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休日や布団畳めば猫の城
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きゅうじつや ふとんたためば ねこのしろ
猫というものは布団が大好き、なのでしょうか。布団を折り畳んでおくと、その上に乗ってくつろぎます。
もう、この場所は我がもの、と言わんばかりに。何かの都合で布団を動かさなきゃならなくなっても、どいてくれないのです。
そこで今回は、畳んだ布団に陣取る猫を題材にしました。
ちなみに「布団」は冬の季語。「干布団」はその傍題です。「蒲団」もやはり季語で、こちらは座るもののほうなのだそうです。
一年中使うものですが、まあ、お布団のありがたみが一番大きくなるのは寒い時季ですから、非常に納得できる話です。
そして俳句作りのほうはというと、今回は句に登場させる要素が少ない上に主要登場人物の「布団」が季語になってくれているおかげで、音数としてはだいぶ作りやすいものでした。
反面、川柳っぽくなってしまうのが難点でしたが。
俳句と川柳の違いは単に季語のあるなしではなく、内容の違いにもあります。情景や心象を描くのが俳句、物事の風刺やおかしさを描くのが川柳。季語のない俳句(「季なし」と言います)や季語になっている言葉を含む川柳も成立します。
なので、俳句に笑いを求めると川柳になってしまう可能性が高いのです。そしておそらく、どちらにもなりえる句というのも存在するはず。
……なんだか、純文学と娯楽小説の違いみたいですね。
この俳句と川柳の違いはこの企画を始めてだいぶ経ってから知ったことなので、初期の俳句にはもしかしたら川柳に分類されるものも多いのかもしれません。
ともあれ、今回、最初の形は次の2つでした。
〇〇〇〇〇畳んだ布団は猫の城
〇〇〇〇〇布団畳めば猫の城
今回は最初から「〇〇」で空白を入れる方法からスタートしています。
中の句以下の「畳んだ布団は猫の城」。これが季語含む12音の言葉なので、あとはほかに5音の言葉を加えれば形になるという、取り合わせの基本形です。
「猫の城」が出てきたのは、折り畳まれて少し高くなっている布団に陣取る姿がちょっとしたお城の城主のように見えたから。
そしてこの2つの形では、下のほうに軍配が上がります。
理由は、「布団畳めば」で句の中に時間の流れ生じている、というのが一つ。「畳んだ布団」だと、畳むという動作がすでに終わっているので、時間的には一日の中のある時点を切り取っただけのものになってしまいます。
そしてもう一つの理由は、下のほうはより散文的(説明口調)でないから。説明口調になると詩としての面白みが減ってしまうのです。AはBである、という書き方はそこが厄介。喩えの巧妙さなどで面白みを持たせられるならばそれもありなのですが。
そんなわけで、「布団畳めば」で上の句を埋めることにして出てきたのがこちら。
朝起きて布団畳めば猫の城
……はい。これ、一応形にはなりましたが、上の句を入れる意味のない句になってしまっています。
布団を畳んでいる以上、朝起きた後だというのは言わなくても分かりますからね。
季語含む12音使って残りの5音を埋める、というやり方の場合、ここがネックなのです。先にできてる12音で言いたいこと言えてしまっているので、5音を埋める意味がない。
ここに意味を持たせるとしたら中の句以下の12音との間で相乗効果を生むような5音を探さなければならないのですが、これがなかなか見つからず、一旦この形は断念しました。
そこで次に考えたのが、「布団」で一物仕立てにする方法。季語になっているものを指してこれはこういうものである、と語る手法です。その形がこちら。
昼時は猫の城なる布団かな
昼時の猫の城なる布団かな
日に干せば猫の城なる布団かな
畳むれば猫の城なる布団かな
音数に余裕があるので最後は「かな」で詠嘆しています。布団というものはこういうものだな、という詠み方。
この中で選ぶとしたら、一番上の「昼時は」の形でしょうか。前述した、AはBである、の形になっていますが、この場合は説明口調らしさがかなり抑えられているので問題ありません。
ただ、これらの形だと布団が主役になってしまうのがネック。一物仕立ての宿命ですね。
そこで再び猫を主役にする形を考えました。それがこちら。
畳まれた布団を城に眠り猫
畳まれた布団を占拠眠り猫
畳まれた布団に丸く眠り猫
畳まれた布団わがもの眠り猫
畳まれたお布団とったぞ眠り猫
ほぼ同じ形ですが、猫が布団に陣取っている様子をより可愛らしく描ける言葉はどれか、という観点で作っています。
この中だと一番下の「お布団とったぞ」が一番雰囲気が出ます。が、「とったぞ」という活き活きとした様子と「眠り」との相性が若干よろしくないのが気になるところ。
そして次は、季語を「干布団」に変えて試してみました。
その形がこちら。
干布団取り込めばそこは猫の城
干布団取り込み畳み猫の城
取り込めば猫の城なる干布団
猫の城取り込み畳んだ干布団
干布団畳めば猫様「苦しゅうない」
干布団畳めばにゃんこ「苦しゅうない」
この中だと、中の句と下の句で2句字余りになってしまいますが、下から2番目の「干布団畳めば猫様「苦しゅうない」」が私の中ではベスト。「猫様」を、中の句を7音に収められる「にゃんこ」にするかどうかで悩んだのですが、より城主らしさのある「猫様」のほうが上に感じました。
一方で、今まで起きて畳んだ布団だったものが干して取り込んだ布団に変わり、情景そのものが変化してしまっているのが難点。別に反則ではないのですが、同じ情景をいかにうまく描けるかを目指す場合は、ここは気になるところです。
そして最後。先に試して一旦置いておいた「〇〇〇〇〇布団畳めば猫の城」をもう一度試してみることにしました。
それがこちら。
休日や布団畳めば猫の城
季語でないものを「や」で詠嘆して季語を含むフレーズと組み合わせるという手法です。
この形だと、布団、猫、とのんびりした要素によって、休日ののんびりした様子を現わせます。
主役の座は「休日」に奪われることになりますが、その一方で、「布団畳めば猫の城」というどこか川柳っぽいおかしさのある要素によって「休日」のゆったりした様子を強調できるという結果に。これでだいぶ俳句らしくなりました。
そこで、この形を使うことにしました。
今回の推敲は、最後に視点を切り替えてみたら最初の構想が活きた、という流れになりましたね。
こういうことがあるからこそ、文章の推敲というのはやり出すと止まらなくなるのでしょうね……
猫というものは布団が大好き、なのでしょうか。布団を折り畳んでおくと、その上に乗ってくつろぎます。
もう、この場所は我がもの、と言わんばかりに。何かの都合で布団を動かさなきゃならなくなっても、どいてくれないのです。
そこで今回は、畳んだ布団に陣取る猫を題材にしました。
ちなみに「布団」は冬の季語。「干布団」はその傍題です。「蒲団」もやはり季語で、こちらは座るもののほうなのだそうです。
一年中使うものですが、まあ、お布団のありがたみが一番大きくなるのは寒い時季ですから、非常に納得できる話です。
そして俳句作りのほうはというと、今回は句に登場させる要素が少ない上に主要登場人物の「布団」が季語になってくれているおかげで、音数としてはだいぶ作りやすいものでした。
反面、川柳っぽくなってしまうのが難点でしたが。
俳句と川柳の違いは単に季語のあるなしではなく、内容の違いにもあります。情景や心象を描くのが俳句、物事の風刺やおかしさを描くのが川柳。季語のない俳句(「季なし」と言います)や季語になっている言葉を含む川柳も成立します。
なので、俳句に笑いを求めると川柳になってしまう可能性が高いのです。そしておそらく、どちらにもなりえる句というのも存在するはず。
……なんだか、純文学と娯楽小説の違いみたいですね。
この俳句と川柳の違いはこの企画を始めてだいぶ経ってから知ったことなので、初期の俳句にはもしかしたら川柳に分類されるものも多いのかもしれません。
ともあれ、今回、最初の形は次の2つでした。
〇〇〇〇〇畳んだ布団は猫の城
〇〇〇〇〇布団畳めば猫の城
今回は最初から「〇〇」で空白を入れる方法からスタートしています。
中の句以下の「畳んだ布団は猫の城」。これが季語含む12音の言葉なので、あとはほかに5音の言葉を加えれば形になるという、取り合わせの基本形です。
「猫の城」が出てきたのは、折り畳まれて少し高くなっている布団に陣取る姿がちょっとしたお城の城主のように見えたから。
そしてこの2つの形では、下のほうに軍配が上がります。
理由は、「布団畳めば」で句の中に時間の流れ生じている、というのが一つ。「畳んだ布団」だと、畳むという動作がすでに終わっているので、時間的には一日の中のある時点を切り取っただけのものになってしまいます。
そしてもう一つの理由は、下のほうはより散文的(説明口調)でないから。説明口調になると詩としての面白みが減ってしまうのです。AはBである、という書き方はそこが厄介。喩えの巧妙さなどで面白みを持たせられるならばそれもありなのですが。
そんなわけで、「布団畳めば」で上の句を埋めることにして出てきたのがこちら。
朝起きて布団畳めば猫の城
……はい。これ、一応形にはなりましたが、上の句を入れる意味のない句になってしまっています。
布団を畳んでいる以上、朝起きた後だというのは言わなくても分かりますからね。
季語含む12音使って残りの5音を埋める、というやり方の場合、ここがネックなのです。先にできてる12音で言いたいこと言えてしまっているので、5音を埋める意味がない。
ここに意味を持たせるとしたら中の句以下の12音との間で相乗効果を生むような5音を探さなければならないのですが、これがなかなか見つからず、一旦この形は断念しました。
そこで次に考えたのが、「布団」で一物仕立てにする方法。季語になっているものを指してこれはこういうものである、と語る手法です。その形がこちら。
昼時は猫の城なる布団かな
昼時の猫の城なる布団かな
日に干せば猫の城なる布団かな
畳むれば猫の城なる布団かな
音数に余裕があるので最後は「かな」で詠嘆しています。布団というものはこういうものだな、という詠み方。
この中で選ぶとしたら、一番上の「昼時は」の形でしょうか。前述した、AはBである、の形になっていますが、この場合は説明口調らしさがかなり抑えられているので問題ありません。
ただ、これらの形だと布団が主役になってしまうのがネック。一物仕立ての宿命ですね。
そこで再び猫を主役にする形を考えました。それがこちら。
畳まれた布団を城に眠り猫
畳まれた布団を占拠眠り猫
畳まれた布団に丸く眠り猫
畳まれた布団わがもの眠り猫
畳まれたお布団とったぞ眠り猫
ほぼ同じ形ですが、猫が布団に陣取っている様子をより可愛らしく描ける言葉はどれか、という観点で作っています。
この中だと一番下の「お布団とったぞ」が一番雰囲気が出ます。が、「とったぞ」という活き活きとした様子と「眠り」との相性が若干よろしくないのが気になるところ。
そして次は、季語を「干布団」に変えて試してみました。
その形がこちら。
干布団取り込めばそこは猫の城
干布団取り込み畳み猫の城
取り込めば猫の城なる干布団
猫の城取り込み畳んだ干布団
干布団畳めば猫様「苦しゅうない」
干布団畳めばにゃんこ「苦しゅうない」
この中だと、中の句と下の句で2句字余りになってしまいますが、下から2番目の「干布団畳めば猫様「苦しゅうない」」が私の中ではベスト。「猫様」を、中の句を7音に収められる「にゃんこ」にするかどうかで悩んだのですが、より城主らしさのある「猫様」のほうが上に感じました。
一方で、今まで起きて畳んだ布団だったものが干して取り込んだ布団に変わり、情景そのものが変化してしまっているのが難点。別に反則ではないのですが、同じ情景をいかにうまく描けるかを目指す場合は、ここは気になるところです。
そして最後。先に試して一旦置いておいた「〇〇〇〇〇布団畳めば猫の城」をもう一度試してみることにしました。
それがこちら。
休日や布団畳めば猫の城
季語でないものを「や」で詠嘆して季語を含むフレーズと組み合わせるという手法です。
この形だと、布団、猫、とのんびりした要素によって、休日ののんびりした様子を現わせます。
主役の座は「休日」に奪われることになりますが、その一方で、「布団畳めば猫の城」というどこか川柳っぽいおかしさのある要素によって「休日」のゆったりした様子を強調できるという結果に。これでだいぶ俳句らしくなりました。
そこで、この形を使うことにしました。
今回の推敲は、最後に視点を切り替えてみたら最初の構想が活きた、という流れになりましたね。
こういうことがあるからこそ、文章の推敲というのはやり出すと止まらなくなるのでしょうね……
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