アンダードッグ・ギルド

緑青あい

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【馬鹿とカラスは使いよう】

『5』

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「おんやぁ? さっきから、どうもクソ馬鹿馬鹿しい与太話が聞こえると思ったら、俺たち【ヴァルガー団】の縄張りに、貧乏くせぇ間抜けが六人も迷いこんで来やがったぞぉ?」
 スキンヘッドにタトゥーを入れた、ガラの悪そうな大男が、行く手を阻み立ちはだかる。
「おい、アホども。ここから無事に出たければ、それ相応の、通行料を払ってもらうぜ?」
 ギョロ目で狡猾そうな小男が、ブーメランを片手に、樹上からヒラリと舞い降りて来る。
「金がなけりゃあ、取りあえず所持品全部、こっちで預かるぜ。お前らは、裸で町に帰れ」
 いかにも軽薄そうなモヒカン頭の痩せ男が、ダガーナイフ二対を持ち、木陰から現れる。
「まさか、嫌とは言わねぇよな? だってよ、まだ死にたくねぇだろ? この世に未練があるだろ? ついでにな……女二人は置いて行け。とにかく、野郎は金だけ払って失せろ」
 蓬髪に髭面の、不潔そうな肥満男が、アックスを肩に担ぎ、鼻息荒げ、退路を遮断する。
 はい、山賊登場。で、お決まりの脅し文句。
 この手の場面には、これまで幾度となく出くわしてるから、大体の先が読めるんだよな。
 けど、正直……今回はキツイぞ! だって、頭数が……ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……うげげ! とんでもねぇ! 三十人以上、いるじゃねぇか! 決定的に、分が悪すぎるぜ!
「よかった! 人がいたぞ! 早速、道案内を頼もう!」
 すかさず緊迫し、臨戦態勢に入る俺たちを無視し、一人だけ山賊の出現を歓待したのは、無論……こいつ、馬鹿侯爵だ。ダルティフ! てめぇ、どこまで馬鹿なんだ! 頭の中に、いつもなにを入れてんだ! どう見誤ったら、このヤバイ状況を喜べるのか、説明しろ!
「若! さすが、バニスター侯爵家の妾腹! 家名のため、己が身を犠牲にする覚悟ができましたか! では早速、あとの始末をお願いしますぞ! 我々は先を急ぎますので!」
 おっとぉ――っ! オッサン! ここでまた、例によって、馬鹿ボンを人身御供にするってか! 現バニスター侯爵……いくら妾腹とはいえ、息子がこんなあつかいを受けてると知ったら、卒倒するんじゃねぇか? しかも相手は、信頼して御付きにした従者だぞ!
「もう、嫌でち! どうして、こんな時に、いっつもいっつも邪魔が入るでちか! この執拗な不幸の連鎖は、きっと……チェルたちに、悪霊が憑いてるとしか思えないでち!」
 チェル……ダルティフを睨みながら、それを言うな! お前の気持ちは、痛いほどよくわかるが……馬鹿で、役立たずで、嫌われ者……それじゃあ、あんまり奴も憐れだろ!
「不幸ってなんのことだい、チェル? 遊び相手ができて、いよいよ楽しくなって来たところじゃないか。さてと、どう料理してやろうかね。前菜になりたい奴は、前に出な!」
 ラルゥ……戦闘狂のお前でも、さすがにこの状況は厳しいぞ! 少しは、正確に事態を見抜く眼力をやしなえよ! 一応、仮にも、難はあっても、女なんだし……自分の腕を過信しすぎて、そのまんま突貫し続けるのは危険だ! いつか大怪我してもしらねぇぞ!
「困りましたね。通行料なら、内巻きパーマの彼を、奴隷として置いて行きますから、どうか、ここはひとつ、穏便に……武器を下ろし、道を譲ってはいただけませんかねぇ?」
 こらこら、タッシェル! お前まで馬鹿ボンを見捨てるな! それは神父として、一番やっちゃいけねぇコトだろ! それ以前に、人の道を思いっきり外れまくってんだろ!
「おい、お前ら。なにをゴチャゴチャ言ってるんだ? 早く道案内を頼め。どいつもこいつも、アホそうな顔をしてるが、これだけいれば、一人くらいまともな奴もいるだろう」
 あっつ……やってくれたよ、この馬鹿――っ!
 山賊どもを、本気で怒らせやがった! 明らかに、山賊どもの顔色が変わったぞ!
「アホだと……? 俺たちのことを、アホ呼ばわりしやがったぞ! この馬鹿!」
「てめぇら! そんなに死に急ぎてぇのか! ならば、望み通りにしてやるぜ!」
 ま、お怒りはごもっともですな。その点は、なにも反論できません。はい。
「いいや。僕たちは〝西〟に急いでいるワケではない。JADの本部へ急いでいるのだ」
 出た。馬鹿丸出し発言……『そんな西に急ぎてぇ』って、聞きまちがいにも、ほどがあるだろ! つぅか、この場の雰囲気を察して、いかに危険な状況か、わきまえてくれよ!
 しかし、山賊どもがダルティフのセリフから、チョイスした言葉は、意外なものだった。
「「「JAD!? ジャーク・アジール・ドミニオン!?」」」
 おっと? 予想外の反応? いや、JADと聞けば普通、こういう反応になるわな。
 それにしては、青ざめ、震え、あとずさり、武器を落とし……過剰反応すぎねぇか?
「お、お前ら……し、信者なのか!」
 スキンヘッドのタトゥーマンが、震える声で怖々と問いかける。しっかし、似合わねぇよな……膝はガクブルだし、その上、完全に、オトメな内股になっちまってるじゃねぇか。
「ま、まさか……冗談だろ?」
 チャラいモヒカン男が、広い額に冷や汗をいっぱい浮かべてる。いやはや、青ざめようが凄いな……唇は紫だし、最早、心臓の悪い病人って感じ。しかも、声がカン高くなってる。
「嘘だ! 嘘に決まってる……よな!」
 ギョロ目のブーメラン使いが、挙動不審になってがなり立てる。おやまぁ、落とした凶器が足の甲に当たって、嫌な音がしたけど……痛みにも気づかんほど、逼迫ひっぱくしてるようだ。
「その名を騙れば、俺たちがひるむとでも、思ってやがるんだ!」
 デブって不潔なボサボサ頭が、毛を逆立てては真っ向否定する。なんとも、必死こきすぎだろ……目は血走ってるし、そのクセ鳥肌プッツプツだし、いろんな意味で怖くなるぞ。
 けど、これはチャンスだ!
 こいつら相当、JADを怖がってる様子だし、ここはひとつ、信者になりすまして、切り抜けるってのが良策だろ。俺は早速、仲間に目で合図して、その旨を伝達しようとした。
 ラルゥがシブシブ、うなずく。
 チェルがニコニコ、うなずく。
 オッサンがフンフン、うなずく。
 タッシェルがホイホイ、うなずく。
 で、ダルティフがポロポロ、不都合な事実をもらす。
「ちがう、僕たちはJADを倒し……ホゲッ!」
 無論、言い切る直前で、ラルゥの強烈な一撃を腹部に喰らい、前のめりに倒れたが。
 すかさずタッシェルが、馬鹿侯爵の尻ぬぐいを、嫌々ながら買って出た。
「そうです。我々はJADの信者……大人しく道を開けないと、神罰が降りますよ」
 うぅむ……しかし、お前がそれを言って、本当にいいのだろか。それに、お前の修道服の胸には、デカデカと『聖エンブリヨ教会』の紋章が入ってるし……まぁ、この紋章は意外と、あちこちに出回ってるからな。マシェリタでは教皇庁公認で、土産物として売られてるし、来てる奴がみんな、教会員だとは思わんだろう……ってことは、やっぱ怪しいぜ。
 タッシェル……お前、本当に神父の資格、持ってんだろうな?
 ところが、だ……ここで俺たちのついた嘘は、山賊【ヴァルガー団】に、思わぬ行動を取らせた。逃げてくれれば、大成功だったろうに……なんと、仲間を呼びやがったんだ!
「た、大変だ……お、御頭を、呼べぇぇえっ!」
 スキンヘッドの絶叫で、モヒカン男が突如、笛を吹き鳴らした。
 うげげ! この上、増員するのか!
と、思ったら、なんだ、御頭一人かい。
 と、少し安心したのも束の間だった。
――ピュイ――――――ッ!
 うわっ……耳が、キーンとなる! けど、それ以上に、俺たちを驚かせたのは……。
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