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第一章
第50話 フラグの呪い
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「静かですね……こうしていると、この森の中で殺し合いをしているだなんて嘘みたい」
おそらく戦場まで結構な距離があるのだろう。
俺やエルフたちの耳をもってしても、悲鳴や怒号は聞こえなかった。
だが、耳以外のどこかでピリピリした何かを感じる。
気のせいかもしれないが、俺はこれが戦場の空気って奴なのではないかとひそかに考えていた。
なほど、こんなのが続いたらそりゃ戦場にいる兵士もおかしくなるよな。
日本の平穏が本当に懐かしいよ。
だが、そんな静けさも長くは続かなかった。
ふいに俺の耳がかすかな振動を捉えたのである。
「何か近づいてくる?」
「え?」
俺がつぶやくと、エルフ二人もその音に気づいたらしい。
音がどこからくるのかを探して、壁や床に耳を当てて探り出した。
そしてしばらくし、レスペルミナが叫ぶ。
「し、下です! 何かが地面を潜ったまま近づいてきているみたいですわ!」
地面だと?
なんでそんなピンポイントで都合よく地面を潜って近づいてくるんだよ!
「ちょ、ヴィヴィの奴、思いっきりフラグたてやがって!!」
まさか、最初からこの展開を知っててあんな台詞吐いたんじゃないだろうな。
「フラグ?」
エルフたちが疑問を覚えたようだが、無視だ無視。
そんなことより、この音の主が敵か味方かが問題だ。
だが、それはすぐに判明した。
「あ、閉じ込めておいた捕虜が……」
ちくしょう、そうくるよなぁ!
俺の耳にも、捕虜たちが侵入者となにやら話しをしている声が聞こえる。
「ちくしょう、あの小娘……思いっきり殴りやがって。
俺の顔に傷がついちまったじゃねぇか」
「はっ、てめえの顔なんだ傷ついたところでたいして変りゃしねえよ」
まずい……捕虜たちは、たぶんここに非戦闘員しかいないことに気づいているはずだ。
僅かな情報からそういうことを判断できるからこその斥候役だろうしな。
「おい、あんたたち戦えるか?」
エルフの母娘を振り返ってダメ元で訪ねてみるが、二人は必死に首を横に振る。
「む、無理です!」
「に、逃げましょう!」
まぁ、そうだろうな。
最初からわかっていたことだから大して悔しくはない。
「逃げるにしても、どこへ?
あんたたちを連れて森の中を逃げ回るのは無理だ。
地面を移動できるような奴なら、俺たちより早く森の中を移動することもできるだろう」
そうなると、選択肢はただ一つ。
俺が戦うのだ。
この名前しか知らないエルフの女二人のために。
「俺が時間を稼ぐ。
あんたたちはとっとと逃げてくれ」
まぁ、納得しないだろうが、これは決定事項だ。
「えぇっ!? そんなのダメよ!
だって、君まだ子供でしょ!」
「無茶を言ってないで、早く逃げますよ!!」
だが、伸ばされた手を俺は振り払う。
……まったく、ばかばかしい話である。
なんで俺が、赤の他人のため何こんな体を張らなきゃならないんだよ。
だが、体は子供でも俺の心は成人男性なのだ。
俺は魔導書を一冊取り出すと、呪文を唱えた。
「精霊アドルフの真の名とその祝福において命ず。
汝、第一の書に秘められた真の姿をここに求める。
……来たれ、アドルフの槌!」
魔導書【地霊の左官鏝】には、秘められた真の姿がある。
それが、アドルフ・ハンマー。
どんな壁も破壊できる魔力を秘めた槌だ。
呪文によって現れた槌は、柄の長さが一メートルぐらい。
その先に、俺の握りこぶしほどのハンマーがついている。
本来はもっと大きいのだろうが、おそらくは俺の体に合わせてあるのだろう。
「え? そのハンマーどこから出したの!?」
「すごく格の高い魔力……いったいその槌は!?」
エルフたちの言葉を聞き流し、俺は槌を振りかぶった。
「せーのっ!」
ハンマーが当たった瞬間、建物の壁は音もなく二つにわかれた。
このハンマーの本質は変形であり、破壊ではない。
ゆえに、瓦礫も音も出さずに壁を壊すことができるのだ。
「ほら、はやく動いて。
森に出るよ」
俺は呆然としている二人を尻目に外に出る。
しばらくすると、荷物を手にしたエルフ二人も外に出てきた。
それを確認し、俺は本来ならば俺たちを守ってくれるはずの壁にハンマーをたたき壊す。
「なんなの……これ」
「ありえないわ」
再び音もなく開いた壁に、エルフたちはそうつぶやくことしかできなかった。
「なにもたもたしているんだよ。
ほんと、歯がゆいなぁ」
俺は動こうとしないエルフ二人を、壁の向こうに突き飛ばす。
「きゃぁっ!」
「何を……!?」
そして再び槌を構えて壁を殴りつけた。
この槌の力の本質が変形であるなら……壁を元に戻すことも可能なはず!
「直れ!」
元の壁をイメージしながら壁を殴ると、俺の狙い通り壁は一瞬でふさがった。
もとの形と比べるとかなり歪で、修復魔術の変わりになるかといわれたらちょっと微妙である。
だが、この使い方を知っただけでもかなりの収穫だ。
あ、そうだ。
俺はふとしたことを思いつき、いまふさいだばかりの壁をもう一度槌でたたく。
これが変形の魔術であるなら……。
予想通り、俺が思い描いたとおり壁に【幾】の文字が浮かび上がった。
たぶん、アドルフの槌と同じく魔導書の第一巻に書かれている彫刻の魔術の応用だろう。
おお、これはいい。
たぶん、漢字を書くことになれているせいで鮮明なイメージができるのも大きいのだろうな。
手書き文化、万歳だ!
だが、この力を詳しく検証をする時間はなかった。
「出てこいよ。 そこにいるのはわかってんだからな!」
俺は槌を構えると、目の前の地面に向かって大きく振りかぶる。
イメージしろ……土が岩でできた槍となって……地面を動いているモグラ野郎に突き刺され!!
ガコンと大きな音が響き渡り、大地が震える。
だが、たぶん命中はしていない。
そして、俺の予想通り叩いた地面の少し手前にぽっかりと穴が開いた。
「もう一度言う。
出て来い。
でなきゃ、もう一度岩の槍をお見舞いしてやるぞ」
すると、その穴の中から一人の男が這い出してきたのである。
おそらく戦場まで結構な距離があるのだろう。
俺やエルフたちの耳をもってしても、悲鳴や怒号は聞こえなかった。
だが、耳以外のどこかでピリピリした何かを感じる。
気のせいかもしれないが、俺はこれが戦場の空気って奴なのではないかとひそかに考えていた。
なほど、こんなのが続いたらそりゃ戦場にいる兵士もおかしくなるよな。
日本の平穏が本当に懐かしいよ。
だが、そんな静けさも長くは続かなかった。
ふいに俺の耳がかすかな振動を捉えたのである。
「何か近づいてくる?」
「え?」
俺がつぶやくと、エルフ二人もその音に気づいたらしい。
音がどこからくるのかを探して、壁や床に耳を当てて探り出した。
そしてしばらくし、レスペルミナが叫ぶ。
「し、下です! 何かが地面を潜ったまま近づいてきているみたいですわ!」
地面だと?
なんでそんなピンポイントで都合よく地面を潜って近づいてくるんだよ!
「ちょ、ヴィヴィの奴、思いっきりフラグたてやがって!!」
まさか、最初からこの展開を知っててあんな台詞吐いたんじゃないだろうな。
「フラグ?」
エルフたちが疑問を覚えたようだが、無視だ無視。
そんなことより、この音の主が敵か味方かが問題だ。
だが、それはすぐに判明した。
「あ、閉じ込めておいた捕虜が……」
ちくしょう、そうくるよなぁ!
俺の耳にも、捕虜たちが侵入者となにやら話しをしている声が聞こえる。
「ちくしょう、あの小娘……思いっきり殴りやがって。
俺の顔に傷がついちまったじゃねぇか」
「はっ、てめえの顔なんだ傷ついたところでたいして変りゃしねえよ」
まずい……捕虜たちは、たぶんここに非戦闘員しかいないことに気づいているはずだ。
僅かな情報からそういうことを判断できるからこその斥候役だろうしな。
「おい、あんたたち戦えるか?」
エルフの母娘を振り返ってダメ元で訪ねてみるが、二人は必死に首を横に振る。
「む、無理です!」
「に、逃げましょう!」
まぁ、そうだろうな。
最初からわかっていたことだから大して悔しくはない。
「逃げるにしても、どこへ?
あんたたちを連れて森の中を逃げ回るのは無理だ。
地面を移動できるような奴なら、俺たちより早く森の中を移動することもできるだろう」
そうなると、選択肢はただ一つ。
俺が戦うのだ。
この名前しか知らないエルフの女二人のために。
「俺が時間を稼ぐ。
あんたたちはとっとと逃げてくれ」
まぁ、納得しないだろうが、これは決定事項だ。
「えぇっ!? そんなのダメよ!
だって、君まだ子供でしょ!」
「無茶を言ってないで、早く逃げますよ!!」
だが、伸ばされた手を俺は振り払う。
……まったく、ばかばかしい話である。
なんで俺が、赤の他人のため何こんな体を張らなきゃならないんだよ。
だが、体は子供でも俺の心は成人男性なのだ。
俺は魔導書を一冊取り出すと、呪文を唱えた。
「精霊アドルフの真の名とその祝福において命ず。
汝、第一の書に秘められた真の姿をここに求める。
……来たれ、アドルフの槌!」
魔導書【地霊の左官鏝】には、秘められた真の姿がある。
それが、アドルフ・ハンマー。
どんな壁も破壊できる魔力を秘めた槌だ。
呪文によって現れた槌は、柄の長さが一メートルぐらい。
その先に、俺の握りこぶしほどのハンマーがついている。
本来はもっと大きいのだろうが、おそらくは俺の体に合わせてあるのだろう。
「え? そのハンマーどこから出したの!?」
「すごく格の高い魔力……いったいその槌は!?」
エルフたちの言葉を聞き流し、俺は槌を振りかぶった。
「せーのっ!」
ハンマーが当たった瞬間、建物の壁は音もなく二つにわかれた。
このハンマーの本質は変形であり、破壊ではない。
ゆえに、瓦礫も音も出さずに壁を壊すことができるのだ。
「ほら、はやく動いて。
森に出るよ」
俺は呆然としている二人を尻目に外に出る。
しばらくすると、荷物を手にしたエルフ二人も外に出てきた。
それを確認し、俺は本来ならば俺たちを守ってくれるはずの壁にハンマーをたたき壊す。
「なんなの……これ」
「ありえないわ」
再び音もなく開いた壁に、エルフたちはそうつぶやくことしかできなかった。
「なにもたもたしているんだよ。
ほんと、歯がゆいなぁ」
俺は動こうとしないエルフ二人を、壁の向こうに突き飛ばす。
「きゃぁっ!」
「何を……!?」
そして再び槌を構えて壁を殴りつけた。
この槌の力の本質が変形であるなら……壁を元に戻すことも可能なはず!
「直れ!」
元の壁をイメージしながら壁を殴ると、俺の狙い通り壁は一瞬でふさがった。
もとの形と比べるとかなり歪で、修復魔術の変わりになるかといわれたらちょっと微妙である。
だが、この使い方を知っただけでもかなりの収穫だ。
あ、そうだ。
俺はふとしたことを思いつき、いまふさいだばかりの壁をもう一度槌でたたく。
これが変形の魔術であるなら……。
予想通り、俺が思い描いたとおり壁に【幾】の文字が浮かび上がった。
たぶん、アドルフの槌と同じく魔導書の第一巻に書かれている彫刻の魔術の応用だろう。
おお、これはいい。
たぶん、漢字を書くことになれているせいで鮮明なイメージができるのも大きいのだろうな。
手書き文化、万歳だ!
だが、この力を詳しく検証をする時間はなかった。
「出てこいよ。 そこにいるのはわかってんだからな!」
俺は槌を構えると、目の前の地面に向かって大きく振りかぶる。
イメージしろ……土が岩でできた槍となって……地面を動いているモグラ野郎に突き刺され!!
ガコンと大きな音が響き渡り、大地が震える。
だが、たぶん命中はしていない。
そして、俺の予想通り叩いた地面の少し手前にぽっかりと穴が開いた。
「もう一度言う。
出て来い。
でなきゃ、もう一度岩の槍をお見舞いしてやるぞ」
すると、その穴の中から一人の男が這い出してきたのである。
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