食べ残しなんてありえない

三池

文字の大きさ
4 / 6

〜4〜

しおりを挟む
「なんだか、嵐が過ぎ去ったような感覚です。」
「ほんと、あいつがくるとうるさくてたまらない。」
しばらくして、セラが去ったあと2人は呟いた。
「っていうか、悪魔さんの名前、ヨナガって言うんですね。」
「ああ。そういや教えてなかったな。これからはヨナガでいい。」
「じゃあ、あらためて、お世話になります。ヨナガさん。」

その後、ひと通り案内をし終えると、すでに日は落ちていた。
夕食などを終え、2人は粋の部屋に来た。
「じゃ、寝るか。」
「え?ヨナガさん、自分の部屋で寝ないんですか?」
「あー、部屋とかない。そもそも俺、いつもベッドで寝てねえもん。」
ヨナガは『俺、別にどこでも寝れるし』なんて言いながら粋のベッドに腰を下ろす。粋はその隣に座った。
「ん?どうした?」
「あのさ、本当に、今から寝る?」
ヨナガは困惑した。
「え?」
「だから、その。僕、まだ寝たくない。」
「えーっと、それって。」
「うん、だから。」
粋は目を伏せながら言った。

「一緒にゲームしたい。」
「…は?」
「やっぱり、ダメですか?ごめんなさい。わがままでしたよね。」
目の前でうつむいている少年を、悪魔は目を丸くしながら見ていた。
少年の様子は小動物のようで、垂れ下がった耳としっぽが見えそうだった。
「いや、いいよ。遊ぼうか。」
「やった!」
粋は、まるで弾けるように笑った。
自分の一言に、こんなに喜んでもらえたようなことが、悪魔には一度もなかった。
悪魔は自分の頬が緩むのを感じていた。

こくり、こくりと船を漕ぎはじめた少年に、悪魔は柄にもなく優しい笑みをこぼしながら言った。
「もう寝るか?」
「うーん。ん?んー、やだ。寝ない。」
「いやいや、返事もろくにできてねーけど?」
「やだ。眠くない。ちゃんと、喋って、る…。」
ヨナガは困ったように、だが嬉しそうに笑って言う。
「ほら、寝るぞ。明日もゲームはできるし。健康体で美味しくなってくれるんだろ?」
「ん。わかった、寝る。」
粋はそういうと、コントローラーを机に置き、ベッドに倒れ込んだ。明かりを消し、悪魔も粋の隣で横になる。
「ねえ、キスしていい?」
突拍子もない悪魔の言葉だったが、粋は寝ぼけて禄に考えもせず答えていた。
「んー?いーよ。」
ヨナガは粋に顔を寄せ、頬に手を添える。
その後、ゆっくりと唇を離すと、ヨナガと粋の視線が交わった。
すると、少年は自分の頬に添えられた手をつかみ、言った。
「もっかい。」
「っ、こいつ…。」
悪魔の心中も知らずに、少年は今にも眠りに落ちそうな目で見つめる。
「ごめん。ちょっと、寝かせてあげられねえわ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

処理中です...