異世界司書は楽じゃない

卯堂 成隆

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第一章

第4話 不思議な話をしよう

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 不思議な力を自分が使える。
 そんな夢か幻のような状況を自覚してからしばらく。
 本を読みふける行為から目覚めたの俺が、まず最初に手を出すことに決めたのは、寝泊りする場所だった。

 手にした書物にはこうある。

「山の中で拠点を作るには、まず安全な場所を選びましょう。
 遮蔽物の無い高い場所、落石の危険がある崖、体温を奪われる湿地、増水の危険のある水辺は避けてください」

 ふむ、この条件ならば先ほど影豚によって開墾された場所が、ちょうどいいかもしれない。

 湖からも適度に離れていているし、山芋のようなものが生えていたのでおそらく浸水はないと思う。
 浸水する場所なら、芋が根腐れを起こしていそうだしな。

「風をさえぎる大きな倒木や、大きな岩の隙間などが理想的です。
 下には枯れ葉などを敷き詰め、木の枝などで屋根を作ると良いでしょう」

 俺が思いをこめて文章を読み上げると、地面に落ちていた小石がいくつも粘土のようにくっつき始めた。
 そしてみるみるうちに大きな岩になると、大きな隙間をつくるように互いに重なりあう。
 さらには周囲の木々から枝が落ちてきて、まるで天井を作るかのように岩の隙間をきれいに埋めた。

「……とりあえず、寝る場所はこれで確保だな」

 重なりあう岩はその一つ一つが俺の背丈よりもずっと高く、ゾウのような大型の獣でもこれを動かすのはちょっと無理だろう。
 現代日本から重機を持ってきてもたぶん厳しい。

 しかも、その入り口は俺がしゃがまないとくぐれないぐらい低かった。
 大型の獣は入り込めないということだ。

「中はどんな感じかな」

 能力タレントを使った後の脱力感と戦いながら、俺はできたばかりの拠点に足を踏み入れる。
 天井はおもったより高く、一番高い部分は俺が立ってもなんとか頭をぶつけないほどのスペースがあった。
 さらに、足元は絨毯のように葉っぱが敷き詰められており、フカフカしている。

 しかも土と枝葉によって隙間が埋められ、風はまったくはいってこない。
 実に快適な避難所だ。
 
「さすがに家でくつろぐようにとはいかないが、寝泊りするだけならこれで我慢できるだろうな。
 サバイバルといっても、数日しのげばいいだけらしいし」

 今の俺には本の内容を具現化する力があるようだし、そのぐらいならばどうにかできる気がする。
 とりあえず拠点ができたので、俺は影豚たちが掘り返した食料を運び込む事にした。

 さて、次に足りないものは何だろうか?
 水はすぐ近くにある湖の水を沸かせばいいだろうし、次の作業は……火の準備がいいだろう。

 いや、体のだるさも収まってきたし、ここはひとつ火をおこすついでにいろいろと検証をしてみるというのはどうだろうか?

 俺は本を開き、火をおこす方法について記された部分を探し出す。
 そして最初に試そうと思ったのは、読み上げる文章の長さと負担に関する検証だった。
 この能力を使うとき、最初はなんともないのだが、読んでいる間にだんだん体がだるくなってゆくことに気づいたからである。

 俺は火打石を使って火をつける方法の記述を見つけると、まずは具体的に火がつくシーンだけを抜き出して読む事にした。

「火打ち石の上に火口ほくちと呼ばれる燃えやすいもの……たとえばガマの穂や綿を乗せ、火打ち金を勢いよく打ちつける。
 すると、散った火花が火口の上に落ち、そこから炎が燃え上がるのだ」

 俺がその部分を読み終えるなり、地面から色の違う石がにょっきりと生える。
 そして、その二つの石は突如として勝手に動き出し、勢いよくぶつかったではないか。

「え、ちょっ、何!?」

 俺が止める暇など無い。
 ガキンと大きな音が響き渡り、周囲に激しい火花が飛び散る。
 次の瞬間、足元の落ち葉が膨れ上がって綿のような状態となり、そこに火花が落ちた。
 
「う、うわっ、まずい!」

 うっかりしていたが、こんなところで不用意に火をつくったら火事になるではないか!
 あわてて火のついた落ち葉を踏みつけて消すことに成功したものの、裸足で踏みつけたせいで軽い火傷やけどを負ったらしい。
 足の裏がヒリヒリとする。

「うー。
 検証はもっと水の近くでやるか」

 まだヒリヒリする足を湖につけ、俺は一人で反省をつぶやいた。
 未知の力を扱うのだから、もっと慎重になるべきだったよな。

 さて、体からだるさが抜けたらもう一度挑戦だ。
 今度は周囲の落ち葉を湖の水で湿らせて、簡単に火がつかないようにしてからの実験である。
 火口ほくち用の乾いた枯れ葉を用意し、短めの文章を読み上げて火種を作った。

 次に、今度はもっと前の部分から本の内容を読み上げて、その違いを比較する。

「火打石は、厳密に言うと火花を作る道具である。
 原理としては、火打ち金という鉄鉱石か鉄を多く含む石をもっと硬い石にぶつけることで、鉄分が火花となって飛び散るのだ。
 では、どうやって火花から火を作るのか?
 具体的な手順としては、図のように火打ち石の上に火口と呼ばれる燃えやすいもの……たとえばガマの穂や綿を乗せ、火打ち金を勢いよく打ちつける。
 すると、散った火花が火口の上に落ち、そこから炎が燃え上がるのだ」

 俺がそこまで読み上げた瞬間、再び生えてきた石が火花を散らし、乾いた枯葉に火がついた。
 ふむ。
 消耗は長く読み上げたほうが激しいが、なんというか使いやすい。
 火花が飛び散るタイミングがなんとなくわかるというか、出力までコントロールできているような気がする。

「せっかく作った火種だしな。
 とりあえずたき火を作るか」

 なにぶん気温が低いので、できればたき火で温まりたい。
 俺は乾いた枯葉を放り込み、種火を大きく育てる。
 そして周囲に落ちていた枝を放り込んで徐々に火を大きくしていった。

「ふー、生き返るわ」
 すっかりかじかんでいたのか、火にかざすと指先がいたい。
 同時に、指の中を血がめぐる心地よい感触がかけめぐった。

 さて、ひと心地ついたところで検証再開である。

 調べておきたいのは、触媒についてだ。
 ようするに、周囲に利用できるものがあった場合に負担が軽減されるか、そして周囲に何もない場合でもこの能力が使用できるのかが知りたいのである。

 もう少し具体的に言うと、火種を作るときに火口ほくちとなる枯葉を用意した場合と、枯葉が周囲に無い場合に何か変るのかということだ。

 結果から述べると、触媒なしでやった場合は黒い綿のようなものが生み出されて火種ができた。
 これは、先ほどの影豚のようなものだと思われる。

 そして負担についてだが……消耗が少し多くなったあげく、注意がそれた瞬間に種火が消えてしまった。
 なるほど、周囲に利用できるものがなくても能力は使えるが、消耗が大きい上に不安定な存在になるということか。

 そこまで理解したところで、俺は検証を終わらせて別のことをすることにした。
 ……太陽の日差しが少し低くなり始めたからである。

 食料は芋やキノコを焼けばいいだろう。
 だが、飲み水の用意がまだできていない。

 湖の水を直接飲むのはおそらく危険だろう。
 何かよい方法が本に書いてあればよいのだが。
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