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『食女鬼・前編』
其の八 ★
「こんなこと、いけないわ……あぁあっ!」
「大声出すと……見つかっちまうぜ、娘々」
人形芝居が終幕し、人気の消えた舞台裏では、密やかに男女の濡場が演じられていた。
【夜飛白一座】の美男人形使いと、中臈《胡蝶》附き侍女『娘々』の一人が、淫らな交合にふけっていた。
だが実は、これも毎夏恒例の奉仕。人形一座の男たちは、厳しい戒律に縛られ、欲求不満の女御衆を、こうして慰問する役割も果たしていたのだ。
後宮監吏も、帝の手がつかぬ妾妃を抑制するため、なかば暗黙裡にこれを認めていた。
不義でなく【男体布施】と呼ぶ。
「娘々、お前、新入りのクセにこんなところへ来て、上役に知れたら、ただじゃすむめぇ」
美男の方は、服を着たままだ。
興奮で切れ切れのかすれ声を発し、娘の下腹部をまさぐっている。
「平気よぉ、だって……あぁ、あの御方には、負い目があるから、し、知れたって……私を咎めることなんかぁ……できるワケ、はぁあん!」
娘は裙子だけ脱ぎ、自ら太股を開いて秘処をむき出すと、男の手をそこへ導こうとする。
男の手、その触感には、得も云われぬ不可思議な魔力がそなわっていた。
舞台下に作られた特別の蜂房は、舞台の強度を増すためばかりでなく、実はこうした男体布施の逢引き場所でもあったのだ。
なんの素材か、半透明の胞衣にも似て、一間強の六角房は、押せば適度な弾力もある。
奥までいくつも続いている。
他の房では、すでに本番が始まったらしく、あちこちから男女の嬌声が聞こえて来た。
妖しくも淫靡な影絵が二つ、からみ合い、折りかさなる。
中で行われている男女の狂態が、生々しく娘の胸に迫って来た。否応なく、動悸が逸る。
なのに男は、こころよい手触りだけで、娘を虜に堕としかけていた。
娘は、まるで生き人形の如く、美男人形師の魔手に操られ、あらゆる痴態を演じた。
周囲の蜂房から、他の客が思わず顔を出すくらい、娘の善がり声がとどろいた。
いや、善がり声ではなかった。苦痛の絶叫だ。
娘の望み通り、男の手が秘処へ届いた途端、とろけるような悦楽の肌触りが、突如焼けつくほどの熱気をおびたのだ。まるで女陰へ、二本の焼け火箸を差しこまれたようだった。
娘はもがいた。激しく撹拌する男の指が、濡れそぼった愛液を、たちまち蒸発させる。
「ひぃ、ひぎぃぃぃ! あぁっ、熱いぃぃ! 嫌ぁぁぁ! 死んじゃうぅぅうぅぅぅっ!」
せまい蜂房内で暴れる娘の叫哭は、無論、他の客には、悦楽の極致に達したものとしか、受け取られなかった。
助けに来る者など、皆無だ。
「娘々、俺は気が短ぇんだ。早く聞いたことに答えねぇから、鞭だって使わざるを得なくなるんだぜ」と、美男人形師は嗤い、彼女の穴から指先を抜いた。真っ赤に火照っている。
「あうぅ……な、なにを……あんたはぁあ」
「だからぁ、胡蝶のことさ! お前の上役は、侍女の行状にゃあ、だいぶ厳しいそうじゃねぇかい! だが、お前は負い目があるから、知れたって平気だと、確かにそう抜かしやがった! その負い目がなんなのか、俺は知りてぇのさ!」と、今度は再び、あのなめらかな肌理で、彼女の熱傷痕をなでる。
娘はビクンと、体をのけぞらせた。
「あぁあ……あんたは、魔物だ……はぁ」
まさに飴と鞭、堪えがたい痛苦を負わせた直後、その手はまた、娘に快楽を与え始めた。
暴れる内、乱れた襦から豊満な乳房がこぼれた。
彼女のあえぎに合わせ、揺れ動き、忙しく上下する。
「そう、俺は魔物さ。胡蝶のことを話せば、もっともっと気持ちよくさせてヤるぜ、娘々」
耳朶に男の息がかかる。
もう我慢できない。
「話すわぁ! だから、早くあなたの張形でぇ、私を攻めて頂戴! はぐぅ……あぁあ!」
男の魔手に篭絡され、誑かされた憐れな生き人形は、菊花殿高位女御衆にまつわる絶対厳守の秘密を、軽々ともらしてしまったのだ。
その驚愕すべき内容とは、以下の通りだ。
――《胡蝶の君》を始めとする、皇帝陛下の寵妃さまが、近頃、相次いでご乱心との噂よ。夜仏山より邪鬼祓いにまいられた、異相修験者《朱牙天狗》の居室へ、たびたびお忍びで向かい、いかがわしい御祈祷を受けておられるとか。しかも、私の姐々・胡蝶だけでなく、居室には他十一名もの高位女御衆が、連日連夜人目を避けては、入れ代わり立ち代わり詰めかけ……奥御殿で唯一、男の供物をお持ちになる御聖人さまへ、【男体布施】をもとめておられるんですってぇ。あぁん、嘘じゃないのよう。私と同役の娘々も目撃してるしぃ……それを立証するため、水面下では【天官】大目付差配の、隠密捜査官も動いていると、もっぱらの噂だわ。たかが女の噂話、と仰るけど、ここでは情報こそが命綱。互いを牽制し、挑発し、権勢を殺ぎ、御輿から引きずり降ろすための武器なの。だから、信憑性に欠ける情報をあつかえば……私たちのような【蔓草(情報屋)】は、たちまち首が飛ぶって寸法よ。それで胡蝶姐々は、私に負い目があるって云ったのよ。ふふ、そう……【蔓草】は高位女御衆に、なくてはならない存在……あら嫌だ! それを承知で、あなた……まぁ、いいわ。で、他の十一人についても、名前が知りたいのね? 本当はこんなこと、とても余所者にはしゃべれないんだけど、あなたは特別。だってあなたが、天官隠密なんでしょう? だから私に、近づいたのよねぇ……悪い人だわ――
「教えてあげる……でも、一人につき一回の、御布施を頂くわ……ねぇ、いいでしょう?」
淫蕩な眼差しで、男の美貌を仰ぎ見、おねだりする娘々だ。
本当に【天官隠密】なのか、美男人形使いはうなずき、激しく腰を使い始めた。
「十一回か! 哈哈ァ! そいつは、願ってもねぇ幸運だぜ! お安い御用だ、娘々!」
「あぁあぁぁっ……善いぃぃぃっんむ!」
背後から座位で攻め、北叟笑む男の満身に、禍々しい経文字が浮き出しているとも知らず……いや、欲望をむさぼるあまり、それすらまったく見えず、二人はただ、雄と雌の獣と化し、一心不乱にもつれ合った。
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