神さまなんて大嫌い!

緑青あい

文字の大きさ
32 / 64
汪楓白、人生初の悪所落ちするの巻

其の壱

しおりを挟む

 そんなこんなで、翌日。
 僕は朝も早から神々廻ししば道士に呼び出され、迎えに来た蛇那じゃなと一緒に彼の居室へ向かった。
 嫌な予感がする……まさか、もう昨夜の演技がバレたのか? 僕と琉樺耶るかやたちが、裏で協力関係を結んだことも、すでに露見してるのか?
 だとしたら、ヤバい……ヤバいぞ!
 ああ! どっちみち、僕の首輪を見たら、一目瞭然か!
楓白ふうはく……あくまで、平静を装うんだよ。心を水面にたとえ、さざ波立たぬよう律するんだ。これだけ乱暴にあつかっても、引き千切れず、宝玉も壊せず、ビクともしないってコトは、今のところそれしかない。私たちの計画が今後、上手く往くかどうかは、あんたに懸かってるんだからね。くれぐれも、ボロを出すんじゃないよ。落ち着いて、しっかりおやり〉
 琉樺耶……ムチャだよ。
 他人が云うのはたやすいけど、当事者にしてみれば……とくに僕のような、雑念やムラッ気の多い人間にしてみれば、心を動かすなって方が無理難題で、不可能に等しいんだよ。
 啊……朝っぱらから、絶体絶命。
 憂患にさいなまれる僕は、それでもなんとか蛇那に続いて、長い回廊を怖々と歩み、ついに神々廻道士の居室前へ……ここで、蛇那が振り向きざま、悪戯っぽく笑って云った。
「昨夜のアレ……凄かったわねぇ。今度は私と、手合わせしてよね、シロちゃん❤」
「はい?」
 蛇那は、それだけ云い残し、さっさと今来た回廊を戻って往く。
 と、その時である。
――バァンッ!
 いきなり、居室の頑丈な鉄扉が開き、中から神々廻道士が現れたのだ。
 しかも彼は、あまりにも意外な格好をしていた。いつものボロけた道服姿ではない。
 縹色はなだいろ長袍ちょうほう、白地の筒細袴つつぼそばかま、七宝細工の飾り帯、その上、ボサボサ頭は、きちんと元結髷もとゆいまげにまとめられ、金のこうがいまで挿している。無精髭も綺麗に剃り、こうして見ると実は彼が、なかなかの男前だと判る。 とにかく今日の神々廻道士は、見ちがえるほど颯爽としている。
「往くぞ、シロ!」
「は!? なに!? なんですか、その格好!? 往くって、どこへ!?」
 呆気に取られ、質問攻めにする僕へ、神々廻道士は、驚きの発言を返した。
「決まってんだろ、悪所落ちだ。そう云うワケゆえ、琉樺耶! 亭主を借りるぞ!」
 僕の肩越しに、意外な人物へ声をかける神々廻道士だ。
 えぇえ!? る、琉樺耶!? まさか、心配して、僕のあと……ついて来てたのぉ!?
「ご、ごめんなさい、旦那さま……おそばを離れるのが、名残惜しくて」
 背後の支柱の影から、おずおずと現れたのは、確かに琉樺耶である。
 よもや、看破されるとは、思っていなかったのだろう。
 彼女は、しどけない寝巻姿のまま、バツが悪そうに、神々廻道士と僕の顔を見比べる。
 そして琉樺耶もまた、別人のような神々廻道士に驚き、大きな目をさらにみはっていた。
「よかったな、シロ。従順で淫乱な女房が手に入ってよ」
 神々廻道士は、僕の背中をポンと叩き、軽口(聞きようによっては非道いぞ)を放った。
「いや、それはっ……ちが」
 僕は慌てて否定しようとしたけど、琉樺耶に睨まれ急遽、対応の変更を余儀なくされた。
「ま、そうですねぇ。ホント、従順で、淫乱で……哈哈哈ハハハ
 神々廻道士は、そんな僕らの目配せに、気づいた風もなく云った。
「とにかく、往くぜ」
 神々廻道士は、相変わらず酒瓢箪さけびょうたんだけは手放さない。絶えず鬼去酒きこしゅをあおりながら、僕の腕を引っ張る。琉樺耶も僕らを止めるどころか、満面の笑みで送り出そうとする始末だ。
「往ってらっしゃいませ、旦那さま」
「えぇ!? 本当に、いいの!? だって、朝から悪所って……奥さんが!?」
「別に、かまいませんわ。旦那さまの、お好きなように」
 なんの衒いもなく、サラッと云ってのける琉樺耶だ……おい、喂、おい!
 こここそ、奥さんの出る幕でしょう! 
 神々廻道士に、怪しまれちゃうよ!
 だけど、当の神々廻道士は、妙な勘繰りや、猜疑心をいだくこともなく、豪快に笑い飛ばす度量の深さすら、持っていた。いつもとちがう……本当に、どうしちゃったんだ!?
「哈哈! 嫉妬深くなく、物分かりのいい女房で、本当によかったな、シロ!」
 僕は、にこやかに手を振る琉樺耶を、そして満面の笑みを湛える神々廻道士を、怪訝な表情で見つめていたが……結局、最後は、しびれをきらした神々廻道士に、無理やり(やっぱりね)廟から連れ出され、着の身着のまま、〝悪所落ち〟する破目となってしまった。
 ちなみにこれも、後日談だが――、
「ところで、悪所ってどこだい、茉李まつり
「おねぇたまってば、本当に初心うぶ……きゃあわいい❤」
「なにが云いたいのさ。早く教えなよ」
「悪所ってぇ……女が肢をおっぴろげるトコなのぉ❤」
「……肢を、おっぴろげるだってぇ?」
「うん! おっぱいも、もみもみちたい放題なのぉ❤」
「おっぱいも、もみもみって……は?」
「しゅっぽんぽんで、あんあんって、ちゅごいのぉ❤」
「啊! 要するに、遊郭のことだね!」
犬戯いぬたわけとか、菊花責きっかぜめとか、尺八とか……うふふ❤」
 赤らめた頬を、両手で押さえつつも、うら若い娘にあるまじきセリフを放つ茉李だ。
 琉樺耶は頭をかかえ、ヤレヤレと肩をすくめながら、恥知らずな妹分をたしなめた。
「……茉李、仮にも女の子なんだから、口の利き方に気をつけなさいね」
 それから琉樺耶は、あらためて廟の外の僕らを見やり、こんなことをつぶやいたそうだ。
「それにしても……こんな早朝から遊郭とは、妙だね。あいつ、大丈夫かな……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...