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私、ソフィ・ラルカンジュは侯爵家に生まれ、十二歳でヴィクトワール皇国皇太子であるレイモン殿下の婚約者になった。昨年から妃教育で皇宮に通う傍ら、貴族と優秀な平民が通う国内最高峰の教育機関・王立アカデミーに通っている。
今日は学年最終日、これから夏休みだというのに、私は婚約者のレイモン殿下に中庭に呼び出された。王家特有の金髪がさらりと風に揺れ、緑の瞳に睨みつけられる。周りには、四人の令嬢が並んでいた。殿下と同じ生徒会に所属し、アカデミーでもよく目立っている令嬢方だ。
「ソフィ、この成績はなんだ!今まで我慢していたがもう限界だ。どうして君は何をやらせても『二流』なんだ。」
「に、二流……。」
「家は侯爵家、容姿は悪くはないが地味、ピアノは誰でも弾けるような曲を弾くのがやっと、一番努力でどうにかなる学業も平均点そこそことは、一体どういうつもりだ。母上も君の不出来に、いつもお小言を言っている。ここにいる一流の令嬢たちを少し見習ったらどうだ。」
殿下に『一流』と言われて、余程うれしかったのだろう、王立アカデミー学年主席の男爵令嬢と、幼い頃からコンクールを総なめにしピアノの神童と謳われた伯爵令嬢が、ほくそ笑んだ。
「ですから殿下。初めから、わたくしベアトリスを婚約者に選んでおけばよかったのです。」
後ろから公爵令嬢のベアトリスが躍り出て、こちらを一瞥した。彼女は、皇妃の遠縁で家柄が素晴らしい。レイモン殿下の婚約者選考で、最後まで競った相手でもある。確かベアトリスがあまりにもわがままだと言う理由で、私に決まった。
「その通りです。ベアトリス様!こんな華がない方が、皇妃だなんて臣民として恥ずかしいですわ。」
隣で子爵令嬢のミラベルが笑っている。彼女はベアトリスの取り巻きで、美貌と財力で男子生徒を虜にしている。ファンクラブもあると聞いた。
「以前から思っていたことだが、君には皇妃としてこの国の国母となる自覚が足りない。アカデミーに在籍しているこの国屈指の『一流』の令嬢を差し置いて、『二流』の君を選ぶ義理はない。この婚約を破棄し新たな婚約者を選定させてもらうよう、陛下にも進言しようと思う。」
私の成績が中の上なのは、毎週末妃教育と称して、皇宮に呼び出されて、アカデミーの勉強と関係ないことを学ばされているからだ。それに殿下が『一流』だと褒めている令嬢たちも、それぞれの得意な分野で目立っているだけで、総合的にみたら私だって負けていないと思う。思えば、殿下とは長く時間を過ごしたはずなのに、一度も私の努力や才能を褒めてくれたことはなかった。
『一流』の取り巻き令嬢は、蔑んだ目でこちらを見下している。さぞ自分に自信があるのだろう。他の生徒たちも事の成り行きを見守っている。恥ずかしさと悔しさで、みるみる顔が上気していく。静かに俯いた。私が何をしたというのだ。何故、公衆の面前で公開処刑に遭わなければいけないのか。
「……レイモン殿下、承知しました。今まで婚約者として、殿下に大変な気苦労をかけたことを、ここに謝罪致します。」
「な!?お前やけに素直だな。どうするつもりだ。私は婚約を破棄すると言っているのだぞ。」
「――ええ。もうこれ以上、殿下のお手を煩わせることがないよう、今後はこの国の臣民として殿下をお支えしていきます。では、失礼致します。」
「お、おい!挽回の機会は与えて……。」
殿下はまだ何か言っていたが、私は臣下の礼を取ると、踵を返して駆けだした。どうして、ここまでこじれてしまったのだろう。少なくとも学園に入る前は、婚約者として、もう少し仲良くやっていたと思う。妃教育も年々理不尽さを増すし、私には限界だった。
「おい、ソフィ大丈夫か?散々な言われようだったけど、言わせっぱなしでいいのか?俺が代わりに言い返して来てやろうか?」
泣きながら寮の自室に戻る途中、ジョルジュ・オルレアンに声をかけられた。彼は、隣国・エスポワール王国からの留学生だ。この国では珍しい浅黒い肌に黒髪、青い瞳はサファイアのようだ。子爵令息と聞いたが、国費で留学しているだけあって、とても優秀だ。ただお国柄なのか人との距離の取り方が近く、授業中や休み時間に、やたら私に話しかけてくる。
私だって悔しい。見返してやりたい。でも、今は傷口に塩を塗るようなことを言わないで欲しい。私は彼も無視して、寮の自室に戻ると、帰省に向けて、急いで荷造りをした。
今日は学年最終日、これから夏休みだというのに、私は婚約者のレイモン殿下に中庭に呼び出された。王家特有の金髪がさらりと風に揺れ、緑の瞳に睨みつけられる。周りには、四人の令嬢が並んでいた。殿下と同じ生徒会に所属し、アカデミーでもよく目立っている令嬢方だ。
「ソフィ、この成績はなんだ!今まで我慢していたがもう限界だ。どうして君は何をやらせても『二流』なんだ。」
「に、二流……。」
「家は侯爵家、容姿は悪くはないが地味、ピアノは誰でも弾けるような曲を弾くのがやっと、一番努力でどうにかなる学業も平均点そこそことは、一体どういうつもりだ。母上も君の不出来に、いつもお小言を言っている。ここにいる一流の令嬢たちを少し見習ったらどうだ。」
殿下に『一流』と言われて、余程うれしかったのだろう、王立アカデミー学年主席の男爵令嬢と、幼い頃からコンクールを総なめにしピアノの神童と謳われた伯爵令嬢が、ほくそ笑んだ。
「ですから殿下。初めから、わたくしベアトリスを婚約者に選んでおけばよかったのです。」
後ろから公爵令嬢のベアトリスが躍り出て、こちらを一瞥した。彼女は、皇妃の遠縁で家柄が素晴らしい。レイモン殿下の婚約者選考で、最後まで競った相手でもある。確かベアトリスがあまりにもわがままだと言う理由で、私に決まった。
「その通りです。ベアトリス様!こんな華がない方が、皇妃だなんて臣民として恥ずかしいですわ。」
隣で子爵令嬢のミラベルが笑っている。彼女はベアトリスの取り巻きで、美貌と財力で男子生徒を虜にしている。ファンクラブもあると聞いた。
「以前から思っていたことだが、君には皇妃としてこの国の国母となる自覚が足りない。アカデミーに在籍しているこの国屈指の『一流』の令嬢を差し置いて、『二流』の君を選ぶ義理はない。この婚約を破棄し新たな婚約者を選定させてもらうよう、陛下にも進言しようと思う。」
私の成績が中の上なのは、毎週末妃教育と称して、皇宮に呼び出されて、アカデミーの勉強と関係ないことを学ばされているからだ。それに殿下が『一流』だと褒めている令嬢たちも、それぞれの得意な分野で目立っているだけで、総合的にみたら私だって負けていないと思う。思えば、殿下とは長く時間を過ごしたはずなのに、一度も私の努力や才能を褒めてくれたことはなかった。
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「――ええ。もうこれ以上、殿下のお手を煩わせることがないよう、今後はこの国の臣民として殿下をお支えしていきます。では、失礼致します。」
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