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オークの変身 (1)
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冒険者というものは、たいていが荒っぽい連中であり、ついでに無学で勉強嫌いだ。
そんな奴は常にトラブルを起こしがちで、それは冒険者になってからも変わらない。
つまり、何がいいたいのかといえば、冒険者ギルドはしょっちゅう揉め事が起きる場所だということだ。
「うわぁ、うるせぇな」
職場につくなり、俺は思わずそんな声を漏らしてしまった。
たぶん誰にも聞こえてはいないだろうが。
「どうやら、素材の買取カウンターのほうでもめているらしいぞ」
「……それにしても、今日は一段と激しいな」
声を聞く限り、騒いでいるのは女性のようである。
ふむ、狩ってきたのはオークか。
狩りかたで大きく値段が変わるため、よく揉めるやつだな。
「おいおい、かかわらないほうがいいぜ?」
買い取りカウンターに向かおうとする俺を、先輩がうんざりした顔でとどめた。
「けど、いつまでもこれじゃ仕事の邪魔ですよ」
今日の作業はクロユメマユという蛾のさなぎから特殊な絹糸をつむぐのだが、この作業が騒音厳禁なのである。
常に子守唄を歌いながらでないと表面にツヤが無くなり、雑音の多いところで紡ぐと強度が低くなってすぐにほつれてしまうのだ。
さて、いったいどんな奴が来たのやら。
内心うんざりしながらカウンターに出ると……そこには俺と同じく二十歳前後の女の子が受付上相手に声を張り上げていた。
……かわいい。 正直好みだ。
黒いローブに身を包んでいるところを見ると、魔術師だろうか。
やや吊気味のマリンブルーの目はまるで猫のようで、冒険者稼業をしているわりには肌が白い。
全体的に気の強そうな顔立ちだが、唇は小さく愛らしかった。
緩やかに背中まで波打つ髪は、珍しいストロベリーピンクに輝いている。
あぁ、思い出した。
たしかまだ中堅どころだが、注目株だと誰かがいっていたソロの魔術師がそんな特徴だったはずである。
たしか、名前は……。
「ディオーナさん、いい加減にしないとギルドからの除名も検討することになりますよ!」
「ふざけないでよ! あんたたち、冒険者ギルドって名乗りながら困った冒険者のために何もしてくれないじゃない!!」
そんな受付嬢とのやり取りをよそに、俺は彼女が持ってきたオーくの素材を横から盗み見する。
あぁ、こいつはひどいな。
丸焼けじゃないか。
特に皮の損傷がひどい。
そこまで確認し、俺は女性二人の会話に割ってはいることにした。
「おっと、そこまでにしてくれ」
「誰よ、あんた!」
俺が声をかけると、すかさずディオーナ嬢が噛み付いてくる。
逆に、受付嬢からはホッとしたような表情がかえってきた。
「俺はシエル。 このギルドの素材管理課の者だ。
そのオークの素材について納得が行くよう説明をさせてもらおう」
「納得? いいわよ、やってもらおうじゃない」
俺の台詞に、ディオーナ嬢は目を吊り上げて挑発的な言葉を投げつけてくる。
やれやれ、せっかくの美少女が台無しだな。
「まず、オークの素材の買取は、その大部分が防具の材料となる皮だ。
そこは説明しなくてもわかるよな?」
「そ、そのぐらい知っているわよ。 馬鹿にしているの?」
その言葉を無視し、俺は持ち込まれたオークの皮を手に取る。
「オークの皮はそのままだと腐ってしまうから、揉みこんで鞣し処理をしなきゃならん。
だが、この丸焼け状態の皮では鞣す前にこうなる……」
俺がオークの皮を軽く揉むと、白っぽく変色しながらひび割れ、周囲に細かい粉が舞い散った。
そしてひび割れた皮の割れ目から、白い脂肪の層が顔を出す。
「見てのとおり、これでは使い物にならない。
これを引き取ってくれというのならば、むしろゴミとして処分するために俺たちが金をもらわなければならない代物だ。
そんな代物を俺たちに買い取れと? これ以上騒ぐならば、強要罪としての扱いで牢獄送りになってもらうしかないな」
さらに、当然ながら冒険者ギルドからも除名だ。
今後、まともな職に就ける可能性はほぼ無い。
ここにきて、ようやく自分が何をしているのか理解したらしく、ディオーナ嬢の顔からみるみる血の気が引いていった。
「そ、そんな……おねがい、どうしてもお金が必要なの!
でないと、私、冒険者を続けられなくなる!!」
「無茶を言わないでくれ。 使い物にならないものを買い取ったら、今度は俺たちが仕事をクビになる。
そうでなくとも、あんたの言い分を通したら今後同じようなことが次々に起きてギルドが弱体化。
しまいには、冒険者全体の不利益となる……そのぐらいわかるよな?」
少し大げさではあるが、そうなってもおかしくはない話である。
ゆえに、ディオーナ嬢もそれ以上の反論はしてこなかった。
「くっ……悔しいけど、そのとおりね。
じゃあ、か、皮意外は売り物にならないの!? ほら、肉とか!
豚みたいだから、食べたらおいしいって事は……」
「残念だけど、ないわね。
オーク肉は豚と違って筋が固く食用には向かないの」
すがるような言葉を、受付嬢がそっけなく打ち砕く。
「そ、そんなぁ……」
力なく床に座り込んだ彼女は、まさに絶望を体現しているかのように見えた。
******
【ナイトシルク】
魔力容量:509
属性稀度:Mon2877
固有属性:鎮痛、眠り
基本査定額:2,928,786
※このデータは一反分の布を織る量の繭の数字である。
一反の布を織るには、およそ繭玉3000個が必要であり、繭玉一個あたりの買い取り額はおよそ900イクリス。
繭から糸、そして布にする過程でおよそ一反500万イクリス前後が実際の相場となるる
そんな奴は常にトラブルを起こしがちで、それは冒険者になってからも変わらない。
つまり、何がいいたいのかといえば、冒険者ギルドはしょっちゅう揉め事が起きる場所だということだ。
「うわぁ、うるせぇな」
職場につくなり、俺は思わずそんな声を漏らしてしまった。
たぶん誰にも聞こえてはいないだろうが。
「どうやら、素材の買取カウンターのほうでもめているらしいぞ」
「……それにしても、今日は一段と激しいな」
声を聞く限り、騒いでいるのは女性のようである。
ふむ、狩ってきたのはオークか。
狩りかたで大きく値段が変わるため、よく揉めるやつだな。
「おいおい、かかわらないほうがいいぜ?」
買い取りカウンターに向かおうとする俺を、先輩がうんざりした顔でとどめた。
「けど、いつまでもこれじゃ仕事の邪魔ですよ」
今日の作業はクロユメマユという蛾のさなぎから特殊な絹糸をつむぐのだが、この作業が騒音厳禁なのである。
常に子守唄を歌いながらでないと表面にツヤが無くなり、雑音の多いところで紡ぐと強度が低くなってすぐにほつれてしまうのだ。
さて、いったいどんな奴が来たのやら。
内心うんざりしながらカウンターに出ると……そこには俺と同じく二十歳前後の女の子が受付上相手に声を張り上げていた。
……かわいい。 正直好みだ。
黒いローブに身を包んでいるところを見ると、魔術師だろうか。
やや吊気味のマリンブルーの目はまるで猫のようで、冒険者稼業をしているわりには肌が白い。
全体的に気の強そうな顔立ちだが、唇は小さく愛らしかった。
緩やかに背中まで波打つ髪は、珍しいストロベリーピンクに輝いている。
あぁ、思い出した。
たしかまだ中堅どころだが、注目株だと誰かがいっていたソロの魔術師がそんな特徴だったはずである。
たしか、名前は……。
「ディオーナさん、いい加減にしないとギルドからの除名も検討することになりますよ!」
「ふざけないでよ! あんたたち、冒険者ギルドって名乗りながら困った冒険者のために何もしてくれないじゃない!!」
そんな受付嬢とのやり取りをよそに、俺は彼女が持ってきたオーくの素材を横から盗み見する。
あぁ、こいつはひどいな。
丸焼けじゃないか。
特に皮の損傷がひどい。
そこまで確認し、俺は女性二人の会話に割ってはいることにした。
「おっと、そこまでにしてくれ」
「誰よ、あんた!」
俺が声をかけると、すかさずディオーナ嬢が噛み付いてくる。
逆に、受付嬢からはホッとしたような表情がかえってきた。
「俺はシエル。 このギルドの素材管理課の者だ。
そのオークの素材について納得が行くよう説明をさせてもらおう」
「納得? いいわよ、やってもらおうじゃない」
俺の台詞に、ディオーナ嬢は目を吊り上げて挑発的な言葉を投げつけてくる。
やれやれ、せっかくの美少女が台無しだな。
「まず、オークの素材の買取は、その大部分が防具の材料となる皮だ。
そこは説明しなくてもわかるよな?」
「そ、そのぐらい知っているわよ。 馬鹿にしているの?」
その言葉を無視し、俺は持ち込まれたオークの皮を手に取る。
「オークの皮はそのままだと腐ってしまうから、揉みこんで鞣し処理をしなきゃならん。
だが、この丸焼け状態の皮では鞣す前にこうなる……」
俺がオークの皮を軽く揉むと、白っぽく変色しながらひび割れ、周囲に細かい粉が舞い散った。
そしてひび割れた皮の割れ目から、白い脂肪の層が顔を出す。
「見てのとおり、これでは使い物にならない。
これを引き取ってくれというのならば、むしろゴミとして処分するために俺たちが金をもらわなければならない代物だ。
そんな代物を俺たちに買い取れと? これ以上騒ぐならば、強要罪としての扱いで牢獄送りになってもらうしかないな」
さらに、当然ながら冒険者ギルドからも除名だ。
今後、まともな職に就ける可能性はほぼ無い。
ここにきて、ようやく自分が何をしているのか理解したらしく、ディオーナ嬢の顔からみるみる血の気が引いていった。
「そ、そんな……おねがい、どうしてもお金が必要なの!
でないと、私、冒険者を続けられなくなる!!」
「無茶を言わないでくれ。 使い物にならないものを買い取ったら、今度は俺たちが仕事をクビになる。
そうでなくとも、あんたの言い分を通したら今後同じようなことが次々に起きてギルドが弱体化。
しまいには、冒険者全体の不利益となる……そのぐらいわかるよな?」
少し大げさではあるが、そうなってもおかしくはない話である。
ゆえに、ディオーナ嬢もそれ以上の反論はしてこなかった。
「くっ……悔しいけど、そのとおりね。
じゃあ、か、皮意外は売り物にならないの!? ほら、肉とか!
豚みたいだから、食べたらおいしいって事は……」
「残念だけど、ないわね。
オーク肉は豚と違って筋が固く食用には向かないの」
すがるような言葉を、受付嬢がそっけなく打ち砕く。
「そ、そんなぁ……」
力なく床に座り込んだ彼女は、まさに絶望を体現しているかのように見えた。
******
【ナイトシルク】
魔力容量:509
属性稀度:Mon2877
固有属性:鎮痛、眠り
基本査定額:2,928,786
※このデータは一反分の布を織る量の繭の数字である。
一反の布を織るには、およそ繭玉3000個が必要であり、繭玉一個あたりの買い取り額はおよそ900イクリス。
繭から糸、そして布にする過程でおよそ一反500万イクリス前後が実際の相場となるる
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