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汪楓白、人生初の悪所落ちするの巻
其の参
しおりを挟む「さぁ、入って……私たちも、愉しみましょう」
「あ、あのぉ……雁萩太夫、さん?」
「しぃ……ここでは、余計なおしゃべりは、要らないの……体で判り合えるわ」
雁萩太夫は、棒立ちのままの僕を、やや強引に寝台へ招き入れると、フカフカの敷布へ、横たわらせようとした 。
多分、遊郭仕様なんだろうな。水衣ほどに薄い襦袢からは、彼女の形よい二つのふくらみが透けて見え、僕の下腹部は、いよいよ準備を整えつつあった。
「で、でも、僕には愛する妻が……」
「今だけは忘れて、私だけを見て頂戴」
雁萩太夫は、僕の長袍をまくり上げ、裾細袴の帯を素早く解くと、中でだいぶ窮屈な思いをしていた〝僕自身〟をくつろげた。そうして、僕のモノを目にするや、彼女は瞠目。
「大きいのね……」と、小声でつぶやいた。
ひえぇ――っ! は、恥ずかしい!
もう、これで何回目!? この数日間で、かなりの人に見られちゃったよ!
でも、頼むから、待ってくれ! じゃないと、僕……本当に、凛樺を裏切る破目に……啊っ!
「あぁっ……だ、だけど、僕は……ほ、本当に、妻を愛して……うっ!」
「あら、こんなに固くして、まだ頑張るつもりなの?」
そう云いながら雁萩太夫は、小さな朱唇を精一杯広げ、なんと僕のアレを……ダ、ダメだ! それ以上は云えない! こんな美女が、凛樺でさえしてくれなかった行為を、いきなり!?
し、信じられない! でも、でも、でも!
やっぱり、ダメだってば――っ!
「はわわっ! いぃいっ……いけません! ぼ、僕は、絶対に妻を裏切れないんだぁあ!」
僕は雁萩太夫の結髪をつかみ、乱暴に引きはがそうとした。
たとえ、凛樺には裏切られたとしても……僕は、僕は、僕だけは、待ち続けるんだ!
彼女が僕の愛情に、気づいてくれる日を! そして、戻って来てくれる日を!
雁萩太夫は、僕のアレから唇を離し、ジッと上目づかいに僕を睨んでる。そして、しばしの沈黙……ハッ、まずい!
折角、太夫級の花魁が、ここまで奉仕しようとしてくれたのに、彼女を傷つけちゃったかな? 僕だって男だ、体は疼いて疼いて……でも、仕方ないよ!
体(とくに下半身)はどうあれ、今の言葉が僕の、嘘偽りない本心なんだから!
雁萩太夫は長嘆息をつき、寝台から降り立つと、大袖衫をはおりながらつぶやいた。
「……判ったわ。私の負け。嫌んなっちゃう。私って、そんなに魅力ない?」
「まさか! あなたは天女のようだ! 魅力のかたまりですよ!」
これも、僕の嘘偽りない本心だ。もう少しで、危なかったんだから……雁萩太夫の唾液で濡れたアソコは、優雅な白檀香を放っているし、下手したら彼女の口の中で爆発……と、とにかく!
ヤレヤレ、この分じゃあ、またぞろ自分を慰めてあげなきゃならないな……男ってヤツは、つくづく面倒臭い生き物だよな……ハァ。でも正直、惜しかったよなぁ。
(すまない、凛樺! でも、僕は自分に嘘がつけないんだ!)
「何度も云いますけど、あなたは本当に、天女だ! いや、天女以上に美しい女性だ!」
僕は先刻よりも、語気を強めて、雁萩太夫に本心を伝えた。彼女は艶然と微笑する。
「社交辞令、ありがと。ところで、あの人……まだ、危険な汚穢仕事に手を染めてるの?」
「え? まぁ、えぇと……はい」
「相変わらずね。本当に嫌々やってるのか、怪しいモンだわ」
「はぁ……それって、ど、どういう、ことで」
「なんでもないわ。無駄話はこの辺にして、お酒でも如何?」
「い、いえ……せ、折角ですが、ご、ご遠慮させて、ください。まだ、昼間ですし……」
「ふふふ、あなた、哥さんの知り合いにしては、随分とお行儀がいいのね。正反対だわ」
垂れ幕で隠れた寝台の上、雁萩太夫に背を向けて、一人行為に没頭しながら、やんわりと断る僕だった。
寸刻後、ようやっと小憎らしい〝小僧〟から解放された僕は、なんとも気まずい表情で、寝台を降り、雁萩太夫の座る円卓の斜向かいに佇立した。
すると雁萩太夫は、僕の(というか、男性全般の事情を)察してくれていたらしく、手水鉢を指差した。
汚れた手を洗えと、そういうことである。
「どうも、すみません……」
「べつに、謝ることないわ。そこまで愛される奥さまは、幸せ者ね」
「でも、逃げられましたけどね……」
「え?」
「い、いえ!」
手を洗い終わり、所在なげに立ち続ける僕に、雁萩太夫、今度は向かいの席を指差した。
僕は素直に従った。今、ここを出ても、どうせ神々廻道士に怒鳴られるだけだ。
「それで、ですね……師父のことなんですけど、実に勝手なお願いとは思いますが、今日のこと、上手く口裏を合わせて頂けませんか? 僕、情けないですけど、あの人にまったく頭が上がらなくて……云う通りにしないと、すぐ怒られちゃうんで、凄く困ってるんです。今日だって、僕の意志なんて完全無視。遊郭に、無理やり連れて来られちゃうし……」
「私のことも押しつけられちゃうしねぇ……はいはい。判ったわ。あなたの体伎は凄くって、四度は桃源郷を見たって、上手いこと云いつくろっといてあげるわよ。心配しないで」
いやいや、それは云いすぎだと思いますけど……でも、あんまり注文つけるのも気が引けるからなぁ……彼女の、太夫としてのメンツを、潰しちゃってるワケだし、仕方ないか。
で、またしても沈黙……雁萩太夫は、一人手酌で、朱盃に注いだ酒を呑みながら、深沈と物思いにふけっている様子。タマに、思わせぶりなため息をつく。優雅な白檀香が漂う。
啊、あの唇が、さっき……僕の息子を……いやいやいや! もうそこから、気を逸らせ、楓白!
思い出すと、またまた体が火照って、寝た子が元気を取り戻しちゃうから!
とにかく! とにかくだ! それは一旦、忘れるとして、やっぱり、美しいな……雁萩太夫。
凛樺には、本当に本当に悪いと思うけど、とくに横顔なんて完璧だ。絵師の佳山君がここにいたら、絶対、彼女を画題にしたいと云い出すだろうな……だが雁萩太夫は、そんな僕の熱い視線に気づいたのか、横目で僕を一瞥し、ポツリポツリと、昔話を語り始めた。
「私ねぇ、哥さんとは幼馴染みなのよ。信じられないでしょうけど、昔は【劫初内】に住んでたの。私たちの父親が、それぞれ朝廷に勤める高位役人だったから……あの日までは」
「ご、劫初内!? 高位役人!? あなたと……師父の御父上が!?」
嘘でしょお!? だって雁萩太夫はとにかく、神々廻道士が以前、国家の中枢機関である【劫初内】に暮らしてたなんて……いくら想像力の豊かな僕でも、想像できないよぉ!
だけど、雁萩太夫の表情も口調も、至って真面目だし……いや、でも、まさか……。
すると、困惑する僕に気づいたらしく、雁萩太夫は苦笑いし、話を打ち切ろうとした。
「作り話が嫌いなら、ここでやめるわよ」
「い、いいえ! 信じます! 続けてください!」
そうだ。たとえ、どんな内容であれ、神々廻道士の秘密に近づけるなら、聞いておいて損はないはずだ。とにかく、真偽のほどは、話をすべて聞いてから考えることにしよう。
そこで、僕は雁萩太夫を促し、是非にと頼んで話の先を続けさせた。雁萩太夫は、朱盃の酒を一口呑み、大きく吐息する。
啊、あの唇が、さっき……僕の息子を……だ、だからぁ!
好い加減、そこから気を逸らせっての、莫迦楓白! 今は、大事な話の途中だろ!
けれど雁萩太夫が、僕の脳内戦争になど気づくはずもなく、酒で濡れた唇を、ペロリとなめ(うわぁ、妖艶だなぁ)、やがて深沈たる面持ちで、再び驚きの内容を語り始めた。
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