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オークの変身 (4)
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オークの骨を金貨に変えるにはどうすればいいか?
まともに考えれば、それは不可能である。
そもそも、多くの魔物系素材において骨はわりと廉価な素材である。
角や牙ならばそのまま飾り石代わりとしても人気があるのだが、骨に関しては骨細工師が精密な彫刻を施して初めて価値が生まれる代物だ。
ゆえに付加価値がつけられず、売却価格もかなり低い。
だが、俺は考える。
錬金術が卑金属から黄金を生み出すのなら、骨からだって宝石が生まれてもいいじゃないか。
――前々から俺は新しい骨素材の活用方法を考えていたのである。
俺はまず全ての骨を砕き、そのほとんどを焼成を司る白羊宮の魔法陣を刻んだ竈にいれ、完全に粉末にした。
そして得られた残骨粉を水槽にいれ、今度は炭酸水を注ぐ。
さらに溶解をつかさどる巨蟹宮の魔法陣を起動させると、オークの骨であったものは鍋の中で完全に溶けて白濁した液体になってしまった。
そこに残しておいたオークの骨の欠片を入れ、オークの膠を抽出したときに得られたオークの脂をはじめとする薬剤を混ぜてからエア・コンプレッサーを使って下から空気を送り込む。
さらにその作業台の周りに刻んだ魔法陣を、巨蟹宮から凝縮をつかさどる金牛宮に書き換え、待つことしばし。
「なぁ、シエル。 これは何を作ろうとしているんだ?」
「なぁに……黄金を作るのはちょっと難しそうだったから、宝石を作ることにしたのさ。
まぁ、本来は石灰を材料にするから、うまくゆくかどうかは賭けなんだけどな」
すると、先輩が俺が何をしようとしているのかを察したらしく、ガタンと椅子を蹴倒しながら立ち上がった。
「そっか、アレか! シエル、お前やっぱ天才だな!!」
「先輩こそ、よくご存知でしたね。
そうとう錬金術に詳しくないと知らないと思っていたんですが……」
「えっ? えっ? なんだよ、わかってないの俺だけかよ!!」
盛り上がる俺と先輩の間で、ただ一人リンツだけが取り残されて盛大に拗ねる。
「まぁ、そう拗ねるな。 そろそろ出来上がる頃だとおもうぞ」
俺は白濁した水槽のエア・コンプレッサーを止め、その中に網を入れて中にあるものを取り出した。
「よし、出来上がりはどうかな……」
「おぉっ、これってまさか!」
「予想以上にいい出来じゃないか、やったなシエル!!」
取り出したものを、男三人で顔を寄せ合うようにして確認する。
そこにあったのは、黒く輝く真円の宝石……黒真珠。
しかも、魔物から作っただけあって、今までに無い魔力を秘めた代物だったのである。
一週間後、すべての素材を完売し俺はディオーナを呼び出した。
「呼び出して悪かったな。 素材の売却、終わったぞ。
例の杖を買うにも十分な額になったと思うが……えらく顔色がわるいな」
久しぶりに顔を合わせたディオーナは、ずいぶんと冴えない顔をしていた。
そして、まるで別人のように弱弱しい声でこう呟いたのである。
「あのね、例の杖だけど……もう他の人に売れちゃったの」
「え?」
「私が倍額で購入しようとしていると聞きつけた貴族の人が、さらに高い金を出したからって……」
おそらく、その噂を流したのも商人のやったことだろう。
つまりは、こういう話だ。
もともと、その商人は貴族の提示した杖の販売価格に不満を持っていたのだろう。
そこに現れたのが、その杖がどうしても欲しいという魔術師の女。
その女に、倍額でなら売ってもいいともちかけて、その話を貴族の耳に入るようにする。
すると、貴族は平民の魔術師に横から掻っ攫ってゆかれては家の名折れ……と言うことで、承認に詰め寄る。
そこで商人はこう告げるのだ。
「すいませんが、あの杖にあの程度の値段をつけるとおっしゃる方に不義理とおっしゃられましてもねぇ。
私どもとしても、価値のわかってらっしゃらない方に使われるよりは、その価値を知っている魔術師殿に使っていただきたいのです。
それとも、貴方様があの杖を正当な値段でお買い求めになると?
魔術師殿は貴方の倍の値段で買うとおっしゃってましたよ?」
まぁ、完全に同じではないだろうが、似たようなことを言ったのだろう。
つまり、交渉の当て馬にされたのだ。
「ケッ、胸糞悪い話しだぜ」
「ごめんね。 すごくがんばってくれたのに」
うぉぉぉ……うつむきながら涙目でそう語る彼女がいとしくて、思わず胸がキュンとくる。
「まぁ、いいや。 杖が手に入らなかったのならちょうど良かった」
「良かった?」
きょとんとして聞き返す彼女に、俺は背中に隠していた杖をそっと差し出す。
そしてその杖をおずおずと握った瞬間、ディオーナは目を見開いた。
「これ……すごい! 手に取っただけで魔力が手に馴染むというか、名工タシケントの杖にもぜんぜん劣ってない。
ううん。 まるで名工タシケントの作品そのものじゃない!」
信じられないといわんばかりの目で、彼女は俺と杖を交互に見やる。
なんだろう……こんなに気分がいいのは久しぶりだ。
「まぁ、そうだろうな。 多少の違いはあるかもしれないけど、そいつは間違いなくタシケントの生み出した技術で作られている」
そう、名工は死んだが、その技術は受け継がれているのだ。
「そういえば正式に名乗ってなかったな。
俺のフルネームはシエルスラーフ・タシケント。 名工タシケントの六代目になるはずだった男だ」
******
【オークパール】
魔力容量:3158
属性稀度:stn1509
固有属性:筋力増大、耐久力増大、月属性親和、水属性
基本査定額:19,061,688イクリス
まともに考えれば、それは不可能である。
そもそも、多くの魔物系素材において骨はわりと廉価な素材である。
角や牙ならばそのまま飾り石代わりとしても人気があるのだが、骨に関しては骨細工師が精密な彫刻を施して初めて価値が生まれる代物だ。
ゆえに付加価値がつけられず、売却価格もかなり低い。
だが、俺は考える。
錬金術が卑金属から黄金を生み出すのなら、骨からだって宝石が生まれてもいいじゃないか。
――前々から俺は新しい骨素材の活用方法を考えていたのである。
俺はまず全ての骨を砕き、そのほとんどを焼成を司る白羊宮の魔法陣を刻んだ竈にいれ、完全に粉末にした。
そして得られた残骨粉を水槽にいれ、今度は炭酸水を注ぐ。
さらに溶解をつかさどる巨蟹宮の魔法陣を起動させると、オークの骨であったものは鍋の中で完全に溶けて白濁した液体になってしまった。
そこに残しておいたオークの骨の欠片を入れ、オークの膠を抽出したときに得られたオークの脂をはじめとする薬剤を混ぜてからエア・コンプレッサーを使って下から空気を送り込む。
さらにその作業台の周りに刻んだ魔法陣を、巨蟹宮から凝縮をつかさどる金牛宮に書き換え、待つことしばし。
「なぁ、シエル。 これは何を作ろうとしているんだ?」
「なぁに……黄金を作るのはちょっと難しそうだったから、宝石を作ることにしたのさ。
まぁ、本来は石灰を材料にするから、うまくゆくかどうかは賭けなんだけどな」
すると、先輩が俺が何をしようとしているのかを察したらしく、ガタンと椅子を蹴倒しながら立ち上がった。
「そっか、アレか! シエル、お前やっぱ天才だな!!」
「先輩こそ、よくご存知でしたね。
そうとう錬金術に詳しくないと知らないと思っていたんですが……」
「えっ? えっ? なんだよ、わかってないの俺だけかよ!!」
盛り上がる俺と先輩の間で、ただ一人リンツだけが取り残されて盛大に拗ねる。
「まぁ、そう拗ねるな。 そろそろ出来上がる頃だとおもうぞ」
俺は白濁した水槽のエア・コンプレッサーを止め、その中に網を入れて中にあるものを取り出した。
「よし、出来上がりはどうかな……」
「おぉっ、これってまさか!」
「予想以上にいい出来じゃないか、やったなシエル!!」
取り出したものを、男三人で顔を寄せ合うようにして確認する。
そこにあったのは、黒く輝く真円の宝石……黒真珠。
しかも、魔物から作っただけあって、今までに無い魔力を秘めた代物だったのである。
一週間後、すべての素材を完売し俺はディオーナを呼び出した。
「呼び出して悪かったな。 素材の売却、終わったぞ。
例の杖を買うにも十分な額になったと思うが……えらく顔色がわるいな」
久しぶりに顔を合わせたディオーナは、ずいぶんと冴えない顔をしていた。
そして、まるで別人のように弱弱しい声でこう呟いたのである。
「あのね、例の杖だけど……もう他の人に売れちゃったの」
「え?」
「私が倍額で購入しようとしていると聞きつけた貴族の人が、さらに高い金を出したからって……」
おそらく、その噂を流したのも商人のやったことだろう。
つまりは、こういう話だ。
もともと、その商人は貴族の提示した杖の販売価格に不満を持っていたのだろう。
そこに現れたのが、その杖がどうしても欲しいという魔術師の女。
その女に、倍額でなら売ってもいいともちかけて、その話を貴族の耳に入るようにする。
すると、貴族は平民の魔術師に横から掻っ攫ってゆかれては家の名折れ……と言うことで、承認に詰め寄る。
そこで商人はこう告げるのだ。
「すいませんが、あの杖にあの程度の値段をつけるとおっしゃる方に不義理とおっしゃられましてもねぇ。
私どもとしても、価値のわかってらっしゃらない方に使われるよりは、その価値を知っている魔術師殿に使っていただきたいのです。
それとも、貴方様があの杖を正当な値段でお買い求めになると?
魔術師殿は貴方の倍の値段で買うとおっしゃってましたよ?」
まぁ、完全に同じではないだろうが、似たようなことを言ったのだろう。
つまり、交渉の当て馬にされたのだ。
「ケッ、胸糞悪い話しだぜ」
「ごめんね。 すごくがんばってくれたのに」
うぉぉぉ……うつむきながら涙目でそう語る彼女がいとしくて、思わず胸がキュンとくる。
「まぁ、いいや。 杖が手に入らなかったのならちょうど良かった」
「良かった?」
きょとんとして聞き返す彼女に、俺は背中に隠していた杖をそっと差し出す。
そしてその杖をおずおずと握った瞬間、ディオーナは目を見開いた。
「これ……すごい! 手に取っただけで魔力が手に馴染むというか、名工タシケントの杖にもぜんぜん劣ってない。
ううん。 まるで名工タシケントの作品そのものじゃない!」
信じられないといわんばかりの目で、彼女は俺と杖を交互に見やる。
なんだろう……こんなに気分がいいのは久しぶりだ。
「まぁ、そうだろうな。 多少の違いはあるかもしれないけど、そいつは間違いなくタシケントの生み出した技術で作られている」
そう、名工は死んだが、その技術は受け継がれているのだ。
「そういえば正式に名乗ってなかったな。
俺のフルネームはシエルスラーフ・タシケント。 名工タシケントの六代目になるはずだった男だ」
******
【オークパール】
魔力容量:3158
属性稀度:stn1509
固有属性:筋力増大、耐久力増大、月属性親和、水属性
基本査定額:19,061,688イクリス
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