神さまなんて大嫌い!

緑青あい

文字の大きさ
45 / 64
汪楓白、男色の危機に晒されるの巻

其の四

しおりを挟む

「最早、堪忍ならぁん! 貴様だけは、本気で潰す!」
「おっと……火に油注いじゃったね。こりゃまずいな」
「やめてっ……あぶ、危ないっ! ひえぇえ――っ!」
――キィィィンッ!
「「「……」」」
 刹那、えん隊長の段平刀だんびらがたなと、総髪美青年の匕首あいくちが、ほぼ同時に、僕の首筋で交差された。
 つまり、僕の首をはさみつけるように、左右から凶刃が、かち合ったワケだ。
 僕は恐怖のあまり、棒立ちで一歩も動けない。間一髪って、まさにこのことだよ!
 本当に、本当に、二人の殺意は、僕の首ひとつ分のところで、止まったんだから!
 すると、総髪美青年の方から先に、ゆっくりと匕首を退いた。
 そうして、僕の体を捕まえたまま、背後の嵌め殺し窓まで、ジリジリと後退する。
 燕隊長は、人質に取られた僕の身を案じてか、それ以上、接近しようとしない。
 それをいいことに、総髪美青年は、勝ち誇った含み笑いを交えて、かくうそぶいた。
「さてと、お遊びはここまで。それじゃあ、楓白ふうはく君。またね……君の尻、最高だったよ」
――ガシャァアァァァンッ!
 ご丁寧に、僕の尻をなでさすった直後、彼は嵌め殺し窓を蹴破り、外へ飛び出した。
 えぇえ!? ここって確か、四階だったよねぇ!?
 しかし、その心配は杞憂だった。相手は邪鬼だ。闇夜を悠々と舞い、あっと云う間に篝火かがりびで明るい中庭へ着地すると、そのまま地中へともぐりこみ……姿を消してしまったのだ。
 ここで僕は、今更ながらハッとして、消え往く総髪美青年へ、怒声を投げつけた。
「ちょ、ちょっと! これ以上、人聞きの悪いこと、云うなぁ――っ!」
 とにかく、それだけ叫ぶのがやっとだった。
 あとは、張り詰めていた緊張の糸が、プツリと切れたお陰で、その場に腰砕け。僕はもう、呆然とへたりこんでしまった。
 一方で、僕の真横に並び立つ燕隊長は、階下を睨んでは、忌々しげに舌打ちするばかり……ただ今の騒ぎに驚き、心配して駆けつけた部下たちを、非道く不機嫌な表情で追い払った。
 そして……再びの静寂。
 途轍もなく重苦しい静寂。
 雨は上がったらしいが、割れた窓から吹きこむ夜風が、どことなく不穏な感じだ。
 僕は、こんなことになってしまった責任の一端を感じ、黙ってうつむいていた。
 やがて、燕隊長は長嘆息を吐き、僕に詰問した。
「先生……これは一体、どういうことです?」
「え……どうって?」
 ってか、なんで鍵をかけたんです? 
 そんな、うるんだ目で僕を見るんです?
 なんか、ますます嫌な予感が……先刻の会話から察するに、やっぱりこの人、男色みたいだし……うわぁ!
 襲われたりしたら、どうしよう!
 だって、密室に二人きりだし、この人、僕のこと誤解してるし、隊服の襟をゆるめてるし、ああ……なにより、隣室には、この人の休憩所……つまり、寝台まであるじゃないか!   どうしてもっと早く、気づかなかったんだ!
 さらに、僕の疑念と恐怖をあおるように、燕隊長は信じがたいセリフを云い放った。
「どうして、あんな奴に、みすみす身をゆだねたのですか……あんな、下衆な三下邪鬼に、いいようにもてあそばれた挙句、罪をかさねて、脱獄を幇助するなんて! 嘆かわしい!」
 真面目な顔して、なんてこと……誤解にも、ほどがあるよ……啊、頭が、痛い。
「燕隊長、莫迦ばかなこと、云わないでください! 僕だって、終いにゃ本気で怒りますよ!」
 僕は猛然と立ち上がり、燕隊長の端整な、しかし今にも泣きそうな、僕への憐れみに満ちた顔を、ギッと睨みつけた。すると勢いで、僕の長袍ちょうほうの襟元から、首輪の宝玉が飛び出した。それに目を留め、乱暴につかんで引き寄せ、燕隊長がさらに語気を荒げて、云いつのった。
「では、この場で身の潔白を、貞操の純潔を、しかと証明できますか? こんないかがわしい首輪まで嵌められて、まるで雌犬ではないか! 男として、恥ずかしくはないのか!」
 ち、近い! 顔が近い! なんか、怖い! 目が血走ってるよ、この人!
「これは! 神々廻ししば道士が、無理やり……」
「つまり、劉晏りゅうあんに、犯された? うぬぅ――っ! それは、いよいよもって……」
 それこそ、絶対に、あり得ぇ――んっ!
「先生、とにかく隣室へ……そこで、念入りにお体を調べさせて頂きます! あなたの云うことが本当か、否か……それに、あのような汚らわしい邪鬼に、尻を犯されたとなると、早々に処置しておかねば! 場合によっては、僭越ながらこの私めが、今宵は身を粉にしてでも、清めて差し上げねば! 鬼業きごうの障りが出る前にね! さぁ、先生……二人きりだし、男同士だし、なにも遠慮は要りません! ただちに、隣室へ移動してください!」
 ひえぇ――っ! そういう展開!?  
 やっぱ、そういう展開を繰り広げる人なの!?
 いくら相手が美男子でも、それだけは、勘弁してくれぇ――っ!
「いいえ、結構です! 僕は犯されてなんかいませんし、鬼業に汚れてもいません!」
「ならば、この場で下穿きを脱ぎなさい。確認がすむまで、解放しませんよ」
 声が……声が、一段と低くなって、怖い! ダメだよ、絶対……下穿きなんか脱いだら、それこそ……この人、確認だけじゃあ、済ませてくれないよ!
 だけど、僕がモタモタしている間にも、燕隊長は僕の裾細袴すそぼそばかまの帯に手をかけ、さらにもう一方の手で、尻をなでさすり……うげぇっ! これじゃあ、さっきの妖怪と、おんなじじゃないかぁ――っ!
「ちょ、ちょ、ちょっと! 燕隊長! やめてくださ……いっひ――っ!」
 刹那、ズンッ……と、肛門に激痛が走り、僕は悲鳴を上げて、飛び上がった。
 燕隊長が、僕の後孔に親指を突っこみやがったんだ! いわゆる、浣腸ってヤツ!
「痛いですか?」
「いぃっ……痛くないワケ、ないでしょうが! いきなり、なにを……くぅっ!」
 僕は尻を押さえたまま、悶絶している。燕隊長は、涼しい顔で僕を見ている。
 血っ! 血っ! 血が出たかもしんないぞ! 最悪だよ、もう!
「おかしいな。日毎夜毎に、劉晏から鬼畜のような調教を受け、奴の汚い魔羅まらを、ぶっこまれ続けているワリには、つぼみが固すぎる。女のアソコとちがって、普通、尻は使いこめば使いこむほど、括約筋にゆるみが出て、酷くなると直腸の一部が飛び出し、めくれあがり、挿れてもガバガバで、まったく締めつけなくなるものなのですが……先生のは随分」
 ブツブツと独語する燕隊長……ちょっと! そっち系の知識、多すぎでしょ! しかも、僕を神々廻道士の、犬みたいに誤解して……もう、頭来たぞ! この男色莫迦隊長めぇ!
「燕隊長! 僕は、あんな奴と、そんなことには、絶対、絶対、絶対、絶対、なりませんから! 侮辱にも、ほどがあります! 今の行為についても、僕に、謝ってください!」
 僕は勇気をふりしぼり、ハッキリと宣告した。
 ところが、燕隊長の誤解は、まだ続いていた。
「奴が、首輪を嵌めてまで、可愛がる先生だ。さぞや、使い勝手がいいんでしょうな」
「あの……僕の話、聞いてます?」
「あるいは、媚薬など用いて、先生の意識を奪い、記憶まで操作しているのでは……」
「だから、燕隊長! 僕の話を、少しは聞いてくださいよ!」
「尻には、丹念に香油をぬりこんで、指を使ってよくほぐし、ほどよく仕上がったら」
「ちょっと! 燕隊長! それ以上云ったら、本当に、本気で殴りますよ!」
「四つん這いにさせて後ろから、肛門が傷つかないよう、ユルユルと……いや、それより先生の乱れた表情を、よくよく観察するために、前からということも……いずれにせよ」
「え、ん、た、い、ちょ――っ! やっぱ一発、殴らせてもらいます!」
「先生! お可哀そうにぃ! 私でよければ、今すぐにも慰めて差し上げます!」
――ガバッ!
「ひあっ……」
 本気で殴りかかろうとした僕を、燕隊長は振り向きざま、思いきり抱きすくめた。目に泪を一杯ためて……そのまま、隣室の寝台へと、押しやられそうになり、僕は倉皇そうこうした。
 だぁかぁらぁ! どうして、こうなっちゃうんだよぉ――っ!
「だぁ――っ! 好い加減にしろぉ――っ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...