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第一章
第3話 サバイバルの始まり
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「ちょっとまってくれ、神様!!」
そんな叫び声と共に目を覚ますと、そこは森の中にある小さな湖のほとりだった。
「……あれ?
そうか、俺は意識を失って……」
体を起こすと、落ち葉がガサリと音をたてた。
同時に、湖の上を渡る冷えた風が俺の全身をなでる。
「うぅっ、寒っ」
なんと、俺は下着すらつけていない素っ裸の状態で寝ていたらしい。
しかも周囲の気温は春先の頃よりも寒い。
いや、むしろ冷たすぎて痛い。
体を少しでも暖めようと自分の体を抱きしめた瞬間、違和感を覚えた。
背中に、何かやわらかくて暖かな毛布のようなものがある。
「なにこれ……」
それは、羽毛だった。
しかも、俺の背中から生えていて、さらに自分の思うとおりに動くではないか。
「俺、翼が生えてる。
そういえば、肉体改造されたんだっけ」
つぶやきながら、俺はもうひとつ別の違和感に気が付いた。
「これ、どう考えても子供の手だよな」
柔らかく湿り気を帯びたそれは、ぷっくりとしていて大人の手には見えない。
まさか、この体……若返っているのか?
さらに自分の下半身を見れば、それなりにご自慢だったマイサンがキッズサイズに変身していた。
おぉう……地味にショックがでかい。
しかも臍から下は金色の長い巻き毛に覆われていて、足の指には鋭い爪が生えていた。
踵をつけて歩く形状のそれは、まるで熊……というか、テディ・ベアだ。
おまけに、尻からは尻尾が生えてる。
この形だと……ライオンかな?
気が付けば、耳の位置も変っているようだ。
「今の俺の体はいったいどうなっているんだ?」
一度確認してみたいとは思ったが、鏡なんてあるはずもない。
すぐ近くに湖があるので、おもわず水面を覗き込んでみると……そこには思わず頭を撫で回したくなるようなかわいい子供の顔が映っていた。
うん、完全に別人である。
まず、目に入るのは獅子の鬣を思い出すような暗いブロンドの髪。
その髪の毛の隙間から、獅子の丸い耳がひょっこりと顔を出していた。
アーモンド形の釣り目はまさにネコ科の生き物そのもので、瞳孔は縦に裂けている。
白人系の彫りの深い顔立ちにもかかわらず、肌はアジア系のきめ細かさと黄色みを帯びた色合いをしていた。
見た目としてはかなりいい。
だが、将来はかなり男臭い顔になることを約束されている感じだ。
「なるほど、スフィンクスか」
たしかに、この人と獅子と猛禽を混ぜ合わせた姿はそういうしかないだろう。
もっとも、足の作りは熊仕様なので、スフィンクス亜種といった感じか。
「お、泉の傍になんか置いてあるぞ」
みれば、あからさまに不自然な感じでリュックと手紙がおいてある。
もしかして、智の神がおいていったのだろうか?
リュックの中身は、食料とハーフパンツとマントといった感じだ。
いや、一番下に……。
「おぉっ! 本だ! 本がある!!」
俺は喜びの悲鳴を上げてすがりつき、さっそくページをめくる……前に、まずは表紙を舐めるように堪能するのだ。
なになに、森暮らしの書の書?
題名はシンプルでひねりも無いが、その潔さが心地よい。
このレイアウト……デザイン会社、かなりいい仕事しているな。
そのまま俺はその本の内容にのめりこみ……。
「おっと、まずい。
あやうく本を読み込んだまま日が暮れるところだったぜ」
俺はしっかり読み終わった本から手を離し、額の汗をぬぐう。
本にのめりこみすぎて水や食料をとりわすれるのは、昔からの俺の悪い癖だ。
さて、読み終わった内容はというと森で暮らすために必要なサバイバル的な知識が詰まっている感じである。
この状況下では非常に有用だ。
ただし……ちゃんとした道具があればの話である。
道具が要らない知識もいろいろとあるのだが、やはり本格的なサバイバルをするには、いろいろと足りないものが多すぎて話しにならない。
「お、そういえば手紙もあったな」
俺は新たな活字を本能的に求めた挙句に、横においてあった手紙のことを思い出した。
「えーっと、なになに?
申し訳ない、トシキ君。
君を迎えるはずの子が、人間同士の戦争のために魔術で強制召喚されてくることができなくなった……って、マジかよ!?」
代わりの人間は手配しているが、おそらくこの場所にくるまでには数日ほどかかるだろうとのこと。
つまり、何も知らないこの異世界の森の中で、たった一人で数日を過ごさなければならないってことか!?
しゃれにならんぞ。
主に、本が無いことが!
手持ちにある一冊だけでは、どれだけ正気が保てるだろうか……。
手紙にはさらに続きがあり、 拉致された眷属を奪還するために時間がないことをわびる文面。
そして、その場にあって役に立ちそうだったもののみリュックの中に入れておいたということが説明されていた。
準備をする時間がないのはわかったけど、食料ぐらいは入れておいてほしかったなぁ。
あと、子供の姿になっている理由も書いてないし。
「おっと、裏に追記があるぞ。
えーっと、君のその体は人間より身体能力も五感も優れているが、それでも中級の魔物とようやく戦える程度でしかない。
背中の翼を使えば空を飛べるので、敵の気配を感じたら上空に逃げるように」
なるほどな。
こちとら平和な日本で暮らしていた身である。
言われなくとも魔物との戦闘なんて、まっぴらだ。
「あと、君は司書という職業をもっており、その能力のひとつとして本の力を具現化させることができる。
これは魔術ではなくピブリオマンシーという能力だ。
森での暮らしについての本を入れておくので、必要な部分を思いをこめて読み上げるといいだろう……どういうことだ?」
リュックの中にあった本を開くと、たしかに森で自給自足をするためのガイドブックである。
日本語で書かれており、俺も書店で見たことがある本だ。
これを読み上げると、何かあるのだろうか?
「……えっと、森を開拓する場合は、まず最初に豚や山羊を放そう。
豚は食物を求めて潅木を踏み荒らし、地面を掘り返すことで大地を勝手に耕してくれる」
俺が何かがおきることを期待し、目に付いた部分を読み上げた。
次の瞬間である。
プギィィィィィ
突然響いた音に振り向くと、そこにはぼんやりとした影でできた豚のようなものがいた。
しかも、一匹や二匹ではない。
十頭以上はいるだろう。
まさか、魔物!?
空へ飛び上がって逃げようと身構える俺だったが、影の豚たちは俺にまったく興味を示さず、周囲の潅木をなぎ倒して土をひっくり返しはじめたではないか。
「これ、言葉にしたことが本当になってる?」
信じられない現象に、俺はただポカンと目の前の光景を見ていることしかできなかった。
そんな俺をよそに、影豚たちは地面から細長い芋を掘り出して食いつくのだが……なぜかその芋は影豚の体をすり抜けて地面に落ちてしまう。
こいつら、何がしたいんだ?
いや、たぶん土を掘り返すまでがこの現象で、芋を食べる部分は現象に含まれていないのだ。
俺の読み上げた部分にその記述が含まれていなかったせいで。
「ずいぶんと都合のいい能力だな」
気が付けば影豚はいなくなっており、畳十枚ぐらいのスペースから藪や潅木が無くなっていた。
しかも、影豚が掘り返した食用可能であろう芋やキノコがそこらじゅうに散らばっている。
これは……魔術なのだろうか?
いや、魔術ではなくピブリオマンシーという能力だと手紙に書いてあったな。
俺は影豚が残した食料を拾い集め、心の中でつぶやく。
とても便利な力だが、無制限ではないらしい。
本を読み上げている最中に全身から体温が消えてゆくような感触があったからだ。
どうやらそれは気力とか生命力のようなものらしく、今も全身に妙なけだるさがのこる。
「これ、たぶん何度かやったら起き上がれなくなるぞ」
幸いなことに、脱力感は少しずつ消え始めていた。
だが、そう頻繁に使うのは避けたほうがよさそうである。
この力のために消費している何かが枯渇したら死ぬ……なんて可能性もあるしな。
「……となると、この使用回数の限られた力をいかに効率よく使うかについて考えないとな」
俺は再び本を開くと、使える文章を探すべくその内容を読みふけるのであった。
そんな叫び声と共に目を覚ますと、そこは森の中にある小さな湖のほとりだった。
「……あれ?
そうか、俺は意識を失って……」
体を起こすと、落ち葉がガサリと音をたてた。
同時に、湖の上を渡る冷えた風が俺の全身をなでる。
「うぅっ、寒っ」
なんと、俺は下着すらつけていない素っ裸の状態で寝ていたらしい。
しかも周囲の気温は春先の頃よりも寒い。
いや、むしろ冷たすぎて痛い。
体を少しでも暖めようと自分の体を抱きしめた瞬間、違和感を覚えた。
背中に、何かやわらかくて暖かな毛布のようなものがある。
「なにこれ……」
それは、羽毛だった。
しかも、俺の背中から生えていて、さらに自分の思うとおりに動くではないか。
「俺、翼が生えてる。
そういえば、肉体改造されたんだっけ」
つぶやきながら、俺はもうひとつ別の違和感に気が付いた。
「これ、どう考えても子供の手だよな」
柔らかく湿り気を帯びたそれは、ぷっくりとしていて大人の手には見えない。
まさか、この体……若返っているのか?
さらに自分の下半身を見れば、それなりにご自慢だったマイサンがキッズサイズに変身していた。
おぉう……地味にショックがでかい。
しかも臍から下は金色の長い巻き毛に覆われていて、足の指には鋭い爪が生えていた。
踵をつけて歩く形状のそれは、まるで熊……というか、テディ・ベアだ。
おまけに、尻からは尻尾が生えてる。
この形だと……ライオンかな?
気が付けば、耳の位置も変っているようだ。
「今の俺の体はいったいどうなっているんだ?」
一度確認してみたいとは思ったが、鏡なんてあるはずもない。
すぐ近くに湖があるので、おもわず水面を覗き込んでみると……そこには思わず頭を撫で回したくなるようなかわいい子供の顔が映っていた。
うん、完全に別人である。
まず、目に入るのは獅子の鬣を思い出すような暗いブロンドの髪。
その髪の毛の隙間から、獅子の丸い耳がひょっこりと顔を出していた。
アーモンド形の釣り目はまさにネコ科の生き物そのもので、瞳孔は縦に裂けている。
白人系の彫りの深い顔立ちにもかかわらず、肌はアジア系のきめ細かさと黄色みを帯びた色合いをしていた。
見た目としてはかなりいい。
だが、将来はかなり男臭い顔になることを約束されている感じだ。
「なるほど、スフィンクスか」
たしかに、この人と獅子と猛禽を混ぜ合わせた姿はそういうしかないだろう。
もっとも、足の作りは熊仕様なので、スフィンクス亜種といった感じか。
「お、泉の傍になんか置いてあるぞ」
みれば、あからさまに不自然な感じでリュックと手紙がおいてある。
もしかして、智の神がおいていったのだろうか?
リュックの中身は、食料とハーフパンツとマントといった感じだ。
いや、一番下に……。
「おぉっ! 本だ! 本がある!!」
俺は喜びの悲鳴を上げてすがりつき、さっそくページをめくる……前に、まずは表紙を舐めるように堪能するのだ。
なになに、森暮らしの書の書?
題名はシンプルでひねりも無いが、その潔さが心地よい。
このレイアウト……デザイン会社、かなりいい仕事しているな。
そのまま俺はその本の内容にのめりこみ……。
「おっと、まずい。
あやうく本を読み込んだまま日が暮れるところだったぜ」
俺はしっかり読み終わった本から手を離し、額の汗をぬぐう。
本にのめりこみすぎて水や食料をとりわすれるのは、昔からの俺の悪い癖だ。
さて、読み終わった内容はというと森で暮らすために必要なサバイバル的な知識が詰まっている感じである。
この状況下では非常に有用だ。
ただし……ちゃんとした道具があればの話である。
道具が要らない知識もいろいろとあるのだが、やはり本格的なサバイバルをするには、いろいろと足りないものが多すぎて話しにならない。
「お、そういえば手紙もあったな」
俺は新たな活字を本能的に求めた挙句に、横においてあった手紙のことを思い出した。
「えーっと、なになに?
申し訳ない、トシキ君。
君を迎えるはずの子が、人間同士の戦争のために魔術で強制召喚されてくることができなくなった……って、マジかよ!?」
代わりの人間は手配しているが、おそらくこの場所にくるまでには数日ほどかかるだろうとのこと。
つまり、何も知らないこの異世界の森の中で、たった一人で数日を過ごさなければならないってことか!?
しゃれにならんぞ。
主に、本が無いことが!
手持ちにある一冊だけでは、どれだけ正気が保てるだろうか……。
手紙にはさらに続きがあり、 拉致された眷属を奪還するために時間がないことをわびる文面。
そして、その場にあって役に立ちそうだったもののみリュックの中に入れておいたということが説明されていた。
準備をする時間がないのはわかったけど、食料ぐらいは入れておいてほしかったなぁ。
あと、子供の姿になっている理由も書いてないし。
「おっと、裏に追記があるぞ。
えーっと、君のその体は人間より身体能力も五感も優れているが、それでも中級の魔物とようやく戦える程度でしかない。
背中の翼を使えば空を飛べるので、敵の気配を感じたら上空に逃げるように」
なるほどな。
こちとら平和な日本で暮らしていた身である。
言われなくとも魔物との戦闘なんて、まっぴらだ。
「あと、君は司書という職業をもっており、その能力のひとつとして本の力を具現化させることができる。
これは魔術ではなくピブリオマンシーという能力だ。
森での暮らしについての本を入れておくので、必要な部分を思いをこめて読み上げるといいだろう……どういうことだ?」
リュックの中にあった本を開くと、たしかに森で自給自足をするためのガイドブックである。
日本語で書かれており、俺も書店で見たことがある本だ。
これを読み上げると、何かあるのだろうか?
「……えっと、森を開拓する場合は、まず最初に豚や山羊を放そう。
豚は食物を求めて潅木を踏み荒らし、地面を掘り返すことで大地を勝手に耕してくれる」
俺が何かがおきることを期待し、目に付いた部分を読み上げた。
次の瞬間である。
プギィィィィィ
突然響いた音に振り向くと、そこにはぼんやりとした影でできた豚のようなものがいた。
しかも、一匹や二匹ではない。
十頭以上はいるだろう。
まさか、魔物!?
空へ飛び上がって逃げようと身構える俺だったが、影の豚たちは俺にまったく興味を示さず、周囲の潅木をなぎ倒して土をひっくり返しはじめたではないか。
「これ、言葉にしたことが本当になってる?」
信じられない現象に、俺はただポカンと目の前の光景を見ていることしかできなかった。
そんな俺をよそに、影豚たちは地面から細長い芋を掘り出して食いつくのだが……なぜかその芋は影豚の体をすり抜けて地面に落ちてしまう。
こいつら、何がしたいんだ?
いや、たぶん土を掘り返すまでがこの現象で、芋を食べる部分は現象に含まれていないのだ。
俺の読み上げた部分にその記述が含まれていなかったせいで。
「ずいぶんと都合のいい能力だな」
気が付けば影豚はいなくなっており、畳十枚ぐらいのスペースから藪や潅木が無くなっていた。
しかも、影豚が掘り返した食用可能であろう芋やキノコがそこらじゅうに散らばっている。
これは……魔術なのだろうか?
いや、魔術ではなくピブリオマンシーという能力だと手紙に書いてあったな。
俺は影豚が残した食料を拾い集め、心の中でつぶやく。
とても便利な力だが、無制限ではないらしい。
本を読み上げている最中に全身から体温が消えてゆくような感触があったからだ。
どうやらそれは気力とか生命力のようなものらしく、今も全身に妙なけだるさがのこる。
「これ、たぶん何度かやったら起き上がれなくなるぞ」
幸いなことに、脱力感は少しずつ消え始めていた。
だが、そう頻繁に使うのは避けたほうがよさそうである。
この力のために消費している何かが枯渇したら死ぬ……なんて可能性もあるしな。
「……となると、この使用回数の限られた力をいかに効率よく使うかについて考えないとな」
俺は再び本を開くと、使える文章を探すべくその内容を読みふけるのであった。
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