アンダードッグ・ギルド

緑青あい

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【昨日の友は今日も友】

『3』

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 ギルドの一階酒場へ入るなり、レナウスが怖い顔をして、俺たちに問いただして来た。
「言いたいことは、山ほどある。あるがの……まずは、そちらさんを、紹介してくれ」
 俺たちは、これまでの経緯を簡略に説明したのち、アフェリエラを紹介した。
「彼女はアフェリエラ。大きな声じゃ言えないが、JADの幹部の一人だ」
「有能な秘書さんでち。神父さまは、もうメロメロで、困ってるんでち」
「JAD? ジャーク・アジール・ドミニオンかの? こりゃあ、たまげたわい」
 レナウスは、さしてたまげたそぶりもなく、しゃあしゃあと言い放った。
 さらに、顔色ひとつ変えることなく、丁寧にお辞儀するアフェリエラを一瞥したのち、俺の方を睨んだ。
「で、敵対勢力の幹部と、どういう事情で、仲良く帰って来たワケだの?」
 その口調、表情には、どことなく非難の色が浮かんでいた。俺は慌てて言いつくろった。
「いや、会ってみたらさ、その、敵対勢力ってワケでも、なかったんだよ……なぁ」
 やや自信なさげに、仲間の顔を見る俺。代わってラルゥが前に出、明瞭簡潔に説明した。
「諸事情が複雑にからんで、協力関係を築くに至ったのさ」
「ふぅん……で、今日はなんの用?」
 レナウスは、カウンターに頬杖をついたまま、興味なさそうに聞いた。
 俺は、さすがに腹が立って来て、少し喧嘩腰な語気で、レナウスに詰め寄った。
「そんな言い方はねぇだろ、レナウス! 取りあえず、人探しの情報が欲しい。頼むぜ」
「はいよ。パドゥパドゥ!」
 アレレ、あっさり……俺は肩すかしを食らい、片膝からガクッと力が抜けそうになった。
 間を置かず、厨房から、例の双子がメニューを持って登場する。
「「ご主人、メニューをお持ちしました」」
「うん、今日は赤い裏メニューの方ね」
 すると、赤パドゥの方が前に出て、小脇にかかえた赤いメニューを、俺たちに差し出した。これは、ギルドに所属するメンバーの中でも、とくに優秀な人材にしか与えられない上仕事を記した、裏メニューってヤツだ。俺でさえ目にするのは、今回でまだ三回目だ。
「どうぞ、お選びください」
「ああ、どうも」
 低いバリトンの声と、威圧的な巨躯、殺意すら感じさせる眼光に急かされ、俺は裏メニューを受け取った。皆の視線も、自然とメニューの中身に集まって来る。ところが――、
「おい、レナウス! なんだよ、これ!」
 なんと、メニューは真っ白。
 一語も書かれていなかった。
 どのページをめくっても、同じである。どういうことだ? こんなこと、初めてだぞ?
「見ての通りだの。お前さんたちに、くれてやるような情報は、ないってことさ」
「なんで……なんでだよ、レナウス!」
「タマには自力で、なんとかしてみることだの」
「だって、ギルドのためになる依頼なら、なんだって受けるってのが、ここの……」
「黙らっしゃい! パドゥパドゥ、この馬鹿どもを追い出せ!」
「そうらぁ……お、追い出せェ……ヒック」
 何故か突然、怒り出したレナウスの命令通り、筋骨隆々の双子パドゥパドゥが、俺たちに迫って来た。いつも、酒場の隅で酔い潰れている吞兵衛が、一緒になってはやし立てる。
「「ご主人の命令です。今後、みなさまの、このギルドへの出入りを禁止致します」」
 ど、どうなってんだぁ!? なんで、こうなっちまうんだよ!?
「おい、レナウス! 話を聞けって……うわっ!」
 俺たち八人は、迫力満点のパドゥパドゥに、有無を言わさず追い立てられ、ギルドの酒場から追い出されてしまった。白パドゥが『CLOSE』の札を下げると同時、赤パドゥが出入口の扉をピシャリと閉め、中から施錠する音が聞こえた。
 通りに放り出された俺たちは、唖然呆然である。道行く人々は、怪訝な眼差しで、俺たちのことを見やり、遠巻きに何事か噂している。
 ちょっと待て! 俺たちが、どんなミスをしたってんだよ、クソ!
「……やはり、私のせいですね。誰も、JADと関わりを持ちたくは、ないですものね」
「いや、それにしたって、レナウスの態度……非道すぎだろ! なんだってんだよ!」
 俺は、肩を落とすアフェリエラが憐れになり、逆にレナウスへの憤りを強めた。
「困りましたね……取りあえず、バティック捜査官にでも、助けをもとめますか?」
 タッシェルのセリフに、俺は目を見開き、ポンと手を叩いた。
「バティック……そうか、その手があったか!」
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