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女騎士救出1
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深夜、サーガムは廃村の中を姿を消して進んでいた。エルタと、マコトは近くの茂みで待たせてある。
(まさかここまで厳重だとは思わなかったぞ)
夜になってもさほど事態は好転しなかった。篝火があちこちに灯され、村の周りを巡回しているゴブリンもいる。明らかに襲撃を警戒していた。
(確かにこれでは迂闊に手は出せぬか)
サーガムのように魔法で姿を隠せる者か、訓練された隠密部隊でもなれれば救出は不可能に近いだろう。
(まぁ、人質さえ取り戻してしまえば、後はどうとでもなるがな)
廃村に住み着いているゴブリンは、精々4、50匹。ゴブリンの群れとしては、さほど多くもない。
(もっとも、ゴブリンなど万匹いようと余の敵ではないが)
自惚れでなく事実を確かめながら、迷うことなく足を進める。日中に村を観察した際に、騎士が捕らえられているだろう場所には見当を付けていた。
(村の家屋の中で見張りの付いていた建物はふたつ。もとは村長の物だったろう屋敷と、その裏手にある納屋だ)
当然、人質がいるのは後者だろう。
はたして納屋にたどり着くと、今も2匹のゴブリンが入口の両脇で見張りをしていた。
(夜もふけた。貴様らも眠りたかろう)
万一にも騒ぎ声など出されぬよう昏睡魔法で眠らせる。サーガムは倒れて音が立たぬようゴブリン達の体を支えてやり、そのまま納屋の影に隠した。
納屋の中に入ると囚われの騎士は、手足を拘束された状態で眠っていた。金髪の若い女だ。取り上げられたのだろう。剣だけでなく鎧も身に着けていなかった。
姿を現してそばにしゃがみ込み、縄を解いてやりながら告げる。
「起きろ。脱出するぞ」
「う……助け? やっと来てくれたのね。遅いじゃない」
騎士――といっても丸腰の今の状態では、とてもそうは見えないが――は瞳を輝かせながら、文句を言ってきた。外傷などがないことを確かめてから、立ち上がらせる。
「で、あなた誰? 誰の部下?」
「余は、サーガム。誰の部下でもない」
サーガムは訊かれたことに簡潔に答えた。女は、一瞬ぽかんとした表情をしてから、
「……ひょっとして冒険者なの?」
「そうでもある」
肯定する。
「信じられない。冒険者なんかに助けられるなんて。恥辱もいいところだわ」
悲劇だとでも言うように、女は天を仰いだ。騎士がゴブリンに捕らえられたことの方が余程恥ではないのかと思うが、口には出さないでおく。
「いい、このことは絶対に他言無用よ。もしも言いふらしたりしたら、このエレーナ・トゥルーズの名に置いて、あなたをギルドにいられなくするわよ。よーく覚えておきなさい」
エレーナ――そう依頼書に騎士の名前として記されていたのを思い出す――が、サーガムに指を突きつけた。有力貴族の娘だとは聞いていたが、助けられた相手に対して、よくここまで不遜になれるものだと思う。
「あぁ、そうしよう」
頷きながら、どうせ高額な報酬には口止め料も含まれているのだろうしなと、胸の内で付け加える。
「とにかく、気付かれぬ内に逃げるぞ」
サーガムはエレーナの腕を取ったが、それは失敗だった。
「逃げる? あなた、バカじゃないの? あんな邪悪なゴブリンどもをこのままにできるはずないでしょ! 私をこんな目に合わせたやつらが、のうのうと生きてるなんて少しも耐えられないわよ! 今すぐ殺しなさい! 皆殺しよ!」
口を抑えるべきだった。エレーナが大声で喚き散らしたことで、ゴブリン達に異変を気付かれてしまっただろう。
サーガムは舌打ちした。エレーナのためにしていた隠密行動が台無しである。外に出たらすぐに、空を飛んで離脱するべきかもしれない。こんな彼女に翼を見られるのは好ましくはないが、最悪記憶を消してしまえばいい。
「剣と鎧も取り返すのよ。王都一の名工に作らせて新調した鎧と、トゥルーズ家に代々伝わる宝剣なのよ! 剣だけは絶対、諦められないわ! トゥルーズ家の誇りをゴブリンになんて渡せるわけないでしょ?」
なおも現状が理解できず駄々をこねるエレーナを外に引きずり出して、サーガムも自身の認識の甘さを痛感した。
「……」
すでに納屋の周囲は、ゴブリン達に完全に包囲されていた。ひょっとすると、見張りの交代の時間でもあったのかもしれない。
(救出のみの依頼ではあるが、降りかかる火の粉は払わねばならぬか)
迎撃するための魔法を準備するが、意外にもすぐに襲いかかって来る者はいなかった。
ゴブリン達は松明や、武器を手にしてこちらをじっと伺っている。中心にいる巨大な個体――とっても人間と同程度の大きさだが――がリーダーらしい。手に持っているゴテゴテと下品に宝石が散りばめられた剣は、エレーナから奪い取ったものだろう。
「命が惜しくば道を開けよ」
「ナラ女オイテイケ」
期待せずに投げかけた言葉に、返事をされてサーガムは面食らった。
(まさかここまで厳重だとは思わなかったぞ)
夜になってもさほど事態は好転しなかった。篝火があちこちに灯され、村の周りを巡回しているゴブリンもいる。明らかに襲撃を警戒していた。
(確かにこれでは迂闊に手は出せぬか)
サーガムのように魔法で姿を隠せる者か、訓練された隠密部隊でもなれれば救出は不可能に近いだろう。
(まぁ、人質さえ取り戻してしまえば、後はどうとでもなるがな)
廃村に住み着いているゴブリンは、精々4、50匹。ゴブリンの群れとしては、さほど多くもない。
(もっとも、ゴブリンなど万匹いようと余の敵ではないが)
自惚れでなく事実を確かめながら、迷うことなく足を進める。日中に村を観察した際に、騎士が捕らえられているだろう場所には見当を付けていた。
(村の家屋の中で見張りの付いていた建物はふたつ。もとは村長の物だったろう屋敷と、その裏手にある納屋だ)
当然、人質がいるのは後者だろう。
はたして納屋にたどり着くと、今も2匹のゴブリンが入口の両脇で見張りをしていた。
(夜もふけた。貴様らも眠りたかろう)
万一にも騒ぎ声など出されぬよう昏睡魔法で眠らせる。サーガムは倒れて音が立たぬようゴブリン達の体を支えてやり、そのまま納屋の影に隠した。
納屋の中に入ると囚われの騎士は、手足を拘束された状態で眠っていた。金髪の若い女だ。取り上げられたのだろう。剣だけでなく鎧も身に着けていなかった。
姿を現してそばにしゃがみ込み、縄を解いてやりながら告げる。
「起きろ。脱出するぞ」
「う……助け? やっと来てくれたのね。遅いじゃない」
騎士――といっても丸腰の今の状態では、とてもそうは見えないが――は瞳を輝かせながら、文句を言ってきた。外傷などがないことを確かめてから、立ち上がらせる。
「で、あなた誰? 誰の部下?」
「余は、サーガム。誰の部下でもない」
サーガムは訊かれたことに簡潔に答えた。女は、一瞬ぽかんとした表情をしてから、
「……ひょっとして冒険者なの?」
「そうでもある」
肯定する。
「信じられない。冒険者なんかに助けられるなんて。恥辱もいいところだわ」
悲劇だとでも言うように、女は天を仰いだ。騎士がゴブリンに捕らえられたことの方が余程恥ではないのかと思うが、口には出さないでおく。
「いい、このことは絶対に他言無用よ。もしも言いふらしたりしたら、このエレーナ・トゥルーズの名に置いて、あなたをギルドにいられなくするわよ。よーく覚えておきなさい」
エレーナ――そう依頼書に騎士の名前として記されていたのを思い出す――が、サーガムに指を突きつけた。有力貴族の娘だとは聞いていたが、助けられた相手に対して、よくここまで不遜になれるものだと思う。
「あぁ、そうしよう」
頷きながら、どうせ高額な報酬には口止め料も含まれているのだろうしなと、胸の内で付け加える。
「とにかく、気付かれぬ内に逃げるぞ」
サーガムはエレーナの腕を取ったが、それは失敗だった。
「逃げる? あなた、バカじゃないの? あんな邪悪なゴブリンどもをこのままにできるはずないでしょ! 私をこんな目に合わせたやつらが、のうのうと生きてるなんて少しも耐えられないわよ! 今すぐ殺しなさい! 皆殺しよ!」
口を抑えるべきだった。エレーナが大声で喚き散らしたことで、ゴブリン達に異変を気付かれてしまっただろう。
サーガムは舌打ちした。エレーナのためにしていた隠密行動が台無しである。外に出たらすぐに、空を飛んで離脱するべきかもしれない。こんな彼女に翼を見られるのは好ましくはないが、最悪記憶を消してしまえばいい。
「剣と鎧も取り返すのよ。王都一の名工に作らせて新調した鎧と、トゥルーズ家に代々伝わる宝剣なのよ! 剣だけは絶対、諦められないわ! トゥルーズ家の誇りをゴブリンになんて渡せるわけないでしょ?」
なおも現状が理解できず駄々をこねるエレーナを外に引きずり出して、サーガムも自身の認識の甘さを痛感した。
「……」
すでに納屋の周囲は、ゴブリン達に完全に包囲されていた。ひょっとすると、見張りの交代の時間でもあったのかもしれない。
(救出のみの依頼ではあるが、降りかかる火の粉は払わねばならぬか)
迎撃するための魔法を準備するが、意外にもすぐに襲いかかって来る者はいなかった。
ゴブリン達は松明や、武器を手にしてこちらをじっと伺っている。中心にいる巨大な個体――とっても人間と同程度の大きさだが――がリーダーらしい。手に持っているゴテゴテと下品に宝石が散りばめられた剣は、エレーナから奪い取ったものだろう。
「命が惜しくば道を開けよ」
「ナラ女オイテイケ」
期待せずに投げかけた言葉に、返事をされてサーガムは面食らった。
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ご覧頂きありがとうございます。
どれが選ばれるのか想像して頂けたらと思います。
ご覧頂きありがとうございます。
複数の視点を入れられる様に、今回の小説は三人称にしてみました。
基本はサーガムの視点で進みますが、要所で他のキャラの視点も挟まれますので、それによって物語に深みが出ればと考えています。