神さまなんて大嫌い!

緑青あい

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汪楓白、最強の功力を発揮するの巻

其の弐

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「「「おおっ!!」」」
 楓白ふうはくは光り輝き、天高く舞い上がった。
 直後、稲妻の如く、半死半生の【鬼宿木おにのやどりぎ】の真上へ、一直線に降り立ったのだ。
 ドドオォォォォォォオンッ……と、物凄い地響きをとどろかせ、【鬼宿木】の樹幹は真二つに裂け、そのまま圧潰された。そして瞬時に、幾千幾万もの青白い蛍火へと転生する。
 それは、楓白の「生」の力を宿しており、神隠しの森中へ分散。上忌地じょういみちのあらゆる生物、植物、土壌にまで往き渡り、溶けこむや、緑輝く美しい森へと、瞬く間に再生させたのだ。
 若々しい常緑樹が萌え、可憐な花が咲き乱れ、艶やかな果実が実り、喨々りょうりょうと鳥たちが謳い、はしこく小鹿が戯れ合い、かぐわしい香りが満ちて……おおよそ、八町近くあった広大な穢土が、一瞬で浄土へと。そう……厭離穢土えんりえどから欣求浄土ごんぐじょうどの境地へと、皆はいざなわれた。
 楓白を中心に据え、新たに誕生した森は、鳥瞰ちょうかんすると丁度、曼荼羅図のようであった。
 これぞまさしく、寓話の中に登場する〝桃源郷〟だ。
 誰も彼も皆、その美々しさに陶酔し、息を呑んだ。
「……凄い、凄すぎる」
「なんて……美しいんだ」
ああ、信じられない」
「まるで、奇跡だ……」
 常に豪胆な【百鬼討伐隊ひゃっきとうばつたい】の面々も、呆然自失……魂を抜かれたように、楓白の麗姿と、生まれ変わった上忌地の森の様相に見惚れ、魅入られ、ただただ佇立するばかりだった。
 その楓白には、もう一仕事、残されていた。体を反転させ、白銀の綿毛を散らしながら、背後でへたりこむ神々廻ししば道士の前へ、やわらかに舞い降りたのだ。莞爾かんじと微笑する楓白。
「最後になったね、劉晏りゅうあん。苦しかっただろう? でも、もう大丈夫だよ」
 鬼と化し、激闘を演じ、深傷ふかでを負った彼は、気息奄々きそくえんえんで、今にも意識を失いそうだった。
 にもかかわらず、楓白が差し出す手を、ぞんざいに振り払い、神々廻道士……いや、ちょう劉晏は、凄まじいまでの敵意をむき出しにして、【泰斗仙君たいとせんくん】へ最期の戦いを挑んだのだ。
『なにを、えらそうに……俺は、俺は……救って欲しくなんか、なかったんだぁぁあっ!』
 趙劉晏は、なによりも、ずっと……死を望んでいたのだ。
 これで、すべてが終わる。そう思って、楓白に刃向かったのだ。
 けれど、彼の思惑は、見事に当てが外れてしまった。
 それも、最悪の形で……。
「……ほら、これでもう、大丈夫……だい、じょ、う、ぶ……」
 劉晏が突き出した手刀は、無防備な楓白の胸を、聖なる右旋卍巴印うせんまんじどもえいんを、貫通していた。
 ハッと目をみはる劉晏。
 楓白は、しかし、そんな彼の手を、さらに引き寄せ、傷口が広がるのも気にせず、もっと引き寄せ……恐ろしい鬼畜の体を、力強く抱きしめていた。
 さらに楓白は、ためらうことなく、鬼畜と唇をかさねる。
 鬼化きかした劉晏にも、浄化の息吹を送りこむ。
『……シ、ロ……』
 劉晏は恐怖に打ち震えた。
おう楓白》という存在を失う恐怖に、初めておびえを見せたのだ。
 すぐに、周囲で見守っていたえん隊長や醸玩じょうがん、三妖怪、討伐隊員たちが、駆け寄って来る。
「先生っ!」
「「「啊っ!?」」」
「なんてことだ……天帝君てんていぎみ!」
 楓白の体をつらぬいた腕からも、劉晏の体に、物凄い勢いで生命力が流れこんで来る。
 そうして彼も浄化され、忌まわしい鬼業きごうの呪縛から、ようやく解放されたのだ。
『ぐふっ……』
 直後、劉晏が身をかがめ、吐き出したのは、巨大なムカデのような【酒蟲しゅこ】だった。
 それを見た燕隊長、ただちに踏み潰し、魔除けの焼緋塩しょうひえんで清め、現世から消し去った。
 すると、見る見る内に劉晏から、角も、爪牙そうがも、凶眼も、異形の体躯も、禍々しさも後退し始めた。
 そう……劉晏は、楓白の捨身行為のお陰で到頭、元の人間の姿に戻ることができたのだ。劉晏は、白銀の羽を散らし、くずおれ往く楓白の体を、すぐさま抱き止めた。
「シロ! お前……なんて、莫迦ばかな真似を……クソッたれ! 俺さまに恩だけ売りつけて、このまま死ぬつもりか! そんなこたぁ、絶対に許さねぇ……師父しふとして命令する!」
 楓白が渾身にまとっていた聖光も、胸の御驗おしるしも消え、青ざめた顔には、すでに死相すら浮かんでいる。まぶたは固く閉ざされ、唇は色を失い、気息は今にも止まりそうだった。
 燕隊長は、感情を無理やり抑制し、哀しみをこらえ、静かな口調で劉晏に云った。
「劉晏……先生は、我々皆を救うため、犠牲になられたんだ。もう……あきらめろ」
「うるせぇ、黙ってろ! おい、シロ! 聞こえてるんだろ! 早く命令通りにしねぇか!」
 それでも劉晏は、あきらめきれず、何度も何度も、楓白の頬を叩いて、覚醒させようとした。
 最終的に、彼を死へ追いやったのは自分だ。そんな自責の念にさいなまれ、劉晏の心は崩壊しそうだった。
 常に冷酷無比で、悪逆非道だった男の目には、泪が浮かんでいる。
「劉晏! やめろ! お前の気持ちは、痛いほど判るが……」
 燕隊長は、とても見ていられず、劉晏の苦痛をやわらげてやろうと、慎重に言葉を選び、慰めた。
 しかし劉晏は、たとえ自分の命と引き換えにしてでも、楓白を救いたいという強い思いに駆られ、なおも彼の頬を叩き続けた。
 一粒の泪が、楓白の頬にこぼれ落ちる。
「今すぐ目を開けろ! 開けねぇと、ただじゃおかねぇぞ! 早く開けろぉぉおっ!」
 その時である……冷たく青ざめた楓白の頬に、赤みが差し始めたのは……。
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