恋とレシーブと

古葉レイ

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恋とレシーブと10

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「両手のひらを上に向けて! 来るのはおにぎりだから、食べ物だから大事に! でも熱いから長く持つと火傷するから! 受け止めるイメージだけど、持たずに!」

 熱いなあ。

 葉山君の説明に熱が入っている。みんな薄ら笑いすら浮かべていて、葉山君の真剣さが面白い。やりたいんじゃん。そう思った。そんな球技大会で真剣にやらなくってもいいのに。そんな感じだった。

 彼はやる気があるのだろうか。
 それともないのだろうか?

 私たちの視線に、当の葉山君は少しも気後れする様子もなく、むしろ喜々として私たちに教えてくれている。一応、彼がやるポーズをみんなで真似する。
 どうせ今は体育の授業なので、適当でも遊んでいても一生懸命でもいい時間だ。どうせだから、一生懸命やってみようと私は決めた。

「んでこれがアンダー。腕だけじゃなくて、体全体で受け止めて! 自分がサラダボウルになったみたいに! 来るのはやっぱりおにぎりで! ボウルの中心で受けないと外にはみ出すから、できるだけ真ん中で受けて。じゃ、やってみよう」

 まず滝君が葉山君に投げて打ち返す。それを真似して、今度は別の子が打ち返す、を続けていく。変なところを葉山君が指摘して、言われるままに直していく。少しずつ、みんなの動きが滑らかになっていく。私を除いて、みんながゆっくりと上達していくのが分かった。

「両肘を内側に絞るといいよ、安藤さん。おにぎりが来るまでは力を抜く。集中力とかそういうの、使うと減るから。携帯の電池みたいに減るから、打つ時まで使わないで!」

 本人は集中している気はない。とにかく言われるままにボールを返す。けれどやればやるほど思う通りにバレーボールは返ってくれなくて、さすがに腕が痛くなってきた。

「ボールが来た瞬間に腕絞って! 腕って関節があって二本もあるから、とにかく不安定で、返らないのは当たり前。だから二本の腕を一本の板にして、一枚のサラダボウルになるようにするときれいに返るから!」

 サラダボウル。イメージをしながら、やってくるボールを受け止めて返す。タイミングが合わない。何度やっても、ボールは明後日の方に向く。

「葉山君、も、いい。私はいいから、他の子、みて」

 私は思わず、そう零してしまった。肩で息をする。運動辛い。葉山君は少し困った顔をして、滝君にボールを差し出した。

 私だけ、全然うまくなってない。葉山君は少し居なくなって、別のボールを手に戻ってきた。そして私の前に立って、「一緒にやろう」と言ってくれた。

「でも、私は一人でやるから」
「一人より二人の方が楽しいって」

 彼はちょっと我儘だった。何度か打って、ようやく上に飛んだ。もっともやっぱり低くて地面に落ちそうになる、それを葉山君は滑り込むようにしてキャッチした。地面に転がるように受けたので、体操服が汚れた。

 それもお構いなしに、彼は片手で上に叩き上げた。

「ほら、ちゃんと返った。あれだったら俺が取れるから、大丈夫」
「無理やりだったけどな」
「試合なんてそんなもんだよ」

 私のトスを、葉山君は受け止めてくれた。ボールが地面に落ちずに上へ飛んだ。それが妙に嬉しかった。

「ふむ。とりあえず滝だな」
「何で俺からなんだ?」
「お前が一番ウマいから。ちょっとルール覚えたらバレー部でレギュラー取れるんじゃない?」
「おいおい、持ち上げんなよ」

 葉山君に褒められて、滝君が恥ずかしがっている。そりゃそうだ、バレーがこんな上手な葉山君に褒められたら、それは嬉しいでしょう。それくらいに、葉山君はバレーが上手い。素人から見ても、葉山君が試合で活躍している姿が想像できた。

「んじゃ、まずは面白くないだろうけど練習しようか。三人でパスの練習。アンダーでもオーバーでもいいから。あと残り十五分で試合しよう」
「げ、まじか。いきなり?」
「簡単なやつね。どうせなら試合やった方がいい。楽しいから」

 葉山君は常に笑顔で、ひたすらに相手を褒め続けた。試合中、ふと先生がやって来たけれど、私たちをチラ見するだけで居なくなってしまった。

「安藤が一番下手だな」
「ご、ごめんなさい」

 最後の試合は散々だった。私の方に来たボールはとにかく怖くて、身が竦んで動けなかった。ボールは明後日の方に行き、何度か葉山君が助けてくれたけれど、半分以上が私のレシーブ失敗で終わってしまった。

「親指たちを同じ位置に置いて、手を組んで手首をぐいっと下にそらす。こんな感じ。トスを自分の体より前に出せばおっけーだから」

 葉山君が一生懸命教えてくれるけれど、私的にはもう許容量オーバーだった。下手、迷惑が掛かる。バレーを止めてバトミントンにしようかな。そんな事すら思っていた。

「もしよければだけど、昼休みにさ、みんなでバレーしない?」
「練習ってこと?」

 ようやく告げられた練習に、なぜか全員の顔がほほ笑んでいた。散々放課後練習を否定されたので余計だろう。私ですら、やっと折れたとすら思ったくらいだ。

「一応はね。ただし放課後はしない。みんな用事あるだろうしな。できれば昼休みに、三対三で試合。もちろん良かったらだけど。コートは簡単に紐でもあればいいかな。十五分くらい」
「もちろん」
「いいぜ」「やろう」

 葉山君の提案に、全員が了承の声を上げた。私もつい頷いてしまう。たった十五分。その程度だったら問題ない、そんな風だった。全員が納得した様子だった。

「昼くらいならね」
「うん。どうせ喋ってるだけだしね」

 矢川さんの言葉に、私も頷いてしまう。そこでふと、私は止めようかなと思っていたことを言いそびれていた事に気づいて、落胆したのは言うまでもない。

 〇〇〇

「矢川! うまいな!」
「滝! もうちょっと力セーブしろって! 体力なくなるぞ!」
「安藤、ボール怖がってると余計危ないよ」

 その日の昼休みから、私たちの昼休みはバレーになった。上履きでするバレーは少し新鮮で、体育館を使った練習は、バレー部の葉山君が無理を言って借りたというのは後から聞いた。

 少しずつ、一日ずつ上手くなっていった。
 みんな、どんどんうまくなっていった。
 ただし私ひとりを除いて。

「全然うまくならないなぁ」
「なー、そろそろ入らないと授業始まるぞー」

 初めての練習から四日が経った。みんな徐々に上へと上がるようになって、サーブも少しずつ入るようになった。私もサーブは何とか入るようになってきたけれど、やっぱりレシーブができなかった。
 ボールが怖くて、身体が動かないのだ。

「一人で練習するにはどうしたらいいの?」
「十分上手になったと思うけど?」

 昼休みを終えてみんなが教室に戻っていく中、私はコートを片付けていた葉山君にそう聞いた。コートを手早く片付けた葉山君は、どうやら私物らしいバレーボールを手元でくるくると回し遊んでいる。

 この数日間、私は葉山君を見続けた。
 だからこそ私は彼を知っている。

「上達してると思うよ?」
「嘘! ぜんぜん、下手じゃない」

 私の断言に、彼は「そうかなー」と首をひねる。そんな彼はいつも、周りを見ては褒める。いつだって、彼は微笑み、楽しそうに見えたのがイラついた。

 どうせあんたは上手いよと、身勝手にも怒り出す自分を止められなかった。

〈続く〉
 
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