5 / 21
オークの変身 (3)
しおりを挟む
「さて、どうしたものかねぇ」
クロユメマユの絹糸を全速力でつむぎ終わった後、俺は焼け焦げて使い物にならなくなったオークの死体を見下ろしてため息をついた。
彼女が持ち込んだオークは6体。
通常はその場で売れそうなところだけを剥ぎ取ってもってくるのだが、今回は出来るだけ収益を上げようとポーターを雇っていたらしく、頭から足の先までそろっている。
「おいおい、いくらなんでもこいつを売り物にするのは無理だろ。
それこそ、骨と皮を煮出して膠でもとるしかないんじゃね?」
横で見ていた同僚のリンツがげんなりした顔でボソリとつぶやく。
「膠かぁ……単価が安いからなぁ」
「だよなぁ。 やっぱ、無理なんじゃね?」
俺のぼやきにリンツがそう呟いたとき、突如背後に気配が生まれる。
何者!?
「……リンツ、うちの課のモットーは?」
「素材管理課に捨てる物無し!」
背後から聞こえてきた先輩の声に、思わず二人で復唱してしまう。
「というわけで、我が素材管理課の名誉にかけてシエルにはがんばってほしい」
そういいながら肩を叩いてくる先輩をジト目で見つめながら、俺は少し意地悪をする事にした。
「無茶いいますね、先輩。 先輩なら、この素材をどう使いますか?」
「あーそうだなぁ。 まぁ、この状態だと皮を使うのはあきらめるな。
あと、内臓系ももう腐っちまってるから手遅れだし……骨ぐらいしかつかえそうなところはなさそうだな」
思ったよりまともな答えが返ってきたことに肩透かしをくらったものの、見立てとしては俺と同じだ。
「やっぱりそうなりますか」
呟きながら、オークの死体に目を落とす。
「とりあえず膠にするかな」
少なくとも、この無残な皮はそうするしかない。
俺は解体用のナイフをとり、オークの皮を剥ぎ取って鍋に放り込んで水を注ぐ。
オーク6体分ともなると、相当な量だ。
これがまともな素材だったら、さぞいい値段で売れただろうに。
そして水が沸騰しはじめると、周囲に皮独特の異臭が立ち込めた。
……というか、これは!?
「ぶぇっ!? し、シエル! これ、むちゃくちゃ臭い!!」
「ま、まぁ、膠ってのもそういうものだしな。 特にオークだから仕方が無いだろ」
動物の皮にはインドールやスカトールをはじめとする悪臭の原因物質が含まれており、煮込む際にはひどい臭気が発生してしまう。
しかも、オークの皮にはこれらの成分が豊富に含まれているらしく、完成した製品にもその臭いは残ってしまうのだ。
そのため、頑丈さと軽さをかねた良質の防具になるにもかかわらず、オーク皮の製品はいまひとつ人気が出ないのである。
まぁ、どこぞの工房にはその臭気を完全に消して香りまでつけることの出来る方法があるらしいのだが、あいにくと門外不出の秘伝らしい。
とまぁ、そんな素材であるため、通常ここでは膠の抽出は行っていない。
今回は売りつけるための特別措置だ。
いつもは皮を鞣す前の塩漬けまでが業務内容で、膠をとる場合でも臭いの少ない骨から抽出している。
「しかし、話には聞いていたがオーク皮の膠の臭いは本当にすさまじいな。
リンツ、このままでは匂いがひどくて売り物にならないから、双児宮の魔法陣で匂いの元になっているインドールとスカトールを分離してくれ」
「うへぇ……マジかよ」
俺が仕事を割り振ると、リンツはしぶしぶ抽出した膠を壷に移し、成分分離の魔術の準備を始めた。
なお、匂いの元となるこの二つの物質は、希釈すると香水の原料になるため、ゴブリン・グリースを下ろしている香水屋に売却予定である。
ただ、素材となったオークという魔物の属性のため、安く買い叩かれるのは否めないだろうな。
さらに、膠を抽出した後の残骸は肉や内臓と一緒に発酵させて畑の肥やしにする予定である。
我が部署に捨てるという言葉は無いのだ。
そんなことをしていると、いつの間にか姿を消していた先輩が隣の部屋から出てきた。
「とりあえずオークの肉を分析の魔術をかけて、何につかえるかの解析しておいたぞ」
「あ、助かります、先輩」
「お前の見立てどおり農耕をつかさどる土星の力が強いから良い肥料になるだろう。
ただ、魔力容量が25を超えているから、このままCランクの魔法薬にして魔法植物を育てているところに売却を持ちかけておこうか」
「いいですね! そっちの交渉はお願いしても?」
「まぁ、任せておけ。
あと、腐ってなかった内臓だが……睾丸は強い魔力と精力剤としての効果を持っていたので、アルコールにつけて成分の抽出をしかけておいた。
こいつもいい値段で売れるだろう」
そんな会話をしながら、オークの残骸からとれた素材の査定額を書き込んでゆく。
ふむ、おもったより儲けが出ないな。
いや、むしろ皮が売れないならこんなものか。
「あーたぶんこれじゃ杖の料金には届かんな。
あとは残された素材でなんとか利益を出さなきゃならんのだが、シエルは何か考えているのか?」
予想される売却価格をみつめ、先輩がガシガシと自分の髪をかきむしる。
「ええ、実は前々から試してみたい素材があるんです」
そう告げながら、俺は残された素材……オークの骨を見下ろした。
クロユメマユの絹糸を全速力でつむぎ終わった後、俺は焼け焦げて使い物にならなくなったオークの死体を見下ろしてため息をついた。
彼女が持ち込んだオークは6体。
通常はその場で売れそうなところだけを剥ぎ取ってもってくるのだが、今回は出来るだけ収益を上げようとポーターを雇っていたらしく、頭から足の先までそろっている。
「おいおい、いくらなんでもこいつを売り物にするのは無理だろ。
それこそ、骨と皮を煮出して膠でもとるしかないんじゃね?」
横で見ていた同僚のリンツがげんなりした顔でボソリとつぶやく。
「膠かぁ……単価が安いからなぁ」
「だよなぁ。 やっぱ、無理なんじゃね?」
俺のぼやきにリンツがそう呟いたとき、突如背後に気配が生まれる。
何者!?
「……リンツ、うちの課のモットーは?」
「素材管理課に捨てる物無し!」
背後から聞こえてきた先輩の声に、思わず二人で復唱してしまう。
「というわけで、我が素材管理課の名誉にかけてシエルにはがんばってほしい」
そういいながら肩を叩いてくる先輩をジト目で見つめながら、俺は少し意地悪をする事にした。
「無茶いいますね、先輩。 先輩なら、この素材をどう使いますか?」
「あーそうだなぁ。 まぁ、この状態だと皮を使うのはあきらめるな。
あと、内臓系ももう腐っちまってるから手遅れだし……骨ぐらいしかつかえそうなところはなさそうだな」
思ったよりまともな答えが返ってきたことに肩透かしをくらったものの、見立てとしては俺と同じだ。
「やっぱりそうなりますか」
呟きながら、オークの死体に目を落とす。
「とりあえず膠にするかな」
少なくとも、この無残な皮はそうするしかない。
俺は解体用のナイフをとり、オークの皮を剥ぎ取って鍋に放り込んで水を注ぐ。
オーク6体分ともなると、相当な量だ。
これがまともな素材だったら、さぞいい値段で売れただろうに。
そして水が沸騰しはじめると、周囲に皮独特の異臭が立ち込めた。
……というか、これは!?
「ぶぇっ!? し、シエル! これ、むちゃくちゃ臭い!!」
「ま、まぁ、膠ってのもそういうものだしな。 特にオークだから仕方が無いだろ」
動物の皮にはインドールやスカトールをはじめとする悪臭の原因物質が含まれており、煮込む際にはひどい臭気が発生してしまう。
しかも、オークの皮にはこれらの成分が豊富に含まれているらしく、完成した製品にもその臭いは残ってしまうのだ。
そのため、頑丈さと軽さをかねた良質の防具になるにもかかわらず、オーク皮の製品はいまひとつ人気が出ないのである。
まぁ、どこぞの工房にはその臭気を完全に消して香りまでつけることの出来る方法があるらしいのだが、あいにくと門外不出の秘伝らしい。
とまぁ、そんな素材であるため、通常ここでは膠の抽出は行っていない。
今回は売りつけるための特別措置だ。
いつもは皮を鞣す前の塩漬けまでが業務内容で、膠をとる場合でも臭いの少ない骨から抽出している。
「しかし、話には聞いていたがオーク皮の膠の臭いは本当にすさまじいな。
リンツ、このままでは匂いがひどくて売り物にならないから、双児宮の魔法陣で匂いの元になっているインドールとスカトールを分離してくれ」
「うへぇ……マジかよ」
俺が仕事を割り振ると、リンツはしぶしぶ抽出した膠を壷に移し、成分分離の魔術の準備を始めた。
なお、匂いの元となるこの二つの物質は、希釈すると香水の原料になるため、ゴブリン・グリースを下ろしている香水屋に売却予定である。
ただ、素材となったオークという魔物の属性のため、安く買い叩かれるのは否めないだろうな。
さらに、膠を抽出した後の残骸は肉や内臓と一緒に発酵させて畑の肥やしにする予定である。
我が部署に捨てるという言葉は無いのだ。
そんなことをしていると、いつの間にか姿を消していた先輩が隣の部屋から出てきた。
「とりあえずオークの肉を分析の魔術をかけて、何につかえるかの解析しておいたぞ」
「あ、助かります、先輩」
「お前の見立てどおり農耕をつかさどる土星の力が強いから良い肥料になるだろう。
ただ、魔力容量が25を超えているから、このままCランクの魔法薬にして魔法植物を育てているところに売却を持ちかけておこうか」
「いいですね! そっちの交渉はお願いしても?」
「まぁ、任せておけ。
あと、腐ってなかった内臓だが……睾丸は強い魔力と精力剤としての効果を持っていたので、アルコールにつけて成分の抽出をしかけておいた。
こいつもいい値段で売れるだろう」
そんな会話をしながら、オークの残骸からとれた素材の査定額を書き込んでゆく。
ふむ、おもったより儲けが出ないな。
いや、むしろ皮が売れないならこんなものか。
「あーたぶんこれじゃ杖の料金には届かんな。
あとは残された素材でなんとか利益を出さなきゃならんのだが、シエルは何か考えているのか?」
予想される売却価格をみつめ、先輩がガシガシと自分の髪をかきむしる。
「ええ、実は前々から試してみたい素材があるんです」
そう告げながら、俺は残された素材……オークの骨を見下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる