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第4話 奴隷
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無事利息の引き下げに成功すると、ライゼルはオーフェンにまとめさせた資料を熟読していた。
「やっぱり手っ取り早く借金を返すには、税を上げるしかないかな」
「それは……その通りですが。……難しいでしょうなぁ。すでに領民に対する税負担は重く、これ以上税を課しては生活がままならなくなるかと」
前世では搾取したいと願い、今世では搾取できる立場に居ながら搾取できない。……なんともどかしいことか。
さて、どうしたものか……。
ライゼルが途方に暮れていると、メイドのカチュアがやってきた。
「ぼっちゃま、お客様がお見えになってます」
「客だと?」
◇
客間に通されると、待っていたのは奴隷商人だった。
こちらとしては心当たりはないが、記憶を取り戻す前のライゼルが何かをやったのか。あるいは奴隷商人自身があるいは気を利かせてやってきたのか……。
「いったい何の用だ」
「ご依頼の通り、獣人を100人連れて参りました」
「なっ……」
思わず息を飲んでしまう。
ただでさえ財政難で資金繰りに難儀している中、奴隷の購入をしようとしていたのか。
いったい何を考えていたのだ、記憶を取り戻す前のライゼルは。
「……なあ、クーリングオフって効くか?」
「くーりんぐおふ……? とは……?」
この世界にはクーリングオフの概念がないのか。
当たり前と言えば当たり前なのだが、落胆していないと言えばウソになる。
とはいえ、女の奴隷……性奴隷が手に入るというのなら、悪くない。ハーレムでも作って元を取るとしよう。
◇
引き渡された奴隷たちを見て、ライゼルは思わず唖然とした。
「男、か……」
ほとんどが男。それも頭にオオカミのような耳を生やした、獣人の奴隷たちである。
「は……? 男手が欲しいとのことで男衆を手配したのですが……」
「いや、こっちの話だ」
使用人が減り人件費が浮いたとはいえ、さすがに奴隷100人も食わせていくだけの余裕はない。どこかで働かせるなりするのがベストだろう。
となると、兵士にするか。いや、治安維持には使えるが、金を生み出す存在ではない。
また、あまり重要な仕事を任せても、権力を与えることになりかねない。
こちらにやってきたばかりで、まだ忠誠心もない以上、あまり信用することはできないだろう。
そうなると、任せられるのは単純な肉体労働で、なおかつ生産性のある仕事ということになる。
ひとまず奴隷たちを置いて、ライゼルはオーフェンと作戦会議をしていた。
「……オーフェン、検地の時に地図を作り直したよな。出してくれ」
「はっ」
オーフェンに命じ、領内の地図を広げさせた。
バルタザール家は帝国でも最大の領地を持つ貴族だ。
しかし、その多くは砂漠で覆われており、耕地面積が少ない。広さのわりに収入が少なく、貴重な鉱物資源もほとんどが商人に差し押さえられてしまっている。
しかし、まったく希望がないわけではない。
バルタザール領の北部には河川が流れており、帝国本土に注ぐ長大な大河が形成されている。
これを水源に灌漑を整備すれば農地を広げられ、耕地を広げることができ、収入を増やせるのではないか。
そう考え、ライゼルは一人ほくそ笑むのだった。
◇
ライゼルは獣人奴隷たちを前に、あることを考えていた。
(こいつら、全員解放しよう)
働かせる分には奴隷の方が都合がいいが、維持するコストは市民より奴隷の方が高い。
市民であれば勝手に稼いで勝手に食って貰えばいいが、奴隷となればそうはいかない。
衣食住すべてこちらで管理してやらなくてはならず、市民税が取れる分市民の方がお得なのだ。
また、奴隷は人ではなく所有物である。
もし奴隷が罪を犯せば、所有者は管理責任を問われ最悪罪に問われ、最悪死刑もありえる。
貴族である自分が罪に問われるなど滅多にないが、それでも奴隷を開放する理由としては十分である。
そのため、ライゼルにとっては奴隷より市民にした方が都合がいいのだが、とはいえ、無一文の状態からいきなり放り出しては生活できるはずもなく、税も期待できない。
そこで先の灌漑計画だ。
大河から水を引き、新たに土地を開墾させることで彼らに職を与え、出た利益から俺に税を納める。
奴隷から解放した恩を売り、自身に圧し掛かる責任を減らし、収入を増やす。まさに完璧な計画だ。
しかし、どうやって説明しよう。
恩を売るため。金のため。自分に及ぶ責任を減らすため、奴隷から解放した。などと説明するわけにはいかない。
辺りに視線を巡らせ、ライゼルは奴隷が繋がれている鎖を手に取った。
帝国では獣人は差別を受けており、人間よりも奴隷にされる者も珍しくはない。
これを逆手に取れば、うまく言い訳できるのではないか。
獣人の鎖を握り、ライゼルは声を張り上げた。
「……常々思っていた。人間と獣人は何も変わらない。俺たちは互いに歩み寄れば、手を取り合って暮らせるんじゃないかってな……」
(何を言うかと思えば……)
(俺たちを買っておいてどの口で……)
(だいたい、できるわけないだろ。そんなこと……)
熱弁を振るうライゼルとは対照的に、獣人たちの反応は冷ややかであった。
口では何とでも言うことができる。だが、それを行動に移すとなると難しい。
第一、自分たちを奴隷にしている人間の語る平等を、いったい誰が信じられるというのだ――
「お前たちを奴隷から解放する!」
「えっ!?」
「奴隷から、解放……?」
「ウソ、だろ……!?」
「ウソじゃない。俺は……ライゼル・アシュテント・バルタザールの名において、お前たちを解放すると約束しよう」
獣人たちは顔を見合わせ、信じられない様子でいた。
「でも、どうして……」
「奴隷ってアンタの財産だろ。それを何の見返りもなく解放するなんざ、ありえねぇだろ、普通」
「言っただろ。人間と獣人が手を取り合って暮らせるんじゃないかって。……だがな。鎖を握ってちゃあ、お前たちと手を握れないだろ」
「大将……!」
「あんたって人は……!」
獣人たちに熱が籠っていく。
その後、首輪を外され喜ぶ獣人たちを尻目に、ライゼルは一人ほくそ笑んでいた。
(これ獣人たちに恩を売ることができた。あとは灌漑やら耕作でこき使えば……フフ、すべて俺の計画通りだ)
笑いをかみ殺すライゼル。その陰で、獣人の一部は冷やかな目でライゼルを見つめるのだった。
「やっぱり手っ取り早く借金を返すには、税を上げるしかないかな」
「それは……その通りですが。……難しいでしょうなぁ。すでに領民に対する税負担は重く、これ以上税を課しては生活がままならなくなるかと」
前世では搾取したいと願い、今世では搾取できる立場に居ながら搾取できない。……なんともどかしいことか。
さて、どうしたものか……。
ライゼルが途方に暮れていると、メイドのカチュアがやってきた。
「ぼっちゃま、お客様がお見えになってます」
「客だと?」
◇
客間に通されると、待っていたのは奴隷商人だった。
こちらとしては心当たりはないが、記憶を取り戻す前のライゼルが何かをやったのか。あるいは奴隷商人自身があるいは気を利かせてやってきたのか……。
「いったい何の用だ」
「ご依頼の通り、獣人を100人連れて参りました」
「なっ……」
思わず息を飲んでしまう。
ただでさえ財政難で資金繰りに難儀している中、奴隷の購入をしようとしていたのか。
いったい何を考えていたのだ、記憶を取り戻す前のライゼルは。
「……なあ、クーリングオフって効くか?」
「くーりんぐおふ……? とは……?」
この世界にはクーリングオフの概念がないのか。
当たり前と言えば当たり前なのだが、落胆していないと言えばウソになる。
とはいえ、女の奴隷……性奴隷が手に入るというのなら、悪くない。ハーレムでも作って元を取るとしよう。
◇
引き渡された奴隷たちを見て、ライゼルは思わず唖然とした。
「男、か……」
ほとんどが男。それも頭にオオカミのような耳を生やした、獣人の奴隷たちである。
「は……? 男手が欲しいとのことで男衆を手配したのですが……」
「いや、こっちの話だ」
使用人が減り人件費が浮いたとはいえ、さすがに奴隷100人も食わせていくだけの余裕はない。どこかで働かせるなりするのがベストだろう。
となると、兵士にするか。いや、治安維持には使えるが、金を生み出す存在ではない。
また、あまり重要な仕事を任せても、権力を与えることになりかねない。
こちらにやってきたばかりで、まだ忠誠心もない以上、あまり信用することはできないだろう。
そうなると、任せられるのは単純な肉体労働で、なおかつ生産性のある仕事ということになる。
ひとまず奴隷たちを置いて、ライゼルはオーフェンと作戦会議をしていた。
「……オーフェン、検地の時に地図を作り直したよな。出してくれ」
「はっ」
オーフェンに命じ、領内の地図を広げさせた。
バルタザール家は帝国でも最大の領地を持つ貴族だ。
しかし、その多くは砂漠で覆われており、耕地面積が少ない。広さのわりに収入が少なく、貴重な鉱物資源もほとんどが商人に差し押さえられてしまっている。
しかし、まったく希望がないわけではない。
バルタザール領の北部には河川が流れており、帝国本土に注ぐ長大な大河が形成されている。
これを水源に灌漑を整備すれば農地を広げられ、耕地を広げることができ、収入を増やせるのではないか。
そう考え、ライゼルは一人ほくそ笑むのだった。
◇
ライゼルは獣人奴隷たちを前に、あることを考えていた。
(こいつら、全員解放しよう)
働かせる分には奴隷の方が都合がいいが、維持するコストは市民より奴隷の方が高い。
市民であれば勝手に稼いで勝手に食って貰えばいいが、奴隷となればそうはいかない。
衣食住すべてこちらで管理してやらなくてはならず、市民税が取れる分市民の方がお得なのだ。
また、奴隷は人ではなく所有物である。
もし奴隷が罪を犯せば、所有者は管理責任を問われ最悪罪に問われ、最悪死刑もありえる。
貴族である自分が罪に問われるなど滅多にないが、それでも奴隷を開放する理由としては十分である。
そのため、ライゼルにとっては奴隷より市民にした方が都合がいいのだが、とはいえ、無一文の状態からいきなり放り出しては生活できるはずもなく、税も期待できない。
そこで先の灌漑計画だ。
大河から水を引き、新たに土地を開墾させることで彼らに職を与え、出た利益から俺に税を納める。
奴隷から解放した恩を売り、自身に圧し掛かる責任を減らし、収入を増やす。まさに完璧な計画だ。
しかし、どうやって説明しよう。
恩を売るため。金のため。自分に及ぶ責任を減らすため、奴隷から解放した。などと説明するわけにはいかない。
辺りに視線を巡らせ、ライゼルは奴隷が繋がれている鎖を手に取った。
帝国では獣人は差別を受けており、人間よりも奴隷にされる者も珍しくはない。
これを逆手に取れば、うまく言い訳できるのではないか。
獣人の鎖を握り、ライゼルは声を張り上げた。
「……常々思っていた。人間と獣人は何も変わらない。俺たちは互いに歩み寄れば、手を取り合って暮らせるんじゃないかってな……」
(何を言うかと思えば……)
(俺たちを買っておいてどの口で……)
(だいたい、できるわけないだろ。そんなこと……)
熱弁を振るうライゼルとは対照的に、獣人たちの反応は冷ややかであった。
口では何とでも言うことができる。だが、それを行動に移すとなると難しい。
第一、自分たちを奴隷にしている人間の語る平等を、いったい誰が信じられるというのだ――
「お前たちを奴隷から解放する!」
「えっ!?」
「奴隷から、解放……?」
「ウソ、だろ……!?」
「ウソじゃない。俺は……ライゼル・アシュテント・バルタザールの名において、お前たちを解放すると約束しよう」
獣人たちは顔を見合わせ、信じられない様子でいた。
「でも、どうして……」
「奴隷ってアンタの財産だろ。それを何の見返りもなく解放するなんざ、ありえねぇだろ、普通」
「言っただろ。人間と獣人が手を取り合って暮らせるんじゃないかって。……だがな。鎖を握ってちゃあ、お前たちと手を握れないだろ」
「大将……!」
「あんたって人は……!」
獣人たちに熱が籠っていく。
その後、首輪を外され喜ぶ獣人たちを尻目に、ライゼルは一人ほくそ笑んでいた。
(これ獣人たちに恩を売ることができた。あとは灌漑やら耕作でこき使えば……フフ、すべて俺の計画通りだ)
笑いをかみ殺すライゼル。その陰で、獣人の一部は冷やかな目でライゼルを見つめるのだった。
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