神さまなんて大嫌い!

緑青あい

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汪楓白、唐突に再婚を迫られるの巻

其の参

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「こんな無節操な女は、やっぱり嫌い?」
 うるんだ瞳、震える朱唇……かぁ――っ! い、色っぽい! だけど……だけど……、
「とんでもない! ……いや、そうでなく、えぇと……僕には、その、妻が……」
「判っています。さっきも聞きましたから……私は、第二夫人でも、妾でも結構です。それでもご不満なら、ただの雌奴隷でかまわないと……そこまで、思いつめているのです」
 め、妾ぇ!? ならばまだしも……め、雌奴隷ぃ!?
 そこまでして、僕のそばにいたいと!? こんな美女が、嘘みたい!
 だけど……やっぱり、そんなのダメだよ!
 これは、凛樺りんかのためだけじゃない! 琉樺耶るかや自身の名誉のためにも、それだけは絶対に、しちゃいけない! 妾なんて……ましてや、雌奴隷なんて、絶対に、絶対にあり得ない! 
 僕はその点を、熱く語りかけ、琉樺耶の凄絶な決意を、なんとか解きほぐそうと試みた。
「琉樺耶さん! そんな風に、ご自分を卑下しないでください! あなたほど魅力的で美しい女性には、もっとふさわしい男が、他にいるはずだ! 本当に強くて、たくましくて、優しくて……あなただけを、一途に愛してくれる男が、きっと! だから、僕との婚礼は」
 けれど僕の弁舌に対し、琉樺耶が見せた態度は、驚くほど弱々しく、悲壮なものだった。
「……そうやって、私をていよく追い払いたいの? でも、あなたこそ、私より強くて、たくましくて……それを証明するように、力でねじ伏せたじゃないの……しかも、あんな屈辱的な方法で……それなのに、今更、非道いわ! 掟にそむき、私に死ねと云うの!?」
 顔をおおい、嗚咽をこらえる花嫁の姿は、憐れとしか云いようがなかった。 
 確かに、今の琉樺耶をこばむということは、彼女へ、死の宣告を与えているのに等しい。僕は呆然となり、最早、慰めの言葉も出て来ない。
 するとここで、僕らのやり取りを見かねた神々廻ししば道士と、広縁で婚礼寿歌を奏でていた三妖怪が、僕に代わって、しゃしゃり出て来た。
「元締めぇ、あんま女を泣かすなよ」
「そうだわ、シロちゃん。じゃなく、元締め! 女の真心を、踏みにじるつもり? 尤も、あなたは元来、そういう冷酷非道な性質たちだったものね! だけど……あんまりじゃない!」
「シロ……いや、色男だけに毎度やることが惨いですな、元締めは……同じ男として、いささか恥ずかしいですぞ。今度という今度は、嘘や演戯で女を騙すのは、やめてください」
「まさか、シロ……もとい、元締め! 初夜のお愉しみがすんだら、本当に、本気で、り捨て御免にする気だったんすか? こんだけの美女を? うはぁ――っ、勿体ねぇな!」
 次々と、とんでもない出まかせで僕を罵り、悪人に仕立て上げようとする三妖怪だった。
 隣では、それを聞き、神々廻道士が、笑いを噛み殺している……畜生っ!
 どこまで、卑劣で、卑怯で、あくどい男なんだ! もう、堪忍袋の緒が切れたぞ!
「な、なな、なに云って……そっちこそ、みんなして嘘八百並べないでくださいよ! 大体、元はと云えば、こうなったのは、誰のせいですか! あんたのせいでしょ、神々廻」
――ポキッ!
 いっ……いてぇえ――っ!
 神々廻道士は、彼を示し、叫んだ僕の人差し指を折り、ドスの利いた声で恫喝した。
「あぁ? なんだ? 今、なんつった? 誰のせい? おい……誰のせいだって!?」
「むむ……む、無論、僕の、せい、です」
 僕は激痛のあまり、泪目で、額に脂汗を浮かべ、辛うじて、か細い声をつむぎ出した。
「だったら、四の五の云わず、さっさと宴席に納まれや!」
 ひぃ――っ! 中指も、折られる!
 判った! 判ったよぉ! この場は、従うよぉ!
「は――い、はいはい。そうします」
 そうこうする間にも、三妖怪の演奏する『九献くこん言寿ことほぎ』は再開され、僕と琉樺耶は雛壇の曲彔きょくろくに、そろいの赤い婚礼衣装を着て、夫婦として座る破目になり、茉李まつりからは凄まじい殺気を秘めた眼光で睨まれ続け、神々廻道士の謀略に、すっかりからめ取られ……結局のところ、今後もさらに加速するであろう過酷な運命に、ただ流されて往くしかなかった。

 ……二世にせの契りに弥栄いやさか張って、
   此の合巹ごうきんに言寿ぞす……

 拷問だ……これは、もう、拷問そのものだ! ああ、凛樺! 許しておくれ!
 そして、天帝君てんていぎみ! こんな僕を、憐れと思うなら、どうか助けてください!

 ……現人神あらひとがみも弥栄張って、
   此の合巹に言寿ぞ生す……
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