし合ったり、生きる活力を取り戻していく…
そして新たな就業先で、メール室に従事する生涯枠採用の翔太という男性と知り合い、リサの人生は変わる…
全20話を予定してます
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる