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第一章
第29話 冒険しなきゃいけませんか?
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翌日、雷鳴にエスコートされて廃寺院にやってきたときのことである。
「な、なんだ、これは!?」
中を見るなり、雷鳴が驚きともあきれたともとれる叫び声をあげた。
礼拝堂に積もりたまっていたコウモリの落し物や庭の潅木が、綺麗さっぱりなくなっていたからである。
しかも、余計なものがなくなったのと引き換えに、中庭には建築資材がどっさりと積んであった。
なお、資材の内訳は主に欅や胡桃といった高級木材と大理石。
人間にとっては高級な代物だが、精霊にとっては魔術でいくらでも生み出せる代物である。
あまりの相場の安さに、俺はアドルフとの交渉の途中で何度も自分の頬をつねるはめになった。
しかし、さすがアドルフ。
明け方近くまで俺としゃべっていたはずなのに仕事がはやいな。
いや、むしろ連中にとっては一瞬ですませられる程度の仕事だったのかもしれない。
精霊、マジで有能。
さて、いつまでも考え事をしていたら日が暮れるな。
俺は隣で呆然と資材の山を見ているサンダーボルトに声をかけることにした。
「あ、よろしいでしょうか雷鳴。
今日の仕事のことなのですが……」
「あぁ、失礼。
つい取り乱してしまった」
俺の声に、ようやく正気をとりもどすサンダーボルト。
まぁ、最初からこうなっていることを知っていなければ俺も似たような状態になるだろう。
「いえ、お構いなく。
今日は特ににしていただくことがありませんので、基本的に昨日修復した休憩室でお過ごしください」
俺がそんな台詞と共にニッコリとわらった直後である。
昨日復活したばかりの廃寺院の扉をあけて、雷鳴の秘書官と兵士の一行が入り込んできた。
「き、貴様ら……なぜ、ここに!」
「トシキ殿に先日苦情を申し上げたところ、今日はたぶん警備といっても休憩室での暇つぶしになるだろうとのことだったので、こちらに溜まっているお仕事をお持ちしました。
者共、やれ」
秘書官の女性が顎をひねって合図を送ると、兵士たちが次々に書類を積み上げる。
「なお、この寺院の警備についてはマルコルフさまとスタニスラーヴァさまのところから兵士が派遣されることになりました。
わざわざギルドマスターがトシキ殿の警備をする必要はなくなりましたので、明日からは通常通りの勤務にお戻りください」
「そんな……馬鹿な……」
雷鳴が救いを求めるようにこちらを向いたが、俺は首を横にふるしかなかった。
手伝ってやるにも、俺、この世界の文字読めないし。
「じゃあ、俺は建物の修理に入ります。
危険ですので、破損のひどいところには入り込まないでくださいね」
秘書官さんに言い残すと、俺は恨みがましい雷鳴の視線を振り切って自分の仕事を開始した。
……が。
「ダメだ、魔力がぜんぜん足りない」
俺は破損のひどい部屋の床を修復しはじめて一時間もしないうちに床に座り込んでいた。
いや、物理的な手段で修復するよりははるかに楽なんだが、昨日と比べて魔力の消費がかなり激しいんだよ。
原因は、破損状況の差だろうなぁ。
おまけに、部屋自体が昨日より大きい。
「やぁ、お困りのようだねトシキ君」
振り向くと、少し疲れた顔の雷鳴が立っていた。
「おや、雷鳴。
仕事漬けになっていたんじゃないのですか?」
「……休憩中だよ。
適度に休息をとらないと、ミスを起こしやすくなるからね」
言い訳にもきこえるが、実際に人間の集中力など三十分ももてばいいほうらしいし、適度な休憩は潤滑な仕事に不可欠である。
「それよりも、魔力が足りないと聞こえたが?」
「あぁ、いえ、ちょっと破損がひどい場所を修復しようとすると、すぐに魔力が尽きてしまうみたいで」
すると、雷鳴は我が意を得たりとばかりに笑みを浮かべる。
どうやら会話を誘導されたみたいだな。
「ほほう?
ならば、魔物と戦って魔力の底上げをするべきだとおもうが、いかがかな?」
「魔力って、そうやって上げるんですか?」
「まぁ、ほかにもいろいろとあるのは知っているが、いちばん手っ取り早くはあるね。
その証拠に、ろくに秘儀の類を受けてない私だが、並みの魔術師よりもずっと魔力が多い。
私は戦っているうちに増えた魔力がもったいないので、あとになってから魔術も覚えたクチだ」
なんでも、魔術の使える戦士や騎士はたいがいそうやって生まれるらしい。
もっとも、そういう連中は身体能力を強化する魔術ばかり好んで覚えるので、結局は脳みそまで筋肉なのだそうな。
「なるほど……ただ、あまり戦いはしたくないんですよね。
生まれ育った場所の文化的にも、能力的にも向いてないです」
「あぁ、それならば護衛を雇えばいいじゃないか。
冒険の神を介して契約を結べば、契約した仲間が魔物を倒しても魔力が増えるからね」
それ、ネットゲームでいうパワーレべリングとか言う奴では?
まぁ、これは金をはらって仕事をしてもらうわけで、寄生と呼ぶべきではないのだろうけど。
「うぅん、考えておきます。
さすがにスタニスラーヴァを雇う金はありませんし、ほかに仲のいい冒険者もいませんので」
「ははは、そんなことか。
心配は無用だ。
なぜならこの私が……」
雷鳴がそういいかけた時である。
「いい冒険者でも紹介するんですよね?」
彼の背後にある部屋のドアが開き、中から現れた秘書官さんがボソリとつぶやいた。
「……はい」
「休憩時間が終わりましたので、その話の続きはわたくしが手配しておきます」
そのまま秘書官さんに手を引かれて雷鳴は部屋に引きずり込まれた。
紳士だと思っていた雷鳴だが、どうやらデスクワークは苦手のようである。
「な、なんだ、これは!?」
中を見るなり、雷鳴が驚きともあきれたともとれる叫び声をあげた。
礼拝堂に積もりたまっていたコウモリの落し物や庭の潅木が、綺麗さっぱりなくなっていたからである。
しかも、余計なものがなくなったのと引き換えに、中庭には建築資材がどっさりと積んであった。
なお、資材の内訳は主に欅や胡桃といった高級木材と大理石。
人間にとっては高級な代物だが、精霊にとっては魔術でいくらでも生み出せる代物である。
あまりの相場の安さに、俺はアドルフとの交渉の途中で何度も自分の頬をつねるはめになった。
しかし、さすがアドルフ。
明け方近くまで俺としゃべっていたはずなのに仕事がはやいな。
いや、むしろ連中にとっては一瞬ですませられる程度の仕事だったのかもしれない。
精霊、マジで有能。
さて、いつまでも考え事をしていたら日が暮れるな。
俺は隣で呆然と資材の山を見ているサンダーボルトに声をかけることにした。
「あ、よろしいでしょうか雷鳴。
今日の仕事のことなのですが……」
「あぁ、失礼。
つい取り乱してしまった」
俺の声に、ようやく正気をとりもどすサンダーボルト。
まぁ、最初からこうなっていることを知っていなければ俺も似たような状態になるだろう。
「いえ、お構いなく。
今日は特ににしていただくことがありませんので、基本的に昨日修復した休憩室でお過ごしください」
俺がそんな台詞と共にニッコリとわらった直後である。
昨日復活したばかりの廃寺院の扉をあけて、雷鳴の秘書官と兵士の一行が入り込んできた。
「き、貴様ら……なぜ、ここに!」
「トシキ殿に先日苦情を申し上げたところ、今日はたぶん警備といっても休憩室での暇つぶしになるだろうとのことだったので、こちらに溜まっているお仕事をお持ちしました。
者共、やれ」
秘書官の女性が顎をひねって合図を送ると、兵士たちが次々に書類を積み上げる。
「なお、この寺院の警備についてはマルコルフさまとスタニスラーヴァさまのところから兵士が派遣されることになりました。
わざわざギルドマスターがトシキ殿の警備をする必要はなくなりましたので、明日からは通常通りの勤務にお戻りください」
「そんな……馬鹿な……」
雷鳴が救いを求めるようにこちらを向いたが、俺は首を横にふるしかなかった。
手伝ってやるにも、俺、この世界の文字読めないし。
「じゃあ、俺は建物の修理に入ります。
危険ですので、破損のひどいところには入り込まないでくださいね」
秘書官さんに言い残すと、俺は恨みがましい雷鳴の視線を振り切って自分の仕事を開始した。
……が。
「ダメだ、魔力がぜんぜん足りない」
俺は破損のひどい部屋の床を修復しはじめて一時間もしないうちに床に座り込んでいた。
いや、物理的な手段で修復するよりははるかに楽なんだが、昨日と比べて魔力の消費がかなり激しいんだよ。
原因は、破損状況の差だろうなぁ。
おまけに、部屋自体が昨日より大きい。
「やぁ、お困りのようだねトシキ君」
振り向くと、少し疲れた顔の雷鳴が立っていた。
「おや、雷鳴。
仕事漬けになっていたんじゃないのですか?」
「……休憩中だよ。
適度に休息をとらないと、ミスを起こしやすくなるからね」
言い訳にもきこえるが、実際に人間の集中力など三十分ももてばいいほうらしいし、適度な休憩は潤滑な仕事に不可欠である。
「それよりも、魔力が足りないと聞こえたが?」
「あぁ、いえ、ちょっと破損がひどい場所を修復しようとすると、すぐに魔力が尽きてしまうみたいで」
すると、雷鳴は我が意を得たりとばかりに笑みを浮かべる。
どうやら会話を誘導されたみたいだな。
「ほほう?
ならば、魔物と戦って魔力の底上げをするべきだとおもうが、いかがかな?」
「魔力って、そうやって上げるんですか?」
「まぁ、ほかにもいろいろとあるのは知っているが、いちばん手っ取り早くはあるね。
その証拠に、ろくに秘儀の類を受けてない私だが、並みの魔術師よりもずっと魔力が多い。
私は戦っているうちに増えた魔力がもったいないので、あとになってから魔術も覚えたクチだ」
なんでも、魔術の使える戦士や騎士はたいがいそうやって生まれるらしい。
もっとも、そういう連中は身体能力を強化する魔術ばかり好んで覚えるので、結局は脳みそまで筋肉なのだそうな。
「なるほど……ただ、あまり戦いはしたくないんですよね。
生まれ育った場所の文化的にも、能力的にも向いてないです」
「あぁ、それならば護衛を雇えばいいじゃないか。
冒険の神を介して契約を結べば、契約した仲間が魔物を倒しても魔力が増えるからね」
それ、ネットゲームでいうパワーレべリングとか言う奴では?
まぁ、これは金をはらって仕事をしてもらうわけで、寄生と呼ぶべきではないのだろうけど。
「うぅん、考えておきます。
さすがにスタニスラーヴァを雇う金はありませんし、ほかに仲のいい冒険者もいませんので」
「ははは、そんなことか。
心配は無用だ。
なぜならこの私が……」
雷鳴がそういいかけた時である。
「いい冒険者でも紹介するんですよね?」
彼の背後にある部屋のドアが開き、中から現れた秘書官さんがボソリとつぶやいた。
「……はい」
「休憩時間が終わりましたので、その話の続きはわたくしが手配しておきます」
そのまま秘書官さんに手を引かれて雷鳴は部屋に引きずり込まれた。
紳士だと思っていた雷鳴だが、どうやらデスクワークは苦手のようである。
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