神さまなんて大嫌い!

緑青あい

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汪楓白、羞恥心の限界を超えるの巻

其の七

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「あの……僕の話、ご理解、頂けました?」
 直後、琉樺耶るかやの口から、信じがたい言葉が飛び出した。
「旦那さま……」
「へ?」と、間の抜けた声を発する僕。
「旦那さま、と……これからは、そうお呼びすればいいのね」
「は、はい!?」
 だ、旦那さま!? いきなり、なにを云ってるんだ!? まさか、衝撃で気が狂れてしまったんじゃ……と、次の瞬間、背後から壮絶なまでの殺意が、僕めがけて突進して来た。
「よくも、よくも、おねぇたまをぉ――っ! 死ねぇ――っ!」
 無論、茉李まつりである。
 彼女は裸のまま、大股で僕に駆け寄り、大鉞おおまさかりを僕の頭上へ、一気に振り下ろそうとした。
 怒り心頭で最早、恥も外聞もないらしい。
 僕は、迫り来る凶刃を、死を、絶叫とともに迎え入れる……はずだった。
「うわぁあぁぁぁあっ!」
 ところが! ここからまた、急転直下の逆転劇が始まったのだ。
「茉李、おやめ!」
 なんと、僕の前に出て、両腕を広げ、茉李の暴挙を制したのは、琉樺耶だった。
「ふえぇえ――んっ! だって、だって……おねぇたまぁあ――っ!」
 茉李はその理由を知っているようで、それでもあきらめきれず、駄々をこねているといった感じだ。僕にはまったくワケが判らず、疑問符だらけの頭をひねり、琉樺耶に訊ねた。
「あ、あの……どうして、僕を……?」
 すると琉樺耶は、大きなため息をつき、諦念しきった表情で、僕を振り返った。
「……一族の掟はね、絶対なのよ。だから、私……【嬪懐族ひんかいぞく】の掟に従い、今日よりあなたの、妻となります。ふつつか者ですが、どうか……よろしくお願いします、旦那さま」
 琉樺耶・突然の結婚申しこみに、僕は唖然呆然……驚愕のあまり、言葉を失いかけた。
「な、なんだってぇ!? 嬪懐族ぅ!? あなたがぁ!?」
【嬪懐族】……それは、生涯を戦神に捧げる男装の女戦士族だ。女尊男卑で、元服後(ここでは十五歳)、村落を出てからは、ひたすら武道に精進し、戦い続け、万が一、相手に負けた場合は、その男の妻にならねばならぬという、『鉄の掟』を持す少数種族である。
 ちなみに、相手が女だった場合や、どうしても意に染まぬ男の場合は、自害せねばならぬのだとも聞く。その上、決闘で負けた相手からは、指を切り取り、持ち去るため、別名【指狩り族】とも呼ばれている。ただ、【嬪懐族】の女性は、いずれも大柄で容貌魁偉ようぼうかいいの者が多いらしい(僕はこれまでに数度しか見たことはないけど、確かに、みんなそうだった)。
 だからこそ、美貌で細身の琉樺耶が、まさか【嬪懐族】だとは思いもしなかったのだ!
 そんな、折も折である。神々廻ししば道士が、再び姿を現したのは!
「おう、よかったじゃねぇか、シロ……いや、楓白ふうはくどの。新たな美人女房まで手に入ってよ」
 はぁ――っ!? 今更出て来て……なにを巫山戯ふざけたこと、云ってるんだ、この人は!?
「おめでと、シロ……いえ、楓白さま! さすが、私どもの元締めだわ! 尊崇します!」
「シロにしては……いや、楓白さまだからこそ、当然の勝利と云えるな。結構、実に結構」
「やっぱ、すげぇぜ! シロ……いや、楓白さま! 裏社会の顔役だけのこたぁ、あるぜ!」
 元の姿に戻り、勢ぞろいした蛇那じゃな蒐影しゅうえい呀鳥あとりも、神々廻道士に調子を合わせ、大袈裟に僕をほめたたえ、手ばたきまでしている。完全になめられてるよ……惨めだぁ、僕……。
(その上、相も変わらず、素っ裸だし……なんかもう、羞恥心まで薄れて来ちゃったよ)
 大体、元締めとか……僕はいつの間に、裏社会の顔役になったんだ!
 勝手に大悪党に、仕立て上げないでくれよ!
 どうしよう……このままじゃあ、こいつらの思う壺! 大罪人にされた挙句、死刑台へ向かう裏街道を、まっしぐらじゃないか!
「あ、あのね! あなたたち、よくもみんなで、寄ってたかって僕を……」
「まぁ、まぁ! そう照れないで、元締め! 私たちの大親分!」
「ようやく、好みの女を手に入れられたんだから、そう怒りなさんな!」
「俺は絶対、魑魅狩ちみがり琉樺耶をコレにするって、豪語してましたもんね、元締め!」
 蛇那は意味深に含み笑い、蒐影は黒目を妖しく光らせ、呀鳥は小指を立てて破顔する。
 僕の怒声は完全にさえぎられ、三妖怪の言葉を聞いた琉樺耶は、美しい眉宇をひそめた。
「それじゃあ……お前ら、最初から、私狙いで、こんな謀略を……?」
「こいちゅ……そこまで、おねぇたまを、ちゅきだったの……?」
 茉李まで、三妖怪と神々廻道士の嘘八百を信じ、僕を胡乱うろんな眼差しで見つめ始める。
「誤解です! 僕にはすでに凛樺りんかという、愛する妻が……むぐぐっ! お前こそ、この俺に最もふさわしい女……愛する妻だ、琉樺耶。今夜から早速、こいつで腰が立たなくなるまで、存分に可愛がってやるからな。寝るヒマなんかないぜ。愉しみにしてろよ。哈哈哈ハハハ
 本音を暴露しようとした途端、蒐影がまたしても僕の影に忍びこみ……僕は相も変わらず、ブラリむき出しのままの、僕の下腹部を指差し、ありえないセリフを吐いてしまった。
 す、すまない、凛樺! だけど、だけど、仕方ないんだよ! 大体さ……『妻になる』と、掟にのっとり、宣言はしたものの、僕の恥知らずなセリフを聞いて、琉樺耶は青ざめ、悪寒に震えているし……そりゃあ、そうだろう。
 彼女、相当な男嫌いみたいだし、僕のことだって、本心では恨んでるはずだし……なのに、旦那さま。【嬪懐族】ってつらいよなぁ。
「取りあえず、冷えて来たしよ。廟へ戻ろうか。元締めの女と、その妹分となりゃあ、俺たちも大歓迎だ。服だって、もっと上等でお似合いなヤツを用意してやるぜ。勿論、今宵の祝宴の用意も、抜かりなく……というワケで、元締めのため、気張ろうぜ、みなの衆!」
「「「承知!!」」」
 あぁ……また、ひとつ……懊悩の種が、増えそうだ……凛樺奪還の道も、遠ざかる……誰か、僕を憐れと思うなら、助けてください!
 無理? やっぱ、無理? ……そうだよね……哈哈、哈……ガックリ。僕は一見、意気揚々と、しかし内心、意気消沈して、神々廻道士たちに続き、蒐影に操られるまま、地獄の廟へと向かう白道びゃくどうを、歩み始めたのだ。

 〔暗転〕
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