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オークの変身 (2)
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「なぁ……そもそも、いったいなんでそんな金が必要なんだ?」
打ちひしがれてすっかりおとなしくなった彼女を見て、俺はふとそんな疑問を口にしする。
すると、しばらくして気まずそうな顔をして黙りこくった挙句、なぜか彼女はその両手を開いたままの状態で前に突き出した。
そしておずおずとその理由を語りはじめる。
「杖が……壊れちゃったの」
いわれて気が付いたが、確かに彼女は杖を持っていない。
魔術の使用に大きく影響するため、杖を持たない魔術師は稀だ。
……というより、たいていの魔術師は杖なしでは魔術を使うことが出来ないらしい。
「それで新しい杖を探していたんだけど、私と相性のいい杖がなかなかなくて……。
さんざん探した挙句、やっと相性のいい杖を見つけたんだけど……その杖は貴族に売りつける予定になっていたの。
なんとか売ってくれるよう頼み込んだんだけど、期日までに倍の金を用意しろといわれて……」
「それはまた悪質だな。 悪いことはいわないから、その店はもうやめておいたほうがいいぞ」
「うん。 私も出来れば二度と利用したくないけど今回ばかりは……ね」
そして、金策をなんとかするために今回のオーク討伐に挑んだのだが、無茶をしたせいで予備の杖まで壊れてしまうという最悪の結果を迎えてしまった……というのが、彼女の口から語られた顛末である。
「オーダーメイドじゃダメだったのか?」
既製の杖が合わない魔術師の場合、魔杖の職人に直接交渉してオーダーメイドで作ってもらうことが多い。
多少値が張るが、相場の二倍もかかるようなことはまずないはずだ。
しかし、ディオーナは悲しそうに首を横にふった。
「残念だけど、私にあう杖を作る職人に心当たりが無いの。
名工タシケントの作った杖をずっと愛用していたんたけど、最近はなかなか売ってなくて」
「あぁ、それは仕方が無い。
タシケントは、数年ほど前に死んじまったからな」
「えぇっ!? そんなの、聞いてないよぉ!!」
「まぁ……あまりいい死に方じゃなかったからな。
業界の人間の間でも、その話題はタブー視されてる」
そして、俺はその死に様を知っている数少ない人間の一人だった。
「なるほどねぇ。 たしかに魔術師にとってそれは死活問題だわ。
ねぇ、シエル」
受付嬢が、思わせぶりな視線を送ってくる。
「……なんだよ」
返事をすると、受付嬢はにっこりと笑った。
なぜかその笑顔に身の危険を感じ、俺は背中にゾワゾワと鳥肌がたつのを感じる。
「あんた、うちの素材管理課でいちばんの腕利きよね?」
「それなりの自負はあるが、先輩には及ばないさ」
――気をつけろ! こんなふうに褒められるときは、たいがいロクなもんじゃない。
俺は回れ右して逃げ出そうとした。
その腕をすばやく受付嬢がつかんで引きとめる。
「その先輩が愚痴っていたわよ。 あいつ、後輩の癖に俺より腕がいいって」
「ただのリップサービスだ。 気持ちの悪い言葉はやめてくれ」
受付嬢の賞賛を、俺はひとことで心のゴミ箱に投げ捨てる。
だが、そんな俺の態度にもかかわらず、受付嬢は俺の腕を握る手に力をこめながらついにその本題を切り出した。
「貴方なら、このゴミみたいな素材をどこかに売りつけることが出来るんじゃないかしら?」
「ふざけんな!」
出来ないとは言わないが、それがどれだけ大変なことかわかってるのか?
いくらなんでも身勝手すぎるだろ。
断る! ……と言いそうになった俺だが、ふと横の魔術師からすがるような目で見られていることに気が付いた。
「お、お願いできないかしら……貴方に断られたら、私、どうしていいか……」
受付嬢はどうでもいいが、こっちのすがるような目には弱い。
あーぁ、先輩の言うとおりこんな事に口を突っ込むんじゃなかったよ。
俺はあきらめて肩を落とし、ディオーナに向き直った。
「はぁ……考えては見るが、期待はするなよ。 それと、これは正式な依頼として受けるからこの書類にサインして」
「ありがとう!」
すると、彼女は花がほころぶような笑みを浮かべつつ俺の差し出した依頼表にサインを記した。
「礼を言うのはまだ早い。 結果を見てからにしてくれ」
……と、その前に言うべきことがあった。
「あと、クロユメマユの絹糸……こっちが終わるまで手がつけられなくなったから依頼人への説明よろしく」
「ちょっ、なにそれ!?」
俺がそう告げると、受付嬢が悲鳴を上げた。
おいおい、まさかこうなることも予想できなかったのか?
俺はたった今サインされた緊急依頼の書面を受付嬢の目の前に突きつける。
「新製品の開発だから、もしかすると月単位で時間かかるかもしれない。
あと、うちの部署でアレを加工できるの俺だけだから」
「ちょっと、まって!
あれって、お得意様からの急ぎの仕事じゃない!
ふっ、ふざけないでよ!!」
「ふざけてなんか無いぞ? 何のために緊急依頼にしたと思ってる。
さもなきゃ、俺のスケジュールは来月の半ばまですでにギッシリつまってるからな。
まさか……知らずに俺に仕事を押し付けたのか?」
素材管理課の腕利きに予定に無い仕事をさせるって事は、そういうことなんだよ。
勉強になったかい?
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
受付嬢の悲鳴はギルドのエントランス全体に響き渡り、冒険者たちが何事だとばかりにこちらに視線を向けてくるが、あいにくと説明の義務は無い。
「まぁ、結局は定時の仕事が終わったあとで徹夜して片付けることになるだろうけどな」
ブラックまっしぐらであるうちの部署においては、実にありふれた話である。
そして、数時間後……予想通り上司から気持ちの悪い猫なで声で残業を命令されたのは言うまでもない。
******
【オークスキン】
魔力容量:463
属性稀度:stn692
固有属性:筋力増大、耐久力増大
基本査定額:640792イクリス
打ちひしがれてすっかりおとなしくなった彼女を見て、俺はふとそんな疑問を口にしする。
すると、しばらくして気まずそうな顔をして黙りこくった挙句、なぜか彼女はその両手を開いたままの状態で前に突き出した。
そしておずおずとその理由を語りはじめる。
「杖が……壊れちゃったの」
いわれて気が付いたが、確かに彼女は杖を持っていない。
魔術の使用に大きく影響するため、杖を持たない魔術師は稀だ。
……というより、たいていの魔術師は杖なしでは魔術を使うことが出来ないらしい。
「それで新しい杖を探していたんだけど、私と相性のいい杖がなかなかなくて……。
さんざん探した挙句、やっと相性のいい杖を見つけたんだけど……その杖は貴族に売りつける予定になっていたの。
なんとか売ってくれるよう頼み込んだんだけど、期日までに倍の金を用意しろといわれて……」
「それはまた悪質だな。 悪いことはいわないから、その店はもうやめておいたほうがいいぞ」
「うん。 私も出来れば二度と利用したくないけど今回ばかりは……ね」
そして、金策をなんとかするために今回のオーク討伐に挑んだのだが、無茶をしたせいで予備の杖まで壊れてしまうという最悪の結果を迎えてしまった……というのが、彼女の口から語られた顛末である。
「オーダーメイドじゃダメだったのか?」
既製の杖が合わない魔術師の場合、魔杖の職人に直接交渉してオーダーメイドで作ってもらうことが多い。
多少値が張るが、相場の二倍もかかるようなことはまずないはずだ。
しかし、ディオーナは悲しそうに首を横にふった。
「残念だけど、私にあう杖を作る職人に心当たりが無いの。
名工タシケントの作った杖をずっと愛用していたんたけど、最近はなかなか売ってなくて」
「あぁ、それは仕方が無い。
タシケントは、数年ほど前に死んじまったからな」
「えぇっ!? そんなの、聞いてないよぉ!!」
「まぁ……あまりいい死に方じゃなかったからな。
業界の人間の間でも、その話題はタブー視されてる」
そして、俺はその死に様を知っている数少ない人間の一人だった。
「なるほどねぇ。 たしかに魔術師にとってそれは死活問題だわ。
ねぇ、シエル」
受付嬢が、思わせぶりな視線を送ってくる。
「……なんだよ」
返事をすると、受付嬢はにっこりと笑った。
なぜかその笑顔に身の危険を感じ、俺は背中にゾワゾワと鳥肌がたつのを感じる。
「あんた、うちの素材管理課でいちばんの腕利きよね?」
「それなりの自負はあるが、先輩には及ばないさ」
――気をつけろ! こんなふうに褒められるときは、たいがいロクなもんじゃない。
俺は回れ右して逃げ出そうとした。
その腕をすばやく受付嬢がつかんで引きとめる。
「その先輩が愚痴っていたわよ。 あいつ、後輩の癖に俺より腕がいいって」
「ただのリップサービスだ。 気持ちの悪い言葉はやめてくれ」
受付嬢の賞賛を、俺はひとことで心のゴミ箱に投げ捨てる。
だが、そんな俺の態度にもかかわらず、受付嬢は俺の腕を握る手に力をこめながらついにその本題を切り出した。
「貴方なら、このゴミみたいな素材をどこかに売りつけることが出来るんじゃないかしら?」
「ふざけんな!」
出来ないとは言わないが、それがどれだけ大変なことかわかってるのか?
いくらなんでも身勝手すぎるだろ。
断る! ……と言いそうになった俺だが、ふと横の魔術師からすがるような目で見られていることに気が付いた。
「お、お願いできないかしら……貴方に断られたら、私、どうしていいか……」
受付嬢はどうでもいいが、こっちのすがるような目には弱い。
あーぁ、先輩の言うとおりこんな事に口を突っ込むんじゃなかったよ。
俺はあきらめて肩を落とし、ディオーナに向き直った。
「はぁ……考えては見るが、期待はするなよ。 それと、これは正式な依頼として受けるからこの書類にサインして」
「ありがとう!」
すると、彼女は花がほころぶような笑みを浮かべつつ俺の差し出した依頼表にサインを記した。
「礼を言うのはまだ早い。 結果を見てからにしてくれ」
……と、その前に言うべきことがあった。
「あと、クロユメマユの絹糸……こっちが終わるまで手がつけられなくなったから依頼人への説明よろしく」
「ちょっ、なにそれ!?」
俺がそう告げると、受付嬢が悲鳴を上げた。
おいおい、まさかこうなることも予想できなかったのか?
俺はたった今サインされた緊急依頼の書面を受付嬢の目の前に突きつける。
「新製品の開発だから、もしかすると月単位で時間かかるかもしれない。
あと、うちの部署でアレを加工できるの俺だけだから」
「ちょっと、まって!
あれって、お得意様からの急ぎの仕事じゃない!
ふっ、ふざけないでよ!!」
「ふざけてなんか無いぞ? 何のために緊急依頼にしたと思ってる。
さもなきゃ、俺のスケジュールは来月の半ばまですでにギッシリつまってるからな。
まさか……知らずに俺に仕事を押し付けたのか?」
素材管理課の腕利きに予定に無い仕事をさせるって事は、そういうことなんだよ。
勉強になったかい?
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
受付嬢の悲鳴はギルドのエントランス全体に響き渡り、冒険者たちが何事だとばかりにこちらに視線を向けてくるが、あいにくと説明の義務は無い。
「まぁ、結局は定時の仕事が終わったあとで徹夜して片付けることになるだろうけどな」
ブラックまっしぐらであるうちの部署においては、実にありふれた話である。
そして、数時間後……予想通り上司から気持ちの悪い猫なで声で残業を命令されたのは言うまでもない。
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【オークスキン】
魔力容量:463
属性稀度:stn692
固有属性:筋力増大、耐久力増大
基本査定額:640792イクリス
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