対異常犯罪課

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第0章

目に宿る焔

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「LES... 限界突破症候群だね、まだ二十歳にもなっていない子がねぇ...どんなことが起きたんだい?」

濱崎は興味深そうに聞いてくる。

「わかりません、俺が倒れた原因がそれだって、医師が言っていました」

疲労が身体を支配している。身体中の酸素を奪われるような疲労感は、すぐには回復しなかった。

「車椅子持ってきます!」

看護師が駆け出した。

「能力は割れてるよ、「収束」だってね、でもそれでLES?脳みそに負荷でも掛かってんのかい?」

こいつは...濱崎という刑事は俺の体調なんて二の次なんだろう、単なる興味で知ろうとしているみたいだ...

「俺が無意識に...身体の『酸素』を一部に収束しているのが原因だって...」

「へぇ、酸素を!そりゃぁまた...無意識で火災現場の空気でも感じたのかい?【苦しい】とか、もっと酸素をーって思うとそうなっちゃうのか、そりゃあ肺の中の酸素取られちゃあ倒れちゃうねぇ」

濱崎がつらつらと話す間も、俺は呼吸を整えて続けた、こいつの話は半分で聞き、意識は身体に向けていた...

「いや...俺は血中の酸素を全部集めてるって、言われた...

そう言った時、濱崎の薄ら笑いが消え、一瞬真顔になったのを見た、気圧されるほどの表情、彼が刑事だと言うことを裏付けるには、その表情で十分だった。

「血中?」

聞き返された問いに、答えるまでに車椅子が到着した。

「乗ってください、真也君、あと刑事さん、面会は許可されていませんよ」

淡々とする看護師をみて、濱崎の顔は先ほどまでの薄ら笑いに戻っていた。

「いやぁ、何も俺は面会に来たわけじゃなくてねぇ、ちょっと捜査に...」

「そう言う人がいたら面会謝絶の意味がありません、では」

凄い速度で車椅子を押す看護師

「す、すいませんなんか...」

俺がそう言うと、看護師は笑みを浮かべながら言った。

「良いんです、人の身体に気を遣えない人に合わせる必要ありませんよ」

「ありがとうございます...」

俺はそのまま病室に戻り、身体を休めた。

それから毎日、美咲へ面会して...声をかけて...手に触れて...なんとか回復を願っていた。

1週間が過ぎた頃、俺の退院が決まった。

医師の回診では、LESも落ち着いており、事件を目撃したPTSD自体もこれから向き合う必要があるが、大丈夫だろうと判断された。

しかし退院するとしても、自宅は無くなり、母も亡くなった。行く当てもなかったが俺は大学生だ、バイトもしていたしお金には余裕があった。

大学の寮に入ろうとした時、濱崎が声を掛けてきた

「もうすぐ、退院だってね?」

「面会時間じゃないですけど」

「冷たいなぁ、担当刑事との仲は深めて行こうよ?」

「なんですか、犯人でも捕まったんですか?」

「そこを突かれると痛いね、まだまだ捜査中だよ、申し訳ないけど、今回は別件でね、君をスカウトしたいんだよ」

「スカウト?」

「これ、興味ない?」

濱崎は封筒から書類を出すと俺に向けて差し出してきた。

編入届と書かれた用紙には、すでに俺の名前が書かれていた。

「何ですか、これ」

大きな溜息と共に、濱崎はニヤリとして言った。

「おまえさんにはちょっと目が離せない理由がある」

「は?」

呆気に取られて返事をすると、表情を引き締めて濱崎が語り始める。

「12月25日、家族2名が住宅火災により死傷、これは表向きだが....実際はおまえさんの親父も、同じ日に研究室の爆発で飛んだ...偶然か?」

「偶然じゃないでしょうね、わかってますよ、そんなこと」

「本当にわかってんのか?」

「美咲の病室のネームプレートがテープで隠されていたのは、犯人が生き残りを探さないように...それに今もなお捕まっていないってことは能力者なんでしょ?」

俺の推測を聞いた濱崎は鼻で笑った。

「半分正解で半分はガキだな」

「どのみち俺は警官じゃない、あんたらの仕事だろ」

イラっとした、正直何を聞いてきたんだコイツはと思って強い口調で言い返してしまった。

「こう考えることもできるだろ?お袋さんが美咲ちゃんの首を掻っ捌き、その血でおまえさんにメッセージを残して自殺した」

暫く間をおいて、再び濱崎が話し始めた。

「例えばだよ、怖い顔すんな」

「冗談にしては酷過ぎませんか」

「あぁ、悪いと思ってる、でも君も分かってたんだろ?」

「母さんがそんなことをする理由が?」

「いやぁないね、でも仮にそうだとしたら?」

「じゃあ火事の発生源はどこなんですか?」

俺がそういうと、濱崎はニヤリと笑った。

「いいね、お前さん本当に才能あるよ」

「何がですか?」

「いやすまん、そうだ、出荷元はキッチンだ、犯人は恐らく高温の油に水をぶち込んで火の手を上げてると鑑識は睨んでる」

「自殺には思えませんね」

「そうだ、でもお前さんはそれを何で考えられた?」

「もし自殺なら、母さんは美咲の首を裂いて手紙を残し、それをポストに投函してまた戻ってからキッチンで火を上げたことになる」

「ほう?それで?」

「ポストに入れる意味がない、それに、母さんは火の元の直ぐそばで長時間焼かれたから、俺に見ない方がいいと言ったんでしょ」

「能力者だとしたら?」

俺は冷静に、客観的な考察として口を動かし続けた。

「段階が3を超える能力者なら、政府がより厳重に管理しているから身元が直ぐ分かるはず、でも刑事がここで胡座をかいているっていうのが現実だ」

「耳が痛いねぇ」

「だから段階2以下、でもそれなら美咲が喉を切られるわけがない」

「そうだねぇ、美咲ちゃんは『筋調力』だから、単純に大人数人分の力は容易に出せる段階3だね」

「俺には犯人はわからない、でも母さんや美咲は、被害者だ、段階が1の母さんじゃ美咲も襲えない、美咲がなす術なくやられるとしたら...薬とかだろうけど...担当医は何も言ってなかった」

濱崎の薄ら笑いが消え、表情が強張ると一転して姿勢を正した。

「そうだ、大神くん、これまでの家族への侮辱を許してほしい」

唐突な態度の変化に驚いたが、俺は真摯にその話を聞き続けた。

「君には本当に才能がある、自分の置かれた状況とは関係なしに物事を感じ取って観察する力だ」

「はぁ...だからなんですか」

「さっき渡した編入届は警察...その中の能力者対策として訓練される学校のものだ」

対能力者専門...俺はその時、頭の中に美咲や母さんが笑っている光景を思い浮かべた。

「能力者の犯罪って...年に何件くらいですか」

濱崎は懐からタバコを取り出すと話し出した。

「先月は26件...小さいのも大きいのも含めると、だけどな、被害者に受けた人で言うと...お前さん達も含めて50人近いな」

窓を開けてタバコに火を付ける濱崎、咥えたタバコの火がチリチリと眩い光を放って小さくなっていく。

「禁煙ですよ、病院は」

俺がそういうと、濱崎は笑って言った。

「知ってるけどよ、こーんな小さい犯罪くらい、神様は笑って見逃してくれるよ」

俺が笑うと、濱崎は再びタバコを咥えた。

「こんなもんよりデケェ火を起こしたやつがよ、お前さんの母ちゃんを焼いた野郎がまだ野放し何だぜ、しかも県警はまともに動かねぇ、てめぇの父ちゃんの方に動きっぱなしだ」

「父さんの...?」

「詳しくいってやりてぇけどダメなんだよ、多分この件は片付かねぇ、解決もせず世間では悲しいクリスマスの事故で片付けられる」

濱崎が呆れたような口調で溢すように吐き出す言葉は、申し訳なさのようなものも含まれているように感じた。

それと同時に、無関心だった父への違和感が垣間見えた。

「父さんはエーティリウム研究の第一人者だったんです」

「あぁ、そうだな」

「何があったんですか、父さんの研究室で」

「詳しくは言えない、でも何もわかっちゃいない」

「父さんの死とウチの家の火事...同時多発的だったんですか?」

俺がそういうと、濱崎は吸っていたタバコを小さなポーチのような灰皿に押し込みながらいった。

「いや、お前さんの事件が後だよ」

点が広がり、線が繋がる。

「父さんは本当にエーティリウムの研究だけをしていたんでしょうか?」

「あとはお前さん次第だ」

話を乱暴に遮り、濱崎はベッドの横の小灯台に書類を置いて部屋を後にした。

「待ってください」

俺は濱崎の後を追った。

締まりかけた扉を手で押さえ、濱崎の後ろ姿に言った。

「俺がなれば、何か変わるんですか」

濱崎は振り返らず、手をひらひらを振りながら足を進めて言った。

「わからんが、目がそう言ってるぜ」

そう言われて俺は、少し口角が上がった。
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