47 / 50
【馬鹿とカラスは使いよう】
『5』
しおりを挟む「おんやぁ? さっきから、どうもクソ馬鹿馬鹿しい与太話が聞こえると思ったら、俺たち【ヴァルガー団】の縄張りに、貧乏くせぇ間抜けが六人も迷いこんで来やがったぞぉ?」
スキンヘッドにタトゥーを入れた、ガラの悪そうな大男が、行く手を阻み立ちはだかる。
「おい、アホども。ここから無事に出たければ、それ相応の、通行料を払ってもらうぜ?」
ギョロ目で狡猾そうな小男が、ブーメランを片手に、樹上からヒラリと舞い降りて来る。
「金がなけりゃあ、取りあえず所持品全部、こっちで預かるぜ。お前らは、裸で町に帰れ」
いかにも軽薄そうなモヒカン頭の痩せ男が、ダガーナイフ二対を持ち、木陰から現れる。
「まさか、嫌とは言わねぇよな? だってよ、まだ死にたくねぇだろ? この世に未練があるだろ? ついでにな……女二人は置いて行け。とにかく、野郎は金だけ払って失せろ」
蓬髪に髭面の、不潔そうな肥満男が、アックスを肩に担ぎ、鼻息荒げ、退路を遮断する。
はい、山賊登場。で、お決まりの脅し文句。
この手の場面には、これまで幾度となく出くわしてるから、大体の先が読めるんだよな。
けど、正直……今回はキツイぞ! だって、頭数が……ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……うげげ! とんでもねぇ! 三十人以上、いるじゃねぇか! 決定的に、分が悪すぎるぜ!
「よかった! 人がいたぞ! 早速、道案内を頼もう!」
すかさず緊迫し、臨戦態勢に入る俺たちを無視し、一人だけ山賊の出現を歓待したのは、無論……こいつ、馬鹿侯爵だ。ダルティフ! てめぇ、どこまで馬鹿なんだ! 頭の中に、いつもなにを入れてんだ! どう見誤ったら、このヤバイ状況を喜べるのか、説明しろ!
「若! さすが、バニスター侯爵家の妾腹! 家名のため、己が身を犠牲にする覚悟ができましたか! では早速、あとの始末をお願いしますぞ! 我々は先を急ぎますので!」
おっとぉ――っ! オッサン! ここでまた、例によって、馬鹿ボンを人身御供にするってか! 現バニスター侯爵……いくら妾腹とはいえ、息子がこんなあつかいを受けてると知ったら、卒倒するんじゃねぇか? しかも相手は、信頼して御付きにした従者だぞ!
「もう、嫌でち! どうして、こんな時に、いっつもいっつも邪魔が入るでちか! この執拗な不幸の連鎖は、きっと……チェルたちに、悪霊が憑いてるとしか思えないでち!」
チェル……ダルティフを睨みながら、それを言うな! お前の気持ちは、痛いほどよくわかるが……馬鹿で、役立たずで、嫌われ者……それじゃあ、あんまり奴も憐れだろ!
「不幸ってなんのことだい、チェル? 遊び相手ができて、いよいよ楽しくなって来たところじゃないか。さてと、どう料理してやろうかね。前菜になりたい奴は、前に出な!」
ラルゥ……戦闘狂のお前でも、さすがにこの状況は厳しいぞ! 少しは、正確に事態を見抜く眼力をやしなえよ! 一応、仮にも、難はあっても、女なんだし……自分の腕を過信しすぎて、そのまんま突貫し続けるのは危険だ! いつか大怪我してもしらねぇぞ!
「困りましたね。通行料なら、内巻きパーマの彼を、奴隷として置いて行きますから、どうか、ここはひとつ、穏便に……武器を下ろし、道を譲ってはいただけませんかねぇ?」
こらこら、タッシェル! お前まで馬鹿ボンを見捨てるな! それは神父として、一番やっちゃいけねぇコトだろ! それ以前に、人の道を思いっきり外れまくってんだろ!
「おい、お前ら。なにをゴチャゴチャ言ってるんだ? 早く道案内を頼め。どいつもこいつも、アホそうな顔をしてるが、これだけいれば、一人くらいまともな奴もいるだろう」
あっつ……やってくれたよ、この馬鹿――っ!
山賊どもを、本気で怒らせやがった! 明らかに、山賊どもの顔色が変わったぞ!
「アホだと……? 俺たちのことを、アホ呼ばわりしやがったぞ! この馬鹿!」
「てめぇら! そんなに死に急ぎてぇのか! ならば、望み通りにしてやるぜ!」
ま、お怒りはごもっともですな。その点は、なにも反論できません。はい。
「いいや。僕たちは〝西〟に急いでいるワケではない。JADの本部へ急いでいるのだ」
出た。馬鹿丸出し発言……『そんな西に急ぎてぇ』って、聞きまちがいにも、ほどがあるだろ! つぅか、この場の雰囲気を察して、いかに危険な状況か、わきまえてくれよ!
しかし、山賊どもがダルティフのセリフから、チョイスした言葉は、意外なものだった。
「「「JAD!? ジャーク・アジール・ドミニオン!?」」」
おっと? 予想外の反応? いや、JADと聞けば普通、こういう反応になるわな。
それにしては、青ざめ、震え、あとずさり、武器を落とし……過剰反応すぎねぇか?
「お、お前ら……し、信者なのか!」
スキンヘッドのタトゥーマンが、震える声で怖々と問いかける。しっかし、似合わねぇよな……膝はガクブルだし、その上、完全に、オトメな内股になっちまってるじゃねぇか。
「ま、まさか……冗談だろ?」
チャラいモヒカン男が、広い額に冷や汗をいっぱい浮かべてる。いやはや、青ざめようが凄いな……唇は紫だし、最早、心臓の悪い病人って感じ。しかも、声がカン高くなってる。
「嘘だ! 嘘に決まってる……よな!」
ギョロ目のブーメラン使いが、挙動不審になってがなり立てる。おやまぁ、落とした凶器が足の甲に当たって、嫌な音がしたけど……痛みにも気づかんほど、逼迫してるようだ。
「その名を騙れば、俺たちがひるむとでも、思ってやがるんだ!」
デブって不潔なボサボサ頭が、毛を逆立てては真っ向否定する。なんとも、必死こきすぎだろ……目は血走ってるし、そのクセ鳥肌プッツプツだし、いろんな意味で怖くなるぞ。
けど、これはチャンスだ!
こいつら相当、JADを怖がってる様子だし、ここはひとつ、信者になりすまして、切り抜けるってのが良策だろ。俺は早速、仲間に目で合図して、その旨を伝達しようとした。
ラルゥがシブシブ、うなずく。
チェルがニコニコ、うなずく。
オッサンがフンフン、うなずく。
タッシェルがホイホイ、うなずく。
で、ダルティフがポロポロ、不都合な事実をもらす。
「ちがう、僕たちはJADを倒し……ホゲッ!」
無論、言い切る直前で、ラルゥの強烈な一撃を腹部に喰らい、前のめりに倒れたが。
すかさずタッシェルが、馬鹿侯爵の尻ぬぐいを、嫌々ながら買って出た。
「そうです。我々はJADの信者……大人しく道を開けないと、神罰が降りますよ」
うぅむ……しかし、お前がそれを言って、本当にいいのだろか。それに、お前の修道服の胸には、デカデカと『聖エンブリヨ教会』の紋章が入ってるし……まぁ、この紋章は意外と、あちこちに出回ってるからな。マシェリタでは教皇庁公認で、土産物として売られてるし、来てる奴がみんな、教会員だとは思わんだろう……ってことは、やっぱ怪しいぜ。
タッシェル……お前、本当に神父の資格、持ってんだろうな?
ところが、だ……ここで俺たちのついた嘘は、山賊【ヴァルガー団】に、思わぬ行動を取らせた。逃げてくれれば、大成功だったろうに……なんと、仲間を呼びやがったんだ!
「た、大変だ……お、御頭を、呼べぇぇえっ!」
スキンヘッドの絶叫で、モヒカン男が突如、笛を吹き鳴らした。
うげげ! この上、増員するのか!
と、思ったら、なんだ、御頭一人かい。
と、少し安心したのも束の間だった。
――ピュイ――――――ッ!
うわっ……耳が、キーンとなる! けど、それ以上に、俺たちを驚かせたのは……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる