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始まりの村編
発見、けれども
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風の加護を受けて走り始めて、途中すれ違う人々から奇異の視線を浴びながら、二十分ほど経った頃だった。
「おい、やっぱりだぞ」
先に見つけたのは、クロスケだった。目は、いいらしい。
「んー、あっ、あれか!」
少し遅れて僕にも、街道脇の大きな木の下に、座り込んでいる女性がいるのがわかった。
急いで――といっても、もともと限界まで速度は上げていたから、心理的な意味で――近づいてみると、体育座りで顔を膝に押し付けているけど、確かにジュリエッタさんだ。よかった~。ほんと、よかった。
「ジュリエッタさん、帰りましょう?」
彼女はこちらに気付いていないようだったので、僕は驚かさないように静かに声をかけた。
「えっ……あなた、なんでここに……?」
ゆっくりと顔を上げたジュリエッタさんは、泣いていた。
「ど、どうしたんですか!?」
僕は、あたふたした。なにかあったのだろうか? 彼女は、靴を側に脱ぎ捨てていた。歩き疲れただけならいいけど、ジュリエッタさんの様子は、もっと深刻な気がする。
「なにがあったんですか? 話してください」
僕は、彼女の横――正面はプレッシャーを与えると思って――に座って、話してくれるのを待った。驚いたことに、彼女の靴はヒールがあった。格好もワンピースだし、荷物も小さなリュックだけで、とても計画性があったとは思えなかった。昨日、僕が村に来なければ、きっと実行なんてしなかったんだろうな。そんなことを考えていたら、
「……私、足が痛くなっちゃって、ここで休んでたの」
ジュリエッタさんが足を撫でながら、おずおずと説明を始めてくれたので、僕は黙って耳を傾けた。
「そしたら、三人組の男達がやって来て、なんか胡散臭くて嫌だなって思ったんだけど、近くに馬車が止めてあるから、それに乗せてくれるって」
ここは街道なんだから、親切で言っているなら馬車でここまで来てくれればいいし、嘘だったんだろうな。
「どうしようか迷ったけど、どうしても城下町に行きたかったから、乗せてって頼んだわ。でも、少しお金がいるって。お金ならあるって言ったら、本当か見せてみろって言われて……」
「見せたのかよ、不用心すぎるだろ」
呆れた声で言ったのは、クロスケだった。おい、おい!
「え、なに、この猫が喋ったの!?」
案の定、ジュリエッタさんは、目を見開いてクロスケを見ている。
「おっと、思わず口に出ちまったぜ。あんまり、まぬけ――」
話が逸れるので、僕はクロスケの口を手で塞いだ。
「え、えぇ、珍しいんですよ、こいつ。それより、お金盗られちゃったんですか、全部?」
話を本筋に戻して尋ねると、彼女は頷いた。
「私、返してって言ったのに、あれがなくちゃ、どこにも行けないし。だから必死で、返してもらおうとしたんだけど……」
よく見ると、彼女の左頬は少し腫れていた。
「酷い……」
女性を――女の子を殴るなんて、信じられない。その男達に怒りが湧いた。
「……あのお金はヌガルさんが、村になにか困ったことが起きた時のために、貯めていたのものだそうですよ」
言おうかどうか迷ったけど、僕は、彼女に教えておくことにした。こんなことを繰り返してしまわないように、伝えておくべきだと思った。
「そんな……私……そんなこと、全然知らなかったから……パパのヘソクリだと思ってて……どうしよう、私……どうしたら……?」
予想通り、ジュリエッタさんは激しく狼狽した。このまま彼女を連れ帰っても、ヌガルさんは納得してくれるだろうと思う。けれど、
「その男達って、そのまま街道を進んで行ったんですか?」
「ええ……」
「それは、どのくらい前ですか?」
「まだ、三十分も経ってないと思うけど……」
今もクロスケにかけてもらった風の加護は、継続している。それなら、すぐに追いつけそうだ。
「取り返しましょう」
「えっ?」
僕の提案に、ジュリエッタさんは驚いた表情を見せた。
「まじかよ~」
クロスケの愚痴は、もうすっかり慣れたので無視する。
「なんで? どうして、そこまでしてくれるの?」
彼女に改めてそう聞かれたら、自分でもなんでだろうと思ってしまった。
「なんで、でしょうね? うーん、たぶん、そうしたほうがいいと思ったから。そして、今の僕ならそれができるんじゃないかと思ったから、ですかね?」
自分の考えをまとめながら、僕は答えた。
「さっ、乗ってください。僕が、おぶりますから」
僕は、しゃがんで彼女に背中を見せた。歩くのつらそうだし、少なくとも走るのは無理だろう。
「で、でも……」
「大丈夫ですよ。僕の靴には、風の加護がありますから」
それを信じてくれたのかどうかは、わからないけれど、ジュリエッタさんは僕の背中に体を預けてくれた。あれ、深く考えずにおんぶするなんて言っちゃったけど、足を抱えなくちゃいけないのか……でも、緊急事態だからしょうがないよね?
後ろに手を回して、彼女の足を持ち上げる。うわあぁっ、布越しでも太腿めちゃくちゃ柔らかい。駄目だ、駄目だぞ、僕! なに考えてるんだ! そんな場合じゃないだろ! なにも感じない、なにも考えない、ただ持ち上げるだけ。
「よっ!」
雑念を振り払えるように、気合を込めた掛け声を出して立ち上がった。ほとんど重さは感じない。よかった。これで倒れてたら、かっこ悪いどころじゃないもんな。
「おい、待てって」
クロスケは、ジュリエッタさんのリュックに体を潜り込ませたみたいだ。
「じゃあ、出発しますね?」
「……うん」
肩越しの問いかけに、彼女が小声で答えたのを確認して、僕は街道を先へと進み始めた。
「おい、やっぱりだぞ」
先に見つけたのは、クロスケだった。目は、いいらしい。
「んー、あっ、あれか!」
少し遅れて僕にも、街道脇の大きな木の下に、座り込んでいる女性がいるのがわかった。
急いで――といっても、もともと限界まで速度は上げていたから、心理的な意味で――近づいてみると、体育座りで顔を膝に押し付けているけど、確かにジュリエッタさんだ。よかった~。ほんと、よかった。
「ジュリエッタさん、帰りましょう?」
彼女はこちらに気付いていないようだったので、僕は驚かさないように静かに声をかけた。
「えっ……あなた、なんでここに……?」
ゆっくりと顔を上げたジュリエッタさんは、泣いていた。
「ど、どうしたんですか!?」
僕は、あたふたした。なにかあったのだろうか? 彼女は、靴を側に脱ぎ捨てていた。歩き疲れただけならいいけど、ジュリエッタさんの様子は、もっと深刻な気がする。
「なにがあったんですか? 話してください」
僕は、彼女の横――正面はプレッシャーを与えると思って――に座って、話してくれるのを待った。驚いたことに、彼女の靴はヒールがあった。格好もワンピースだし、荷物も小さなリュックだけで、とても計画性があったとは思えなかった。昨日、僕が村に来なければ、きっと実行なんてしなかったんだろうな。そんなことを考えていたら、
「……私、足が痛くなっちゃって、ここで休んでたの」
ジュリエッタさんが足を撫でながら、おずおずと説明を始めてくれたので、僕は黙って耳を傾けた。
「そしたら、三人組の男達がやって来て、なんか胡散臭くて嫌だなって思ったんだけど、近くに馬車が止めてあるから、それに乗せてくれるって」
ここは街道なんだから、親切で言っているなら馬車でここまで来てくれればいいし、嘘だったんだろうな。
「どうしようか迷ったけど、どうしても城下町に行きたかったから、乗せてって頼んだわ。でも、少しお金がいるって。お金ならあるって言ったら、本当か見せてみろって言われて……」
「見せたのかよ、不用心すぎるだろ」
呆れた声で言ったのは、クロスケだった。おい、おい!
「え、なに、この猫が喋ったの!?」
案の定、ジュリエッタさんは、目を見開いてクロスケを見ている。
「おっと、思わず口に出ちまったぜ。あんまり、まぬけ――」
話が逸れるので、僕はクロスケの口を手で塞いだ。
「え、えぇ、珍しいんですよ、こいつ。それより、お金盗られちゃったんですか、全部?」
話を本筋に戻して尋ねると、彼女は頷いた。
「私、返してって言ったのに、あれがなくちゃ、どこにも行けないし。だから必死で、返してもらおうとしたんだけど……」
よく見ると、彼女の左頬は少し腫れていた。
「酷い……」
女性を――女の子を殴るなんて、信じられない。その男達に怒りが湧いた。
「……あのお金はヌガルさんが、村になにか困ったことが起きた時のために、貯めていたのものだそうですよ」
言おうかどうか迷ったけど、僕は、彼女に教えておくことにした。こんなことを繰り返してしまわないように、伝えておくべきだと思った。
「そんな……私……そんなこと、全然知らなかったから……パパのヘソクリだと思ってて……どうしよう、私……どうしたら……?」
予想通り、ジュリエッタさんは激しく狼狽した。このまま彼女を連れ帰っても、ヌガルさんは納得してくれるだろうと思う。けれど、
「その男達って、そのまま街道を進んで行ったんですか?」
「ええ……」
「それは、どのくらい前ですか?」
「まだ、三十分も経ってないと思うけど……」
今もクロスケにかけてもらった風の加護は、継続している。それなら、すぐに追いつけそうだ。
「取り返しましょう」
「えっ?」
僕の提案に、ジュリエッタさんは驚いた表情を見せた。
「まじかよ~」
クロスケの愚痴は、もうすっかり慣れたので無視する。
「なんで? どうして、そこまでしてくれるの?」
彼女に改めてそう聞かれたら、自分でもなんでだろうと思ってしまった。
「なんで、でしょうね? うーん、たぶん、そうしたほうがいいと思ったから。そして、今の僕ならそれができるんじゃないかと思ったから、ですかね?」
自分の考えをまとめながら、僕は答えた。
「さっ、乗ってください。僕が、おぶりますから」
僕は、しゃがんで彼女に背中を見せた。歩くのつらそうだし、少なくとも走るのは無理だろう。
「で、でも……」
「大丈夫ですよ。僕の靴には、風の加護がありますから」
それを信じてくれたのかどうかは、わからないけれど、ジュリエッタさんは僕の背中に体を預けてくれた。あれ、深く考えずにおんぶするなんて言っちゃったけど、足を抱えなくちゃいけないのか……でも、緊急事態だからしょうがないよね?
後ろに手を回して、彼女の足を持ち上げる。うわあぁっ、布越しでも太腿めちゃくちゃ柔らかい。駄目だ、駄目だぞ、僕! なに考えてるんだ! そんな場合じゃないだろ! なにも感じない、なにも考えない、ただ持ち上げるだけ。
「よっ!」
雑念を振り払えるように、気合を込めた掛け声を出して立ち上がった。ほとんど重さは感じない。よかった。これで倒れてたら、かっこ悪いどころじゃないもんな。
「おい、待てって」
クロスケは、ジュリエッタさんのリュックに体を潜り込ませたみたいだ。
「じゃあ、出発しますね?」
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