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汪楓白、道士を志すも挫折するの巻
其の七
しおりを挟む「哈哈哈哈哈! 面白いな、お前! 惚れた女に振り向いてもらいたい一心で、命まで投げ出す覚悟だったか! なのに、いざその時が来たら、怖じけづいて泣きわめく……なんとも、人間臭くていいじゃねぇか! 大いに、俺さまの気に入るところだ! 望み通りに、下僕として酷使してやろう! 感謝しろよ! ……ぷっ、ぎゃあ哈哈哈哈哈哈哈哈ぁ!」
腹をかかえ、膝を叩き、泪を浮かべ、大笑いする神々廻道士の発したセリフが、すぐには理解できず、僕はキョトンとして泣き顔を上げた。すると神々廻道士は僕の顔を指差し、さらにゲタゲタと莫迦笑いする始末。
これは、これは……完全に侮辱されている……悲嘆に暮れていた僕の泪の色合いは、ここから少しずつ、微妙に悔し泣きへと変化していった。
だが、そんなことなどおかまいなしで、神々廻道士は着々と、話を先へ進める。
「じゃあ、まずは氏素性を名乗れ」
どうも腑に落ちない……納得がいかない……だけど、取りあえず今は、逆らわないのが賢明だろうな。この人、どう考えたって尋常な神経を、持ち合わせてないみたいだし……。
(はっきり云って、狂人だよ)
僕は泪をぬぐい、長袍の埃を払い、神々廻道士の前に、敢然と立ち上がって答えた。
「……汪楓白です」
「ふぅん、シロね」
「歳は二十四です」
「はぁ、青二才か」
「住まいは、勢至門町『仁王頭宿』の榊璽通り西『鯉風横丁』の三軒目です」
「ほぉ、売れない文士の貧乏長屋『肥溜め横丁』の三軒目」
「仕事は【劫初内】詰めの文官職で、出身は【劫族】中流階級……」
「へぇ、口先ばっかの賄賂汚職で、血筋はその他大勢と」
「あの……僕の云ったこと、ちゃんと聞いてました?」
「啊、この通り、帳面にも書いといた」
神々廻道士が、僕の目前に広げた帳面、そこには、汚い字でこう記されていた……肥溜め横丁に住む汚職役人なんの取り柄もない白面小僧シロ……ムッキ――ッ! もう、我慢ならない!
こいつ、どこまで僕を侮辱するつもりなんだ!
「事実と全然、ちがうじゃないですか! 訂正してください!」
「うるせぇ、シロ! ご主人さまに楯突くんじゃねぇ!」
「シロって……僕は犬じゃない!」
「喂、三莫迦。こいつ、喰い殺してかまわんぞ」
「あ――やっぱ、シロで結構でぇす❤」
畜生! 啊、なんて惨め……こんな無礼千万な奴に、いいようにあしらわれて……後ろでは三妖怪が、クスクス笑ってるし、僕の存在価値が、どんどん下がってくみたいだよぉ。
「じゃあ、次。お前の兄弟子どもを、あらためて紹介してやる」
だが、やはりそんなことなどおかまいなしで、神々廻道士は着々と、話の先を続ける。
三妖怪を、緊張する僕と対面させ、一人……いや、一匹ずつ、紹介し始めたのだ。
「こいつが《蛇那》……半陰陽の白蛇オカマ」
――ピキッ……あ、笑顔が引きつったぞ。ってか……この娘、雌雄同体ってコト!?
「こいつが《蒐影》……影武者で腹黒い策士」
――ピキッ……あ、口元がピクピクしてる。道士ってば、相手をイラ立たせる天才だね。
「こいつが《呀鳥》……赤刃の怪鳥で単細胞」
――ピキッ……あ、額の血管が浮き出した。どうやら、こいつが一番、気短そうだな。
「こいつが《シロ》……無様で女々しい文丑」
――ピキッ……あ、ついに〝怒り心頭に発す〟だ! 今の悪言は、聞き捨てならない!
「ちょっと待ってください! 無様で女々しい道化役!? あなた一体、僕について、なにを知ったかぶって、そんな罵詈雑言を云い放てるんですか! 前言撤回してください!」
即座に、神々廻道士の偃月刀が、僕の頬へ、ヒヤリとあてがわれる。
「あ――やっぱ、僕が前言撤回しまぁす❤」
ダメだ……こんな脅迫に屈するとは、僕ってば、なんて惨め……これじゃあ、存在価値も薄れるよなぁ……いや、負けるな、僕!
この場をしのいで廟から出たら、真っ先に判官所へ訴え出てやる! こんなイカサマ師と、悪逆な妖怪ども、処罰されるべきなんだ!
そう決心した刹那、僕は生涯で、最低最悪の不幸に見舞われた。
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