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恋とレシーブと9
しおりを挟むどうせ二週間、それくらいなら大丈夫だ。そう私も覚悟を決める。けれど当の本人は、あまり乗り気じゃなさそうだった。
「放課後も練習したらみんな疲れない?」
「いやいや、ここでなんでお前が練習否定派なのよ? 部活あるから、球技大会の練習なんてしたくない、とかだろ?」
「そんなことは思っていないけど?」
「本当かよ?」
滝君が疑いの目を向け、葉山君を開放する。「でも放課後ねぇ」と呟く葉山君に、全員のやる気が揺らぐ。「放課後に練習やろうって言いなよ。みんな乗り気なんだしさ」と矢川さんが慌てて葉山君に詰め寄るのは、当初思っていた構図とは真逆に近い。
「ほら、球技大家まで体育五回だろ? 五組の奴もバレー部の奴が入ってて、毎日練習だとか言ってたから、それくらいはやった方が良くないか?」
「毎日? そりゃすごい」
葉山君は放課後練習にあくまで後ろ向きだった。
ぽん、と上空にあげたボールを葉山君が受け止める。「ほい、滝」と滝君に投げる。滝君が腰を落として腕を伸ばし、ぽふんと音を立ててボールを打ち返した。やや斜め右上に上がったボールが、誰も居ない場所に、弧を描いて落ちていく。
その下に、葉山君は居た。
あれ? いつ移動したんだろう? 受け取った葉山君が、ぽん、ぽんと自分の上にボールを上げる。そんな彼の動作は、自然で丁寧だった。
何かが始まった?
全員の空気が、ぴんと張り詰めた気がした。
「俺らなんて葉山以外全員素人だからな。せいぜい俺が運動部で、あとはほれ、文系に帰宅部だろ?」
「ふむ。はい、大林。ボール行くからキャッチして。そのまま俺に投げ返してくれる?」
「うん? うん」
葉山君がぽんと放ち、大林君が両手で受け止めた。それをぽいと投げて、また葉山君が頭上に上げる。やっぱり、何かを始めたんだ。他のメンバーに、葉山君は順々にパスをしては返却されていく。
とりあえず、全員が体を動かし始めていく。
「っていうかバレー部参加していいのか?」
「ジャンプサーブ禁止とかいろいろ制約あるけど、人数足りないからいいって。バレー人気ないみたいで、みんなバスケとかサッカーに集中したのかな」
最後に私にきて、何とかキャッチ。えいと投げたら変な方向に飛んだ。しかも低くて、落ちそうになる寸前、葉山君の方手がそれを拾い、真上に上がる。綺麗に真っすぐに、真上に上がっていく。
葉山君が上手い事は、誰からの目にも明らかだった。
「おー、すごい。みんなちゃんと動けるじゃん」
「っていうか安藤下手っぴ」
滝君が私にそんな事を言い、周囲の視線が私に向く。ひぃ。恥ずかしくて死にそうになる。葉山君は特に気にせずぽんぽんと上に、たしかトスだったか、を上げている。そしてぽんと、両手でボールを受け止めた。
「とりあえず、適当に打ってみようか」
彼が笑い、手と声で互いの距離を取る。放課後練習の件は保留らしい。とりあえず一人ひとり、名前を呼ばれながらボールが来る。見よう見まねのトスやパス。みんなのボールは滝君を除き、すべて葉山君に返らなかった。
「下手くそだなぁ。これじゃ一回戦敗退かな」
「そう? みんな結構良い感じだと思うけど」
葉山君は特に驚く様子もなく、私たちを見渡して満足そうに笑んでいる。ちなみに私は空ぶったので、そもそも返却すらできていない。
「みんな集まって。とりあえず基本教えるよ。昔バレーした人もいるだろうけど、とりあえず見よう見まねでやってみてくれる? 滝、俺にトス投げて。ほい」
葉山君に言われるままに、滝君がボールを投げる。葉山君の足がすうと流れるようにボールの下に行く。歩くようにトスの姿勢に変わる葉山君の動きは、とても自然だった。
「これがオーバー。おでこの前で、大林が食べるような大きなおにぎりを作って」
「そんなおっきいの食べるか!」
「そうか。でおにぎりが指に触れたら熱かった、で突き放す。ボールが落ちてくるところに自分が滑り込んで」
名前を出された大林君が突込みながらも照れている。葉山君は滝君と何度かやりとりをしながら、見本を見せてくれる。
さすがバレー部と思う程に、葉山君のトスは綺麗だった。
「おにぎりって」
「三角ってことね?」
滝君から葉山君に返るボールの位置はばらばらだった。でも彼はそれらを全部受け止める。受け止められたボールは、どれも同じく滝君に場所に返っていって、見ているだけで面白い。
磁石でもついているかのように、同じ位置に戻っていく。
まるで機械みたいに正確だった。
それなのに、そのボールは彼の優しさに満ちていて、柔らかく感じた。
《続く》
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