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第1章 NAMELESS編-序編-
[第12話:Daisy]
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「樫間さん!白峰くん!」
BOX・FORCE本部の地下に用意された特殊救護室の、廊下に設置されている椅子に座っている樫間と白峰の元に、実村が駆け寄った。
「しぃは、とりあえず命に別状はないみたいです。しかし、意識が戻っていないのと…傷が深くて少なくとも1ヶ月ほどは現場に出れないって…」
実村は、不安そうに樫間を見て言った。
「そうですか…。すみません。僕が不甲斐ないばかりに…。」
樫間は俯きながら、弱々しい声で言った。
「隊長が全て悪いわけじゃない。俺だって真っ先にやられてるし、獅蘭隊長でさえやられていた。どうやら、緊急会議でかなり揉めてたらしいが、今回の件は誰のせいとかそういうレベルの問題ではない。そうやって自分を追い込むのは、隊長のよくない癖だ。」
白峰は、樫間の肩に腕を回し、樫間を励ますように言った。
「しぃは、相当悔しがってるはずです。彼女はそういう子だから…。しぃの意識が回復したら、みんなで会いに行きましょ。ね?樫間さん。」
実村も、樫間を励ました。
「隊長、ここにいても仕方ない。椎菜の事は実村と医療チームに任せよう。たまには、ちょっと外で話さないか?」
白峰は樫間に言った。
「…そうですね。実村さん、椎菜さんの事よろしくお願いします。」
白峰の言葉を聞いて、少し明るい表情になった樫間は、実村に言った。
「任せてください!たまには男水入らず、お二人のお時間をお過ごし下さい!」
実村は胸を張り、頼もしそうに言った。
救護室を出て、2人は本部近くの喫茶店に入った。
樫間はブラックコーヒー、白峰はアップルジュースを飲み、2人は窓の外を眺めていた。
「今回の件、世間もかなりNAMELESS問題を重視し始めた。それと同時に、俺たちの存在も世間が重視するようになり、それに対する批判の声も多い。」
白峰は腕を組み、目の前のアップルジュースを見つめ、言った。
「NAMELESSについては、先の時代からずっと注意喚起はしているわけであって、今に始まった事じゃない。NAMELESSに攻撃性がある事は先の大戦で世間も周知しているはずなんだけど…でも、最近のNAMELESSは、あまり攻撃的ではなかったし、俺らで対処できる範囲内だった。だからこそ、どこかで世間のNAMELESSや俺たちに対する評価は、軽視されていたんだと思う。それが今回、この結果だ。そりゃ再びそこに火がついて当たり前だよ。」
樫間は、コーヒーを一口飲んで言った。
「"四神(ししん)"。奴らは必ず、また俺らを襲いに来る。そして、それは再び人々を危険に晒す。…なんとか、被害は抑えたいけどな…。」
白峰は再び、窓の外の平和な日常の景色を見ながら言った。
「…日常なんて、意外と続かないものなのかもしれない。小さなきっかけで、日常はいとも簡単に崩れる。その日常を、大破させない為にも、それを守る存在は必要不可欠だ。それが、俺らの存在なんじゃないんですかね?」
樫間は、白峰を真っ直ぐ見て言った。
「隊長の言う通りだ。全員が全員、そういう価値観を持ってたら、簡単な話なんだろうな。意外とそういうものって、当事者になってみないと考えない部分でもある。この国は色んなものに守られすぎている。島国だからかもしれないけど。誰かに守ってもらえる事が当たり前の世界だ。例え俺らみたいな、守る側の人間が命の危機と隣り合わせで戦ってたとしても、な。」
白峰はそう言うと、自身の右拳を握りしめ、言った。
「美しく、儚く。俺の命はそう燃えている。これは、俺の師匠、益富 拳護(ますとみ けんご)の言葉だ。俺たちの先代、初代"リコリス"は、その命を美しく、儚く燃やしてこの世を去った。しかし、初代の存在は、敵味方問わず大きな影響を与えたはずだ。敵にとっては"死"の花。味方にとっては"悲願"の話。俺たちは、もっと強くならなければいけないな。戦力はもちろん、中身もな。」
白峰がそう言うと、2人のいるテーブルに、1人の男が近づいた。
「…御歓談中に失礼。"BOX・FORCE"とは、あなたたちの事ですか?」
その男は、2人にそう聞いた。
「…あなたは…?」
樫間は恐る恐る、その男に聞いた。
「申し遅れました。私、チャン・リーフォンと申します。」
男がそう名乗ると、白峰は驚いた表情で言った。
「チャン…リーフォン…って、武術の世界では、アジアで右に出る者はいないって言われてる…!」
「…はは、大変恐縮です。どうやらその様に言っていただけているようですね。」
チャンは、少し恥ずかしそうに言った。
「でも、そのあんたが何でここに?って言うか、"BOX・FORCE"って…」
白峰がそう言うと、チャンが答えた。
「おそらく、隊長が先に皆様の元にいらしているはずです。特殊部隊"デイジー"。それが私の所属するチームの名前です。」
チャンの答えに、2人は顔を見合わせた。
「"デイジー"って、ジャッキーさんの…」
樫間がそう言いかけると、チャンが食い気味に言った。
「そうです!ジャック。彼に言われて本部に向かっているんですが…どうやら道に迷ってしまったみたいで。ここで一休みしていたら、あなた方が何やら私の知っているお話をされていたみたいなので…つい…」
チャンは、少し照れながら言った。
「本部なら、この隣にありますよ。せっかくですし、案内しますよ。」
樫間はそう言うと、立ち上がった。
「本当ですか?ありがとうございます。よろしくお願いします。」
チャンは、丁寧にお礼をした。
3人は、喫茶店を出て、再び本部に戻った。
本部で調査を行なっている、第2部隊と第4部隊。そしてパンダと、そこに合流していたジャックの元に、3人は向かった。
「お!チャン!全く、遅いゾ?」
ジャッキーは、チャンの顔を見ると、嬉しそうに笑った。
「申し訳ない。道に迷ってしまって…彼らに案内してもらいました。」
チャンは、樫間と白峰を見ながら答えた。
「チャン・リーフォンと申します。特殊部隊"デイジー"の任命を受け、中国から参りました。」
チャンは、丁寧にお辞儀をすると、荷物を椅子に雑に投げ置き、急に険しい表情で一同に言った。
「次のNAMELESS戦、我々に先頭やらせてください。」
チャンは、パンダを睨むような目つきで見ながら言った。
「え!?…うーん…」
パンダは、思いもよらないチャンの提案に、戸惑っていた。
すると、チャンは先程までの丁寧な雰囲気とはまるで別人のように、机の上に腰掛けながら言った。
「はっきり言わせてもらうが、これまでの戦闘データは一通り見させてもらった。甘いな。これはゲームじゃない。戦争だ。俺が、本当の"戦争"を見せてやる。って言ってんだよ。」
チャンはそう言うと、鋭い目つきで一同を見渡した。
「ほぅ?貴様、大した自身だな。貴様らはあくまで"支援"部隊だと言うことを忘れるな?」
彩科院は、負けじとチャンを睨みつけ言った。
「彩科院鬼介と言ったな。貴公はNAMELESSとの戦闘経験がかなり有るにも関わらず、大した結果を残してないな。貴公の能力値などたかが知れてる。ハッキリ言うが、貴公ほどの人間、俺の手で3秒で潰せる。」
チャンは、売られた喧嘩を買い、彩科院を嘲笑うような目で見て言った。
「3秒か。俺は貴様を1秒あれば消せる。」
彩科院が、"箱装"に手をかけ、今にもチャンを殺すかのような目で睨んだ。
「まあまあ、いいじゃないカ。どっちが強いとかどうでもいイ。僕らは一緒にNAMELESSを倒す仲じゃないカ!」
今にも衝突しそうな2人の間に入って、ジャッキーが言った。
すると、一同の揃う会議室に、通信が入った。
『皆さん!NAMELESS反応です!…これは…先日の人型NAMELESSの格闘タイプと思われます!』
「場所は?」
パンダが通信に答えた。
『それが…本部屋上です!』
その通信に、真っ先にチャンが答えた。
「隊長。行きましょう。」
チャンはそう言うと、扉を蹴り飛ばし、屋上へ向かって走った。
「え、ちょっと、待ってヨ!」
ジャッキーは、チャンを追いかけて走った。
「ん、そうダ。とりあえず今回は、彼の戦闘スタイルを見てあげてヨ。彼、凄いヨ?冗談抜きデ。」
ジャッキーは、振り返ってそう言うと、チャンを追いかけた。
「…各隊長は、万一に備えてデイジーの支援。各隊員は本部緊急事態準備!」
パンダが一同に向けて叫んだ。
「「「了解!!」」」
屋上にたどり着くと、ウルセウスが屋上に舞い降りた。
「…見ない顔だな。新入りか?」
ウルセウスはチャンを見ると、そう言った。
「試してみると良い…」
チャンはそう言うと、ウルセウスに向けて挑発の手招きをした。
次の瞬間、ウルセウスは瞬間移動でチャンの目の前に現れ、拳を振りかぶった。
「…あまり、舐めない方がいいぞ?」
ウルセウスの拳は、確実にチャンを捕らえた。
チャンは少し後ろに飛ばされるも、態勢を立て直した。
「…くそ、言わんこっちゃねぇ…」
彩科院が"箱装"に手をかけようとすると、ジャッキーはスッと腕を出し、それを止めた。
「まぁ見てなっテ。こっからが面白いんだかラ。」
チャンは、耳元の通信機に手を当て、そっと呟いた。
「…フォーメーション、"デイジー"で行く。」
すると、チャンは再びウルセウスに鋭い目線を向け、構えた。
「…はいヨ。いつものやつネ。」
ジャッキーは、そのチャンの言葉を聞くと、何かを悟ったようにニヤリと笑みを見せ、"箱装"を解放した。
「"鷹目銃"&"栗鼠弾"(ホークスナイプ、スクアロブレッド)。ショータイムだヨ。」
そう言うと、ジャッキーは狙撃銃型の"箱装"をウルセウスとチャンの戦う方に向けて構えた。
すると、2人の対峙する屋上の左右から、激しいエンジン音がした。
その瞬間、上空に2つのバイクに乗った人影が、宙を舞い現れた。
その2つの影は、空中でバイクを捨て、1人はヌンチャク、1人はボーガンを構えてウルセウスに向かって飛んだ。
それと同時に、チャンもウルセウスに向かって突っ込んだ。
「…ナイスタイミング。」
ジャッキーはそう呟くと、2発の弾を撃った。
その弾には雷が走り、まっすぐ、宙を舞うバイクのエンジン部分を貫いた。
2台のバイクは、空中で爆音と共に大破した。
ウルセウスは、全方向を囲まれ、爆風に巻き込まれて、身動きが取れずにいた。
爆風が晴れると、ウルセウスは3方向から、3人の攻撃を真っ向から受けていた。しかし、ウルセウスは動じずに立ったままだった。
すると、激しい黒いオーラが、ウルセウスに纏われた。
「…"硬化"していなければ、危なかった。」
ウルセウスはそう言うと、黒いオーラで3人を吹き飛ばした。
「…面白くなりそうだ。」
そう言うと、ウルセウスは風のように消え去った。
「…ちっ、取り逃したか…。」
チャンは、悔しそうに地面に拳をぶつけ、言った。
「…1本取られた。次は逃がさん。」
その声と共に、ヌンチャクを持った女性が立ち上がった。彼女は、迷彩柄のズボンに、タンクトップの軽装。髪は紫色で、前髪を髷(まげ)のように留めている。両手には、ヌンチャクを持っていた。
「…ってぇ~。久々に動いたから全身痛いぜ…」
すると、その女性とは逆の位置から、男性の声が聞こえた。
その男性は、上下黒いスーツに、派手なオレンジのシャツを着て、右手にボーガンを持っていた。
「よく来たネ。ヴァイオレット。リズ。」
ジャッキーは静かに"箱装"を収め、現れた2人に言った。
「…ま、逃げられちゃったけど、どうだっタ?僕ら"デイジー"の戦いハ。」
ジャッキーは、後ろで呆気にとられた顔をしている、樫間、蒼松、彩科院のいる方向に振り返り言った。
樫間達の目の前には、新たな4人の戦士が立ち並んでいた。
その夜、ネオンの灯る、眠らない街の道路を、1台の車が法定速度を無視して、エンジンの爆音と共に走り回っていた。
その車内には、助手席に1人の男、運転席にもう1人、人影があった。
「…特殊部隊"デイジー"ですか。」
助手席の男はそう呟いた。その男は、バキオラであった。
「…ゲームってのは、両者のレベルが釣り合っていなければ面白くない。なぁに。ちょっとスパイスを加えただけさ。計画には何ら支障はない。」
運転席の人影は、バキオラの言葉にそう答えた。
辺りは騒々しくパトカーのサイレン音が鳴り響く。車の後方には、何台ものパトカーがついて追いかけている。
「…あまり変わった事をしないでください。我々も、対処するのに時間を要する。敵役も、そう楽ではありません。」
バキオラは、少し呆れたようにそう言った。
「…計画は完遂しろ。これは新たなる世界の創造への第一歩だ。」
運転席の人影はそう言うと、ダッシュボードに付いたスイッチを押した。
すると、車のマフラーが火を吹き、一瞬にして加速しながら、ネオン街を抜け、闇夜の暗がりにその車は消えていった。
BOX・FORCE本部の地下に用意された特殊救護室の、廊下に設置されている椅子に座っている樫間と白峰の元に、実村が駆け寄った。
「しぃは、とりあえず命に別状はないみたいです。しかし、意識が戻っていないのと…傷が深くて少なくとも1ヶ月ほどは現場に出れないって…」
実村は、不安そうに樫間を見て言った。
「そうですか…。すみません。僕が不甲斐ないばかりに…。」
樫間は俯きながら、弱々しい声で言った。
「隊長が全て悪いわけじゃない。俺だって真っ先にやられてるし、獅蘭隊長でさえやられていた。どうやら、緊急会議でかなり揉めてたらしいが、今回の件は誰のせいとかそういうレベルの問題ではない。そうやって自分を追い込むのは、隊長のよくない癖だ。」
白峰は、樫間の肩に腕を回し、樫間を励ますように言った。
「しぃは、相当悔しがってるはずです。彼女はそういう子だから…。しぃの意識が回復したら、みんなで会いに行きましょ。ね?樫間さん。」
実村も、樫間を励ました。
「隊長、ここにいても仕方ない。椎菜の事は実村と医療チームに任せよう。たまには、ちょっと外で話さないか?」
白峰は樫間に言った。
「…そうですね。実村さん、椎菜さんの事よろしくお願いします。」
白峰の言葉を聞いて、少し明るい表情になった樫間は、実村に言った。
「任せてください!たまには男水入らず、お二人のお時間をお過ごし下さい!」
実村は胸を張り、頼もしそうに言った。
救護室を出て、2人は本部近くの喫茶店に入った。
樫間はブラックコーヒー、白峰はアップルジュースを飲み、2人は窓の外を眺めていた。
「今回の件、世間もかなりNAMELESS問題を重視し始めた。それと同時に、俺たちの存在も世間が重視するようになり、それに対する批判の声も多い。」
白峰は腕を組み、目の前のアップルジュースを見つめ、言った。
「NAMELESSについては、先の時代からずっと注意喚起はしているわけであって、今に始まった事じゃない。NAMELESSに攻撃性がある事は先の大戦で世間も周知しているはずなんだけど…でも、最近のNAMELESSは、あまり攻撃的ではなかったし、俺らで対処できる範囲内だった。だからこそ、どこかで世間のNAMELESSや俺たちに対する評価は、軽視されていたんだと思う。それが今回、この結果だ。そりゃ再びそこに火がついて当たり前だよ。」
樫間は、コーヒーを一口飲んで言った。
「"四神(ししん)"。奴らは必ず、また俺らを襲いに来る。そして、それは再び人々を危険に晒す。…なんとか、被害は抑えたいけどな…。」
白峰は再び、窓の外の平和な日常の景色を見ながら言った。
「…日常なんて、意外と続かないものなのかもしれない。小さなきっかけで、日常はいとも簡単に崩れる。その日常を、大破させない為にも、それを守る存在は必要不可欠だ。それが、俺らの存在なんじゃないんですかね?」
樫間は、白峰を真っ直ぐ見て言った。
「隊長の言う通りだ。全員が全員、そういう価値観を持ってたら、簡単な話なんだろうな。意外とそういうものって、当事者になってみないと考えない部分でもある。この国は色んなものに守られすぎている。島国だからかもしれないけど。誰かに守ってもらえる事が当たり前の世界だ。例え俺らみたいな、守る側の人間が命の危機と隣り合わせで戦ってたとしても、な。」
白峰はそう言うと、自身の右拳を握りしめ、言った。
「美しく、儚く。俺の命はそう燃えている。これは、俺の師匠、益富 拳護(ますとみ けんご)の言葉だ。俺たちの先代、初代"リコリス"は、その命を美しく、儚く燃やしてこの世を去った。しかし、初代の存在は、敵味方問わず大きな影響を与えたはずだ。敵にとっては"死"の花。味方にとっては"悲願"の話。俺たちは、もっと強くならなければいけないな。戦力はもちろん、中身もな。」
白峰がそう言うと、2人のいるテーブルに、1人の男が近づいた。
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「…あなたは…?」
樫間は恐る恐る、その男に聞いた。
「申し遅れました。私、チャン・リーフォンと申します。」
男がそう名乗ると、白峰は驚いた表情で言った。
「チャン…リーフォン…って、武術の世界では、アジアで右に出る者はいないって言われてる…!」
「…はは、大変恐縮です。どうやらその様に言っていただけているようですね。」
チャンは、少し恥ずかしそうに言った。
「でも、そのあんたが何でここに?って言うか、"BOX・FORCE"って…」
白峰がそう言うと、チャンが答えた。
「おそらく、隊長が先に皆様の元にいらしているはずです。特殊部隊"デイジー"。それが私の所属するチームの名前です。」
チャンの答えに、2人は顔を見合わせた。
「"デイジー"って、ジャッキーさんの…」
樫間がそう言いかけると、チャンが食い気味に言った。
「そうです!ジャック。彼に言われて本部に向かっているんですが…どうやら道に迷ってしまったみたいで。ここで一休みしていたら、あなた方が何やら私の知っているお話をされていたみたいなので…つい…」
チャンは、少し照れながら言った。
「本部なら、この隣にありますよ。せっかくですし、案内しますよ。」
樫間はそう言うと、立ち上がった。
「本当ですか?ありがとうございます。よろしくお願いします。」
チャンは、丁寧にお礼をした。
3人は、喫茶店を出て、再び本部に戻った。
本部で調査を行なっている、第2部隊と第4部隊。そしてパンダと、そこに合流していたジャックの元に、3人は向かった。
「お!チャン!全く、遅いゾ?」
ジャッキーは、チャンの顔を見ると、嬉しそうに笑った。
「申し訳ない。道に迷ってしまって…彼らに案内してもらいました。」
チャンは、樫間と白峰を見ながら答えた。
「チャン・リーフォンと申します。特殊部隊"デイジー"の任命を受け、中国から参りました。」
チャンは、丁寧にお辞儀をすると、荷物を椅子に雑に投げ置き、急に険しい表情で一同に言った。
「次のNAMELESS戦、我々に先頭やらせてください。」
チャンは、パンダを睨むような目つきで見ながら言った。
「え!?…うーん…」
パンダは、思いもよらないチャンの提案に、戸惑っていた。
すると、チャンは先程までの丁寧な雰囲気とはまるで別人のように、机の上に腰掛けながら言った。
「はっきり言わせてもらうが、これまでの戦闘データは一通り見させてもらった。甘いな。これはゲームじゃない。戦争だ。俺が、本当の"戦争"を見せてやる。って言ってんだよ。」
チャンはそう言うと、鋭い目つきで一同を見渡した。
「ほぅ?貴様、大した自身だな。貴様らはあくまで"支援"部隊だと言うことを忘れるな?」
彩科院は、負けじとチャンを睨みつけ言った。
「彩科院鬼介と言ったな。貴公はNAMELESSとの戦闘経験がかなり有るにも関わらず、大した結果を残してないな。貴公の能力値などたかが知れてる。ハッキリ言うが、貴公ほどの人間、俺の手で3秒で潰せる。」
チャンは、売られた喧嘩を買い、彩科院を嘲笑うような目で見て言った。
「3秒か。俺は貴様を1秒あれば消せる。」
彩科院が、"箱装"に手をかけ、今にもチャンを殺すかのような目で睨んだ。
「まあまあ、いいじゃないカ。どっちが強いとかどうでもいイ。僕らは一緒にNAMELESSを倒す仲じゃないカ!」
今にも衝突しそうな2人の間に入って、ジャッキーが言った。
すると、一同の揃う会議室に、通信が入った。
『皆さん!NAMELESS反応です!…これは…先日の人型NAMELESSの格闘タイプと思われます!』
「場所は?」
パンダが通信に答えた。
『それが…本部屋上です!』
その通信に、真っ先にチャンが答えた。
「隊長。行きましょう。」
チャンはそう言うと、扉を蹴り飛ばし、屋上へ向かって走った。
「え、ちょっと、待ってヨ!」
ジャッキーは、チャンを追いかけて走った。
「ん、そうダ。とりあえず今回は、彼の戦闘スタイルを見てあげてヨ。彼、凄いヨ?冗談抜きデ。」
ジャッキーは、振り返ってそう言うと、チャンを追いかけた。
「…各隊長は、万一に備えてデイジーの支援。各隊員は本部緊急事態準備!」
パンダが一同に向けて叫んだ。
「「「了解!!」」」
屋上にたどり着くと、ウルセウスが屋上に舞い降りた。
「…見ない顔だな。新入りか?」
ウルセウスはチャンを見ると、そう言った。
「試してみると良い…」
チャンはそう言うと、ウルセウスに向けて挑発の手招きをした。
次の瞬間、ウルセウスは瞬間移動でチャンの目の前に現れ、拳を振りかぶった。
「…あまり、舐めない方がいいぞ?」
ウルセウスの拳は、確実にチャンを捕らえた。
チャンは少し後ろに飛ばされるも、態勢を立て直した。
「…くそ、言わんこっちゃねぇ…」
彩科院が"箱装"に手をかけようとすると、ジャッキーはスッと腕を出し、それを止めた。
「まぁ見てなっテ。こっからが面白いんだかラ。」
チャンは、耳元の通信機に手を当て、そっと呟いた。
「…フォーメーション、"デイジー"で行く。」
すると、チャンは再びウルセウスに鋭い目線を向け、構えた。
「…はいヨ。いつものやつネ。」
ジャッキーは、そのチャンの言葉を聞くと、何かを悟ったようにニヤリと笑みを見せ、"箱装"を解放した。
「"鷹目銃"&"栗鼠弾"(ホークスナイプ、スクアロブレッド)。ショータイムだヨ。」
そう言うと、ジャッキーは狙撃銃型の"箱装"をウルセウスとチャンの戦う方に向けて構えた。
すると、2人の対峙する屋上の左右から、激しいエンジン音がした。
その瞬間、上空に2つのバイクに乗った人影が、宙を舞い現れた。
その2つの影は、空中でバイクを捨て、1人はヌンチャク、1人はボーガンを構えてウルセウスに向かって飛んだ。
それと同時に、チャンもウルセウスに向かって突っ込んだ。
「…ナイスタイミング。」
ジャッキーはそう呟くと、2発の弾を撃った。
その弾には雷が走り、まっすぐ、宙を舞うバイクのエンジン部分を貫いた。
2台のバイクは、空中で爆音と共に大破した。
ウルセウスは、全方向を囲まれ、爆風に巻き込まれて、身動きが取れずにいた。
爆風が晴れると、ウルセウスは3方向から、3人の攻撃を真っ向から受けていた。しかし、ウルセウスは動じずに立ったままだった。
すると、激しい黒いオーラが、ウルセウスに纏われた。
「…"硬化"していなければ、危なかった。」
ウルセウスはそう言うと、黒いオーラで3人を吹き飛ばした。
「…面白くなりそうだ。」
そう言うと、ウルセウスは風のように消え去った。
「…ちっ、取り逃したか…。」
チャンは、悔しそうに地面に拳をぶつけ、言った。
「…1本取られた。次は逃がさん。」
その声と共に、ヌンチャクを持った女性が立ち上がった。彼女は、迷彩柄のズボンに、タンクトップの軽装。髪は紫色で、前髪を髷(まげ)のように留めている。両手には、ヌンチャクを持っていた。
「…ってぇ~。久々に動いたから全身痛いぜ…」
すると、その女性とは逆の位置から、男性の声が聞こえた。
その男性は、上下黒いスーツに、派手なオレンジのシャツを着て、右手にボーガンを持っていた。
「よく来たネ。ヴァイオレット。リズ。」
ジャッキーは静かに"箱装"を収め、現れた2人に言った。
「…ま、逃げられちゃったけど、どうだっタ?僕ら"デイジー"の戦いハ。」
ジャッキーは、後ろで呆気にとられた顔をしている、樫間、蒼松、彩科院のいる方向に振り返り言った。
樫間達の目の前には、新たな4人の戦士が立ち並んでいた。
その夜、ネオンの灯る、眠らない街の道路を、1台の車が法定速度を無視して、エンジンの爆音と共に走り回っていた。
その車内には、助手席に1人の男、運転席にもう1人、人影があった。
「…特殊部隊"デイジー"ですか。」
助手席の男はそう呟いた。その男は、バキオラであった。
「…ゲームってのは、両者のレベルが釣り合っていなければ面白くない。なぁに。ちょっとスパイスを加えただけさ。計画には何ら支障はない。」
運転席の人影は、バキオラの言葉にそう答えた。
辺りは騒々しくパトカーのサイレン音が鳴り響く。車の後方には、何台ものパトカーがついて追いかけている。
「…あまり変わった事をしないでください。我々も、対処するのに時間を要する。敵役も、そう楽ではありません。」
バキオラは、少し呆れたようにそう言った。
「…計画は完遂しろ。これは新たなる世界の創造への第一歩だ。」
運転席の人影はそう言うと、ダッシュボードに付いたスイッチを押した。
すると、車のマフラーが火を吹き、一瞬にして加速しながら、ネオン街を抜け、闇夜の暗がりにその車は消えていった。
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センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
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