3 / 14
魔王子の能力
しおりを挟む
「ここが冒険者ギルドか」
二階建ての建物を見上げて、サーガムはつぶやいた。
「なかなか立派な建物ですね」
エルタの言う通り冒険者ギルド、ココハンザ支部は目抜き通りでも特に目を引く大きさだった。お蔭ですぐに見つけることができた。こうして見ている間にも、何人もの人間が出入りをしている。
「たのもう!」
両開きの扉を開け放って中に入ると、受付らしいカウンターや、待ち合いのベンチに座っていた冒険者――服装や年齢、性別は様々だがここにいるのだからそうだろう――の視線がサーガムに集まった。通りの一般市民とは違い、即座に顔が背けられることはない。
(ほう、余を値踏みしておるのか?)
ならばと、サーガムも冒険者たちを見返し、仲間になり得そうな強者を探そうとしたが、
「こ、こちらへどうぞ」
空いている受付けから案内をされた。眼鏡を掛けた若い女で笑顔を浮かべているが、頬の引きつりを隠しきれていない。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
「うむ。これから世話になろうと思ってな。だがそちらにとっても余という極めて稀有な人材を迎えることは、これより先に計り知れぬ恩恵を得ることとなるだろう」
「新規のご登録ですね」
受付嬢は笑顔を崩さなかったが、引きつりがこめかみにも伝染していた。
「それでは当ギルドの登録資格を満たしているか、能力値の鑑定をさせて頂きます」
「鑑定するまでもなく、余の能力に不足などありえんがな」
「き、規則ですので……」
苛々がこちらまで伝わってきたが、それでも受付嬢は頑なに笑顔の形を保とうとしていた。そうするように教育されているのだろう。
「では頼む」
他者の能力を数値化して確認できる鑑定スキルはやや希少な部類に入るが、人材登用に関わる場所だけあって所持した人間を雇用しているようだ。武器や道具の鑑定も可能なため、スキル持ちは商人になる者も多い。実はエルタも鑑定能力を持っている。
「え……れ、レベル128!?」
受付嬢の顔から初めて笑みが消え、目を丸くして大声を出した。人間であれば、レベル30を超えれば相当な手練れだと言えた。レベル100以上というのは、人間にはどうあっても到達不可能な領域だろう。
「あり得ない……こんな数値……」
信じられないものを見たように、受付嬢の瞳が何度も瞬きを繰り返す。
「☆☆☆☆スキルがこんなに……うそっ、☆☆☆☆☆スキル!? なにこのスキル……これも……これも見たことない……」
受付嬢は眼鏡を外してレンズを丹念に拭き、掛け直した。それでも納得いかないのか、目を細めたりしている。
彼女が見ているはずのサーガムの能力値は――
サーガム レベル128 職業王子 攻撃力782 防御力476 魔力898
スキル 剣戦闘☆☆☆☆ 炎系魔法☆☆☆☆ 氷系魔法☆☆☆☆ 雷系魔法☆☆☆☆ 風系魔法☆☆☆☆ 土系魔法☆☆☆☆ 闇魔法☆☆☆☆☆ 召喚☆☆☆☆ 結界☆☆☆☆ 魔眼☆☆☆☆ 吸収☆☆☆☆ 恐怖☆☆☆ 再生☆☆☆
スキルの目安は、☆では基礎部分のみ使用可能。☆☆でそのスキルのプロフェッショナルと認知され、☆☆☆でプロの中でも一流。☆☆☆☆は能力を極めた達人。最高の☆☆☆☆☆は歴史上でも数人しか持ち得なかった、伝説級の能力となる。
「どうだ、問題はあるまい?」
ある筈がない。
「え? あ、はい、まったく問題ないです……いえでも、こんなの逆に問題なのかしら……?」
サーガムが声をかけると、受付嬢ははっとして我に返り頷きかけたが、途中で頭を振ってしまう。小声で自分に問いかけるように、ぶつぶつと続けている。
「む、やはり余は登録できぬのか?」
それは困る。勇者となる道程が、出だしから躓くことになってしまう。逆にというのは、能力値が高過ぎてということだろうか。まさか優秀さ故に弾かれようとは、思いも寄らなかった。
「い、いいえ、高レベル過ぎて問題だなんて規定はありませんので、ご登録できます……たぶん……」
受付嬢はまだ自信なさげであったが、彼女の気の変わらない内にさっさと登録をすることにする。
「では早速、手続きを頼む。余は一刻も早く、苦しみに耐えている者達を救いたいのだ」
「はい、それではこちらの書類にご記入をお願いします」
受付嬢はサーガムの熱意に打たれ――もしくは投げやりになったのか――作り笑いの表情に戻った。書類とペンを渡されたので、署名と犯罪歴の有無などといった確認事項に答えて書き込む。
「こちらがギルド証と、ガイドブックになります。違反があった場合追放処分もあり得ますので、禁則事項は必ずお目通しください」
「そうしよう」
熟読しなくてはなるまい。書物や人間界を知る魔族から学んだとはいえ、こちらの世界について知らぬことはまだまだ多い。気づかぬ内に規則を破りギルドを追放されたとあっては、勇者として格好がつかない。
(いや、ギルドを追放されながら独力で世界を救う勇者というのも悪くは――)
そこまで脳内で思考して、サーガムはたと思い出した。
「そうだ忘れるところであった。この者も登録を頼む」
今までサーガムの後ろで静かに控えていた、エルタを手で指し示す。少年従者は、ペコリとお辞儀をした。これからギルドの依頼を請け負っていくならば、エルタも冒険者として登録をしていた方がなにかと都合がいいだろう。
「そちらの子……そちらの方もですか?」
受付嬢はエルタを見て、訝しげに眉根を寄せた。エルタの外見は十代前半の人間の子供に見えるため、無理のないことではある。
「心配はいらぬ。余には及ばぬとはいえ、エルタは余の腹心。能力は保証しよう」
「はぁ、それでは鑑定させて頂きます」
受付嬢が眼鏡の縁を持ち上げてエルタを見据え――
「レベル96……嘘でしょ……こんな子供が……」
受付嬢の眼鏡がずり落ちた。呆然とつぶやいている。
エルタの能力値は――
エルタ レベル96 職業従者
攻撃力198 防御力243 魔力425
スキル 剣戦闘☆☆☆ 炎系魔法☆☆☆ 氷系魔法☆☆☆ 雷系魔法☆☆☆ 風系魔法☆☆☆ 土系魔法☆☆☆ 闇魔法☆☆☆☆ お世話☆☆☆☆ 鑑定☆☆☆
「やっぱりおかしいわよ……こんなの絶対あり得ない……私、おかしくなっちゃったのかしら……?」
「これ、どうした? 大丈夫か?」
サーガムの呼びかけにも反応せず、受付嬢は俯いてうわ言のようにボソボソと独り言ちていたが、しばらくして唐突に顔を跳ね上げた。
「すみません! 私、今物凄く体調が悪くて、代わりの者を呼んできますので少々お待ち下さい」
立ち上がって脱兎の如く席を離れる受付嬢を、サーガムは訳もわからず黙って見送った。
二階建ての建物を見上げて、サーガムはつぶやいた。
「なかなか立派な建物ですね」
エルタの言う通り冒険者ギルド、ココハンザ支部は目抜き通りでも特に目を引く大きさだった。お蔭ですぐに見つけることができた。こうして見ている間にも、何人もの人間が出入りをしている。
「たのもう!」
両開きの扉を開け放って中に入ると、受付らしいカウンターや、待ち合いのベンチに座っていた冒険者――服装や年齢、性別は様々だがここにいるのだからそうだろう――の視線がサーガムに集まった。通りの一般市民とは違い、即座に顔が背けられることはない。
(ほう、余を値踏みしておるのか?)
ならばと、サーガムも冒険者たちを見返し、仲間になり得そうな強者を探そうとしたが、
「こ、こちらへどうぞ」
空いている受付けから案内をされた。眼鏡を掛けた若い女で笑顔を浮かべているが、頬の引きつりを隠しきれていない。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
「うむ。これから世話になろうと思ってな。だがそちらにとっても余という極めて稀有な人材を迎えることは、これより先に計り知れぬ恩恵を得ることとなるだろう」
「新規のご登録ですね」
受付嬢は笑顔を崩さなかったが、引きつりがこめかみにも伝染していた。
「それでは当ギルドの登録資格を満たしているか、能力値の鑑定をさせて頂きます」
「鑑定するまでもなく、余の能力に不足などありえんがな」
「き、規則ですので……」
苛々がこちらまで伝わってきたが、それでも受付嬢は頑なに笑顔の形を保とうとしていた。そうするように教育されているのだろう。
「では頼む」
他者の能力を数値化して確認できる鑑定スキルはやや希少な部類に入るが、人材登用に関わる場所だけあって所持した人間を雇用しているようだ。武器や道具の鑑定も可能なため、スキル持ちは商人になる者も多い。実はエルタも鑑定能力を持っている。
「え……れ、レベル128!?」
受付嬢の顔から初めて笑みが消え、目を丸くして大声を出した。人間であれば、レベル30を超えれば相当な手練れだと言えた。レベル100以上というのは、人間にはどうあっても到達不可能な領域だろう。
「あり得ない……こんな数値……」
信じられないものを見たように、受付嬢の瞳が何度も瞬きを繰り返す。
「☆☆☆☆スキルがこんなに……うそっ、☆☆☆☆☆スキル!? なにこのスキル……これも……これも見たことない……」
受付嬢は眼鏡を外してレンズを丹念に拭き、掛け直した。それでも納得いかないのか、目を細めたりしている。
彼女が見ているはずのサーガムの能力値は――
サーガム レベル128 職業王子 攻撃力782 防御力476 魔力898
スキル 剣戦闘☆☆☆☆ 炎系魔法☆☆☆☆ 氷系魔法☆☆☆☆ 雷系魔法☆☆☆☆ 風系魔法☆☆☆☆ 土系魔法☆☆☆☆ 闇魔法☆☆☆☆☆ 召喚☆☆☆☆ 結界☆☆☆☆ 魔眼☆☆☆☆ 吸収☆☆☆☆ 恐怖☆☆☆ 再生☆☆☆
スキルの目安は、☆では基礎部分のみ使用可能。☆☆でそのスキルのプロフェッショナルと認知され、☆☆☆でプロの中でも一流。☆☆☆☆は能力を極めた達人。最高の☆☆☆☆☆は歴史上でも数人しか持ち得なかった、伝説級の能力となる。
「どうだ、問題はあるまい?」
ある筈がない。
「え? あ、はい、まったく問題ないです……いえでも、こんなの逆に問題なのかしら……?」
サーガムが声をかけると、受付嬢ははっとして我に返り頷きかけたが、途中で頭を振ってしまう。小声で自分に問いかけるように、ぶつぶつと続けている。
「む、やはり余は登録できぬのか?」
それは困る。勇者となる道程が、出だしから躓くことになってしまう。逆にというのは、能力値が高過ぎてということだろうか。まさか優秀さ故に弾かれようとは、思いも寄らなかった。
「い、いいえ、高レベル過ぎて問題だなんて規定はありませんので、ご登録できます……たぶん……」
受付嬢はまだ自信なさげであったが、彼女の気の変わらない内にさっさと登録をすることにする。
「では早速、手続きを頼む。余は一刻も早く、苦しみに耐えている者達を救いたいのだ」
「はい、それではこちらの書類にご記入をお願いします」
受付嬢はサーガムの熱意に打たれ――もしくは投げやりになったのか――作り笑いの表情に戻った。書類とペンを渡されたので、署名と犯罪歴の有無などといった確認事項に答えて書き込む。
「こちらがギルド証と、ガイドブックになります。違反があった場合追放処分もあり得ますので、禁則事項は必ずお目通しください」
「そうしよう」
熟読しなくてはなるまい。書物や人間界を知る魔族から学んだとはいえ、こちらの世界について知らぬことはまだまだ多い。気づかぬ内に規則を破りギルドを追放されたとあっては、勇者として格好がつかない。
(いや、ギルドを追放されながら独力で世界を救う勇者というのも悪くは――)
そこまで脳内で思考して、サーガムはたと思い出した。
「そうだ忘れるところであった。この者も登録を頼む」
今までサーガムの後ろで静かに控えていた、エルタを手で指し示す。少年従者は、ペコリとお辞儀をした。これからギルドの依頼を請け負っていくならば、エルタも冒険者として登録をしていた方がなにかと都合がいいだろう。
「そちらの子……そちらの方もですか?」
受付嬢はエルタを見て、訝しげに眉根を寄せた。エルタの外見は十代前半の人間の子供に見えるため、無理のないことではある。
「心配はいらぬ。余には及ばぬとはいえ、エルタは余の腹心。能力は保証しよう」
「はぁ、それでは鑑定させて頂きます」
受付嬢が眼鏡の縁を持ち上げてエルタを見据え――
「レベル96……嘘でしょ……こんな子供が……」
受付嬢の眼鏡がずり落ちた。呆然とつぶやいている。
エルタの能力値は――
エルタ レベル96 職業従者
攻撃力198 防御力243 魔力425
スキル 剣戦闘☆☆☆ 炎系魔法☆☆☆ 氷系魔法☆☆☆ 雷系魔法☆☆☆ 風系魔法☆☆☆ 土系魔法☆☆☆ 闇魔法☆☆☆☆ お世話☆☆☆☆ 鑑定☆☆☆
「やっぱりおかしいわよ……こんなの絶対あり得ない……私、おかしくなっちゃったのかしら……?」
「これ、どうした? 大丈夫か?」
サーガムの呼びかけにも反応せず、受付嬢は俯いてうわ言のようにボソボソと独り言ちていたが、しばらくして唐突に顔を跳ね上げた。
「すみません! 私、今物凄く体調が悪くて、代わりの者を呼んできますので少々お待ち下さい」
立ち上がって脱兎の如く席を離れる受付嬢を、サーガムは訳もわからず黙って見送った。
0
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる