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第一章
第13話 新たなる使命
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「とりあえず、一度冒険者ギルドに戻ってギルドマスターに報告するかな」
あいかわらず誰もいない万神殿の中で、俺はポツリとつぶやく。
別に冒険者ギルドに報告する義務はないのだが、逆に何もいわないというのも不義理というものだろう。
それに、肝心の廃寺院の場所をだれかに聞かないといけないしな。
まったく……この世界にきてから、情報がいろいろと足りなくて不便しているよ。
「さて、活動資金はいくらもらえたんだろう?」
皮袋を広げると、親指の爪ぐらいの大きさをした金貨が二十枚。
そして同じぐらいの大きさの銀貨が五十枚入っていた。
これがどのぐらいの資産価値なのかはわからないが、少なくとも宿にしばらく泊まることのできる額であるとは思いたい。
そんなことを思いながら、俺はリュックに皮袋をしまう。
なお、このリュックは最初に持っていた簡素なものではなく、スタニスラーヴァから押し付けられた、妙にかわいいかんじの奴だ。
なお、デザイン重視のせいかあまり容量は無く、自給自足の本と水筒をいれたらほぼいっぱいである。
元のリュックは安物でかわいくないからという理由で処分された。
「こいつはどうしようかな」
気になっているのは、オウムの人形である。
リュックには入らないし、入ったとしても翻訳として使うときに面倒だ。
だが、俺の今の体で抱えて歩くにはちょっとデカい。
そう思っていると、オウムの人形がピクリと動いた。
「え?」
俺が戸惑っているうちに、それはバサリと翼を広げて舞い上がる。
そして俺の肩の上にちょこんと座ったではないか。
どうやら、こいつは自動人形といった感じのものらしい。
しかも、予想外に高性能である。
目立つし高価な物であることはなんとなく理解できるから、たぶん誰かが盗もうとしても自力で逃げる機能とかもついているんじゃないかな。
なにはともあれ、これでこの世界の住人と自由に会話をすることができるだろう。
……少々目立つのは勘弁してほしいところだが。
「さて、とりあえずここに用は無いな」
とはいえ、ここをこのままにしておくのは神の僕として心苦しい。
それに、いくつか思いついたことがあるのだ。
俺は地面にしゃがみこむと、塵が積もった床に指をあて、記憶を掘り起こしながら漢詩をつづる。
門庭有水巷無塵 我が家の前庭は水で清められて塵などひとつも無い
好稱閑官作主人 暇人であるこの家の主人には実に似つかわしいことだろう
冷似雀羅雖少客 訪れるものもほとんどなく寂れたたたずまいは冷たさすら感じる
寬於蝸舍足容身 だが、カタツムリの家よりは広いので、この身ひとつ暮らすには十分だ
疏通竹徑將迎月 私は竹やぶに道を開いて月を迎え
掃掠莎台欲待春 芝を刈りそろえて春がくるのをまっている
濟世料君歸未得 だが友よ、君はまだ公務から帰って来れないだろうな
南園北曲謾為鄰 だが、君の家の北の角と、私の家の南の庭はつながっているよ
白居易
そして、俺はピブリオマンシーを発動させつつこの漢詩を読み上げた。
次の瞬間、冷たい風と水しぶきが吹き荒れ、俺は思わず目を閉じる。
やがて目を開けると、そこにはピカピカになった万神殿があるではないか。
「やはり、ピブリオマンシーってのは文字と声を媒介にして発動する能力のようだな
つまり、自分で都合のいい物語を書いて、それを具現化させることも可能だろう。
ほぼ万能に近い能力だ。
まぁ、さすがに出力的なところで限界はあるだろうけど。
そんなわけで万神殿の掃除を終えた俺は、お昼前にギルドマスターへの報告を終わらせるべくその場を後にした。
だが、やってきた冒険者ギルドで俺は思わぬ足止めを食らうことになる。
ギルドマスターへの取次ぎを受付嬢にお願いしたいのだが、なぞの『泣き喚く蛮族』が、受付嬢に食いついていて、俺の用件を言い出せないのだ。
どうやら依頼で森に行ったまま四日間も迷っていたらしいのだが、服はボロボロで、肌はすすだらけ。
頭は見事なボンバーヘッドである。
火事場から逃げてきたかのようは見えても、森で迷っていたとは思えない印象だ。
どうやら依頼に失敗したようなのだが、報酬がないと餓死してしまうとのことで、ギルドに借金をすべく絶賛交渉中ということのようだ。
周囲の冒険者も困り果てた目でソレを眺めているが、誰も助けようとしないあたり、常習犯なのだろうか?
あと、声からするとこの蛮族……一応少女らしい。
何かに似ているような気がしたが、余計なことを考えている余裕はない。
「おい、邪魔だ。
これをやるからどいてくれないか?」
俺は皮袋から銀貨を一枚取り出すと、その蛮族の足元に投げた。
その瞬間、それは妖怪を思わせる四足移動でコインを拾い上げると、ニンマリとわらった。
「ありがとうございますぅぅぅぅ!!」
ぞわっ
よく見れば、蛮族の顔はおそらく美少女の類に入るだろう。
だが、その崩れた表情は怖気が走るほどの卑しさを帯びていた。
人間、あんな風にだけはなりたくないものだ。
コインを手に走り去る蛮族を見送りながら、俺は心の中でしみじみとつぶやく。
だが、そんな俺を後ろから抱きしめる腕があった。
「……捕まえた」
美しく涼やかではあるが、絶望を感じさせるこの声。
もはや説明はいらないだろう。
「うふふ、ギルドマスターのところに行くのでしょう?
私が連れて行ってあげましょうね」
俺はスタニスラーヴァに強く抱きしめられたままギルドマスターの部屋へと連衡されてゆくのであった。
あいかわらず誰もいない万神殿の中で、俺はポツリとつぶやく。
別に冒険者ギルドに報告する義務はないのだが、逆に何もいわないというのも不義理というものだろう。
それに、肝心の廃寺院の場所をだれかに聞かないといけないしな。
まったく……この世界にきてから、情報がいろいろと足りなくて不便しているよ。
「さて、活動資金はいくらもらえたんだろう?」
皮袋を広げると、親指の爪ぐらいの大きさをした金貨が二十枚。
そして同じぐらいの大きさの銀貨が五十枚入っていた。
これがどのぐらいの資産価値なのかはわからないが、少なくとも宿にしばらく泊まることのできる額であるとは思いたい。
そんなことを思いながら、俺はリュックに皮袋をしまう。
なお、このリュックは最初に持っていた簡素なものではなく、スタニスラーヴァから押し付けられた、妙にかわいいかんじの奴だ。
なお、デザイン重視のせいかあまり容量は無く、自給自足の本と水筒をいれたらほぼいっぱいである。
元のリュックは安物でかわいくないからという理由で処分された。
「こいつはどうしようかな」
気になっているのは、オウムの人形である。
リュックには入らないし、入ったとしても翻訳として使うときに面倒だ。
だが、俺の今の体で抱えて歩くにはちょっとデカい。
そう思っていると、オウムの人形がピクリと動いた。
「え?」
俺が戸惑っているうちに、それはバサリと翼を広げて舞い上がる。
そして俺の肩の上にちょこんと座ったではないか。
どうやら、こいつは自動人形といった感じのものらしい。
しかも、予想外に高性能である。
目立つし高価な物であることはなんとなく理解できるから、たぶん誰かが盗もうとしても自力で逃げる機能とかもついているんじゃないかな。
なにはともあれ、これでこの世界の住人と自由に会話をすることができるだろう。
……少々目立つのは勘弁してほしいところだが。
「さて、とりあえずここに用は無いな」
とはいえ、ここをこのままにしておくのは神の僕として心苦しい。
それに、いくつか思いついたことがあるのだ。
俺は地面にしゃがみこむと、塵が積もった床に指をあて、記憶を掘り起こしながら漢詩をつづる。
門庭有水巷無塵 我が家の前庭は水で清められて塵などひとつも無い
好稱閑官作主人 暇人であるこの家の主人には実に似つかわしいことだろう
冷似雀羅雖少客 訪れるものもほとんどなく寂れたたたずまいは冷たさすら感じる
寬於蝸舍足容身 だが、カタツムリの家よりは広いので、この身ひとつ暮らすには十分だ
疏通竹徑將迎月 私は竹やぶに道を開いて月を迎え
掃掠莎台欲待春 芝を刈りそろえて春がくるのをまっている
濟世料君歸未得 だが友よ、君はまだ公務から帰って来れないだろうな
南園北曲謾為鄰 だが、君の家の北の角と、私の家の南の庭はつながっているよ
白居易
そして、俺はピブリオマンシーを発動させつつこの漢詩を読み上げた。
次の瞬間、冷たい風と水しぶきが吹き荒れ、俺は思わず目を閉じる。
やがて目を開けると、そこにはピカピカになった万神殿があるではないか。
「やはり、ピブリオマンシーってのは文字と声を媒介にして発動する能力のようだな
つまり、自分で都合のいい物語を書いて、それを具現化させることも可能だろう。
ほぼ万能に近い能力だ。
まぁ、さすがに出力的なところで限界はあるだろうけど。
そんなわけで万神殿の掃除を終えた俺は、お昼前にギルドマスターへの報告を終わらせるべくその場を後にした。
だが、やってきた冒険者ギルドで俺は思わぬ足止めを食らうことになる。
ギルドマスターへの取次ぎを受付嬢にお願いしたいのだが、なぞの『泣き喚く蛮族』が、受付嬢に食いついていて、俺の用件を言い出せないのだ。
どうやら依頼で森に行ったまま四日間も迷っていたらしいのだが、服はボロボロで、肌はすすだらけ。
頭は見事なボンバーヘッドである。
火事場から逃げてきたかのようは見えても、森で迷っていたとは思えない印象だ。
どうやら依頼に失敗したようなのだが、報酬がないと餓死してしまうとのことで、ギルドに借金をすべく絶賛交渉中ということのようだ。
周囲の冒険者も困り果てた目でソレを眺めているが、誰も助けようとしないあたり、常習犯なのだろうか?
あと、声からするとこの蛮族……一応少女らしい。
何かに似ているような気がしたが、余計なことを考えている余裕はない。
「おい、邪魔だ。
これをやるからどいてくれないか?」
俺は皮袋から銀貨を一枚取り出すと、その蛮族の足元に投げた。
その瞬間、それは妖怪を思わせる四足移動でコインを拾い上げると、ニンマリとわらった。
「ありがとうございますぅぅぅぅ!!」
ぞわっ
よく見れば、蛮族の顔はおそらく美少女の類に入るだろう。
だが、その崩れた表情は怖気が走るほどの卑しさを帯びていた。
人間、あんな風にだけはなりたくないものだ。
コインを手に走り去る蛮族を見送りながら、俺は心の中でしみじみとつぶやく。
だが、そんな俺を後ろから抱きしめる腕があった。
「……捕まえた」
美しく涼やかではあるが、絶望を感じさせるこの声。
もはや説明はいらないだろう。
「うふふ、ギルドマスターのところに行くのでしょう?
私が連れて行ってあげましょうね」
俺はスタニスラーヴァに強く抱きしめられたままギルドマスターの部屋へと連衡されてゆくのであった。
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