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毛はまた戻り、繰り返す (2)
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「ところで、このあと、この生き物……カーバンクルはどうなるの?」
俺がその生き物を檻に戻すと、ディオーナは思いついたようにそう尋ねてきた。
「あぁ、もともとすんでいた森に戻すだけだ。
なにせ、繊細な生き物なので飼育は出来ないんだ。
人工飼育したところでガーネットの混じった土壌がなければただの小猿だしな」
それでもペットとしての需要は無いとはいえないが、本来の価値とは比較にならない。
「そっか。 どっかの貴族に売りつけるわけでもないのね」
どこからホッとしたように呟くディオーナを見て、俺は思わず顔がにやけそうになる。
「依頼をしたときにも言ったが、この生き物は冒険者ギルドで保護が義務付けられている動物だ。
額のガーネットをうまく採取すれば、何度でも採取できるからな」
「そういえば密猟者が出るかもって言ってたよね」
「もっとも、最近はいないみたいだな。
何年か前に大規模な粛清があって……見つけ次第、一族郎党奴隷落ちになるぐらいの罰金を取り立てたからな」
実際にそれで消えた商家も一つや二つではなかったらしい。
「ある意味、処刑するよりも残酷ね」
そう、死んで楽になるよりも、生きたまま借金地獄になるほうがはるかに悲惨だ。
富の誘惑に負けることはかくも罪深いのかと、改めて身が引き締まる思いである。
「そんなわけで、カーバンクルに関しては生きたまま捕獲するのが原則だ。
宝石だけを持ってきても、執拗な取調べを受けるだけだから、うかつな人間に頼むわけにもゆかない」
本当はディオーナではなくてアルトリノに頼もうと思っていたのだが、あいにくと奴は別の仕事で手が空いてなかったのだ。
「それであまり受ける人がいないんだ? おっかないもんねぇ」
「頻繁に出る依頼でもないしな。
カーバンクル自体の数も少ないし、一度宝石を採取すると次の宝石が出来るまでにかなりの時間がかかるんだ」
次の宝石が出来るまで、およそ半年。
それも、小指の爪ほどの大きさのものでしかない。
「そっか、けっこう美味しい依頼だとおもったんけど、残念ね」
「とりあえず、後は素材管理課でやるから受付に立ち寄って報酬を受け取ってくれ」
俺は依頼完了の証明書をにサインをすると、それをディオーナに手渡した。
それを手に取り、ディオーナが建物を出てゆく。
そして、彼女の姿が完全に見えなくなったことを確認し、部屋に鍵をかけてから俺はようやく大きなため息をつきつつ椅子に座り込んだ。
「ふぅ……ある意味、アルトリノに頼まなくて良かったかもしれんな。
あいつ、妙なところで勘が鋭いところあるからいらんことまで気づくかもしれんし」
そう、このカーバンクルの捕獲作戦にはまだ裏があるのだ。
俺は引き出しから報告書用の紙を取り出すと、ギルドマスター宛の報告書を書き始めた。
そしてそれを封筒に入れて魔力をこめた蝋で封印をする。
こうすれば、もう俺とギルドマスター以外が中身をみることは出来ない。
……ここまで厳重にしなければならないほど、この問題は危険を伴っているのだ。
そしてその封筒を、俺はギルドの受付に手渡した。
「緊急報告だ。 大至急、ギルドマスターにこの報告書を渡してくれ」
「大至急ですか? いま、ギルドマスターはお客様と対応中で……」
「俺は大至急といわなかったか? 跡で問題になっても、俺はしらんぞ」
怪訝な顔をする受付嬢に封筒を押し付けると、俺我関せずとばかりに自分の部署へと戻ることにした。
そして数分後……素材管理課にギルドマスターが顔色を変えて駆け込んできて、さらに別件で外出していたリンツが呼び戻される。
かなりあわただしく動いたが、こうなることはある程度予想されていたため、特に混乱は無い。
「シエル、本当にアレの材料が手に入ったのか?」
「あぁ、見ろよ。 こいつの尻を」
出先から走って戻ってきたのか、まだ肩で息をしているリンツに、俺は籠に入ったカーバンクルを親指で示してみせる。
そこには小さな尻尾がピコピコと動いていた。
……実は、本来のカーバンクルに尻尾は無い。
だが、まれに先祖がえりで一時的に尻尾が生える個体がいるのだ。
まぁ、そもそも冒険者はこいつに尻尾があるかどうかなんて気にも留めないだろうがな。
めったに手に入らない突然変異だが、ディオーナのやつ自分でも引きが強いとは言っていたが、まさに大金星だったよ。
そして、以前そんなカーバンクルの尻尾に興味を持ち、分析と解析を行った物好きがいる。
今、俺の目の前に。
「いやぁ、前回の時はすごかったよねぇ。
今回はどうなやることやら」
「のんきなこと言ってやがるが、今回の主役はお前だぞ、リンツ。
……で、使えそうなのか?」
「うん、問題はなさそう」
カーバンクルの尻尾に分析をかけ、素材管理課きってのマッド薬剤師がにんまりと笑った。
「ふん、ほどほどにしておけよ、黒のアマルテア」
「久しぶりに聞いたねぇ、その二つ名」
俺の相方であるリンツは紛れも無い天才薬師にして錬金術師であるが、他人からの妬みを買って薬師のギルドから追放されたという経歴の持ち主である。
しかも、少々倫理に欠けたところがあるため、ついた二つ名が『黒のアマルテア』。
魔獣料理人である先輩と組んで、余った素材からさまざまな危険物を作り出す要注意人物だった。
そして数年前、この男はカーバンクルの尻尾からとんでもない代物を作り出したのである。
貴族たちが、血を流してでも手に入れようとするような秘薬をだ。
そして数日後、俺の所属する冒険者ギルドからこんな告知が出されたのである。
……毛生え薬、入荷しました。
【カーバンクル・テイル】
魔力容量:24
属性稀度:Sta0014
固有属性:金運上昇
※流通なし。 冒険者ギルドの秘匿素材。
俺がその生き物を檻に戻すと、ディオーナは思いついたようにそう尋ねてきた。
「あぁ、もともとすんでいた森に戻すだけだ。
なにせ、繊細な生き物なので飼育は出来ないんだ。
人工飼育したところでガーネットの混じった土壌がなければただの小猿だしな」
それでもペットとしての需要は無いとはいえないが、本来の価値とは比較にならない。
「そっか。 どっかの貴族に売りつけるわけでもないのね」
どこからホッとしたように呟くディオーナを見て、俺は思わず顔がにやけそうになる。
「依頼をしたときにも言ったが、この生き物は冒険者ギルドで保護が義務付けられている動物だ。
額のガーネットをうまく採取すれば、何度でも採取できるからな」
「そういえば密猟者が出るかもって言ってたよね」
「もっとも、最近はいないみたいだな。
何年か前に大規模な粛清があって……見つけ次第、一族郎党奴隷落ちになるぐらいの罰金を取り立てたからな」
実際にそれで消えた商家も一つや二つではなかったらしい。
「ある意味、処刑するよりも残酷ね」
そう、死んで楽になるよりも、生きたまま借金地獄になるほうがはるかに悲惨だ。
富の誘惑に負けることはかくも罪深いのかと、改めて身が引き締まる思いである。
「そんなわけで、カーバンクルに関しては生きたまま捕獲するのが原則だ。
宝石だけを持ってきても、執拗な取調べを受けるだけだから、うかつな人間に頼むわけにもゆかない」
本当はディオーナではなくてアルトリノに頼もうと思っていたのだが、あいにくと奴は別の仕事で手が空いてなかったのだ。
「それであまり受ける人がいないんだ? おっかないもんねぇ」
「頻繁に出る依頼でもないしな。
カーバンクル自体の数も少ないし、一度宝石を採取すると次の宝石が出来るまでにかなりの時間がかかるんだ」
次の宝石が出来るまで、およそ半年。
それも、小指の爪ほどの大きさのものでしかない。
「そっか、けっこう美味しい依頼だとおもったんけど、残念ね」
「とりあえず、後は素材管理課でやるから受付に立ち寄って報酬を受け取ってくれ」
俺は依頼完了の証明書をにサインをすると、それをディオーナに手渡した。
それを手に取り、ディオーナが建物を出てゆく。
そして、彼女の姿が完全に見えなくなったことを確認し、部屋に鍵をかけてから俺はようやく大きなため息をつきつつ椅子に座り込んだ。
「ふぅ……ある意味、アルトリノに頼まなくて良かったかもしれんな。
あいつ、妙なところで勘が鋭いところあるからいらんことまで気づくかもしれんし」
そう、このカーバンクルの捕獲作戦にはまだ裏があるのだ。
俺は引き出しから報告書用の紙を取り出すと、ギルドマスター宛の報告書を書き始めた。
そしてそれを封筒に入れて魔力をこめた蝋で封印をする。
こうすれば、もう俺とギルドマスター以外が中身をみることは出来ない。
……ここまで厳重にしなければならないほど、この問題は危険を伴っているのだ。
そしてその封筒を、俺はギルドの受付に手渡した。
「緊急報告だ。 大至急、ギルドマスターにこの報告書を渡してくれ」
「大至急ですか? いま、ギルドマスターはお客様と対応中で……」
「俺は大至急といわなかったか? 跡で問題になっても、俺はしらんぞ」
怪訝な顔をする受付嬢に封筒を押し付けると、俺我関せずとばかりに自分の部署へと戻ることにした。
そして数分後……素材管理課にギルドマスターが顔色を変えて駆け込んできて、さらに別件で外出していたリンツが呼び戻される。
かなりあわただしく動いたが、こうなることはある程度予想されていたため、特に混乱は無い。
「シエル、本当にアレの材料が手に入ったのか?」
「あぁ、見ろよ。 こいつの尻を」
出先から走って戻ってきたのか、まだ肩で息をしているリンツに、俺は籠に入ったカーバンクルを親指で示してみせる。
そこには小さな尻尾がピコピコと動いていた。
……実は、本来のカーバンクルに尻尾は無い。
だが、まれに先祖がえりで一時的に尻尾が生える個体がいるのだ。
まぁ、そもそも冒険者はこいつに尻尾があるかどうかなんて気にも留めないだろうがな。
めったに手に入らない突然変異だが、ディオーナのやつ自分でも引きが強いとは言っていたが、まさに大金星だったよ。
そして、以前そんなカーバンクルの尻尾に興味を持ち、分析と解析を行った物好きがいる。
今、俺の目の前に。
「いやぁ、前回の時はすごかったよねぇ。
今回はどうなやることやら」
「のんきなこと言ってやがるが、今回の主役はお前だぞ、リンツ。
……で、使えそうなのか?」
「うん、問題はなさそう」
カーバンクルの尻尾に分析をかけ、素材管理課きってのマッド薬剤師がにんまりと笑った。
「ふん、ほどほどにしておけよ、黒のアマルテア」
「久しぶりに聞いたねぇ、その二つ名」
俺の相方であるリンツは紛れも無い天才薬師にして錬金術師であるが、他人からの妬みを買って薬師のギルドから追放されたという経歴の持ち主である。
しかも、少々倫理に欠けたところがあるため、ついた二つ名が『黒のアマルテア』。
魔獣料理人である先輩と組んで、余った素材からさまざまな危険物を作り出す要注意人物だった。
そして数年前、この男はカーバンクルの尻尾からとんでもない代物を作り出したのである。
貴族たちが、血を流してでも手に入れようとするような秘薬をだ。
そして数日後、俺の所属する冒険者ギルドからこんな告知が出されたのである。
……毛生え薬、入荷しました。
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