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【馬鹿とカラスは使いよう】
『4』
しおりを挟む「それにしても、面倒臭いなぁ! あっちへ、こっちへ、行ったり来たり……本当にJADは、真犯人と関係しているのか? これで徒労に終わったら、僕は本気で怒り狂うぞ!」
うるせぇな……文句ばっか垂れやがって、馬鹿ボンが!
「侯爵さま、いけませんよ。短気を起こしては。いつもみたいに、失禁してしまいます」
そりゃあ、最悪だな。しっかし、ダルティフの場合、それもあり得るからな。
いつも適当なタッシェルの言うことも、今回ばかりは的を射ているぜ。
「おい、ゴーネルス……しっきんって、なんだったかな? 知ってはいるんだが、ついついド忘れしてしまって……これは、あくまで確認だが、チキンとは関係なかったよな?」
「さすがは若! よくご存じで! 確かに、失禁とはチキンなヤツがよく起こす、生理現象です! まさしく、あなたさまのようなチキンなら、失禁など日常茶飯事でしょう!」
またかよ、オッサン。ダルティフをからかうのは、ほどほどにしとけって……馬鹿に磨きがかかるだけだろ。従者なら、少しは不出来な主君のためになることを、言ってやれよ。
「そうか、そうか! やはり、僕は他の奴らよりも、段ちがいに出来がいいんだな! ところで……にちじょうさはんじ、とは……えぇと、しまった! また、ド忘れしてしまったぞ! ゴーネルス……アレのことだと、重々わかってはいるんだが、軽く説明を頼む」
いやいやいや……やっぱポンコツすぎて、どうにも救えんわ、こいつ。
「承知仕りました。日常茶飯事とは、若の考え通り、男女のむつみ合いのことであります。ドスケベな若が常日頃、妄想にふけっているような、それはもう変態的な行為であります」
は? なに言ってんだ、オッサン……こっちもこっちで、救う気ゼロだな。
「なに! では……あんなことや、そんなことや、こんなことまで含まれるのか!」
どんなことだよ……ちょっと、興味あんな。是非とも、教えてもらいてぇな。
「どんなことですか、侯爵さま。是非とも、ご教示いただきたいものですね」
うげげ! よりによって、色魔神父のタッシェルと意見が一致しちまった! つまりは俺も、ドスケベの仲間ってコトか! う……そいつだけは、全身全霊でご免こうむるな!
「従者さま、神父さま、からかわないでくださいでち……可哀そうになって来るでち」
「ダルティフ、あんた……いい歳こいて、まだお漏らししてんのかい……って意味だよ」
「ぬわにい!? ゴーネルス! タッシェルも! また僕を馬鹿にしたな! 許さんぞ!」
あ、馬鹿が怒った。
けどな……俺の堪忍袋の緒も、そろそろ切れるぞ! つぅか、もう切れた!
「お前らなぁ! 好い加減にしろ! タマには、真面目にやれ!」
すると、チェルがすかさず俺にすり寄り、俺の意見に同意しつつ、重要な点を指摘した。
「そうでち! 旦那さまの言う通りでち! 怒るのも当然でち! そんなくだらないことより、どうするでちか? チェルたち六人だけで、あの大人数の信者たちを全員、敵に回すつもりでちか? そんなの絶対、無理に決まってるでち! 単なる死に急ぎでちよ!」
これに、オッサンまで悪乗りして来て、事態をますます混乱の渦に叩きこんだ。
「うむ。チェルの言うことも一理。では、ここはひとつ、公正なるクジ引きによる〝人身御供作戦〟で……どうでしょう、若。無論、外れ籤は、あなたが引いてくださいますな?」
「それのどこが、公正なクジ引きなんだ!」
「おや、気づかれましたか……チッ」
「舌打ち……舌打ちしたな、ゴーネルス! 貴様、ついにそこまで……許さぁん!」
「誤解されては困ります。私はただ、今朝食べたイカスミスパゲッティのカスが、歯にはさまって気持ち悪いため、若の言動に、いちいちイラ立っていると、それだけのことです」
「なんだ、そうか……ん?」
ああ、くだらねぇ、つまらねぇ、やりきれねぇ……ダルティフも、納得するなよ!
それとも、『ん?』って……気づいたか?
「だったら、ちゃんと歯磨きしろ!」
ガクッ……これには、俺だけでなく、全員が前につんのめった。
「そっちかい……あんた、やっぱ筋金入りの馬鹿だわ」
ラルゥの言う通りだぜ。
ダルティフ、お前……脳ミソ腐って糸引いてんじゃねぇだろうな。
「ところで……」
と、ここでタッシェルが、周囲を見回しながら、恐る恐る手を上げた。
「ここはどこでしょう?」
うん、タッシェル。いい質問だな。どこまでも続く深い森、切り立った渓谷、はるかに遠望できる峻険な山岳……で、人の気配は、まったくない。つぅか、絶望的な質問だな。
「道に迷ったのかい」
「またか。いつものことじゃ」
「これだから、役立たずは……地図を持ってたのは、誰だ?」
ダルティフが、そう言った途端、全員の指先が、馬鹿侯爵に向けられた。
そう、そうなんだよ! よりによって、こいつにナビを頼んじまったんだよ!
どうして、そんな愚かな真似をしたのかって? 話せば長くなる……簡潔にすませよう。
今朝、近くの町の『ルーディエ』を出発する際、みんなで役割分担をした。道案内、用心棒、救護班、など……で、一番楽な道案内の役を、ダルティフがやりたがった。俺たちみんなは勿論、反対した。けど、馬鹿ボンは物凄くごねた。ごねて、ごねて、ごねまくった結果、案の定、オッサンから、偶然を装った一撃を、腹部に喰らった。そしたら、朝喰らったチーズたっぷりピザと、ニンニクたっぷりステーキと、ニラたっぷりの野菜スープを(しかし、朝からよく喰ったな)、思いっきり地図の上に、リバースしやがったんだ!
お陰で、誰も地図に触れたがらなくなり、奴から取り返すことをためらい、やむなくダルティフにマッパ―をまかせたと、こういう次第。けど、吐しゃ物で地図はにじんでしまい、それでなくても半人前以下のダルティフは、結局……地図を読みちがえたってワケさ。
「ま、まぁ、こういう時は、だな! 慌てず、騒がず、恥ずかしがらず、誰かに道を聞けばいいのだ! 心配するな!」と、なんとか自分の失点を穴埋めしたいがため、またまたアホな発言をするダルティフだ。お前、どこまで馬鹿なんだよ! こんな山ン中の、陰鬱な森ン中に、人がいるはずねぇだろ! もしいたとしたら、それは絶対、ヤバイ系だぞ!
たとえば――、
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