アンダードッグ・ギルド

緑青あい

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【犬の手も借りたい】

『9』

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「まぁ、七面倒だが、乗りかかった船だ! やるしかねぇな、みなの衆!」

「「「…………」」」(一瞬の間)

「あ、ああ! もちろんだ、ザック!」
「やってやろうではないか! 腕が鳴るのう!」
「賞金八千万ルーベとは、実に美味しい依頼ですからね」
「旦那さまと、ニャンニャのためでち! チェルも頑張るでち!」
 おいおい、今の間は、なんだったんだ?
 やっぱ……ってか、俺以上に、ビビッてんのか、お前ら?
 いや、上に上……ならぬ、下には下がいた。
「では、お前たち。しっかり働いて来るがよい。僕はギルドで療養しているからな」
 案の定、馬鹿侯爵である。お前、おっそろしいほど、ガクブルじゃねぇか……かえって、置いてった方が、いいかもな。これじゃあ全然、役に立ちそうもねぇし……(なんでこんな奴が、ギルドで冒険者なんかしてるのかって? 謎だろ? けどま、その内わかるさ)。
「「「ダルティフ!! お前も一緒に来るんだ!!」」」
 ただ、俺以外のメンバーは真逆の考えだったようで、一斉にダルティフを怒鳴りつけた。
 そして、ここから、俺たちギルドメンバーによる、醜くも哀しい、怒涛の悪口合戦が開始された。【ジャーク・アジール・ドミニオン】の名を聞いて、興奮したせいか、なじり合い、ののしり合い、時には手を出し合い……俺たちの舌戦は、いつにも増して過熱した。
「そ、そんなぁ……って、ゴーネルス! お前まで僕に命令するか!」
「おや、聞き取れましたか? ハモってわからなくなるかと、思ったのですがねぇ」
「だ・か・ら! くだらねぇ主従喧嘩は、好い加減によせって言ってんだよ!」
「ねぇ、おじちゃん。もう、帰っていい?」
「お兄ちゃんだ、このクソガキ!」
「うわぁ――ん!」
「あ――っ! 泣ぁかした! 泣ぁかした! ザック、大人げないよ!」
「お前の言い方だって、充分に大人げないわ!」
「おぉ、これこれ! 喧嘩はいかんぞ! 両人とも、離れて離れて!」
ってぇ――っ! 血が……ゴ、ゴーネルス! 今の鼻チョップは、ワザとだろう!」
「そりゃあ、当然そうでしょう。背後にいた侯爵さまの鼻に、ワザとでなく、どうやったら指が入るのですか? そんなことすらわからないとは、まったく困った御方ですねぇ」
「だから、お前ら……ホント、いい加減に……」
「ニャンニャは、こういう大人たちに、なっちゃダメでちよ? いいでちね?」
「ミャア」
 キラリと光る黒猫のバイアイ。
「ヤレヤレ、相変わらずだな、君たちは……いささか、いや、かなり、いや、だいぶ、いや、大変、いや、ものすごく心許ないが、猫の手も、犬の手ですら借りたい現状では、やむを得んか……ハア」と、バティックは項垂れ、長嘆息をもらしながら、つぶやいた。
 まるで、今後の苦難に満ちた展開を、予言するかのように……けどな、バティック。
 今のセリフは、いささか、いや、かなり、いや、だいぶ、いや、大変、いや、ものすごく、俺たちに対して、とくに有能な俺に対して失礼だぞ。
 まぁ、なんにせよ、この時点では、事件の重大性に、恐ろしい秘密に、そして哀しい結末に、まるで思い至らなかったため、呑気な舌戦を繰り広げていられる俺たち《サンダーロックギルド》の面々だった。

 【犬の手も借りたい】終
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