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帰還と、未来へ
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気を失っている間に馬車で城まで連れ戻されていた。目を開けたとき見慣れた場所にいることに心の底からホッとする。
眠っている間にすっかり薬は抜けてしまったようだ。あの凶暴な熱は体のどこにも見当たらない。
それに安堵すると同時に、自分を助けるためにアーノルドがしてくれたことが浮かんできてユーフェミアは一気に真っ赤になってしまった。誰もいないのをいいことにベッドの上で転げ回ってしまいたい、そのくらい恥ずかしくてーーーー甘くて、素敵だった。
マンセル、ロッティス、そしてラングレー。あのケダモノ達とは全然違う。アーノルドに触れられることはちっとも怖くなかったしむしろもっと触れてほしかった。アーノルドはとても優しかったし、好きな人に触れられる行為が本当に素晴らしかった。
(ルド様の大きな手が、私の――――やだ、また思い出しちゃった)
かけてあった布団を頭の上まで引き上げて、誰もいないのについ顔を隠してしまう。頭の中はアーノルドで一杯、彼の指が自分の体のどこをどんなふうに触れたのか、彼の唇が舌がどこをどんなふうに辿ったのか、それらが鮮明に思い浮かんでしまい今にも頭から湯気が噴き出しそうだ。こんなところ誰かにみられたらそれこそ心配されて侍医を呼ばれてしまうかも知れない。
そういえば部屋には誰もいない。アーノルドはどうしたんだろうか。
ユーフェミアはそう気がついてやっと布団の中から顔を覗かせた。
あんな事件の後だ、ひょっとしたら事後処理とかで忙しく働いているのかも知れない。
(だとすると、私みたいにこんな恥ずかしがってパニックおこしたりはしてないでしょうね……さすがに)
そう考えた途端にまた馬車の中での出来事を思い出してしまってもぞもぞと布団の中でもがいてしまった。
「ユーフェミア様! お目覚めですか」
動いていたので気配で気づかれたのだろうか。トリシアとレニが慌てて入ってきた。さすがにちょっとパニックになりかかったが、むしろ平静を装った方がいいのではないかと思い直してそっと起き上がった。
「おはよう、二人とも――――」
「わあん! ユーフェミア様! ご無事で本当によかったですううう」
レニがベッドの脇に滑り込むようにとりついてぼろぼろ泣き出した。
「心配してくれたのね。ありがとう。大丈夫、かすり傷一つないわ、ちゃんとアーノルド様が助けて下さったから――――その、アーノルド様はお仕事に?」
ユーフェミアの言葉にふたりは顔を見合わせた。
「ええまあ、すぐお呼びしますね。とってもとってもご心配なさっていたから」
「でもお仕事中なら申し訳ないわ。そうなら目が覚めたことだけ伝言してもらえれば」
「いえ、お呼びいたします。少々お待ち下さい。御髪だけでも軽く整えさせていただきます」
そう言われてみればそうだ。ユーフェミアは二人の言うとおり、ベッドに座ったまま顔を洗い髪をゆるく整え、着せられていた寝間着の上にガウンを着た。
「ではグライス様をお呼びいたしますね。すぐいらっしゃると思います」
「きっとあっという間に飛んでらっしゃいますよ」
では、と軽く礼をしてレニが扉から出ていった。
「それで、もうお加減はよろしいのですか? グライス様が連れて帰られた時はぐったりとなさっていてーーーー」
「え、ええ! もうすっかりいいわ! あの時は緊張が解けて気が緩んだのだと思うわ!」
さすがに理由を話せなくて必死にごまかすユーフェミアにトリシアは少し首を傾げた。
と同時に廊下からすごい勢いの足音が近づいて来た。それにトリシアが眉をぴくり、とひそめた。
バァン! と勢いよく扉が開かれる。
「ミアーーーー」
「グライス様、失礼ですが今しがたまで寝込んでいた女性の部屋にノックも許可もなく踏み込むとはいささか性急すぎるかと存じますが?」
飛び込んできたアーノルドの前に立ちふさがったのはトリシア。彼女の背に隠された状態のユーフェミアからはその表情は見えないが、アーノルドの足がピタリと止まりちょっと血の気が引いているように見えるので、どうやら怖いことになっているらしい。
「も、申し訳なかった、トリシア。ミアが目覚めたと聞いていても立っても」
「よく存じております。朝から仕事が手につかず陛下に叩き出されたと」
「そ、そんなことは!」
「ないのですか?」
「あ、いや……」
アーノルドがやり込められるなんて初めて見た気がする。なんだかクスッと笑いが漏れてしまった。
けれどそろそろ助け舟を出さなくちゃ、とユーフェミアは声をかけた。
「ルド様、ご心配おかけしました」
「ーーーーミア!」
今度はトリシアもすっと避けて道を譲る。
ベッドの脇まで来たアーノルドが心配そうにユーフェミアを覗き込んだ。
「ミア、具合は」
「はい、もうすっかり。あの、ルド様はお疲れなんじゃ」
「大丈夫です。そんなことより」
アーノルドがベッドの横で跪いた。
「ルド様?」
「申し訳ありませんでした。ほんの一瞬でも貴女のそばを離れるなど。恐ろしい目に合わせてしまいました。私にーーーー失望なさったでしょう」
「まさか。人々の安全を守ることは騎士としての本分ではないですか。ルド様は当たり前のことをなさっただけだと思います」
「けれど私は貴女をエスコートしていてーーーー」
「それに私信じておりました。ルド様は絶対に助けてくださると。
あの館の庭に大きな柳がありました。あれを心の支えにしてお待ちしていたのです」
「柳……あっ」
柳の意味に思い当たったのだろう。アーノルドが少し赤くなる。
「あのルシーダへ向かう道中、あれ以来柳は私にとって特別な木になったのです。囚われている間もあの柳の大木がルド様につながっているような気がして、それで気持ちを必死に支えることができました」
「――――ミア」
そっと手をすくい上げられて両手で包むように握られた。握られているその手を彼の指がいとおしそうに撫でる。くすぐったくて、暖かくて、そしてなんだかひどく恥ずかしい。
「る、ルド様」
「そんないじらしいことを言って、私の心臓は貴女という鎖で縛り上げられてしまったようです。貴女が愛おしくて胸がつぶれてしまいそうだ」
「る、ルド様っ」
「ミア――――」
アーノルドの顔がそっと近づいてくる。その意図を正確にくみ取ってユーフェミアはそっと目を閉じた。
ラングレーはルシーダ軍によって捕縛され、尋問を受けているらしい。
たとえその傲岸不遜な態度がなかったとしても王家に縁のある姫、それも隣国の次期女王である姫を誘拐した罪は死罪を免れないだろう。今回はルシーダ国内での事件なのでルシーダが取り調べを行っているが、トルーフェルにもその裁きに関して関与する権利がある。
なのでユーフェミアが助け出された翌日にはトルーフェルからの使者がやってきた。いつぞやステファンのあとをひきついだヨーゼフ=レーベン侯爵だ。
ユーフェミアも未来の女王として尋問に立ち会うべきか、と聞いたが全員一致で反対された。なのでその様子を知ることはできない。
「あんなさかりのついた駄馬、とっととつぶしてしまえばいいのです」
城の一室で優雅な手つきでティーカップを傾けるローゼリアが顔に似合わぬ毒舌をさらりと吐いた。その言い回しには苦笑させられるが、ユーフェミアとてラングレーのラの字も聞きたくないのであえてつっこまずに供されたナッツのタルトを一口食べた。
「いずれにしてもやらかしたことの重大さから量刑は変わらないだろうけど。特にトルーフェル側が主導権を握ったらただじゃ済まないわね」
何しろ自国を侵略し、横暴の限りを尽くした敵国の王子だ。その上未来の女王を誘拐したとなれはちょっとやそっとじゃ国民感情としてもおさまらないだろう。
「ローゼリアの言うとおりだ」
話に割って入ってきたのはヴォルフとアーノルド、そしてヨーゼフだ。
「まあ今後ミアの前にやつが姿を表すことはない。彼はルシーダの法で裁かれるが、結果は変わらない。せいぜい自分でやるか人にしてもらうか、そのくらいの違いだな」
要は自死か斬首か、ということだ。
「それでいいかな? トルーフェルとしては」
「はい、ルシーダでラングレーがやったことは皇妃の妹君の誘拐、そしてあの夜人目をそらすために皇城への侵入、放火、そして手引した侍女の殺害とかなりの罪状に上りますからな。
ーーーーそれにトルーフェルで処刑するとなると国民感情はますますカラミシアを恨む方向へ傾く恐れがあります。そこからヒステリックに走ってしまうことを懸念しているのです。そこから生まれる負の遺産を将来に持ち越したくないのです。われわれが必要としているのはトルーフェル国内の安寧。違いますかな、ユーフェミア様?」
「ええヨーゼフ、これ以上トルーフェルの民が争いで苦しむ姿を見たくないのです。国内で異論が出ることもあるでしょうが、私は国の復興をまず考えたいです」
今回の騒ぎの中で気付かされた、自分の気持ち。まだまだ足りないかもしれないが、トルーフェルの女王として立とうという意思。
ユーフェミアはそう決めたことで何かがすとんと落ち着いた気がしていた。
ヨーゼフがその言葉を聞いて目を見開いた。
「おお……! 姫様、ついにお覚悟を」
「はい。私はトルーフェルの女王になりたいと考えています。未熟者ですが、助けてくれますか? レーベン侯爵」
「もちろんでございます、我が君。
私の全身全霊をもって支えさせていただきます」
ヨーゼフはユーフェミアの前に片膝をつき臣下の礼をとった。
「ミア、決心したのね」
「はいお姉様。私、頑張ってみます。正直不安な気持ちは大きいですけれどーーーー」
言葉を切りアーノルドに視線を向ける。アーノルドは眩しそうにユーフェミアを見て一つ頷いてくれた。それがまた彼女の中でひとつの支えになる。
「ですが、これからはアーノルド様が一緒ですから」
ユーフェミアの希望でそれから一月後、彼女はトルーフェルへと出発することになった。
本当はすぐにでも向かいたいと思っていたのだが、旅の支度やトルーフェル側の受け入れ準備もありどうしてもそれだけの時間が必要だと言われればユーフェミアも納得せざるを得ない。
そもそもわがままを言う気もなかったが。
ただひとつだけ、わがままを通させてもらったことがある。
それはーーーー
眠っている間にすっかり薬は抜けてしまったようだ。あの凶暴な熱は体のどこにも見当たらない。
それに安堵すると同時に、自分を助けるためにアーノルドがしてくれたことが浮かんできてユーフェミアは一気に真っ赤になってしまった。誰もいないのをいいことにベッドの上で転げ回ってしまいたい、そのくらい恥ずかしくてーーーー甘くて、素敵だった。
マンセル、ロッティス、そしてラングレー。あのケダモノ達とは全然違う。アーノルドに触れられることはちっとも怖くなかったしむしろもっと触れてほしかった。アーノルドはとても優しかったし、好きな人に触れられる行為が本当に素晴らしかった。
(ルド様の大きな手が、私の――――やだ、また思い出しちゃった)
かけてあった布団を頭の上まで引き上げて、誰もいないのについ顔を隠してしまう。頭の中はアーノルドで一杯、彼の指が自分の体のどこをどんなふうに触れたのか、彼の唇が舌がどこをどんなふうに辿ったのか、それらが鮮明に思い浮かんでしまい今にも頭から湯気が噴き出しそうだ。こんなところ誰かにみられたらそれこそ心配されて侍医を呼ばれてしまうかも知れない。
そういえば部屋には誰もいない。アーノルドはどうしたんだろうか。
ユーフェミアはそう気がついてやっと布団の中から顔を覗かせた。
あんな事件の後だ、ひょっとしたら事後処理とかで忙しく働いているのかも知れない。
(だとすると、私みたいにこんな恥ずかしがってパニックおこしたりはしてないでしょうね……さすがに)
そう考えた途端にまた馬車の中での出来事を思い出してしまってもぞもぞと布団の中でもがいてしまった。
「ユーフェミア様! お目覚めですか」
動いていたので気配で気づかれたのだろうか。トリシアとレニが慌てて入ってきた。さすがにちょっとパニックになりかかったが、むしろ平静を装った方がいいのではないかと思い直してそっと起き上がった。
「おはよう、二人とも――――」
「わあん! ユーフェミア様! ご無事で本当によかったですううう」
レニがベッドの脇に滑り込むようにとりついてぼろぼろ泣き出した。
「心配してくれたのね。ありがとう。大丈夫、かすり傷一つないわ、ちゃんとアーノルド様が助けて下さったから――――その、アーノルド様はお仕事に?」
ユーフェミアの言葉にふたりは顔を見合わせた。
「ええまあ、すぐお呼びしますね。とってもとってもご心配なさっていたから」
「でもお仕事中なら申し訳ないわ。そうなら目が覚めたことだけ伝言してもらえれば」
「いえ、お呼びいたします。少々お待ち下さい。御髪だけでも軽く整えさせていただきます」
そう言われてみればそうだ。ユーフェミアは二人の言うとおり、ベッドに座ったまま顔を洗い髪をゆるく整え、着せられていた寝間着の上にガウンを着た。
「ではグライス様をお呼びいたしますね。すぐいらっしゃると思います」
「きっとあっという間に飛んでらっしゃいますよ」
では、と軽く礼をしてレニが扉から出ていった。
「それで、もうお加減はよろしいのですか? グライス様が連れて帰られた時はぐったりとなさっていてーーーー」
「え、ええ! もうすっかりいいわ! あの時は緊張が解けて気が緩んだのだと思うわ!」
さすがに理由を話せなくて必死にごまかすユーフェミアにトリシアは少し首を傾げた。
と同時に廊下からすごい勢いの足音が近づいて来た。それにトリシアが眉をぴくり、とひそめた。
バァン! と勢いよく扉が開かれる。
「ミアーーーー」
「グライス様、失礼ですが今しがたまで寝込んでいた女性の部屋にノックも許可もなく踏み込むとはいささか性急すぎるかと存じますが?」
飛び込んできたアーノルドの前に立ちふさがったのはトリシア。彼女の背に隠された状態のユーフェミアからはその表情は見えないが、アーノルドの足がピタリと止まりちょっと血の気が引いているように見えるので、どうやら怖いことになっているらしい。
「も、申し訳なかった、トリシア。ミアが目覚めたと聞いていても立っても」
「よく存じております。朝から仕事が手につかず陛下に叩き出されたと」
「そ、そんなことは!」
「ないのですか?」
「あ、いや……」
アーノルドがやり込められるなんて初めて見た気がする。なんだかクスッと笑いが漏れてしまった。
けれどそろそろ助け舟を出さなくちゃ、とユーフェミアは声をかけた。
「ルド様、ご心配おかけしました」
「ーーーーミア!」
今度はトリシアもすっと避けて道を譲る。
ベッドの脇まで来たアーノルドが心配そうにユーフェミアを覗き込んだ。
「ミア、具合は」
「はい、もうすっかり。あの、ルド様はお疲れなんじゃ」
「大丈夫です。そんなことより」
アーノルドがベッドの横で跪いた。
「ルド様?」
「申し訳ありませんでした。ほんの一瞬でも貴女のそばを離れるなど。恐ろしい目に合わせてしまいました。私にーーーー失望なさったでしょう」
「まさか。人々の安全を守ることは騎士としての本分ではないですか。ルド様は当たり前のことをなさっただけだと思います」
「けれど私は貴女をエスコートしていてーーーー」
「それに私信じておりました。ルド様は絶対に助けてくださると。
あの館の庭に大きな柳がありました。あれを心の支えにしてお待ちしていたのです」
「柳……あっ」
柳の意味に思い当たったのだろう。アーノルドが少し赤くなる。
「あのルシーダへ向かう道中、あれ以来柳は私にとって特別な木になったのです。囚われている間もあの柳の大木がルド様につながっているような気がして、それで気持ちを必死に支えることができました」
「――――ミア」
そっと手をすくい上げられて両手で包むように握られた。握られているその手を彼の指がいとおしそうに撫でる。くすぐったくて、暖かくて、そしてなんだかひどく恥ずかしい。
「る、ルド様」
「そんないじらしいことを言って、私の心臓は貴女という鎖で縛り上げられてしまったようです。貴女が愛おしくて胸がつぶれてしまいそうだ」
「る、ルド様っ」
「ミア――――」
アーノルドの顔がそっと近づいてくる。その意図を正確にくみ取ってユーフェミアはそっと目を閉じた。
ラングレーはルシーダ軍によって捕縛され、尋問を受けているらしい。
たとえその傲岸不遜な態度がなかったとしても王家に縁のある姫、それも隣国の次期女王である姫を誘拐した罪は死罪を免れないだろう。今回はルシーダ国内での事件なのでルシーダが取り調べを行っているが、トルーフェルにもその裁きに関して関与する権利がある。
なのでユーフェミアが助け出された翌日にはトルーフェルからの使者がやってきた。いつぞやステファンのあとをひきついだヨーゼフ=レーベン侯爵だ。
ユーフェミアも未来の女王として尋問に立ち会うべきか、と聞いたが全員一致で反対された。なのでその様子を知ることはできない。
「あんなさかりのついた駄馬、とっととつぶしてしまえばいいのです」
城の一室で優雅な手つきでティーカップを傾けるローゼリアが顔に似合わぬ毒舌をさらりと吐いた。その言い回しには苦笑させられるが、ユーフェミアとてラングレーのラの字も聞きたくないのであえてつっこまずに供されたナッツのタルトを一口食べた。
「いずれにしてもやらかしたことの重大さから量刑は変わらないだろうけど。特にトルーフェル側が主導権を握ったらただじゃ済まないわね」
何しろ自国を侵略し、横暴の限りを尽くした敵国の王子だ。その上未来の女王を誘拐したとなれはちょっとやそっとじゃ国民感情としてもおさまらないだろう。
「ローゼリアの言うとおりだ」
話に割って入ってきたのはヴォルフとアーノルド、そしてヨーゼフだ。
「まあ今後ミアの前にやつが姿を表すことはない。彼はルシーダの法で裁かれるが、結果は変わらない。せいぜい自分でやるか人にしてもらうか、そのくらいの違いだな」
要は自死か斬首か、ということだ。
「それでいいかな? トルーフェルとしては」
「はい、ルシーダでラングレーがやったことは皇妃の妹君の誘拐、そしてあの夜人目をそらすために皇城への侵入、放火、そして手引した侍女の殺害とかなりの罪状に上りますからな。
ーーーーそれにトルーフェルで処刑するとなると国民感情はますますカラミシアを恨む方向へ傾く恐れがあります。そこからヒステリックに走ってしまうことを懸念しているのです。そこから生まれる負の遺産を将来に持ち越したくないのです。われわれが必要としているのはトルーフェル国内の安寧。違いますかな、ユーフェミア様?」
「ええヨーゼフ、これ以上トルーフェルの民が争いで苦しむ姿を見たくないのです。国内で異論が出ることもあるでしょうが、私は国の復興をまず考えたいです」
今回の騒ぎの中で気付かされた、自分の気持ち。まだまだ足りないかもしれないが、トルーフェルの女王として立とうという意思。
ユーフェミアはそう決めたことで何かがすとんと落ち着いた気がしていた。
ヨーゼフがその言葉を聞いて目を見開いた。
「おお……! 姫様、ついにお覚悟を」
「はい。私はトルーフェルの女王になりたいと考えています。未熟者ですが、助けてくれますか? レーベン侯爵」
「もちろんでございます、我が君。
私の全身全霊をもって支えさせていただきます」
ヨーゼフはユーフェミアの前に片膝をつき臣下の礼をとった。
「ミア、決心したのね」
「はいお姉様。私、頑張ってみます。正直不安な気持ちは大きいですけれどーーーー」
言葉を切りアーノルドに視線を向ける。アーノルドは眩しそうにユーフェミアを見て一つ頷いてくれた。それがまた彼女の中でひとつの支えになる。
「ですが、これからはアーノルド様が一緒ですから」
ユーフェミアの希望でそれから一月後、彼女はトルーフェルへと出発することになった。
本当はすぐにでも向かいたいと思っていたのだが、旅の支度やトルーフェル側の受け入れ準備もありどうしてもそれだけの時間が必要だと言われればユーフェミアも納得せざるを得ない。
そもそもわがままを言う気もなかったが。
ただひとつだけ、わがままを通させてもらったことがある。
それはーーーー
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