神さまなんて大嫌い!

緑青あい

文字の大きさ
29 / 64
汪楓白、唐突に再婚を迫られるの巻

其の四

しおりを挟む

「……ああ」と、云う間に祝宴は終わり、僕は廟の最奥にある寝室で、ついに琉樺耶るかやと二人きりになってしまった。
 どうしよう……まずい、なんか、凄く緊張して来たぞ。そりゃあ、妻帯者だし、女性経験がないワケじゃないけど……こういう場合って、本当にどうすりゃいいのさ。だって琉樺耶とは出会ってまだ、半日も経ってないんだよ?
 なのに、もう初夜? 同衾どうきん
 彼女、本気で僕に身をまかす気でいるの? 衝立の向こうで、夜着に着替えてるみたいだけど……僕を心から、愛してるワケじゃないだろう?
 まさか……ねぇ?
 但し、僕は二人きりになれた唯一の利点を活かし、恐る恐るではあったが、衝立の向こうの琉樺耶に、あらためて本心を打ち明ける覚悟を決めた。なるべく相手を傷つけぬよう、だけど、僕の真意がちゃんと伝わるよう、慎重に言葉を選び、細心の注意を払いながら。
「とにかく、琉樺耶さん……あなたは僕を誤解している。茉李まつりちゃんもね。僕は全然、強くなんかないし、たくましくもない……お陰で妻には愛想尽かしされ、逃げられたほどで」
 すると、雪洞ぼんぼりの灯火が、ボンヤリと映し出す彼女の影が、ピタリと止まった。
 またしても可憐な泪声で、こんなことを問いかけて来る。
「そんな女のことを、まだ愛していると云うの?」
 僕は一瞬、琉樺耶を憐れに思い、また愛らしくも感じ、情に流されそうになった。
 でも、いけない! 心を鬼にして、しっかりと伝えなくちゃ!
「はい。愛しています……琉樺耶さんには、申しわけないけど……けどな、へへへ。夜間、臥所ふしどでの俺は、ケダモノだ。先刻云った通り、腰が立たなくなるまで、可愛がってるぜ」
 はぁ――い! 蒐影しゅうえいでぇす! これ、途中から、確実に、蒐影ですよぉ!
 絶対、絶対、僕じゃな――いっ! こんな破廉恥はれんちなこと、云える人間じゃな――いっ!
「あなたって……本当に、非道い人ね」
「そうだぜ、その非道い男に、これからたっぷり調教されるんだ。雌犬みてぇにな」
 耳……ふさぎたい。僕の声だと……思いたくない。もう、もう、もう……知らん。
 僕の意思など、完全無視……頭は、すっかり弛緩。体も、云うこと聞かん。
 恥も名誉も、要らん。なにもかも、破綻……って、悠長に韻を踏んでる場合じゃない!
 あぁあっ、畜生ぉ――っ!
 もう、どうにでも、なれぇ――っ!
哈哈哈ハハハァ! まずは、もう一度、裸にひんむいてやるぜぇ!」
 僕は蒐影に操られるまま、明衣あかはを脱ぎ捨て、下着姿になり、衝立を思いきり蹴り倒した。
 そうして蒐影は、着替え途中で肌も露な琉樺耶を、無理やり寝台に、押し倒すつもりだったんだろう。しかし、そんな蒐影の不埒な下心は、あっさりとくつがえされてしまった。
「動くんじゃないよ、この腐れ外道」
「いっ!?」
――シュンッ! 空を斬る刃音! ギラリと閃く殺意!
 僕の首元に突きつけられたのは、鋭利な懐剣……その上、琉樺耶は服を……それも、初見の時に着ていたのと同種の、ピッチリした革戦袍かわせんぽうと、壮絶な闘志を身にまとっていた!
「おねぇたま、大丈夫? 変なこと、ちゃれてない?」
 そこへ、またまた驚くことに茉李が登場した。しかも寝台の下から!
 なんで、そんなところに隠れてたのさ! 大鉞おおまさかり持って! ちょっと……いや、かなり恐怖だぞ!
 その上、相変わらず、幼児趣味の衣装でつつんだ完熟体型は、露出度全開で……大胆すぎるだろ!
 肩口も、腹部も、太腿も、背中も、普通の武術家なら、鎧や防具で守るべき大事な部分が、この娘の場合、全部丸出しなんだモンなぁ! だけど、似合ってるから、逆に凄い!
「心配無用さ、茉李……それにしても、あんたって娘は、演戯が下手すぎるよ」
「だってぇ……こいちゅ、本当に許せなかったんだモン!」
 可愛らしく頬をふくらませる茉李。琉樺耶は、片手で僕に懐剣を突きつけたまま、そんな妹分の頭を、そっとなでてやる。だが、ちょっと待てよ! 今の会話だと、まるで……、
「少しは、計画通りにやってくれなきゃあ、こいつらの……いや、神々廻ししば道士の泣きどころが、つかめないんだよ。だけど、まぁ……この小悪党だけでも、先に始末しておこうか」
「うん! そうちよ! 早く、頭叩き割って、内臓引きずり出ちて、ぎったぎたの肉塊に変えちゃお! 廟に潜入ちゅるための計画とはいえ、おねぇたまを、いじめたばちゅよ!」
 実に簡潔で的確で、判りやすい会話術、ありがとうございます……じゃない! 空恐ろしいこと、平気で云うな! もう、疑いようもない……けど、できることなら信じたい!
 あの、熱っぽい愛の告白と、甘い口づけを……僕は怖々と、真相を問いただした。
「それじゃあ、まさか……あなたたち、最初から、僕らに近づくため、ワザと……」
 アレ? 僕自身の思った言葉が、すんなり出るようになったぞ? 蒐影?
 いや、今はとにかく、事実を確認することが先決だ。すると、すがるように見つめる僕の目を、忌々しげに睨みつけ、琉樺耶は驚愕の事実(というより、至極当然な企み)を、打ち明けた!
「当たり前だ。誰が、あんな卑猥な真似する変態に、本気で嫁入りなんて考えるか」
「哈哈、哈……ご尤もで……」
 うわぁ……なるほど。道理で、都合のよすぎる展開だとは、思ってたよ。
 そもそも僕なんかが、こんな美女に、求愛されるワケがないよな。だけど、がっかりした半面、何故かホッと安堵もしているよ……いや、負け惜しみじゃなく、本当だってば!
 それにしても、あの、口づけは……やっぱり効いた。正直、陥落寸前でした、はい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...