アンダードッグ・ギルド

緑青あい

文字の大きさ
11 / 50
【犬の手も借りたい】

『7』

しおりを挟む

「かわゆ――いっ❤ んちゅちゅ――っ❤」
 俺は、チェルの目前で、思いっきりズッこけた。貯水タンクの破損で、水浸しになった路地へ、派手にひっくり返り、全身泥だらけになる……お、お、お、お前なぁ――っ!
「なるほど、確かに……この適度な不細工さが、可愛いと言えなくもないですね」
「へぇ、ザックと同じ、バイ・アイじゃないか。チェルが好みそうなヘン顔だね」
 さらに、チェルの捕まえた猫を見て、タッシェルとラルゥが好き勝手なことを言う。
「遠回しに、嫌味ったらしく、なにが言いたい、お前ら!」
 その一方、俺の怒気を差しおいて、チェルが瞳を輝かせ、すり寄って来る。
「連れてってもいいでちか? ね、ね、旦那さま❤」
 ウザァ……猫なんか、どうでもいってんだよ! 他に、もっと大事なことがあんだろ!
「勝手にしろ! それより、君さぁ……」
 俺はチェルを突き放すと、少女の前に座りこみ、目線を合わせて、優しく問いかけた。
「なぁに、おじちゃん」
「お兄ちゃんに、教えてくれないかな。さっきの話を、もっとくわしく」
「いいよ、おじちゃん」
「お兄ちゃんに、教えてくれるんだね? ありがとう、クソガ……お嬢ちゃん」
「はぁい、おじちゃん」
「お兄ちゃんに……お、に、い、ちゃ、ん、に、教えてくれるんだよね?」
 俺は眼圧とともに、少女の肩をつかむ握力まで強めた。
 やっと空気を読んだのか、少女はおびえ、泣きそうな顔でつぶやいた。
「う、うん……おじちゃ、お兄ちゃん」
 俺の背後で、仲間たちが大きなため息をつく。
 俺は、ハタと我に返り、少女の肩から手を放した。
「ザックよ、あきらめろ。お前はもう〝おじちゃん〟だ」
 シャオンステンが、そんな俺の背中を叩いては、痛烈な嫌味で駄目を押す。
 あのな……お前にだけは、言われたくねぇよ、オッサン!
 くっ、ナナシ……そんな呆れ顔で、冷ややかな目で、俺を見るなぁ! 子供に気を使わせて、確かにちょっと、大人げなかったかもしれないが、俺はまだ、十八歳なんだぞぉ!
「そ、それじゃあ、気を取りなおして、事件の時の状況を、説明してくれるかな?」
 俺は、いよいよ湧き上がる怒気を、なんとか抑制し、あらためて少女に問いかけた。
「あのね、みんなでブスブスって」
「心配しなくていいですよ、お嬢ちゃん。君は充分、可愛い……虫歯を治せば最高です」
 ここでまた、要らんことをほざき出したのは、例によってタッシェルだった。
「だから……無駄口は叩くな、タッシェル!」
「このエセ神父は無視して、話の先を頼むぞ、娘御よ」
 オッサンも俺同様、タッシェルの軽口に、嫌気が差して来たのだろう。珍しく真剣な表情で、少女と向き合った。少女は相変わらず、凄惨な事件現場を目撃したにもかかわらず、どこかノホホンとした調子で、楽しそうに証言を続ける(やっぱ、アホだわ、この子)。
「うん。七人でね、はだしのおじちゃんを、刺したの。で、足を片っぽ、持ってった」
「女が? 七人で? しかも、足を切断?」
 ラルゥが、不可解そうに首をかしげる。
「ちがうよ。女の人は一人。七人は同じ顔だった。足を切ったのは女の人だけどね」
「あれ? おかしいな……一人、増えてないか?」
 まったくだ。一人増えたな。ダルティフも怪訝な眼差しで、少女の笑顔を見つめる。
「若、お気づきになられましたか。しかし、折った指は九本です。また増えてますよ」
 あのな……指折り数えるほどの計算か!
 しかも、まちがうって……いやいや、一人増えたって、お嬢ちゃん、どゆこと!?
「折ったと言えば、ダルティフ。もう、足の怪我は治ったのかい? 複雑骨折してたはずなのに……相変わらず、人間離れした回復力だね。実は、妖魔だったりしてぇ――っ!」
「ハハハ! そうだ、僕は妖魔以上に優れた能力の持ち主なのだ! 敬服するように!」
 おい、ダルティフ! 呑気に笑ってる場合じゃねぇぞ! 妖魔って言葉に反応して、ラルゥのヤツ、本気スイッチ入った! クレイモアを、すでに鞘から抜いてるじゃねぇか!
「お、落ち着け! ラルゥ! こいつは、ただの馬鹿ボンだ! 妖魔なワケがねぇ!」
 俺は慌てて、ラルゥとダルティフの間に割って入った。
「へぇえ? 本当かなぁ――っ? 嘘じゃないのかなぁ――っ?」
 クレイモアの切っ先を、首元に突きつけられ、ダルティフもやっと、迫る危険に気づいたらしい。俺の、命がけの擁護にも気づいたようで、恥も外聞もなく、必死で否定する。
「本当だ! な、ダルティフ! お前は、ただの馬鹿ボンだよな!」
「た、たた、ただの、馬鹿ボンです!」
「そう、ただの妾腹で、役立たずで、腰抜けで、臆病な馬鹿ボンです。能ある鷹は牙がないのを鼻にかけるのです。妖魔のフリをしたのは、自分を大きく見せたいがゆえの、幼稚な発想。ラルゥ、許してやってくれんか。さもないと、ワシがこの爪、そなたに向けるぞ」
 オッサン! 鷹に牙も鼻もあるかい! 低能が低能をいじるな、見苦しい!
 でも、待てよ? 『ワシ(鷲)が爪』って……本当は正解を、わかった上で、ワザとまちがった使い方してるのか? 毎度、微妙に異なる諺のニュアンス……だとしたら見事だ。
「しかし、なるほど……七人に刺されたから、致命傷が七カ所ですか」
 タッシェルが、ナナシの顔色をうかがいながら、こんなことをつぶやいた。
 バティックも、当惑するナナシを一瞥しつつ、少女の目撃証言を要約する。
「まぁ、要するにだね。この子の話を総合すると、犯人は全部で八名。その内、実行犯が七名で、もう一人の女は、頭目格なのか、見届け役なのか、黙ってそばに立っていただけらしい。さらに七名は、黒衣で身をつつみ、背中には、奇妙な模様が描かれていたと……」
「うん、そうだよ。それに、顔は人間じゃなかったよ」
 少女は、またまた意味不明な言葉をつけ加え、無邪気な笑みを見せる。
 顔は人間じゃないって……そんなに、不細工だったってことか? あるいは……、
「なるほど……まるで、現場で見ていたかのような詳細説明……つまり、お前が犯人か!」
 ダルティフは、バティック捜査官を指差し、まったく見当外れなことを、ほざき始めた。
「「「だから、なんでそうなる!!」」」
 いちいち、ツッこむ方の身にもなれ! 面倒臭ぇったら……あ、また頭痛がして来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お前が産め!

星森
ファンタジー
結婚して3ヶ月、夫ジュダルから突然の離婚宣言。 しかし妻アルネは、あっさり「はい、いいですよ」と返答。 だがその裏には、冷徹な計画があった──。 姑ロザリアの暴走、夫ジュダルの迷走、義父バルドランの混乱。 魔方陣が光り、契約精霊が応え、屋敷はいつしか常識の彼方へ。 そして誕生するオシリーナとオシリーネ。 「子供が欲しい? なら、産めばいいじゃない」 冷静沈着な契約者アルネが、家族の常識を魔法でぶち壊す! 愛も情もどこ吹く風、すべては計画通り(?)の異色魔法家族劇、ここに完結。 ⚠️本作は下品です。性的描写があります。 AIの生成した文章を使用しています。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

処理中です...