恋とレシーブと

古葉レイ

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恋とレシーブと8

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「なあ、葉山? やっぱり放課後とか練習するのか?」

 滝君の気だるげな割にやる気満々な一言に、他の子の表情が迷惑だとばかりに曇る。問われた葉山君は、滝君の質問に即答はせず、手でボールを弄ぶ。

 確かに参加メンバーにバレー部の子が居れば、頑張らないわけにはいかない。バレー部が居て一回戦負けは確かにみっともないだろう。
 気が付けば皆が、葉山君の言葉を待っていた。どうせ肯定の言葉だと、私も思った。

「みんな適当に負けたい派?」

 葉山君が問い返してきて、滝君を除き、私を含めた他メンバーとも葉山君から目を背ける。あからさまな無言の肯定だった。葉山君はそんなみんなを見て、怒るどころか微笑んでいた。

「だよねー」
「おい、にやにやしてんなよ!」

 葉山君の笑顔に、不満を持った滝君が彼の胸倉を掴み上げる。乱暴な行動に慌てる私を、しかし葉山君は手で制して止めた。滝君も当然、本気ではない。

 いやでも男子って乱暴、だと思ったのは私だけではたぶんない。

「体育の時間に練習するだけで十分でしょう」
「いや待て、さすがにちょっと練習したくらいじゃ上手くならないだろ」
「サッカー部の滝はナニやらせてもそつなくこなしそうだけどな」
「ま、俺はな?」

 葉山君の返球に、サッカー部の期待の新人である滝君が胸を張る。そうしてようやく胸元から手を放した滝君が、しかし不満顔はそのままに葉山君を睨みつけている。
 そうですよね滝君は運動できますもんねと心で不満を言ってみるけれど、私は当然、それを口に出したりはしない。

「私は運動音痴だから、ちょっと練習したくらいじゃ戦力にならないから」
「そうだなぁ。俺はぽっちゃりだから、サーブ来てもまともに拾えないぞ」

 女子にしてはやや背の高い矢川さんが自信のなさを惜しげもなく告げ、ぽっちゃりと称した大林君が、やや大きなお腹をぽふんと叩き頷いて言った。「私も、ボール競技全般苦手」と、私もついでに告げておくのは忘れない。

 そんな私たちのやる気なさ全開な発言に、葉山君は少しも苛立つ様子はなく、能天気化とばかりに笑顔だった。むしろそんな私たちを見渡して、嬉しそうだった。

「金森と遠藤もやる気なし?」
「んや、俺はフツー。やる以上は真面目にするよ、授業だしな」
「僕は怪我しない程度に頑張る」

 葉山君の問いに金森君と遠藤君がやる気を見せるけれど、全体的に覇気はない。このチームで勝ち抜くのは難しいに違いない。
 バレー部である葉山君は気を悪くして当然だろう。けれど彼は不満どころか笑顔だった。どこか楽し気で陽気だった。

「怪我しちゃダメだしな。じゃあ怪我しない練習をしようか。それくらいなら三人ともできる?」
「まあ、それくらいなら」「痛くないんだったら」「うん」

 葉山君の提案に、非協力的だった私たちもしぶしぶ頷く。しょせん球技大会だし、適当にやるのだろう。勝たなくても良いと思うと気は楽だ。

 そういえばクラスで見る葉山君は、あまり怒っている記憶がない。そもそも男子の事なんてよく知らないけれど、たまに見る彼は、どちらかと言えば笑顔だ。

 改めて知ったけれど、どこか気持ちの良い男子だなと思った。

「なぁ葉山、怪我しない練習ってナニするんだ?」
「柔軟とか、レシーブかな。とにかくボールが来てもちゃんと避けられれば怪我しないぞ?」

 金森君の問いに葉山君が『避ける』と言った。非協力組の一人だった矢川さんが「いや別に試合しないとは言ってない」と反発する。葉山君が少し驚いた顔をして、「でも勝たなくていいんだろう?」とやや挑戦的に言い返した。
「だから避けろって?」
「だって当たったら痛いし、怪我するかもしれないだろ?」

 葉山君は少しだけ真面目な顔で矢川さんに言い返す。なるほど納得、しようと思うけれど何か気に食わない。矢川さんほどではないけれど、私も何か引っかかるものがあった。

 見れば隣に居た大林君も同様らしく、何か言いいたげに口を尖らせている。

「そりゃ俺はぽっちゃりだけどな? 上に飛んだボールくらいは触れるぞ?」
「でも腕とか当たったら痛いし。逃げるのも大変だと思うけど」
「ドッチボールじゃないんだ、逃げてどうする? そりゃ痛いだろうけど、そこまでバレーしないとは言っていない」

 大林君が苛立つように言い返して、葉山君が少しだけ困ったような顔をした。はて、困っている? その割には、何か妙な余裕が見える気がする。

「安藤さんは? 怪我しないようにボールを避ける作戦は嫌かなあ?」

 葉山君が子供のように、やや緩慢な物言いで首を傾げて問うてくる。いきなり話を振られて、全員の視線が私に集中する。いやー。全員の視線はいやだー。みんながこっちを見ているので、言葉が上手く出てこない。
 滝君が「安藤、お前な」と急かそうとするのを葉山君が手を出して止めた。恥ずかしい。何か、恥ずかしい。

「ドッチボール作戦は、嫌かな?」

 葉山君の声は緩慢で、私を急かす雰囲気は微塵にもなかった。だから私は、いつもだったら適当にはぐらかしそうな発言を飲み込み、意思を述べた。

「なんか、最初から負ける前提なのは、いや、だね」
「じゃあ勝とうか」

 さらりと、さも当然のように葉山君が告げた。ついさっきまで言っていた言葉の真逆を言われて、全員が固まった。葉山君だけが笑顔だった。

「じゃあ、勝とう」
「いや、それができれば苦労はせんけどさ」

 葉山君の一言に、滝君がまたも彼の胸倉を掴み上げる。葉山君は相変わらず、されるがままに掴まれる。

「競技大会はとにかくサーブミスしなきゃ勝てるよ。サーブの練習を多めにしよう」
「そのサーブの練習が大変だろって話だ」

 葉山君のあっさり風味の一言に、滝君が食い下がるように告げる。「勝つための戦略とか練ろうって話か?」「そんな大げさな事言わないって」と葉山君は全員を見て笑っている。
 とても楽し気に、私たちに笑顔を振りまいている。

「別に放課後に練習とかしても、俺はいいけどさ」
「少しくらいならやってもいいけど」
「……うん」

 なぜか非協力組だった私たちが放課後練を言い出していた。滝君もうんうん頷いているけれど、葉山君が逆に困った表情を見せる。手にしたバレーボールを手の中でくるくると回して、とん、とんと頭の上でボールを上に上げる仕草は綺麗だった。全員の視線が葉山君に向く。

 葉山君がもし、練習するって言ったら、全員の放課後が潰れる。でも最初の時は違って、全員が納得した雰囲気だった。

《続く》
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