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毛はまた戻り、繰り返す (1)
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「シエル、頼まれた奴を捕まえてきたわよ」
ディオーナがやってきたのは、俺が遅めの昼食を食べてすぐのことだった。
「おぉ、悪いな無理を言って」
「まぁ、いつものことだし。
それにしても、星の配置を気にしながらの死後って肩が凝るわね。
じゃあ、はい、これ。
絶対に殺すなって言われたから苦労したわよ」
そういいながら、ディオーナは手にしていた籠を俺の作業机の上に置き、その籠を覆う布を取り払った。
中には、手のひらサイズの愛らしい小猿――カーバンクルが一匹。
だが、それがただのサルではない証拠に、その額には赤く透明な石が嵌っている。
「そう言うなって。 前払いで新しい杖を用意してやっただろ?」
「まぁ、あの杖のおかげでずいぶん楽をさせてもらったわ」
ディオーナは俺が提供した新しい杖を取り出すと、機嫌よさそうにそれを振り回した。
これは麻痺の術式を組み込んだ代物で、呪文を取得していなくても魔術の心得さえあれば麻痺の術式を発動できるという、誘拐や監禁に便利な代物である。
「攻撃だけが魔術ではないってことだ。
今後の冒険にぜひ活用してくれ」
そう告げながら、俺は籠の中から麻痺したままの小猿を取り出し、額の宝石をとる作業のために麻酔剤の調合を始めた。
……この手の作業は合い方のリンツが得意なのだが、今日は別件で外出しているため俺がやるしかない。
なにせ相手が小猿だからなぁ。
麻酔の量が多すぎると、この貴重な生き物を殺してしまうことになりかねない。
だが、量が少ないと、今度は宝石の取り外しの際に痛みでショック死してしまうのだ。
そしてこの小猿を殺すと、俺の給料が半年分ほど吹っ飛ぶことになるだろう。
あぁ……胃にキュンとくるぜ。
俺はしばらく黙っているようディアーナに注意をすると、俺はピンセットを使ってゆっくりと小猿の額からガーネットを摘出した。
恐る恐る小猿の鼻先に指を伸ばすと、指先にかすかな息遣いを感じる。
「よし……成功だ」
俺は全身力を抜いて、大きくため息をついた。
「ねぇ、ちなみにその額にはまっている宝石ってルビーなの?」
「いや、ガーネットだ。
ガーネットにもいろいろとあるが、これはアルマンディンガーネットと呼ばれる奴で、一番よく取れるタイプだな」
実際には粘土並みに小さなガーネットの粒を透明な蛋白質で固めたものだが、宝石の専門家でもなければ区別は付かないだろう。
「もしかして、安い?」
「綺麗で人気のある石だが、高くは無いな」
だが、一番多く算出する赤いガーネット……パイラルスパイト系列と呼ばれるアルマンディンガーネットやパイロープガーネット、スペサルティンガーネットに関しては、その美しさにも関わらずあまり値段が高くない。
「……なんかテンション下がるわ」
俺がそんな説明をすると、ディオーナは露骨にがっかりした顔をした。
おいおい、高くてもお前の物になるわけじゃないからな?
いったい何を期待していたんだよ、お前。
あまり怪しいそぶりを見せて俺の信頼を損ねてくれるなよ。
「そういうなよ。 ガーネットは手に入りやすい上に魔力が強いから、俺みたいな魔道具関係者にとってありがたい石なんだぞ?」
「あたしたち冒険者にとってはあんまり嬉しくないけど?」
「ほう……安くて質のいい装備には興味が無いと?」
「ごめんなさい。 私が全面的に間違ってました」
新人の中ではかなり稼いでいるほうのディオーナだが、それでも荒稼ぎというには程遠い。
そして冒険者の必要とする装備というものは、やたらと高かったりするのだ。
「それにだな、このカーバンクルの額にある宝石は、金運を呼ぶ呪いの触媒になるんだぞ?」
「本当に!?」
俺がそんな話をすると、とたんに顔を輝かせて食いついてくる。
やれやれ、現金なものだ。
「それにしても……こんな小さなお猿さんから、なんで宝石が取れるんだろう?」
「あぁ、この猿がいるあたりの森では塩が貴重でね。
塩分を補うために、こいつらは少しはなれた草原までやってきて塩を含んだ土を食べるんだ」
「土を? もしかして、その土にガーネットが含まれているのかしら」
「そのとおり」
実は、ガーネットは鉱石としてはかなりありふれている物質で、大理石などの中にも砂粒程度の大きさの結晶として数多く含まれている。
彼らは、そんなガーネットを細かく砕いて吸収することで額に宝石を生み出すのだ。
「そして、この宝石はもともとは角であったらしい。
で、土を食べるうちに体の中にガーネットが溜まるんだが、あいにくとガーネットには栄養が無い。
だから体の中から排出する必要がある」
「あぁ、それで角に混ぜて排出するうちに……」
「そうだ。
額に色鮮やかで大きなガーネット交じりの角を持つ固体が交配相手として好まれるうちに、いつの間にか額にガーネットを持つ生き物になったといわれている」
つまり、あの鮮やかな額のガーネットは、彼らにとって男のステータスシンボルなのだ。
「ガーネットじゃなくてルビーの入った土を食べればよかったのに」
そんなわがままなことを呟くディオーナが、まるで子供のような見えて、俺は思わず苦笑いした。
先日、俺を膝枕していたときはちょっぴり大人びて見えたのに、女って生き物はその時その時でまったく違う顔を見せてくる。
「そう言うなよ。 この世の何もかもが、我々の都合だけで出来ているわけじゃないさ」
【カーバンクル・ストーン】
魔力容量:84
属性稀度:Sun0199
固有属性:金運上昇
基本査定額:16716イクリス
ディオーナがやってきたのは、俺が遅めの昼食を食べてすぐのことだった。
「おぉ、悪いな無理を言って」
「まぁ、いつものことだし。
それにしても、星の配置を気にしながらの死後って肩が凝るわね。
じゃあ、はい、これ。
絶対に殺すなって言われたから苦労したわよ」
そういいながら、ディオーナは手にしていた籠を俺の作業机の上に置き、その籠を覆う布を取り払った。
中には、手のひらサイズの愛らしい小猿――カーバンクルが一匹。
だが、それがただのサルではない証拠に、その額には赤く透明な石が嵌っている。
「そう言うなって。 前払いで新しい杖を用意してやっただろ?」
「まぁ、あの杖のおかげでずいぶん楽をさせてもらったわ」
ディオーナは俺が提供した新しい杖を取り出すと、機嫌よさそうにそれを振り回した。
これは麻痺の術式を組み込んだ代物で、呪文を取得していなくても魔術の心得さえあれば麻痺の術式を発動できるという、誘拐や監禁に便利な代物である。
「攻撃だけが魔術ではないってことだ。
今後の冒険にぜひ活用してくれ」
そう告げながら、俺は籠の中から麻痺したままの小猿を取り出し、額の宝石をとる作業のために麻酔剤の調合を始めた。
……この手の作業は合い方のリンツが得意なのだが、今日は別件で外出しているため俺がやるしかない。
なにせ相手が小猿だからなぁ。
麻酔の量が多すぎると、この貴重な生き物を殺してしまうことになりかねない。
だが、量が少ないと、今度は宝石の取り外しの際に痛みでショック死してしまうのだ。
そしてこの小猿を殺すと、俺の給料が半年分ほど吹っ飛ぶことになるだろう。
あぁ……胃にキュンとくるぜ。
俺はしばらく黙っているようディアーナに注意をすると、俺はピンセットを使ってゆっくりと小猿の額からガーネットを摘出した。
恐る恐る小猿の鼻先に指を伸ばすと、指先にかすかな息遣いを感じる。
「よし……成功だ」
俺は全身力を抜いて、大きくため息をついた。
「ねぇ、ちなみにその額にはまっている宝石ってルビーなの?」
「いや、ガーネットだ。
ガーネットにもいろいろとあるが、これはアルマンディンガーネットと呼ばれる奴で、一番よく取れるタイプだな」
実際には粘土並みに小さなガーネットの粒を透明な蛋白質で固めたものだが、宝石の専門家でもなければ区別は付かないだろう。
「もしかして、安い?」
「綺麗で人気のある石だが、高くは無いな」
だが、一番多く算出する赤いガーネット……パイラルスパイト系列と呼ばれるアルマンディンガーネットやパイロープガーネット、スペサルティンガーネットに関しては、その美しさにも関わらずあまり値段が高くない。
「……なんかテンション下がるわ」
俺がそんな説明をすると、ディオーナは露骨にがっかりした顔をした。
おいおい、高くてもお前の物になるわけじゃないからな?
いったい何を期待していたんだよ、お前。
あまり怪しいそぶりを見せて俺の信頼を損ねてくれるなよ。
「そういうなよ。 ガーネットは手に入りやすい上に魔力が強いから、俺みたいな魔道具関係者にとってありがたい石なんだぞ?」
「あたしたち冒険者にとってはあんまり嬉しくないけど?」
「ほう……安くて質のいい装備には興味が無いと?」
「ごめんなさい。 私が全面的に間違ってました」
新人の中ではかなり稼いでいるほうのディオーナだが、それでも荒稼ぎというには程遠い。
そして冒険者の必要とする装備というものは、やたらと高かったりするのだ。
「それにだな、このカーバンクルの額にある宝石は、金運を呼ぶ呪いの触媒になるんだぞ?」
「本当に!?」
俺がそんな話をすると、とたんに顔を輝かせて食いついてくる。
やれやれ、現金なものだ。
「それにしても……こんな小さなお猿さんから、なんで宝石が取れるんだろう?」
「あぁ、この猿がいるあたりの森では塩が貴重でね。
塩分を補うために、こいつらは少しはなれた草原までやってきて塩を含んだ土を食べるんだ」
「土を? もしかして、その土にガーネットが含まれているのかしら」
「そのとおり」
実は、ガーネットは鉱石としてはかなりありふれている物質で、大理石などの中にも砂粒程度の大きさの結晶として数多く含まれている。
彼らは、そんなガーネットを細かく砕いて吸収することで額に宝石を生み出すのだ。
「そして、この宝石はもともとは角であったらしい。
で、土を食べるうちに体の中にガーネットが溜まるんだが、あいにくとガーネットには栄養が無い。
だから体の中から排出する必要がある」
「あぁ、それで角に混ぜて排出するうちに……」
「そうだ。
額に色鮮やかで大きなガーネット交じりの角を持つ固体が交配相手として好まれるうちに、いつの間にか額にガーネットを持つ生き物になったといわれている」
つまり、あの鮮やかな額のガーネットは、彼らにとって男のステータスシンボルなのだ。
「ガーネットじゃなくてルビーの入った土を食べればよかったのに」
そんなわがままなことを呟くディオーナが、まるで子供のような見えて、俺は思わず苦笑いした。
先日、俺を膝枕していたときはちょっぴり大人びて見えたのに、女って生き物はその時その時でまったく違う顔を見せてくる。
「そう言うなよ。 この世の何もかもが、我々の都合だけで出来ているわけじゃないさ」
【カーバンクル・ストーン】
魔力容量:84
属性稀度:Sun0199
固有属性:金運上昇
基本査定額:16716イクリス
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