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3つの依頼
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らしくないことだが、どうやら寝過ぎてしまったようだ。すっかり陽は高く登っている。
「エルタよ、なぜ起こさかったのだ?」
サーガムは、ベッドの脇で彼が目覚めるのをずっと待っていたらしい従者に問いかけた。
「お、お疲れかと思いましたので……」
エルタの返事は、なぜかぎこちない。普段なら実力行使してでもきっちり起床させようとしてくるのに、それがなかったのも変だった。
ふと見ると、反対側のベッドに腰掛けているマコトが妙ににやにやした顔でこちらを見ている。
(ふむ、余が眠っている内になにかあったか?)
エルタに目を戻すと、サーガムの直視に耐えられないという風に顔が背けられる。後ろめたいことがあるのは明白だった。
(さては余が寝こけている間に、ふたりで甘味でも食してきたか?)
エルタも魔族としてはまだまだ子供あるし、人間界の甘味に興味があってもおかしくはない。人間の女は、言わずもがなだろう。サーガムは、ひとり勝手に納得をした。
(そのようなことで立腹するほど、余は狭量ではないのだがな)
気付かぬ振りをしてやることにして、サーガムは立ち上がった。
遅めの朝食を済ませてから冒険者ギルドへ向かう。中に入ると、ミラーダが手を上げて挨拶をしてきた。
「やあ、待ってたよ、サーガム」
「うむ、待たせてすまぬ」
サーガムは素直に詫びたが、あんただけを待っていたわけじゃないから大丈夫だと訂正をされた。
「はい、まずは ギルドからの 特別報酬」
渡されたのは、金貨五枚だった。そのままエルタに預ける。
「討伐報奨金は手続きでもう二、三日かかるけど、もっと多いから期待していいよ」
「マコトの服の刺繍については、なにかわかったか?」
サーガムは尋ねたが、残念ながらミラーダは首を振った。
「それがねえ。そんな紋章を使ってる学校は、ないんだよ。似たような紋章を使ってる貴族はいくつかあったけど、全く同じってのはないね」
「そうか」
マコトの身元を探す手がかりとして、有力だと思ったのだが仕方がない。
「まあ、旅ではぐれたにせよ。家出したにせよ。捜索願いは出てるだろうし、その制服を見かけたことがないか触れ回ってもいるから、時期になにかわかるさ」
ミラーダはマコトを気遣って言ったが、当の本人はいつもの調子でけろっとしていた。
「あは、ありがとうございます」
「しかし、ただ待っているというわけにもいかぬな。余は歩みを止められぬのだ。なにかよい依頼はないか?」
民草を救うため。そして、勇者となるため。依頼をこなしていかなくてはならない。
「そうくると思って、見繕っといたよ」
ミラーダは得意げな笑みを見せて、付箋の付いたファイルを開いた。
「まずはこれだね。南の平原にいるゴブリンの討伐――」
「この町の警備隊はゴブリンも倒せぬのか?」
依頼内容はやぶさかではなかったが、率直な疑問をそのまま口にする。それでは護れるものも、護れまい。
「最後まで聞きなって、依頼はゴブリンの討伐に向かって捕らえられた騎士の救出だよ」
依頼の内容を終わりまで聞いても、サーガムの疑問を解消してくれるものではなかった。むしろ、騎士身分がゴブリンに捕獲されるとは、余計に情けない話のように思える。
それを察した様子で、ミラーダが続けた。
「もともと大した被害が出ているわけでもなかったんだけど、どうやらお偉いさんの子供の箔付けのための簡単な任務だったみたいだね。戦力も過剰なくらい用意して。ところが――」
そこまで言って、大げさに首を竦める。
「よせばいいのに、そのお子様がはりきっちゃったのか、突出して捕まっちゃったってわけ。残りの兵は手を出せなくなって撤退」
まるで本末転倒だ。実績を上げるつもりが、失態を演じてしまっている。
「もちろん、報酬は騎士様の無事が大前提なんで、ちょっと難しい依頼かもね。警備隊も体よく ギルドに責任を押し付けたいのかも」
確かに正面から敵を倒すだけの依頼より、慎重さが求められるだろう。すでに騎士が無事ではない可能性も高いが。
「それから、北の山岳地帯で目撃されるようになった巨人退治。あんたにとっては、こっちのほうが楽な依頼かもね」
「そうだな」
ミラーダに同意する。一口に巨人といっても様々な種族がいるが、サーガムに対抗できるような者は存在しないだろう。
「最後は、最近町の近郊で派手に暴れまわってる武装盗賊団の捕縛。これには警備隊も躍起になってるみたいだけど、神出鬼没なのと、盗賊の頭領が滅法強いらしくって上手くいっていないそうだよ」
現状、民が一番被害を受けているのは間違いなくこの依頼だろう。
「さあ、どうする?」
こちらの顔を覗き込んで、ミラーダが選択を求めてくる。サーガムは腕組みをして、今一度どの依頼を受けるべきがじっくりと考察をした。
「エルタよ、なぜ起こさかったのだ?」
サーガムは、ベッドの脇で彼が目覚めるのをずっと待っていたらしい従者に問いかけた。
「お、お疲れかと思いましたので……」
エルタの返事は、なぜかぎこちない。普段なら実力行使してでもきっちり起床させようとしてくるのに、それがなかったのも変だった。
ふと見ると、反対側のベッドに腰掛けているマコトが妙ににやにやした顔でこちらを見ている。
(ふむ、余が眠っている内になにかあったか?)
エルタに目を戻すと、サーガムの直視に耐えられないという風に顔が背けられる。後ろめたいことがあるのは明白だった。
(さては余が寝こけている間に、ふたりで甘味でも食してきたか?)
エルタも魔族としてはまだまだ子供あるし、人間界の甘味に興味があってもおかしくはない。人間の女は、言わずもがなだろう。サーガムは、ひとり勝手に納得をした。
(そのようなことで立腹するほど、余は狭量ではないのだがな)
気付かぬ振りをしてやることにして、サーガムは立ち上がった。
遅めの朝食を済ませてから冒険者ギルドへ向かう。中に入ると、ミラーダが手を上げて挨拶をしてきた。
「やあ、待ってたよ、サーガム」
「うむ、待たせてすまぬ」
サーガムは素直に詫びたが、あんただけを待っていたわけじゃないから大丈夫だと訂正をされた。
「はい、まずは ギルドからの 特別報酬」
渡されたのは、金貨五枚だった。そのままエルタに預ける。
「討伐報奨金は手続きでもう二、三日かかるけど、もっと多いから期待していいよ」
「マコトの服の刺繍については、なにかわかったか?」
サーガムは尋ねたが、残念ながらミラーダは首を振った。
「それがねえ。そんな紋章を使ってる学校は、ないんだよ。似たような紋章を使ってる貴族はいくつかあったけど、全く同じってのはないね」
「そうか」
マコトの身元を探す手がかりとして、有力だと思ったのだが仕方がない。
「まあ、旅ではぐれたにせよ。家出したにせよ。捜索願いは出てるだろうし、その制服を見かけたことがないか触れ回ってもいるから、時期になにかわかるさ」
ミラーダはマコトを気遣って言ったが、当の本人はいつもの調子でけろっとしていた。
「あは、ありがとうございます」
「しかし、ただ待っているというわけにもいかぬな。余は歩みを止められぬのだ。なにかよい依頼はないか?」
民草を救うため。そして、勇者となるため。依頼をこなしていかなくてはならない。
「そうくると思って、見繕っといたよ」
ミラーダは得意げな笑みを見せて、付箋の付いたファイルを開いた。
「まずはこれだね。南の平原にいるゴブリンの討伐――」
「この町の警備隊はゴブリンも倒せぬのか?」
依頼内容はやぶさかではなかったが、率直な疑問をそのまま口にする。それでは護れるものも、護れまい。
「最後まで聞きなって、依頼はゴブリンの討伐に向かって捕らえられた騎士の救出だよ」
依頼の内容を終わりまで聞いても、サーガムの疑問を解消してくれるものではなかった。むしろ、騎士身分がゴブリンに捕獲されるとは、余計に情けない話のように思える。
それを察した様子で、ミラーダが続けた。
「もともと大した被害が出ているわけでもなかったんだけど、どうやらお偉いさんの子供の箔付けのための簡単な任務だったみたいだね。戦力も過剰なくらい用意して。ところが――」
そこまで言って、大げさに首を竦める。
「よせばいいのに、そのお子様がはりきっちゃったのか、突出して捕まっちゃったってわけ。残りの兵は手を出せなくなって撤退」
まるで本末転倒だ。実績を上げるつもりが、失態を演じてしまっている。
「もちろん、報酬は騎士様の無事が大前提なんで、ちょっと難しい依頼かもね。警備隊も体よく ギルドに責任を押し付けたいのかも」
確かに正面から敵を倒すだけの依頼より、慎重さが求められるだろう。すでに騎士が無事ではない可能性も高いが。
「それから、北の山岳地帯で目撃されるようになった巨人退治。あんたにとっては、こっちのほうが楽な依頼かもね」
「そうだな」
ミラーダに同意する。一口に巨人といっても様々な種族がいるが、サーガムに対抗できるような者は存在しないだろう。
「最後は、最近町の近郊で派手に暴れまわってる武装盗賊団の捕縛。これには警備隊も躍起になってるみたいだけど、神出鬼没なのと、盗賊の頭領が滅法強いらしくって上手くいっていないそうだよ」
現状、民が一番被害を受けているのは間違いなくこの依頼だろう。
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