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【昨日の友は今日も友】
『2』
しおりを挟む「それでは、お気をつけて」
「吉報を待っているぞ」
メルゾンと、アンジャビル卿の言葉に送り出され、俺たち《サンダーロックギルド》のメンバー(+アフェリエラ)は、いよいよ首都マシェリタへ向けて出立した。すると――、
「アフェリエラさま、頑張ってくださいね」
「お姉ちゃまのこと、お願いね、冒険者さま」
「宗主さまのため、よい働きを見せてくれ」
「でも、無理はしないでね。怪我しないでね」
次々と沿道の信者たちが、激励の言葉を送って来た。
奇形の者や、不治の病に侵された者、前科者や、五体不満足の者など、世間では風当たりが冷たいであろう弱者が、信者の中には多数、見受けられる。それが、アンジャビル卿やアフェリエラを慕って、いつまでも声を張り上げ、手を振っている。
ヤベェ……なんか、泣けてきた。ここはつまり、社会的弱者や、落伍者にとっての、最後の楽園なんだろうな。
現人神と、讃えられるはずだぜ、アンジャビル卿……よぉし! 俺たちも、頑張るぜ!
「うっしゃぁ――っ! 気張ろうぜ、みなの衆!」
「はりきっとるな、ザック」
「えぇ、昨夜の騒ぎで、精力を使い果たしたかと思いきや、元気ですね」
「なぁ、ゴーネルス。ザックはなんで昨夜、素っ裸で……」
「まぁ、まぁ、そう慌てずとも……若もその内、そうですなぁ……二十年もすれば、わかりますよ。童貞に焦るあまり、私娼窟の三文売女を買って、病気を感染される頃にはね」
「病気? あいつ、病気なのか?」
「いいえ、侯爵。病気はあなたです。今はまだ、気づいていないだけなのです」
「そうなのか? で……まさか、死ぬのか!?」
「そうではありませんが、女に嫌われますな」
「えぇ、嫌われるでしょうね」
「そうなのか?」
「は? なんで私に聞くのさ?」
「チェルを見つめないでくだちゃい……返答に、困っちゃうでち」
「私は、べつに嫌いではありませんよ」
「でも、好きではないでしょう? この、馬鹿そうな内巻きパーマ」
「えぇと、あの……」
まただよ、こいつらは……ヤレヤレだな。
「お前ら、馬鹿話で勝手に盛り上がり、新入りを困らせるなよ。なぁ、ナナシ」
俺は、このギルドに預けられて間もない頃の、お前を思い出し、アフェリエラに助け舟を出してやった。アフェリエラは、俺に軽く目礼し、美しい顔をほころばせた。綺麗だ。
やっぱ、宗主の秘書ともなると、ちがうよな。第一に、品がいい。第二に、態度がいい。
ついで言うと、香りもいい。そう、彼女すっごく、いい匂いがすんだよ。
でも、この香り……どっかで、嗅いだような記憶が……ま、気のせいか。
そんなこんなで俺たちは、徒歩で、馬車で、ときに船で、森や川、いくつもの街を越えて、三日後……ようやく、首都マシェリタに入った。正確に言うなら、帰って来た、だな。
そもそも、なんでマシェリタに、狙いをしぼったかと言うと――、
「木を隠すなら森、人を隠すなら街、馬鹿を隠すなら虚勢だろう」
それも諺か、オッサン……まぁ、なかなか的を射ているが、最後の部分だけ、ダルティフを見ながら言うのは、やっぱオッサンならではだな。今日も底意地の悪さ、全開だぜ。
なんにせよ、オッサンによる、しゃがれた鶴の一声で、行き先は決まった。
さらに――、
「ゴーネルスさまの仰ることは、もっともです。賊の残党が身をひそめるなら、人の多い首都である可能性は、かなり高いと思います。早速、行ってみましょう」と、アフェリエラも賛同したので、どちらかと言うと、こっちの方が、鶴の一声って感じ、強かったよな。
それに情報を集めるなら、やっぱマシェリタだろ。俺たちは一旦、サンダーロックのギルドに戻って、レナウス(と、パドゥパドゥ)に、仔細を相談してみようと決めていた。
ついでに俺は、ナナシのことで一言、レナウスに物申してやろうとも考えていた。
「ここが、首都マシェリタですか」
「アフェリエラさん、マシェリタに来るのは、初めてですか?」
そう訊ねたタッシェルの顔が、ボコボコで腫れぼったいのは、自業自得だ。
ここに至るまで、何度もアフェリエラに言い寄り、夜這いまでしかけようとして、ついにラルゥとオッサン、チェルと俺から、制裁を加えられたってワケ。それなのに、被害を受けそうになった当人は、まったく気にせず、相変わらずタッシェルに笑顔で接している。
「はい。なにぶん、田舎育ちの世間知らずなもので」
「では私が色々と、観光名所を案内して差し上げます。たとえば、裏町界隈のラブホテルなど、なかなか洒落ていて、後学のためには、見ておいて損はありませんよ……うげっ!」
今回も俺の肘鉄が、タッシェルに不快な妄言を、最後まで言わせなかった。
しかし――、
「まぁ、それはありがとうございます」
アフェリエラ、そのまぶしい笑顔……かえって罪作りだぜ。
「ですが、その前に盗人を見つけなくてはなりません。どうぞ、よろしくお願い致します」
お? ちゃんとその点は、押さえておくんだな。さすが、有能な秘書さんだ。
「そんじゃあ、まずは俺たちのギルドに顔を出し、情報を仕入れとくか」
――と、いうワケで、俺たちはマシェリタの中心部にほど近い、ガヌーク大通り三番地にある《サンダーロック・ギルド》へ向けて、足早に歩き出した。
建物の影から、そんな俺たちの後ろ姿を、密かに見守る怪しい黒衣の面々の存在など、その時は知る由もなかった。
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