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汪楓白、道士を志すも挫折するの巻
其の六
しおりを挟む「大体よ、俺さまが、こんなチンケな三下妖怪どもに、魅入られるワケねぇだろ! こっちが隷属させ、日々酷使してやってんのよ! そんなことも判らねぇのか、このクソが!」
暴論だ……暴論の極致だ! そんなの、どう考えたって……、
「判るワケないじゃないですか!」
『『『チッ!!!』』』
三妖怪も、彼の云い草に気分を害したらしく、銘々が三方向に顔をそむけて舌打ちする。
「ご主人さまに対し、口ごたえすんじゃねぇ!」
――スパパン、パンッ!
「ひぃっ! ご、ご主人さまって……勝手に決めないでくださいよ!」
なな、なんて奴、なんて奴だ! 今度は連続で、平手打ちを喰らわせやがった!
「あぁん? てめぇ、俺さまの下僕になりたくて、ここを訪ねたとか云ってたじゃねぇか」
もう、ムチャクチャだよ、こいつ! 云いザマが、いちいち腹立たしいったらない!
「ちがいます! 僕は道士さまに弟子入りしに来たんであって……いえ、もう結構です! そもそも、僕の目は節穴だったようだ……こんな悪逆非道なエセ道士だったなんて、知らなかった……とにかく、帰らせて頂きます! その妖怪どもは、あなたが責任持って退治しておいてくださいよ! さもないと、あなたの正体を、お役人に通報しますからね!」
僕は、ありったけの勇気を振りしぼり、ついに決定的な一言を口にした。
これだけ云えば、いくら横暴な相手でも、少しはひるむはずだ!
そうしたら、さっさと、こんな縁起クソ悪いトコ、おさらばだ!
と、思ったら……甘かった。
「莫迦か、てめぇ」
神々廻道士は、鉄扇を器用に、クルクルと回しながら、吐き捨てるように云った。
「は? どういう意味ですか!」
ついつい気になって、聞き返す僕。(やっぱ、律儀だなぁ……)
「莫ぁ迦、ばぁか、馬ぁ鹿、バァカ!」
神々廻道士は、悪ガキみたいに僕を指差し、皓歯を見せてゲラゲラと笑い出した。
「調子を変えて、何度も云わないでください! どういう意味ですか!」
これに神々廻道士、フンッと鼻を鳴らし、ますます尊大な態度で、しゃべり始めた。
「刃連宿では呀鳥を使い、怪鳥騒ぎを鎮圧したように見せかけ、圦宿では蒐影を使い、鬼憑き騒ぎを制圧したように見せかけ、先夜の『金玉飯店』では蛇那を使い、白蛇退治をまんまと演出……その他にも勢至門町だけにとどまらず、天凱府各地で三妖怪を上手く使役し、名を広め、民草を騙し、多額のお布施を巻き上げ、それを元手に遊興三昧……そんな俺さまの秘密を知られた以上、てめぇを生かしてこの廟から、帰すとでも思ってんのか?」
再び、スラリと抜いた偃月刀の切っ先を、僕の鼻先に突きつけ、神々廻道士は嘲笑う。
「うわぁ……云う必要もない秘密まで、ワザワザもらしちゃって……挙句、脅迫する!?」
まさか、そんな……嘘でしょ!?
知らなかった……裏で妖怪どもと組み、そんな悪事まで働いてたなんて、聞かされるまで全然、知らなかったよぉ! この人……いや、人じゃない! 鬼畜だ! 最低最悪だ! 本物の人非人だ! しかもあの目つき……殺す気満々じゃないかぁ! 妖怪どもも睨んでるし……こういう状況を、絶体絶命って云うんだぁ!
「しかし、俺さまは寛大だからな。てめぇの返答如何じゃあ、内臓引きずり出し、頭ぁかち割って、木端微塵斬りに、しないでやらなくもないんだぜ? ん? どうだ? あ?」
この物云い、所作態度、殺伐とした目……こいつ絶対、化他繰りより、妖怪より性質が悪いよ! 啊、終わりだ……一巻の終わりだ! とんでもない無理難題を、命じられるんだ! それで、できないからって理由をつけて、結局は今、云ったように……ひぃいっ!
身元不明の死体となって、憐れ荒野に転がる破目に……いや、妖怪どもにむさぼり喰われ、憐れ魂まで泥梨へ持ち去られる破目に……うわぁん! どっちも嫌だよぉ!
僕はただ凛樺を……愛する妻を、取り戻したいだけだったのに……そのため神々廻道士に弟子入りし、強くなりたいだけだったのに……弱っぴのまま、腰抜けのまま、死んじゃうんだ!
「えぐっ……えぐっ……凛樺ぁ……凛樺ぁ!」
僕は泪と鼻水を垂らし、無様にも嗚咽し始めた。みっともないのは重々承知だ。だけど、どうにも止められないんだ。そんな僕を見て、呆れた三妖怪が容赦ない舌鋒を向けて来る。
『まぁた、泣いてるわ。ホント、男のクセに、情けないヤツねぇ』
『ご主人、そいつは役に立たんぞ。さっさと殺してしまえばいい』
『そぅそ! これ以上、無駄な時間を、かける必要ないっすよ!』
埃まみれの床に泣き伏す僕は、「もうどうにでもしてくれ!」って感じだった。
なにせ、これだけ傲岸不遜な神々廻道士だ。
自分の秘密を守るためなら、僕なんか簡単に抹殺するだろう……と、思っていた。
ところが――、
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