異世界司書は楽じゃない

卯堂 成隆

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第一章

第104話 雲上からの侵入者

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「うぅっ、さ、寒いぃぃぃぃぃぃ!!」

 ようやくアドルフの妨害を乗り越えた俺だが、逃げ込んだ空の上は極寒の世界であった。
 というか、雪がちらついているじゃねぇかよ!

 あぁ、そうだった。
 上空のほうが気温が低いから、地上は雨でも上空では雪が降っていてもおかしくないのだ。

 雨雲の中に入ると、そこはさらに空気が冷たく、息が白くなるどころか顔に霜が張り付きそうである。
 これは早く下に降りなければ。
 雨が降っているから暖かくは無いだろうが、すくなくとも空の上よりはマシのはずだ。

 俺は翼をすぼめ、地上へと急ぐ。
 なお、外気との接触が激しくなったことでよりさらに寒くなり、意識が飛びかけたのはここだけの話だ。

「……やっと……地上……」
 ほぼ墜落するような状態で地上に下りてきた俺だが、足の踏ん張りがきかなくてそのままべしゃっと音をたてて路地のぬかるみに頭から突っ込む。
 痛い。 着地に失敗した。
 というか、体が思うように動かない。

 なんとか立ち上がろうと体を起こせば、広げたままになっていた翼の上から白い雪が落ちた。
 とりあえず、雨の当たらない場所に移動して水気をはらおう。
 このままではまずい。

 俺は這いずるようにして民家の軒先に逃げ込むと、レクスシェーナからもらった魔導書を取り出す。
 水を飛ばすか蒸発させるような魔術がなかったっけな。

 かじかむ指で目次のページを開き、俺は中に記された魔術を検索する。
 すると、そこには思わぬ魔術が記されていた。

「ど、どこでもお風呂だと!?」

 急いでその中身を確認すると、それは水ではなくお湯の塊を呼び出す魔術であった。
 しかも、セットで体を乾かす魔術も記されている。

 シェーナ、ナイスだ!
 よくぞ、この魔術をこの本に記しておいてくれた!

 早速俺はお湯を作り出し、服のままそこに入り込む。
 はぁ……生き返る。
 急に暖かいものに触れたせいで肌が痛いが、血の流れが戻る感覚が実に心地よい。

 だが、このまま快楽におぼれているわけにはゆかないのだ。
 今この時も、領主の館では一触即発のにらみ合いが続いているのだから。

 俺は頬を平手ではたいて気合を入れると、お湯から出て先に進むことにした。
 とりあえず、この魔術を書いておいてくれたシェーナには、あとで美味しいものでも差し入れしてやろう。

 そして魔術で体を乾かし、真っ暗な町の中を飛ぶこと数分。
 闇夜の中に、大きな建物が顔を出す。

「あれが領主の館だな」

 他に間違えそうな建物は無いし、もしも間違っていたら高度を上げて町全体の建物を確認すればいいだけだ。
 俺は闇夜にまぎれて敷地の上空に忍び込む。

 敷地の奥のほうから大勢の気配を感じるところを見るとやはりここで間違いないらしい。
 松明の明かりに照らされないよう、俺は屋根にできる影を伝っておくの庭へと徐々に近づいてゆく。

 どうやら状況はまだ膠着しているらしく、遠目にみる庭の様子は、誰一人微動だにしていなかった。
 そんな中、俺は救出対象であるお姫様の位置を確認する。
 ……やはり画像で見るのと、現場で直にみるのとでは色々と勝手が違うな。
 ここからではどこにいるのかよく分からない。

 移動して、違う場所から確認しよう。
 そう思って翼を広げた瞬間だった。

「むっ、何者です!」
 ポメリィさんの鋭い声と共に、うなりをあげて何かが飛んでくる。

「うわぁ!?」
 うげぇっ、まさかのフレンドリーファイア!?

 だが、ここに来ることを告げずにやってきた俺にも責任はあるかもしれない。
 あ、なんか周囲の光景が白黒になって、やたらとゆっくり動いているような……。
 同時に、今までの思い出が勝手に脳裏で流れ始めた。

 これ……もしかしなくても走馬灯!?
 俺、死ぬの?
 しかも、ポメリィさんの迂闊な行動で!?

 そう考えている間にも、トゲつきの鉄球は俺の顔に近づき……寸前で横にそれた。
 え、助かったの?
 しかし、ずいぶんと不自然な動きである。

 いったい何があったのだろうか?
 ふと周囲を見回すと、隣の建物の屋根でヴィヴィが手を振っている。

 なるほど、今のはヴィヴィの仕業か。
 いや、助かったよ。

「む、手ごたえが無いです!?
 ならばもう一度!!」

 俺を仕留めそこなったことに気付いたポメリィさんが、再びモーニングスターを構える。
 だが、そんな伏兵に心当たりが無い領主の軍勢は、ただ戸惑うばかりだ。

「いきますよぉーっ!」
 ポメリィさんがふたたび鉄球を投げようとした瞬間、その足元で何かがはじけた。
 おそらくヴィヴィが何かしたのだろう。

 だが、その行動がどうやらポメリィさんの癇に障ったらしい。
 彼女はヴィヴィのいる方向に顔を向ける。

「ヴィヴィさん、なんで止めるんですかぁ!」

 うわぁ、声が大きい。
 これではせっかく潜入していたヴィヴィの存在がバレてしまうじゃないか!

「はっ、他に誰かいるのか?」

 ほらな。
 ポメリィさんの言葉に反応し、領主の手勢が動き出した。

「しまったですぅ!」

 今頃失態に気付いてももう遅い。
 ヴィヴィに視線を送ると、屋根の上で彼女は肩をすくめていた。
 そして、領主の手勢に見つかる前に移動を開始する。
 一度撃ったらすぐに居場所を変えるのはスナイパーの基本だしな。

 念のために俺も居場所をかえたほうがいいだろう。
 あまり気は進まないが、上空の闇にまぎれるのが一番確実だろうな。

 俺は領主の手勢が屋根伝いに迫ってくる気配を感じつつ、再び翼を広げて舞い上がるのであった。
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