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汪楓白、男色の危機に晒されるの巻
其の四
しおりを挟む「最早、堪忍ならぁん! 貴様だけは、本気で潰す!」
「おっと……火に油注いじゃったね。こりゃまずいな」
「やめてっ……あぶ、危ないっ! ひえぇえ――っ!」
――キィィィンッ!
「「「……」」」
刹那、燕隊長の段平刀と、総髪美青年の匕首が、ほぼ同時に、僕の首筋で交差された。
つまり、僕の首をはさみつけるように、左右から凶刃が、かち合ったワケだ。
僕は恐怖のあまり、棒立ちで一歩も動けない。間一髪って、まさにこのことだよ!
本当に、本当に、二人の殺意は、僕の首ひとつ分のところで、止まったんだから!
すると、総髪美青年の方から先に、ゆっくりと匕首を退いた。
そうして、僕の体を捕まえたまま、背後の嵌め殺し窓まで、ジリジリと後退する。
燕隊長は、人質に取られた僕の身を案じてか、それ以上、接近しようとしない。
それをいいことに、総髪美青年は、勝ち誇った含み笑いを交えて、かくうそぶいた。
「さてと、お遊びはここまで。それじゃあ、楓白君。またね……君の尻、最高だったよ」
――ガシャァアァァァンッ!
ご丁寧に、僕の尻をなでさすった直後、彼は嵌め殺し窓を蹴破り、外へ飛び出した。
えぇえ!? ここって確か、四階だったよねぇ!?
しかし、その心配は杞憂だった。相手は邪鬼だ。闇夜を悠々と舞い、あっと云う間に篝火で明るい中庭へ着地すると、そのまま地中へともぐりこみ……姿を消してしまったのだ。
ここで僕は、今更ながらハッとして、消え往く総髪美青年へ、怒声を投げつけた。
「ちょ、ちょっと! これ以上、人聞きの悪いこと、云うなぁ――っ!」
とにかく、それだけ叫ぶのがやっとだった。
あとは、張り詰めていた緊張の糸が、プツリと切れたお陰で、その場に腰砕け。僕はもう、呆然とへたりこんでしまった。
一方で、僕の真横に並び立つ燕隊長は、階下を睨んでは、忌々しげに舌打ちするばかり……ただ今の騒ぎに驚き、心配して駆けつけた部下たちを、非道く不機嫌な表情で追い払った。
そして……再びの静寂。
途轍もなく重苦しい静寂。
雨は上がったらしいが、割れた窓から吹きこむ夜風が、どことなく不穏な感じだ。
僕は、こんなことになってしまった責任の一端を感じ、黙ってうつむいていた。
やがて、燕隊長は長嘆息を吐き、僕に詰問した。
「先生……これは一体、どういうことです?」
「え……どうって?」
ってか、なんで鍵をかけたんです?
そんな、うるんだ目で僕を見るんです?
なんか、ますます嫌な予感が……先刻の会話から察するに、やっぱりこの人、男色みたいだし……うわぁ!
襲われたりしたら、どうしよう!
だって、密室に二人きりだし、この人、僕のこと誤解してるし、隊服の襟をゆるめてるし、啊……なにより、隣室には、この人の休憩所……つまり、寝台まであるじゃないか! どうしてもっと早く、気づかなかったんだ!
さらに、僕の疑念と恐怖をあおるように、燕隊長は信じがたいセリフを云い放った。
「どうして、あんな奴に、みすみす身をゆだねたのですか……あんな、下衆な三下邪鬼に、いいようにもてあそばれた挙句、罪をかさねて、脱獄を幇助するなんて! 嘆かわしい!」
真面目な顔して、なんてこと……誤解にも、ほどがあるよ……啊、頭が、痛い。
「燕隊長、莫迦なこと、云わないでください! 僕だって、終いにゃ本気で怒りますよ!」
僕は猛然と立ち上がり、燕隊長の端整な、しかし今にも泣きそうな、僕への憐れみに満ちた顔を、ギッと睨みつけた。すると勢いで、僕の長袍の襟元から、首輪の宝玉が飛び出した。それに目を留め、乱暴につかんで引き寄せ、燕隊長がさらに語気を荒げて、云いつのった。
「では、この場で身の潔白を、貞操の純潔を、しかと証明できますか? こんないかがわしい首輪まで嵌められて、まるで雌犬ではないか! 男として、恥ずかしくはないのか!」
ち、近い! 顔が近い! なんか、怖い! 目が血走ってるよ、この人!
「これは! 神々廻道士が、無理やり……」
「つまり、劉晏に、犯された? うぬぅ――っ! それは、いよいよもって……」
それこそ、絶対に、あり得ぇ――んっ!
「先生、とにかく隣室へ……そこで、念入りにお体を調べさせて頂きます! あなたの云うことが本当か、否か……それに、あのような汚らわしい邪鬼に、尻を犯されたとなると、早々に処置しておかねば! 場合によっては、僭越ながらこの私めが、今宵は身を粉にしてでも、清めて差し上げねば! 鬼業の障りが出る前にね! さぁ、先生……二人きりだし、男同士だし、なにも遠慮は要りません! ただちに、隣室へ移動してください!」
ひえぇ――っ! そういう展開!?
やっぱ、そういう展開を繰り広げる人なの!?
いくら相手が美男子でも、それだけは、勘弁してくれぇ――っ!
「いいえ、結構です! 僕は犯されてなんかいませんし、鬼業に汚れてもいません!」
「ならば、この場で下穿きを脱ぎなさい。確認がすむまで、解放しませんよ」
声が……声が、一段と低くなって、怖い! ダメだよ、絶対……下穿きなんか脱いだら、それこそ……この人、確認だけじゃあ、済ませてくれないよ!
だけど、僕がモタモタしている間にも、燕隊長は僕の裾細袴の帯に手をかけ、さらにもう一方の手で、尻をなでさすり……うげぇっ! これじゃあ、さっきの妖怪と、おんなじじゃないかぁ――っ!
「ちょ、ちょ、ちょっと! 燕隊長! やめてくださ……いっひ――っ!」
刹那、ズンッ……と、肛門に激痛が走り、僕は悲鳴を上げて、飛び上がった。
燕隊長が、僕の後孔に親指を突っこみやがったんだ! いわゆる、浣腸ってヤツ!
「痛いですか?」
「いぃっ……痛くないワケ、ないでしょうが! いきなり、なにを……くぅっ!」
僕は尻を押さえたまま、悶絶している。燕隊長は、涼しい顔で僕を見ている。
血っ! 血っ! 血が出たかもしんないぞ! 最悪だよ、もう!
「おかしいな。日毎夜毎に、劉晏から鬼畜のような調教を受け、奴の汚い魔羅を、ぶっこまれ続けているワリには、つぼみが固すぎる。女のアソコとちがって、普通、尻は使いこめば使いこむほど、括約筋にゆるみが出て、酷くなると直腸の一部が飛び出し、めくれあがり、挿れてもガバガバで、まったく締めつけなくなるものなのですが……先生のは随分」
ブツブツと独語する燕隊長……ちょっと! そっち系の知識、多すぎでしょ! しかも、僕を神々廻道士の、犬みたいに誤解して……もう、頭来たぞ! この男色莫迦隊長めぇ!
「燕隊長! 僕は、あんな奴と、そんなことには、絶対、絶対、絶対、絶対、なりませんから! 侮辱にも、ほどがあります! 今の行為についても、僕に、謝ってください!」
僕は勇気をふりしぼり、ハッキリと宣告した。
ところが、燕隊長の誤解は、まだ続いていた。
「奴が、首輪を嵌めてまで、可愛がる先生だ。さぞや、使い勝手がいいんでしょうな」
「あの……僕の話、聞いてます?」
「あるいは、媚薬など用いて、先生の意識を奪い、記憶まで操作しているのでは……」
「だから、燕隊長! 僕の話を、少しは聞いてくださいよ!」
「尻には、丹念に香油をぬりこんで、指を使ってよくほぐし、ほどよく仕上がったら」
「ちょっと! 燕隊長! それ以上云ったら、本当に、本気で殴りますよ!」
「四つん這いにさせて後ろから、肛門が傷つかないよう、ユルユルと……いや、それより先生の乱れた表情を、よくよく観察するために、前からということも……いずれにせよ」
「え、ん、た、い、ちょ――っ! やっぱ一発、殴らせてもらいます!」
「先生! お可哀そうにぃ! 私でよければ、今すぐにも慰めて差し上げます!」
――ガバッ!
「ひあっ……」
本気で殴りかかろうとした僕を、燕隊長は振り向きざま、思いきり抱きすくめた。目に泪を一杯ためて……そのまま、隣室の寝台へと、押しやられそうになり、僕は倉皇した。
だぁかぁらぁ! どうして、こうなっちゃうんだよぉ――っ!
「だぁ――っ! 好い加減にしろぉ――っ!」
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