きまぐれ推敲ねこ俳句

小戸エビス

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暑さ負け猫に取られたヨガマット

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 あつさまけ ねこにとられた よがまっと

 お猫様は家の中の色々なものを占拠なさります。布団、ソファ、デスクチェア、そして、何かをするための「場所」も然り。
 私は昔自宅でヨガをしていたことがあり、今でも、やり始めたらしばらく続き、休み始めたらしばらく止まる、の繰り返しなのですが、久々にヨガをやってみるか、というときになると猫に場所を取られていてできない、ということが起こります。毎日続けてれば猫のほうも慣れてくれて他の場所でくつろいでいてくれるのですが。
 そんなわけで、今回は、ヨガをやってみるかと思ったら猫が寝そべっていてできなかった、という情景を俳句にしてみました。実際にはヨガマットは使っていないのでこの辺りは想像なのですが、ヨガをやろうと思ってマットを敷いて少し目を離したらその隙に取られていた、ということは十分あり得るでしょうね……

 そして今回は、「猫に取られたヨガマット」の12音がぱっと出てきました。日本語は意識せずに使っても五・七や七・五のリズムを生んでいることが多く(太宰治がそんなようなことを書いていた気がします)、俳句に使えるフレーズがポンと出てくることがあるのです。
 12音ができたということは、季語含む5音を前にくっつければ俳句の形になるということ。俳句の手法の一つ「取り合わせ」の基本形です。その中でできた候補が次の2つでした。

 夏バテや猫に取られたヨガマット
 夏負けや猫に取られたヨガマット

 「夏バテ」と「夏負け」。似ている言葉ですが若干意味が違います。
 「夏バテ」は、実は私が使っている歳時記には載っていない言葉なのですが、季節感があるということから、ここでは季語として使わせて頂いています。そして、この言葉が夏の体調不良を現わすのか秋口の体調不良を現わすのかが人によって違っています。夏なのか秋なのか、そして季語として使っていいのかどうかが微妙なラインではあります。
 一方、「夏負け」。こちらは歳時記にはっきりと夏の季語として載っています。夏に食欲が落ちて痩せてしまうことです。
 どちらがいいのかは微妙なところ。

 ちなみにこの2が出てきた理由は、季節が夏だったから、というのもありますが、夏で体がだるいときが一番適しているのでは、と思ったからです。
 夏は、朝起きたときになんだか疲れが取れ切っていない、という感覚になることがあります。多分、実際取れていないのでしょう。
 そして暑い時期は運動するのも億劫になってしまいます。すると、運動不足で全身の血行が悪くなり、そのせいで寝ても疲れが取れなくなって、疲れが溜まっているから余計に運動しなくなって、という悪循環に陥りかねません。
 ヨガというものはそんなときに便利なものでして。
 激しく動くわけではないので疲れが溜まっている中でも行うことができ、上手く行くと体中に溜まっていた淀みが溶けて行ってくれるような感覚を味わえます。狭いスペースでもできるのもポイント。
 そんなわけで、夏だから体調がよろしくない、という季語が一番だったのです。

 因みに、切れ字の「や」に拘らなければ、次の形もあります。

 暑気あたり猫に取られたヨガマット
 暑さ負け猫に取られたヨガマット

 「暑気中」と「暑さ負け」。暑さで体調が崩れることを言います。
 若干意味は違うのですが、「負け」の2文字が入っていたほうが猫に負けた感があるので、この中で選ぶならば「夏負け」か「暑さ負け」のどちらかになります。
 その中で「暑さ負け」を選んだのは何故かというと、ここに七・七を加えて連歌(短連歌)、というか短歌のようなことをできないか、と思ったからでして。
 本来、連歌は一人が五・七・五の「上の句」を詠み、別の一人が七・七の「下の句」を続けるものですが、これを一人二役でやってみようと思ったのです。短歌ならば、「初句」「二句」「三句」「四句」「結句」と言う呼び名になるそうですが。
 ところが、そこでネックになったのが、文体の統一でした。現代仮名と旧仮名を混在させないとか、口語と文語を混在させないといったものです。
 そして切れ字の「や」。これに関しては伝統的なルールに捕らわれずに使うのも考え方の一つなのですが、厳格に考えるならば、口語や現代仮名との同時使用は避けるべきことです。今回は四句と結句で現代仮名遣いの口語を予定していたので、ここはどうしても気になりました。
 そこで、「暑さ負け猫に取られたヨガマット」から七・七を続けてみることに。それがこちら。


 暑さ負け猫に取られたヨガマット運動不足はまだまだ続く
 暑さ負け猫に取られたヨガマット今日はお天気走りに行こう
 暑さ負け猫に取られたヨガマット外は走るに程良い曇り
 暑さ負け猫に取られたヨガマット走れば麦茶が美味しいけれど

 俳句と比べた場合の短歌の特長として、文字を多く使える分、物語性を持たせやすい、という話を聞いたことがあります。そこで、物語性という観点から推敲してみました。
 まず、「運動不足は~」。これだと話は分かりやすいのですが、三句までの時点でヨガができなくなっているので運動不足は明白。物語としては変化に乏しいです。
 そこで、「今日はお天気~」を考案。これなら起承転結が生まれます。が、暑さ負けの状態でお天気の中をジョギングをするのは大変危険です。
 次の「外は走るに~」ではこの点を考慮して、曇り空にしました。曇っていれば多少は安全になります。ですがよくよく考えてみると、曇りをジョギングのチャンスだと思うようなアグレッシブな人が暑さ負けをしていることには微妙に違和感があります。
 そしてそう考えると、頭では走ろうと思っててもなんだかんだで躊躇っている、というほうがしっくりきます。そこで「走れば麦茶が~」を考案。最後の「けれど」で結局走らない、そして運動不足はまだまだ続くことになります。

 ネット小説の宿命か、最近、疲れ目と肩こりに悩まされていまして。なので運動は大事だと思うのですが……
 運動不足は現代人の宿命ですね(断言)。
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