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第一章
第86話 空中図書館
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あのすさまじく巨大な建物が図書館だと!?
当たり前のことのように言われたが、どう考えても図書館というものはこんな場所に作るものじゃないだろ。
なお、俺が違和感を覚えた一番の原因は、それが一般人の利用を想定したものではないからである。
図書館とは全ての人に開放されていて、誰でもその知識に触れることができるもの……それが俺の中の定義なのだ。
ゆえに、こんなところに作ったところで意味は無い。
こんなものは、ただの書斎だ。
個人所有の空中都市まで、いったい誰が本を読みに来るというのだろうか?
まったくいないとはいわないが、それこそ限られた人間だけになるだろう。
たとえ俺に一般開放の意志があったとしても、普通の奴は空中にあるこの場所までたどり着くことができないからだ。
「アドルフ、これは図書館じゃなくてただの巨大な書庫か書斎だ。
今はほかにやることがあるからなんとも言わないが、今度俺の考える図書館というものについてしっかり話をさせてもらう」
俺が僅かな苛立ちをこめてそう告げると、アドルフは少し傷ついたとも面食らったともいえない顔を見せる。
その瞬間、俺は自分の失敗を悟った。
……てっきり褒められると思ってたんだろうな。
そのためにいろいろとがんばったのだろう。
他人の努力と誠意を踏みにじって自分の主張で殴りつけるのは、人として非常によろしくない。
持論を曲げる事はできないが、俺は自分の心の狭さを恥じた。
「……ごめん。 ちょっと言い過ぎた」
「お、おぅ。
まぁ、お前にこだわりがあるのは分かったが、俺にもいろいろとこだわりがある。
とりあえず、どんな建物になっているか見てほしいんだが?」
「それは当然見るさ。 案内してくれ」
むしろそこを見ずにおけば、いろいろと気になって落ちつかないだろう。
何をやらかしているか分からないからな。
ただ、それで何かまずいことをしでかしていても、相手を馬鹿にすることだけはやっちゃいけない。
向こうから見た俺も、同じようなことをしている可能性はとても高いからだ。
俺たちには、お互いを理解するための努力が必要なのである。
「さて、図書館に行くけどポメリィさんはどうす……寝てる」
やけに静かだなと思ったら、彼女はいつのまにか入り込んでいた羊にもたれてすやすやと寝息を立てていた。
実に平和な光景である。
「まぁ、特に問題ないからこのまま寝かせておけ」
「一応この人、俺の護衛らしいんだけどねぇ」
苦笑交じりにそんな言葉を呟くが、アドルフは肩をすくめた。
あぁ、分かってるよ。
彼女の本質が護衛には向いていないことぐらいは。
「護衛というなら俺一人で十分だし、そもそもここに誰が襲撃をしかけてくるってんだよ」
「まぁ、それもそうか」
襲撃をしかけてくる相手には事欠かないが、襲撃が可能な相手となると皆無である。
なにせ、ここは空の上であり、上位の精霊であるアドルフのテリトリーなのだから。
それこそ、神の類が襲い掛かってこない限りは怖くもなんとも無い。
「ほら、行くぞ。 迷子になるからはぐれたりするなよ」
「誰が迷子か! 子供扱いするな」
差し出された手を跳ねのけながら、このからかうような態度がこいつなりの距離のとり方なのではないかと、ぼんやりと思う。
「どこからどうみても子供だろ。 なんなら、手を引いてやろうか?」
「ふざけんな」
そんな軽い殴り合いのような言葉を投げあいながら、俺は翼を広げて屋上から一気に図書館に向かった。
人の目を気にする必要がなければ、エレベーターすら必要ない。
出入りは屋上からで十分だ。
強い風に少してこずりながら、俺は目的地である図書館の周囲をぐるりと旋回する。
そして入り口らしき場所を見つけ、そこに降りることにした。
着地のときに足を痛めないように注意しながら降り立つと、ふいに横からアドルフの声が聞こえる。
「やっと到着か? 待ちかねたぞ」
振り向くと、腕組みをしたアドルフがそこにいた。
おそらく転移か何かで先回りしたのだろう。
わりとなんでもありだな、お前。
呆れ混じりにそんなことを思っていると、アドルフは図書館前にある台座の前に俺を案内した。
「この扉に手を当てると、固体識別をして扉が開くようになっている。
しばらくすると勝手に閉まるから、はさまれないようにしろよ」
「便利なのか不便なのかいまいちわかんないな。
勝手に閉まらないようにしたほうがいいと思うぞ。
あとで、俺の故郷にあった自動ドアについておしえてやるよ」
「面白そうだな、それ」
言われるがままに台座に手をあてると、目の前の扉は音も無く開いて俺たちを迎え入れた。
「うわぁ、予想していたがむちゃくちゃ広いな」
先ほどの居住区も馬鹿みたいな広さであったが、この図書館はそれをさらに上回る。
入るとすぐに案内図があり、ジャンル別にいくつも書庫が分かれていた。
ただ、入り口から一番近い大きな部屋には礼拝堂と記されている。
「礼拝堂?」
「まぁ、ここは智の神の神殿もかねているしな。
あと、トシキの本分が司書だから、図書館はこの船の中で一番広くて大きな建物にしておいたぜ。
むしろ、この船自体が空を移動する図書館と呼んでも差し支えない」
なるほど、確かにこの世界における図書館とは智の神の神殿と同義語であるらしい。
ならば、図書館に礼拝堂があるのは、特におかしなことではないのか。
「それは嬉しいんだが、いったいどんだけ本を集めるつもりなんだよ……」
なお、印刷技術の発達していないこの世界の書物は、基本的に全て手書きだ。
現在日本のように毎日大量に出版できる環境も無いので、出回る本の数も限られている。
もしかしたら、この世界の本を全て集めてもまだスペースに余裕があるのではないだろうか?
当たり前のことのように言われたが、どう考えても図書館というものはこんな場所に作るものじゃないだろ。
なお、俺が違和感を覚えた一番の原因は、それが一般人の利用を想定したものではないからである。
図書館とは全ての人に開放されていて、誰でもその知識に触れることができるもの……それが俺の中の定義なのだ。
ゆえに、こんなところに作ったところで意味は無い。
こんなものは、ただの書斎だ。
個人所有の空中都市まで、いったい誰が本を読みに来るというのだろうか?
まったくいないとはいわないが、それこそ限られた人間だけになるだろう。
たとえ俺に一般開放の意志があったとしても、普通の奴は空中にあるこの場所までたどり着くことができないからだ。
「アドルフ、これは図書館じゃなくてただの巨大な書庫か書斎だ。
今はほかにやることがあるからなんとも言わないが、今度俺の考える図書館というものについてしっかり話をさせてもらう」
俺が僅かな苛立ちをこめてそう告げると、アドルフは少し傷ついたとも面食らったともいえない顔を見せる。
その瞬間、俺は自分の失敗を悟った。
……てっきり褒められると思ってたんだろうな。
そのためにいろいろとがんばったのだろう。
他人の努力と誠意を踏みにじって自分の主張で殴りつけるのは、人として非常によろしくない。
持論を曲げる事はできないが、俺は自分の心の狭さを恥じた。
「……ごめん。 ちょっと言い過ぎた」
「お、おぅ。
まぁ、お前にこだわりがあるのは分かったが、俺にもいろいろとこだわりがある。
とりあえず、どんな建物になっているか見てほしいんだが?」
「それは当然見るさ。 案内してくれ」
むしろそこを見ずにおけば、いろいろと気になって落ちつかないだろう。
何をやらかしているか分からないからな。
ただ、それで何かまずいことをしでかしていても、相手を馬鹿にすることだけはやっちゃいけない。
向こうから見た俺も、同じようなことをしている可能性はとても高いからだ。
俺たちには、お互いを理解するための努力が必要なのである。
「さて、図書館に行くけどポメリィさんはどうす……寝てる」
やけに静かだなと思ったら、彼女はいつのまにか入り込んでいた羊にもたれてすやすやと寝息を立てていた。
実に平和な光景である。
「まぁ、特に問題ないからこのまま寝かせておけ」
「一応この人、俺の護衛らしいんだけどねぇ」
苦笑交じりにそんな言葉を呟くが、アドルフは肩をすくめた。
あぁ、分かってるよ。
彼女の本質が護衛には向いていないことぐらいは。
「護衛というなら俺一人で十分だし、そもそもここに誰が襲撃をしかけてくるってんだよ」
「まぁ、それもそうか」
襲撃をしかけてくる相手には事欠かないが、襲撃が可能な相手となると皆無である。
なにせ、ここは空の上であり、上位の精霊であるアドルフのテリトリーなのだから。
それこそ、神の類が襲い掛かってこない限りは怖くもなんとも無い。
「ほら、行くぞ。 迷子になるからはぐれたりするなよ」
「誰が迷子か! 子供扱いするな」
差し出された手を跳ねのけながら、このからかうような態度がこいつなりの距離のとり方なのではないかと、ぼんやりと思う。
「どこからどうみても子供だろ。 なんなら、手を引いてやろうか?」
「ふざけんな」
そんな軽い殴り合いのような言葉を投げあいながら、俺は翼を広げて屋上から一気に図書館に向かった。
人の目を気にする必要がなければ、エレベーターすら必要ない。
出入りは屋上からで十分だ。
強い風に少してこずりながら、俺は目的地である図書館の周囲をぐるりと旋回する。
そして入り口らしき場所を見つけ、そこに降りることにした。
着地のときに足を痛めないように注意しながら降り立つと、ふいに横からアドルフの声が聞こえる。
「やっと到着か? 待ちかねたぞ」
振り向くと、腕組みをしたアドルフがそこにいた。
おそらく転移か何かで先回りしたのだろう。
わりとなんでもありだな、お前。
呆れ混じりにそんなことを思っていると、アドルフは図書館前にある台座の前に俺を案内した。
「この扉に手を当てると、固体識別をして扉が開くようになっている。
しばらくすると勝手に閉まるから、はさまれないようにしろよ」
「便利なのか不便なのかいまいちわかんないな。
勝手に閉まらないようにしたほうがいいと思うぞ。
あとで、俺の故郷にあった自動ドアについておしえてやるよ」
「面白そうだな、それ」
言われるがままに台座に手をあてると、目の前の扉は音も無く開いて俺たちを迎え入れた。
「うわぁ、予想していたがむちゃくちゃ広いな」
先ほどの居住区も馬鹿みたいな広さであったが、この図書館はそれをさらに上回る。
入るとすぐに案内図があり、ジャンル別にいくつも書庫が分かれていた。
ただ、入り口から一番近い大きな部屋には礼拝堂と記されている。
「礼拝堂?」
「まぁ、ここは智の神の神殿もかねているしな。
あと、トシキの本分が司書だから、図書館はこの船の中で一番広くて大きな建物にしておいたぜ。
むしろ、この船自体が空を移動する図書館と呼んでも差し支えない」
なるほど、確かにこの世界における図書館とは智の神の神殿と同義語であるらしい。
ならば、図書館に礼拝堂があるのは、特におかしなことではないのか。
「それは嬉しいんだが、いったいどんだけ本を集めるつもりなんだよ……」
なお、印刷技術の発達していないこの世界の書物は、基本的に全て手書きだ。
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