地上の楽園 ~この道のつづく先に~

奥野森路

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第十九章 ぬくもり

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「ただいま。」
ワクの口からも、自然に言葉が洩れました。それからワクはもじもじしながら、
「あの、その、今晩も、あの、もう一晩だけ、泊めてもらえないかと思って。」
まるで恋心を告白する少年のように。
「いいですよ。一晩でもどれだけでも、好きなだけお泊まりなさいな。」

また居室に上がり込んで、昨日と同様、座卓の前に胡坐をかきます。ヤエさんも、昨日と同じようにお茶を淹れてくれます。
「お話はどうだったの? 聞きたいことは聞けましたか?」
「いや、それが…。」
ワクは、キウエモンとの面談の様子と、その後に墓参りをしてきたことをかいつまんで話しました。
「そうだったの。残念ですね。」
「ええ…。それはそうと、あの、息子さんのこと、少し聞きました。」
「まあ。キウエモンさんから? ヨシエさんから?」
「キウエモンさんと…あの女の人、ヨシエさんというのですか?」
「ええ、私の古くからの友人です。もっとも、こんな小さな村ですから、村人はみんな友人みたいなものですが。」
「ははは。その、ヨシエさんからも聞きました。俺が、息子さん――タクさんによく似ている、と。」
ヤエさんは少し嬉しそうな、恥ずかしそうな何とも言えない表情で、
「そうなの。実は、あなたを初めて見たとき、どきっとしたわ。」
「ああ、それでか。少し驚いてましたね。…あ、そうだ、俺、まだ自分の名前、名乗ってなかったですね。ワクといいます。…ヤエさんとおっしゃるんですね?」
「はい、ヤエと申します。それにしても、名前まで似ている。ワクさん。」
ヨシエさんの言葉どおり、何か運命めいたものを感じます。
それから、二人でまた一緒に晩御飯を食べました。なぜか、食事は二人分用意してあります。
「なんとなく、あなたがまたここへ帰ってくるような気がしていたのですよ。もし帰ってこなくても、その時はその時で、私が明日食べればよいことですし。」
ワクは涙がこぼれそうになりました。それは、もう帰って来ないかもしれない息子の帰りを待ち続ける母親の心境そのもののように思えました。
食事をしながら、ヤエさんの身の上をかいつまんで聞きました。夫は何十年も前に病気で亡くなった。一人息子のタクは、ある日、旅に出たいと言って、家を出て行った、とのこと。
「いつのことですか、タクさんが家を出たのは?」
「ちょうど十年前ですよ。あの子が三十になった年。急に旅に出たいなどと言い出すので、何事かと思ったら、前々から考えていたんだと言われて。ずっと我慢していたのだ、と。男の子は旅に出たがるものね。私には止めることはできませんでしたよ。」
「…。」
父親から、今後のことを考えろと言われて、旅に出ることを選んだワクは、何も言葉を返すことができませんでした。自分の父親も、こんな風に寂しい思いをしていたのだろうか。いや、今でも、きっと。
「あの…ところで、家の裏側に、お地蔵さんのようなものがありますね。昨日も今日も、あそこから出て来られたみたいだったけど…。」
はにかんだような笑いを浮かべて、
「あら、あれをご覧になったの? あれはただの石なのだけど、見ようによってはお地蔵様のような形でしょ。タクが小さい頃によくあれで遊んでいたの。夫と一緒にね。あの子が出て行ってから、何となく毎日、あれを本当のお地蔵様に見立てて、お祈りしているのですよ。あの子の無事を。」
ワクは胸に甘酸っぱいものが上ってくるのを感じました。自分の物心がつく前に亡くなった母親が、このヤエさんと重なる感覚。自分がヤエさんの息子になったような感覚。
「もう、生きてあの子に会うことはないでしょう。私ももう六十六ですもの。あと数年でお迎えが来ますわ。」
「何を言っているんだい。キウエモンさんなんか、九十だと言っていましたよ。」
「あの人は特別よ。放っておけば、二百歳までだって生きかねない。」
二人声を合わせて、少し笑いました。
「あの絵は、ご主人とタクさんと一緒のところを描いた絵なのかい?」
「ええ、あれは私が描いたの。昔を思い出してね。大して似ていないのだけど。ほほ。キウエモンさんは、絵が達者な方でね。昔、あの人に習ったのよ。」
ヤエさんの寂しさも、タクさんの旅に出たい気持ちも、どちらも分かる。両方の気持ちを満たすことは難しいのだろうか。ワクの中で、胸を締め付けるような、切ない気持ちが膨らみました。
ワクは幼い頃に母親を亡くして、母親の記憶が一切ありません。そのこともヤエさんに話しました。
「じゃあ、ここにいる間は私のことを母親だと思って。」
その夜、二人はやはり、布団を並べて眠りました。心はほんのりと温まります。
が、昨夜は気づかなかったのですが、玄関の引き戸の横から、わずかですがすきま風が入ってくるようでした。昨日よりも風が強いせいかもしません。これから冬に向かう季節。修繕しておいた方がよさそうです。
その夜半。
低いうなり声で、ワクは目を覚ましました。
「ううう。ううん。…ク、タク…。」
息子の夢を見ているのでしょうか。ワクが来たことで、息子への想いを刺激してしまったのかも知れません。
ワクは自然に手を伸ばし、隣の布団で寝ているヤエさんの手を握りました。
「ううん…。」
薄目を開けて、ワクの方を見るヤエさん。
「タク?」
夢の延長で、ワクを息子と勘違いしているようです。
「母ちゃん…。」
ワクは思わず呟きました。
「ああ、タク…。」
ヤエさんは、ワクをぎゅっと抱きしめました。ワクは逆らわず、母親の抱擁に身を任せる息子になりました。

翌朝、朝食を済ませるとワクは、家の中をあちらこちら点検し始めました。
「どうしたの? 何をしているの?」
「いや、なに、玄関からすきま風が入ってくるようだから。少し。」
「あら、気が付いたのね。」
「ああ。それで、他にもそういうところがないかと思って。」
「見てどうするの?」
「直してやるよ。俺、少しだけど大工の真似事もしたことがあるんだ。道具はある?」
「ええ、夫が昔使っていたものがほんの少しだけ。まだ使えるかしらね。」
ワクはひととおり家の中を見て回りました。狭い家ですので、点検はあっという間に終わります。結果、すきま風が入りそうなところは玄関だけでしたが、他に、棚のゆがみ、木の朽ちているところなど、直すべきところを数か所見つけました。道具類は古びていますが、何とか使えそうです。木は家の周りにたくさんあります。ワクはお昼すぎまでかかって、玄関の手当てをまず終えました。
「これで今晩からは風は入ってこねえよ…たぶん。」
「まあ、たぶんなのね。」
「本職じゃねえからな。」
「ほほほ、十分よ。ありがとう、助かったわ、ワクちゃん。」
「へへへ。」
ワクは大人に褒められた少年のような気分で、嬉しさ半分、照れ臭さ半分でした。
次の修復箇所にかまけているうちに、日暮れ時がやってきました。ワクはいつまでこの家に厄介になるのか、はっきり申し伝えてはいませんが、なんとなく今夜もまたお世話になろう、という雰囲気になります。ヤエさんは、当然のように晩御飯を二人分作り…。
次の朝、ワクは言いました。
「まだ家の修理が終わっちゃいないんで、終わるまでは少なくとも厄介になろうと思っているが、構わないですか?」
「結構ですとも。」
「じゃあ、お代を払わないと…。」
ヤエさんは、とんでもないというような顔をして、
「いりません、そんなもの。」
「でも、ただで泊めてもらって、飯を食わしてもらって…。」
「いいの。あなたはこの家を修理してくれているわ。それで十分お釣りが出ますよ。」
ワクはその日も、修理作業にいそしみました。
夕刻、来客がありました。
「ヤエさん、いるかい?」
「はいはい、あ、こんにちは、ゴヘイさん。」
「ああ、だんだん小寒くなってくるなあ。」
「ほんとにね。」
そこで、奥の間にいるワクを見て、
「あ!」
ヤエさんは、ゴヘイさんがなぜ驚いたのか、察しがついているらしく、少し可笑しそうに微笑みました。
「違いますよ。」
「ああ、違うな。一瞬、タクかと思った。」
「みんなそう思うのね。」
「…で、こちらは?」
「ワクさんとおっしゃってね。旅の方でね、たまたまお泊めしたのですが、ご縁があっていろいろとご親切にしてくださっているの。」
「へえ。そうかい。」
「こちらは、ゴヘイさん。二軒向こうの、猟師をしていらっしゃる。」
とワクに紹介してくれました。
「ああ、肉を分けていただいているという?」
「そう。」
六十歳前後でしょうか。ヤエさんよりは少し若いように見えます。この人も一人暮らしなのでしょうか。
「よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「しかし、感じがよく似てるなあ。ヤエさん、嬉しいだろう。息子が帰ってきたみたいで。」
「いやですよ、ゴヘイさんったら。」
それからゴヘイさんは、今日取れた肉だと言って、イノシシの肉を少し置いて、帰って行きました。
「この村の人たちはみんないい人でね、家族みたいですよ。」
ワクはなぜだか、目頭が熱くなるのでした。

夜。食事の後、ワクとヤエさんは、差し向かいで話し込みます。話題は色々でした。村の人の話や、この家の裏の山で見かけた動物の話から、お互いの昔話まで。ワクのこれまでの旅の話も、より詳しく話しました。話がコハルとの別れのところまで来ると、ヤエさんは深い悲しみを湛えた目で、ワクの傍まで寄り、ワクの肩を撫でました。
ヤエさんの想い出話もあれこれと聞きました。その話には、ある場所がたびたび登場しました。裏山の山頂近くにあるという「みんなの広場」です。
「以前はね、あそこに村の人たちがよく集まったものでしたよ。」
「へえ。」
「この村は山のあちらとこちらとに分かれているでしょ。村全体の行事やら会合やら、宴会やらね、必要なときにはあの広場にある集会所に集まったのよ。眺めもいいからね。」
「そうなんだ。最近はもう集まらないのかい?」
「こちら側は三軒だけになってしまったし、みんな年寄りだから、あそこまで登るのが大変なのよ。」
「でもゴヘイさんは狩りで山へ登るんじゃねえのかい?」
「山の裾の方ね。あそこまではそうそう行かないでしょう。」
「へえ、そうなんだ。」
「あそこにはたくさんの想い出があるの。若い頃には夫とよく登って、広場から村の風景を見下ろしたものよ。タクが小さい頃にも、よく遊びに連れて行った…。でも、最近はもう、あそこまで登れないし。第一、草が生い茂って荒れ果てているらしいわね。」
「…。」
ワクはしばらく考えた後、
「また行ってみたい?」
「…無理よ、登れないもの。」
ワクは黙って何度か小さくうなずきました。

その後もワクは、ヤエさんの家に滞在しながら、せっせと働きました。家の中はひととおり修繕し、茅葺屋根の部分補修も行いました。直すところがなくなってくると、今度はヤエさんのために草履を何足も作り、家の前の草を刈りました。一方で毎日の生活のために、薪を割ったり、風呂を沸かしたり、食事の支度を一緒にしたり…こうしてみるとワクは、案外役に立つ男ですね。
ヤエさんが、最近肩が凝るというので、ワクは肩叩きをします。
「肩叩きって、そういや、あんまりやったことがないな。いろんな経験してきたつもりだけど、まだまだ経験してないこと、多いのかな。」
「ほほほ、じゃあ、私が経験させてあげましょう。」
「へへ。」
強く叩くと壊れてしまいそうな、細い肩。恐る恐る叩きます。
「もっと強くてもいいよ。」
「こ、このくらい?」
「うん、もう少し。」
「こう?」
「ああ、ちょうどいいよ。」
本当に幸せそうな表情でした。しばらくお互い無言で、触れ合いを楽しみます。ヤエさんの身体からは、なんだか懐かしい匂いがしました。
「ああ、楽になったわ。まるで本当の息子のようね。…ありがとう、ワク。」
「…母ちゃん。」
それからワクはヤエさんのことを「母ちゃん」と呼び、ヤエさんはワクのことを、「ワク」と呼び捨てにするようになりました。本当の親子のように。
裏山へ薪の木を採りに行って、夕暮れ時に帰ってくると、
「ただいま!」
すると、ヤエさんが優しい笑顔で、
「お帰り。」
お帰りを言ってくれる相手がいる生活。ワクが長らく忘れていた感覚。毎夕、その幸せを噛みしめるワクでした。

ある朝。
朝食が終わるか終わらないかのうちに、ワクはいそいそとヤエさんに切り出しました。その目はワクワクできらきら輝いています。
「あのなあ、母ちゃん。」
「なんだい?」
「今日は一緒に出掛けよう。」
「まあ、どこへ?」
「うん…。」
「なに? どうしたのかねえ、この子ったら。嬉しそうに。」
「広場。」
「え?」
「山へ登って、『みんなの広場』へ行こう。」
「まあ、そんなこと。行けるわけが…。」
「行けるさ。俺が連れて行く。」
「…?」
「ちょっと来てみなよ。」
ワクはヤエさんの手を引いて、外へ出ます。そのままお隣の方向へ少し行った叢の中に――。
それは背負子しょいこでした。
「まあ、こんなものが。」
「作ったんだ、俺。」
「!」
ヤエさんは驚いて言葉が出ません。
「これに腰かけてみなよ。母ちゃん、座っている間に山頂だぜ。」
「ワク…。」
「へへへ。」
二人はそれからいそいそと身支度をして、出発しました。
「大丈夫かい? 重いだろう?」
「へ、平気さ!」
ヤエさんは、ワクの想像以上に軽かったのです。それでもやはり、人ひとりを背負って坂道を登るのは大変な労力でしたので、ゆっくりゆっくりと、休みながら進みました。
晩秋の山道。柔らかな木漏れ日、虫の声。背中合わせの親密感。それは、顔を見合わせて話すのとはまた一味違った、優しいぬくもりを感じさせるものでした。ワクは、全身にびっしょり汗をかきながらも、幸せ一杯でした。
やがて、「広場」に着くと、ヤエさんは再び驚きます。
「こんなに綺麗だったのかい? 雑草が生い茂っているというお話だったけどねえ。」
「へへ。刈ったんだ、俺。」
ワクは汗を拭き拭き、照れ笑いを浮かべます。
「まあ…。」
ヤエさんはそれきり何も言わず、袖で目元を拭きました。
それから二人は、広場の一角から村の風景を見下ろしました。キウエモンさん宅をはじめとする、村の向こう側の家々も見えます。その両側には、山と緑の木々が迫っています。それは小さな、小さな世界でした。が、ヤエさんのこれまでの人生が詰まった、重みのある世界でした。ワクも、それが半ば自分自身の想い出の地でもあるかのように感じながら、じっと景色を見下ろしていました。
やがてヤエさんは、涙で潤んだ眼でこちらを見て、にっこりと笑いました。ワクのこれまでの苦労も、身体の疲れも、それですべてが吹き飛びました。

山へ登ったついでに、二人は続けて、向こう側の集落を訪れました。同じ村内であるにもかかわらず、普段はなかなか行き来できない間柄。ヨシエさんやキウエモンさん、その他の人々の顔を久しぶりに見られて、ヤエさんはとても嬉しそうな様子でした。

やがて、本格的な冬がやってきました。このあたりは、特別な豪雪地帯ではありませんが、それでも一面うっすらと白くなる日が多くありました。
そんなある日、ゴヘイさんが訪ねてきた際に、ワクとヤエさんの様子をみて、ワクに言いました。
「なあ、ワクさんよ。あんた、いっそこの家に留まる気はないのかい? 本人の目の前で言うのも何だが、あんたが来てから、このヤエさんが見違えるように元気だからな。」
ワクは悩みました。ヤエさんは、とんでもない、という顔をしています。が、山を目指しても、どんな世界が待っているか、分かったもんじゃない。それどころか、ザクロさんのように、腑抜けになっちまうような何かがあるのかもしれない。だったらこのまま、ここで母ちゃんと暮らそうか。
一方でワクには、ここに留まることをよしとしない理由がありました。というよりも、それは、自分には留まる資格がない、という感覚でした。どんなに息子気分に浸っても、自分は結局、代わりでしかないのだ。母ちゃんにとっての本当の息子はタクひとりだけ。コハルのときもそうだった。自分は一体誰にとっての本物なのだろうか…。故郷で自分を待っている父親の元へ、一日も早く迎えに帰るのが自分の使命のはずだ。
また、ヤエさんは、ワクとは違った意味で、やはりワクがここへ留まることには反対のようでした。
自分はどうすべきか、どうしたいのか気持ちが定まらないまま、ワクはヤエさんの家で年を越していました。
雪の薄化粧の中で薪を割る手を止めて、ぼんやり。食事を一緒に作りながら、ふと窓の外を見つめて、ぼんやり。
そんなワクに、ある日、ヤエさんは言いました。
「行きなさい。」
「え?」
「お行きなさい、広い世界へ。あなたには山へ行くという目標があるのだから、それを追いかけるの。」
「でも…。」
「あなたにはあなたの人生があるのですよ。こんな先行き短い老人のために、こんなところで足を止めてはいけない。」
「…。」
ぐずぐずとした表情のワク。それはさしずめ、母親とはぐれた幼い迷子のような顔だったでしょう。
そこでヤエさんは、口調を変えました。
「本当を言うとね、疲れたのよ。」
「?」
「もう親子ごっこには疲れました。いい母親のふりをするのも大変なのでね。そろそろまた一人で気ままにしたいわ。」
「!」
ヤエさんは横を向いて、手で涙を拭いています。本心でないのは明らかです。ワクはワクで、言葉を失い、ただうつむいて震えていましたが、やがて低く、
「もう少し、もう少しだけ…。」
その声に、ヤエさんはワクの広い背中にすがりついて、嗚咽を漏らしました。

雪があらかた溶けた頃、ワクは出発しました。母ちゃんとの温かな家を後にして。再び、人生の目標である山を目指して。未だ釈然としない心を抱えたまま。
「じゃあ、母ちゃん。」
「元気でね。ワク…。あ、そうそう。」
ヤエさんは、奥に引っ込んで、ワクに杖を持ってきてくれました。それは、ここに滞在している間にワクの目にも入っていた、珍しい三つ折り式の杖でした。黒光りのする年季の入った立派な風合いで、見るからに丈夫そうでした。
「これは、夫のものよ。」
「そんな大事なものを。」
「いいの。持って行って。あなたに持っていてほしいのよ。」
「母ちゃん…。」
「あなたは、まだこんなものの有難味が分かる年齢ではないけれど…使わないときは折りたためるから、邪魔にはならないでしょう。疲れたり、支えが欲しい時は、これを使って。思い出して。こんなお婆さんだけど、私はここにいます。いつでもここにいて、あなたを応援しています。」
「母ちゃん。」
「覚えておいて、ワク。いつだって母親の願いは、子供の幸せだけなの。あなたは私の、もう一人の息子。幸せを願います。」
「母ちゃん!」
ワクはヤエさんの小さな身体を抱きしめました。
やがて、母ちゃんの身体から静かに手を離すと、ワクはゆっくりと歩き出しました。早春というにもまだ早い冷たい朝風の中を、一歩ずつを踏みしめながら。
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