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第一章
第28話 廃寺院の財宝
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「そんなに笑わないでください雷鳴。
まだ作業は終わってないんです。
こういう時のための魔術も、ちゃんとありますから」
俺は椅子のパーツを固定し、あまっている薪をひとつつかみ上げる。
そして別の魔術を発動させた。
「精霊アドルフの真の名とその祝福において命ず。
汝、我が釘となりて、我が望みしままに穿て。
……釘打ち」
すると、手にしていた薪が木釘となり、椅子のパーツに打ち込まれる。
この魔術を使えば、手持ちに釘がなくても椅子を組み立てるのは簡単だ。
だが、出来上がった椅子を見て、雷鳴は値踏みするような視線をむける。
眉間にしわが寄っていて、ちょっと怖い。
「ふむ。
今回は簡単な構造の椅子だったからなんとかなったが、貴族向けの椅子などになるとあらかじめ構造を知らなければ組み立ては難しいかもしれないね。
それなりの知識は必要になりそうだが、なかなか便利な力だと思うよ」
たしかに、それはごもっともである。
しかし、何をするにも知識が足りないなぁ。
こちらに着てから、しみじみと自分の無知を思い知るよ。
そして雷鳴はこう一言付け加えた。
「これならば、町で集めた廃品を再生して売ることも可能ではないかな?」
「それ……いいですね。
スラムの人間に販売と廃品の回収をお願いするといいかもしれない」
だが、雷鳴は顔を曇らせる。
「そこでなぜスラムの人間に固執するのかな?
マルコルフに頼まれていた仕事のことはあるだろうが、その場の感傷や思いつきに流されず、信頼できる人間かどうかで選んだほうがよいと思うよ」
確かにその通りである。
俺としたことが、少しあせりすぎていたようだ。
「あと、潅木を材料に修理したから、椅子の材質が途中で変わってしまっているね。
このあたりにも注意したほうがよさそうだ」
言われて見れば、途中から色が違う。
何事もそううまくは行かないか。
人生はせちがらいね。
結局、その日はこれ以上なにもせずに宿へと戻ることにした。
そしてそろそろ眠ろうかと追ったころ、突然テーブルにおいておいた黒板が金色の輝きを放つ。
「よぉ、待たせたな」
黒板に描かれた魔法陣から出てきたのは、アドルフだった。
そういえば、寺院復興計画の企画書を依頼していたんだっけ。
「こんな夜遅くまですまない、アドルフ。
で、どんな感じになった?」
「へへへ、いがいと面白い結果になったぞ。
見ろよ、この部分」
そういって取り出した資料だが……当然ながらこの世界の文字で書かれていた。
「いや、読めないし」
「おい、待てや」
「しかたがないだろ。
この世界の生まれじゃないんだから」
「……マジかよ。
まいったなぁ、俺の傑作が読めないなんて不幸すぎるぜ」
本当に不幸だよ。
文字が読めないなんて、人生の八割は存していると思うぜ。
しかし……すっかり後回しにしていたが、そろそろこの世界の文字についても学習を始めるべきだろう。
いろいろと不自由だし、なによりもこの世界の本が読みたい。
そろそろ活字中毒の禁断症状がひどくなってきた気がする。
「文字を学習するための本を手に入れたいから、明日にでも別の精霊に執筆依頼をかけるさ。
今回はアドルフが読み上げてくれないか?」
すると、アドルフは肩をすくめながらも特に嫌とは言わなかった。
面倒見の良い奴である。
「仕方がねぇなぁ。
よく聞けよ?
えーっとだなぁ、あの建物ってコウモリの巣になっていただろ?」
「あぁ、ひどい状態だったね。
床がコウモリの落し物と苔で埋め尽くされていたし」
「その積もって石みたいになったコウモリの落し物なんだがな、実は肥料としてとても価値があるらしい」
その瞬間、俺はそれが何かを理解した。
「バットグアノか!」
グアノとは、珊瑚礁の上にたまった海鳥の落し物が石化したもので、リンを多く含む最高級の肥料である。
だが、バットグアノはそのさらに上をゆく優秀な肥料なのだ。
しかも産出量が少ないので、肥料としてはかなりお高い。
俺の記憶だと、一キロ700円前後だろうか?
この寺院に積もったバットグアノは単位がトンになるだろうし、一トンでおよそ七十万として……ちょっとした資金にはなりそうだ。
って、なにこの量!?
八十五トン!?
この寺院、どんだけコウモリ住み着いているんだよ!
そういえば、コウモリって空を飛ぶためにできるだけ体を軽くするつくりになっているから、一日に落すソレの量がすさまじいって聞いたことがある。
コウモリの種類にもよるだろうけど、俺が聞いた話では自分の体重の五割以上だったっけ。
そのためコウモリの住み着いた家屋はすさまじい量の落し物になやまされ、そこからノミやダニが発生してひどい事になるって話だったよな。
だから、この寺院を人の住む場所に帰るには、できるだけ早くコウモリの落し物を処分する必要があっのたのだが……。
それがアドルフの手配で片付いて、しかも資材と交換してくれる?
話がうますぎて、かえって手を出しにくいわ!
「どうする?
知り合いの精霊たちが森に撒く肥料としてほしがっているんで、けっこういい建築資材と交換できるぞ」
一瞬、人間側に売ったらどうなるかと考えてみたが、たぶんダメだろう。
そもそも肥料の価値を理解しているかも怪しいし、ここから運び出すのにも金が要る。
スラムの人間に依頼をするか?
だが、彼らとはまだ仕事を任せるような信用を築いていない。
そもそも、彼らと交友を深める必要もあるなぁ……。
とりあえず、今回はパスだ。
「まずは詳しく話しを聞かせてもらえるか?
……いろいろと都合が良すぎて、素直に受け入れられないけど」
「慎重なのは悪いことじゃないさ」
その後、俺とアドルフは優先的に購入したい資材について話を進めたため、翌日はすっかり寝不足になってしまった。
まだ作業は終わってないんです。
こういう時のための魔術も、ちゃんとありますから」
俺は椅子のパーツを固定し、あまっている薪をひとつつかみ上げる。
そして別の魔術を発動させた。
「精霊アドルフの真の名とその祝福において命ず。
汝、我が釘となりて、我が望みしままに穿て。
……釘打ち」
すると、手にしていた薪が木釘となり、椅子のパーツに打ち込まれる。
この魔術を使えば、手持ちに釘がなくても椅子を組み立てるのは簡単だ。
だが、出来上がった椅子を見て、雷鳴は値踏みするような視線をむける。
眉間にしわが寄っていて、ちょっと怖い。
「ふむ。
今回は簡単な構造の椅子だったからなんとかなったが、貴族向けの椅子などになるとあらかじめ構造を知らなければ組み立ては難しいかもしれないね。
それなりの知識は必要になりそうだが、なかなか便利な力だと思うよ」
たしかに、それはごもっともである。
しかし、何をするにも知識が足りないなぁ。
こちらに着てから、しみじみと自分の無知を思い知るよ。
そして雷鳴はこう一言付け加えた。
「これならば、町で集めた廃品を再生して売ることも可能ではないかな?」
「それ……いいですね。
スラムの人間に販売と廃品の回収をお願いするといいかもしれない」
だが、雷鳴は顔を曇らせる。
「そこでなぜスラムの人間に固執するのかな?
マルコルフに頼まれていた仕事のことはあるだろうが、その場の感傷や思いつきに流されず、信頼できる人間かどうかで選んだほうがよいと思うよ」
確かにその通りである。
俺としたことが、少しあせりすぎていたようだ。
「あと、潅木を材料に修理したから、椅子の材質が途中で変わってしまっているね。
このあたりにも注意したほうがよさそうだ」
言われて見れば、途中から色が違う。
何事もそううまくは行かないか。
人生はせちがらいね。
結局、その日はこれ以上なにもせずに宿へと戻ることにした。
そしてそろそろ眠ろうかと追ったころ、突然テーブルにおいておいた黒板が金色の輝きを放つ。
「よぉ、待たせたな」
黒板に描かれた魔法陣から出てきたのは、アドルフだった。
そういえば、寺院復興計画の企画書を依頼していたんだっけ。
「こんな夜遅くまですまない、アドルフ。
で、どんな感じになった?」
「へへへ、いがいと面白い結果になったぞ。
見ろよ、この部分」
そういって取り出した資料だが……当然ながらこの世界の文字で書かれていた。
「いや、読めないし」
「おい、待てや」
「しかたがないだろ。
この世界の生まれじゃないんだから」
「……マジかよ。
まいったなぁ、俺の傑作が読めないなんて不幸すぎるぜ」
本当に不幸だよ。
文字が読めないなんて、人生の八割は存していると思うぜ。
しかし……すっかり後回しにしていたが、そろそろこの世界の文字についても学習を始めるべきだろう。
いろいろと不自由だし、なによりもこの世界の本が読みたい。
そろそろ活字中毒の禁断症状がひどくなってきた気がする。
「文字を学習するための本を手に入れたいから、明日にでも別の精霊に執筆依頼をかけるさ。
今回はアドルフが読み上げてくれないか?」
すると、アドルフは肩をすくめながらも特に嫌とは言わなかった。
面倒見の良い奴である。
「仕方がねぇなぁ。
よく聞けよ?
えーっとだなぁ、あの建物ってコウモリの巣になっていただろ?」
「あぁ、ひどい状態だったね。
床がコウモリの落し物と苔で埋め尽くされていたし」
「その積もって石みたいになったコウモリの落し物なんだがな、実は肥料としてとても価値があるらしい」
その瞬間、俺はそれが何かを理解した。
「バットグアノか!」
グアノとは、珊瑚礁の上にたまった海鳥の落し物が石化したもので、リンを多く含む最高級の肥料である。
だが、バットグアノはそのさらに上をゆく優秀な肥料なのだ。
しかも産出量が少ないので、肥料としてはかなりお高い。
俺の記憶だと、一キロ700円前後だろうか?
この寺院に積もったバットグアノは単位がトンになるだろうし、一トンでおよそ七十万として……ちょっとした資金にはなりそうだ。
って、なにこの量!?
八十五トン!?
この寺院、どんだけコウモリ住み着いているんだよ!
そういえば、コウモリって空を飛ぶためにできるだけ体を軽くするつくりになっているから、一日に落すソレの量がすさまじいって聞いたことがある。
コウモリの種類にもよるだろうけど、俺が聞いた話では自分の体重の五割以上だったっけ。
そのためコウモリの住み着いた家屋はすさまじい量の落し物になやまされ、そこからノミやダニが発生してひどい事になるって話だったよな。
だから、この寺院を人の住む場所に帰るには、できるだけ早くコウモリの落し物を処分する必要があっのたのだが……。
それがアドルフの手配で片付いて、しかも資材と交換してくれる?
話がうますぎて、かえって手を出しにくいわ!
「どうする?
知り合いの精霊たちが森に撒く肥料としてほしがっているんで、けっこういい建築資材と交換できるぞ」
一瞬、人間側に売ったらどうなるかと考えてみたが、たぶんダメだろう。
そもそも肥料の価値を理解しているかも怪しいし、ここから運び出すのにも金が要る。
スラムの人間に依頼をするか?
だが、彼らとはまだ仕事を任せるような信用を築いていない。
そもそも、彼らと交友を深める必要もあるなぁ……。
とりあえず、今回はパスだ。
「まずは詳しく話しを聞かせてもらえるか?
……いろいろと都合が良すぎて、素直に受け入れられないけど」
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