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第42話 命乞い
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包囲殲滅に成功したライゼル軍はバラギット軍に執拗に追撃を続け、いつしか流れの回復した大河まで追い詰めていた。
「なんでこんなに水量があるんだ……?」
決戦の直前、シェフィに水位を減らすべく堰を作ってもらったはずだ。
だというのに、今はなぜか水位は回復している。
状況的にシェフィが堰を決壊させたとしか思えないが、結果的に敵の退路を断つ形となった。
ライゼル軍に追い立てられ、ある者は決死の覚悟で大河に飛び込み、またある者は逃げ場を失い戦意を喪失している。
ほとんどの兵が戦闘不能となったのだ以上、これ以上の戦闘継続は困難だ。
こうなると、ライゼルの勝利は確定した。
あとは生き残った兵を捕虜として捕まえ、倒した兵の中から名のある者を探すだけだ。
この反乱の首謀者であるバラギットが戦死しているのならそれでよし。もし生き延びているのだとしたら、今度はバラギットの領地に向け反攻するのだが……
「ボス」
あらかた戦闘を終えたのか、アナザが歩み寄る。
アナザの手には、見覚えのある首が握られていた。
「それ……」
「ああ。名のある者だったっぽいんで、とりあえずボスに見てもらおうかと」
(叔父上……)
ライゼルが心の中で黙祷を捧げる。
一度は反乱を起こされ、命を狙われたとはいえ、死体となった相手を冒涜するつもりはない。
後ほど丁重に葬るとしよう。
「こっちは片付きやしたぜ、大将」
「こちらも戦闘が終わりました、ライゼル様」
伏兵の指揮を任せていたフレイとオーフェンがやってくる。
囮を引き受けたライゼル隊とは違い、伏兵として潜んでいただけはあり、いざ包囲殲滅が始まると、両隊が積極的に敵を刈り取ってくれた。
おかげで、ライゼルとしてもあまり前線に出ることなく戦いを終えることができた。
「ご苦労だった。……各々の戦功は追って沙汰を出そう」
「はっ」
「かたじけねぇ」
オーフェンとフレイが頭を下げる。
そんな中、ふとアナザが辺りに視線をさ迷わせた。
「そういえば、アニエスの姿が見えないっすけど……」
アナザに釣られライゼルも見回すが、たしかにアニエスの姿が見えない。
「……どこに行ったんだ、あいつ……?」
◇
バラギットと別れ、ローガインは単身戦場からの離脱を図っていた。
あれだけの兵力を備えたというのに、まさか負けてしまうとは思わなかった。
この場合、ライゼルの軍略を称えればいいのか、バラギットの無能さを責めればいいのか……
ともあれ、後ろ盾もなくなった以上、これ以上この地に留まるのは危険だ。
一刻も早くこの場から離れ、どこかで態勢を立て直さなくては……
「どこへ行こうというのですか?」
「なっ……」
聞き覚えのある声に、ローガインが固まる。
その声、間違いない。
帝国騎士団の元副団長にして、天下の大罪人。そしてどういうわけかライゼルの右腕となったアニエス・シルヴァリアのものだ。
「なぜここに……」
「逃げる敵将がいれば追跡するのが筋でしょう」
「しかし……」
追跡など不可能だ。できるはずがない。自分の力を使えば、こんなところで捕まるなどあるはずがない――
「――それとも、闇魔法で逃げたのになぜバレたのか、という意味でしょうか?」
「!!!」
アニエスの言葉に、ローガインが固まった。
バレている。自分の手の内が。
そうだ、たしかアニエスは帝国騎士団に所属していた。それならば、なるほど、闇魔法に関する知識があるのも頷ける。
こちらの手の内が知られている以上、正面から戦うのは得策ではないだろう。
じりじりと距離を詰めるアニエスに、ローガインが後ずさった。
「ま、待て! 何が望みだ? 儂にできることならなんでもやろう。なんなら、先の罪をお許し頂けるよう、陛下に掛け合ってもいい。だから――」
命乞いをするローガインの足の甲に、アニエスの剣が突き刺さる。
「いっ……がっ……」
「今さら古巣に戻ろうなどというつもりはありません。……今の私にはもったいない、素晴らしい居場所がありますので」
迷いのない瞳に射貫かれ、ローガインがたじろぐ。
この命乞いではダメだ。もっと彼女に刺さるものでないと……
「わ、儂を生かしておいた方が得だぞ!? 中央にも顔が効く。……なんだったら、ライゼル様のことを陛下にお口添えしてもいい。そうしたら、ライゼル様の爵位だって……」
「……ライゼル様を中央の汚い政争に巻き込もうというのか?」
アニエスの瞳には静かな怒りが灯っている。
そうだ。まさしく彼女こそ、中央の政争に巻き込まれてすべてを失った者ではないか。
「そ、そうだ、実は隠し財産を――ぐっ、ぎっ……!」
足の甲に刺された剣が引き抜かれ、苦悶の声を上げる。
「お前を生かしておけば、ライゼル様の障りとなる。……それだけで、お前の命を奪う理由としては十分でしょう」
剣を構え、切っ先がローガインに向けられる。
……こうなれば、一か八かだ。
「闇魔法、ダーク――」
「ふっ!」
ローガインが魔法を唱えるより早く、アニエスの剣がローガインの胸を貫く。
血液が逆流し、肺に血が溜まっていく。
これでは魔法はおろか、呼吸さえできやしない。
呼吸をしようとするほど、肺に血液が溜まり、言葉と引き換えに血反吐が流れる。
そうして、ローガインは自身の血液に溺れ、命を失うのだった。
「なんでこんなに水量があるんだ……?」
決戦の直前、シェフィに水位を減らすべく堰を作ってもらったはずだ。
だというのに、今はなぜか水位は回復している。
状況的にシェフィが堰を決壊させたとしか思えないが、結果的に敵の退路を断つ形となった。
ライゼル軍に追い立てられ、ある者は決死の覚悟で大河に飛び込み、またある者は逃げ場を失い戦意を喪失している。
ほとんどの兵が戦闘不能となったのだ以上、これ以上の戦闘継続は困難だ。
こうなると、ライゼルの勝利は確定した。
あとは生き残った兵を捕虜として捕まえ、倒した兵の中から名のある者を探すだけだ。
この反乱の首謀者であるバラギットが戦死しているのならそれでよし。もし生き延びているのだとしたら、今度はバラギットの領地に向け反攻するのだが……
「ボス」
あらかた戦闘を終えたのか、アナザが歩み寄る。
アナザの手には、見覚えのある首が握られていた。
「それ……」
「ああ。名のある者だったっぽいんで、とりあえずボスに見てもらおうかと」
(叔父上……)
ライゼルが心の中で黙祷を捧げる。
一度は反乱を起こされ、命を狙われたとはいえ、死体となった相手を冒涜するつもりはない。
後ほど丁重に葬るとしよう。
「こっちは片付きやしたぜ、大将」
「こちらも戦闘が終わりました、ライゼル様」
伏兵の指揮を任せていたフレイとオーフェンがやってくる。
囮を引き受けたライゼル隊とは違い、伏兵として潜んでいただけはあり、いざ包囲殲滅が始まると、両隊が積極的に敵を刈り取ってくれた。
おかげで、ライゼルとしてもあまり前線に出ることなく戦いを終えることができた。
「ご苦労だった。……各々の戦功は追って沙汰を出そう」
「はっ」
「かたじけねぇ」
オーフェンとフレイが頭を下げる。
そんな中、ふとアナザが辺りに視線をさ迷わせた。
「そういえば、アニエスの姿が見えないっすけど……」
アナザに釣られライゼルも見回すが、たしかにアニエスの姿が見えない。
「……どこに行ったんだ、あいつ……?」
◇
バラギットと別れ、ローガインは単身戦場からの離脱を図っていた。
あれだけの兵力を備えたというのに、まさか負けてしまうとは思わなかった。
この場合、ライゼルの軍略を称えればいいのか、バラギットの無能さを責めればいいのか……
ともあれ、後ろ盾もなくなった以上、これ以上この地に留まるのは危険だ。
一刻も早くこの場から離れ、どこかで態勢を立て直さなくては……
「どこへ行こうというのですか?」
「なっ……」
聞き覚えのある声に、ローガインが固まる。
その声、間違いない。
帝国騎士団の元副団長にして、天下の大罪人。そしてどういうわけかライゼルの右腕となったアニエス・シルヴァリアのものだ。
「なぜここに……」
「逃げる敵将がいれば追跡するのが筋でしょう」
「しかし……」
追跡など不可能だ。できるはずがない。自分の力を使えば、こんなところで捕まるなどあるはずがない――
「――それとも、闇魔法で逃げたのになぜバレたのか、という意味でしょうか?」
「!!!」
アニエスの言葉に、ローガインが固まった。
バレている。自分の手の内が。
そうだ、たしかアニエスは帝国騎士団に所属していた。それならば、なるほど、闇魔法に関する知識があるのも頷ける。
こちらの手の内が知られている以上、正面から戦うのは得策ではないだろう。
じりじりと距離を詰めるアニエスに、ローガインが後ずさった。
「ま、待て! 何が望みだ? 儂にできることならなんでもやろう。なんなら、先の罪をお許し頂けるよう、陛下に掛け合ってもいい。だから――」
命乞いをするローガインの足の甲に、アニエスの剣が突き刺さる。
「いっ……がっ……」
「今さら古巣に戻ろうなどというつもりはありません。……今の私にはもったいない、素晴らしい居場所がありますので」
迷いのない瞳に射貫かれ、ローガインがたじろぐ。
この命乞いではダメだ。もっと彼女に刺さるものでないと……
「わ、儂を生かしておいた方が得だぞ!? 中央にも顔が効く。……なんだったら、ライゼル様のことを陛下にお口添えしてもいい。そうしたら、ライゼル様の爵位だって……」
「……ライゼル様を中央の汚い政争に巻き込もうというのか?」
アニエスの瞳には静かな怒りが灯っている。
そうだ。まさしく彼女こそ、中央の政争に巻き込まれてすべてを失った者ではないか。
「そ、そうだ、実は隠し財産を――ぐっ、ぎっ……!」
足の甲に刺された剣が引き抜かれ、苦悶の声を上げる。
「お前を生かしておけば、ライゼル様の障りとなる。……それだけで、お前の命を奪う理由としては十分でしょう」
剣を構え、切っ先がローガインに向けられる。
……こうなれば、一か八かだ。
「闇魔法、ダーク――」
「ふっ!」
ローガインが魔法を唱えるより早く、アニエスの剣がローガインの胸を貫く。
血液が逆流し、肺に血が溜まっていく。
これでは魔法はおろか、呼吸さえできやしない。
呼吸をしようとするほど、肺に血液が溜まり、言葉と引き換えに血反吐が流れる。
そうして、ローガインは自身の血液に溺れ、命を失うのだった。
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